本記事ではチヌことクロダイの特徴・生態について解説し、その後、河川の実際に釣ったクロダイを調理してその食味について解説します。釣り人によってまずいとされている食味は実際のところどうなのか。
クロダイ(チヌ)について
河川の汽水域に群れるクロダイ@三浦半島。全長40~45cmの個体。
クロダイ(黒鯛)は全長50cm程度まで成長する魚で、北海道から九州まで、主に沿岸部から河川の汽水域に生息。名前の由来は体表が黒いからで、沖で釣れる真鯛によく似た姿をしています。
食性は雑食で、甲殻類や貝類から植物性のワカメまで様々なエサを食べます。釣り餌としてはスイカをさいの目に切って釣る方法もあり、釣り人にもその雑食性が広く知られています。
姿形・その色から『めでたい』につながる縁起物される真鯛と比較して、クロダイはその色合いと食性からかそれほど重要視されていない地域がほとんどです。
これは内湾、時として工場からの温排水エリアなどにも広く生息しているからで、棲息地域や餌によっては独特の臭さが知られているからです。
<黒鯛(クロダイ=チヌ)の基本データ>
- 生息地:北海道南部から九州の内湾・汽水域に棲息。水質の悪化している工業地帯の排水などにも群れる
- 体色:黒と名がついているが、銀色が強いものから黒ずんでいるものまで多彩
- チヌという呼称の由来:もともとクロダイの魚影が濃かった大阪南部の湾を茅渟(チヌ)の海と呼んだため
- サイズ:最大60cm程度まで成長する。50cmを超える個体は年無し(ねんなし・としなし)と呼ばれる
- よく似ている魚:キビレ(キチヌ)・ヘダイ
- 食性:雑食。植物性の餌から動物性まで。スイカ・コーンなども釣り餌として有名
- 産卵期:春から初夏(産卵時期は食味がかなり劣るとされる)
- 人気度合い:真鯛と比べるとはるかに劣る、食としての人気は西高東低
- 釣り物として:フカセ、ブッコミ、筏釣り、チニング(ルアー)などが人気
▼クロダイ@三浦半島の小河川
クロダイ(チヌ)の味はまずいのか?
うなぎ釣りのゲストで釣れたクロダイ@三浦半島
クロダイといえば『チヌ』という名称で釣り物としては人気な反面、食味としてはまずいという話が広まっている気がします。
特に沿岸部や河川で釣ったもの、色が黒い居つきの個体は臭みが強いといわれることも。では実際の味はどうなのかと思い、先日、三浦半島の河川で釣ったクロダイを料理してみました。
クロダイ(チヌ)の下処理
まず現地で延髄にハサミを差し込み、絶命させつつエラを切って放血。血を丁寧に洗いながした後に、自宅に持ち帰って測ってみると、46センチ強。
風呂場で体表やエラについた砂利などをよく流しておきます。
※水深20センチのところに落水してiPhoneが死亡したので、別のカメラで撮っているのでやや映りがわるいです。
まな板の上に置くと、かなりのボリューム。
鱗を落として頭部とカマ部分と胴体に切り分け、エラと内臓を捨てます。
こちらが胴体。
よくいわれるように真鯛と比べると身がやらかめですね。水分料が多いのでしょう。
続いて、三枚におろします。
骨が厚いこともあり、慎重に刃をすすめないと歩留まりが悪くなります。
とかいっておきながら、今回はちょっと失敗しました。
この通り下ごしらえは終了。
頭部は煮つけ、アラをアラ汁に、皮はニオイをチェックしつつ湯引きに、身は数日熟成させてムニエルやフライ、カルパッチョなどにする予定です。
それにしても、さばいた時点ではほとんどニオイがありません。
もしや、これはアタリかもしれませんな。
一緒に持ち帰ったゴンズイの胃からは貝殻や砂利などがでてきて、便秘の怨霊に憑依されたかのような臭気を発していたので、わたしの鼻が悪いということではなさそうです。
いろいろ使える!「黒鯛みそ」を作る
はじめに作ったのは、クロダイの中落をつかった鯛味噌。
真鯛を原料とした鯛味噌はごはんのお供として有名ですしね。
3枚におろすときに中骨についてしまった部分をスプーンでそぎ落として、原料とします。
この通り綺麗な白身。気になるニオイはゼロ。
プランターで育てた韓国唐辛子(園芸屋の婆さんの話では「辛みまろやかよ」とのことだったが極辛)と、ニンニク&ごま油で炒めます。
野菜ごろり系が好きな方は、ごろごろりんで、そうでない方はみじん切りにするとよいと思います。
わたしはごろりで。
今回はごま油を利用しましたが、好みでノーマル植物油でもよいと思います。
ごま油+ニンニク+韓国唐辛子の取り合わせは、韓国料理サムギョプサルにつける味噌であるサムジャンを彷彿とさせますね。
生姜や白ごまいれてもよさそうです。
ここにクロダイの中落を投入。
火加減は中火。
炒めていると、クロダイの白身がほろりほろりと崩れてフレークになっていきます。
ここでちょっと味付けをしていない状態で味見をしてみると・・・
お、うまいじゃん。
クロダイふつーにうまいじゃん。
(ふつーにうまいとかいってしまうぐらいにあっけなく旨かったのです)
ということで、期待が膨らみます。
ここに味噌+みりん+酒+砂糖を投入。
甘じょっぱいのが好きな人は砂糖多目ですぞ。
盛り付け。
ええやんけ。ふつーにうまいっしょ。これ。
・・・
んでもって、食べてみると、
うお。これは旨い。
臭みゼロ。
黒鯛氏、疑ってごめんね!
旨み盛りだくさんという具合です。
今回はクロダイを利用しましたが、クセがない白身魚であればこの中落を利用した味噌づくりはなかなかよさそうです。
味噌と合わせることによって保存もききますし、いろいろな用途に使えますね。
秋はナスがうまいというわけで、クロダイ味噌煮は焼いたナスとピーマンにもかなりマッチします。
小料理屋じみてきたな。やるなークロダイ味噌。
<クロダイ味噌の用途例>
- 茹でたうどんにのせてタンタンメン風。ラー油を入れてもよさそう。
- パスタと和えてみる
- 大葉でつつんでおにぎりの具に
- ちょっとずつつまむ日本酒の肴
みなさんもぜひ試してみてください。
おすすめ度:★★★★★(5段階)
クロダイ(チヌ)のアラ汁
まず頭とアラに荒塩をふって冷蔵庫で1時間。
・・・
・・・
・・・
かなりの水分がでますので、これを水道水で洗い流しましょう。
その後、アラに熱湯をかけて、流水で残った血合いや体表のぬめりを洗い流します。
いわゆる霜降りという技法ですね。
煮付けや汁物もこの工程を経るだけで臭みをぐーんと減らすことができます。
今回の個体は全然臭くなかったのですがね。
念のためですよ。念のため。
ちなみに煮付けにするときは、熱湯でなく80℃程度まで冷ました湯を様子をみながらかけると魚の皮膚がべローンとはがれず見栄えがいい煮つけに仕上げることができますよ。
俺たちの筑後盛。どばどば山賊っぽくつかえる安酒。
汁物も煮付けも基本的に安物でよいので、水の変わりに日本酒とみりんを多少オーバーにドボドボいれて料理すると、あら不思議。上品な旨みをもった料理に仕上がります。
むかしたまたま見たTVで、細木数子氏が肉じゃがをつくっていて、「煮ものは日本酒をたくさんいれればいいのよ」といったやっつけ気味な発言をしていたのですが、あれはほんとだなと。
ということで、一升600円しないぐらいの俺たちの築後盛先輩をドボドボ投入し、本みりんもドボドボ。
みりんは甘くなりすぎるので、日本酒より多少すくなめで。
料理をするときは、料理酒というものもありますが、あれは食塩やらいろいろと混ぜ物がしてあるので厄介です。
清酒がよいでしょう。清酒が。
今回はニオイが気にならないクロダイだ、とかいっておきながら、日和りながらショウガスライスと長ネギの緑の部分をどんとこい!と大量に投入。ええ、念のためですよ。念のため。
鋭意炊きだしましょう。
野菜をもうすこし入れようと、マイタケ、白菜、ニンジン、大根、レンコンあたりを増量。
すんません、野菜マシマシでお願いシマース。
ってやつです。
アラ汁ってやつは野菜のまろやかさがさらに味を引き立てるのですよ。
クロダイのアラ汁のできあがり。
おいこれ、汁がまろやかでうまくねーか。
誰だよクロダイの味がまずいっていっていた輩は。
築後盛がいい仕事をしてくれた&黒鯛のあらをじっくり炊きだしたので旨みたっぷりです。
いいぞいいぞ、じつにいいぞ。どんどんやれ!
そんでもって、このクロダイ、皮もプルプルしてうまいぞ。
これもまったくクセのないコラーゲン。
こりゃ、あまった皮は酢味噌和えにしようかなと。
クロダイ(チヌ)の兜煮
兜煮といえば、以前、横浜の都会で釣ったスズキを煮つけたことがあります。
これこれ。これな。
あれは、頭がデカめの魚でこそ引き立つ料理な気がします。
ということでクロダイもきっとお似合いのはず。
砂糖、ショウガ、酒、みりん、しょうゆ、麺つゆ(昆布つゆ)といった調味料をまぜて煮つけます。
魚は汁が冷えているときから入れたほうが良い気がします。
出来上がったのがこちら。
ちょ、なかなかな攻撃力が高そうな面構えですね。
クロダイっていうよりはピラニアっぽいというか、アマゾン川にいそうっていうか、小型犬がマジギレしたときに歯をむき出すとこんな感じだなと思いました。
せっかくなので違う角度から。
貴殿、すっげー歯だなしかし。
クロダイはこの鋭い歯で貝やら蟹やらをバリボリたべるんですね。
次はセンターから。
あ、貴殿、下の前歯ないですね。
シンナーでしょうか。
それとも、下校の時にボコボコになったんでしょうか。
よくわかりませんが、完璧に歯があるよりはこのように不完全なほうがリアルさを感じます。
クロダイのゾンビというかなんというか。
こちらも癖がなくよく煮汁がしみこんで美味しいこと美味しいこと。
白飯が進みますよ。
誰だよクロダイは食味が今一つっていったやつは。
河口で釣れたクロダイはうまい。ただし水質や時期によるのかも
えーっと、結論です。
今回調理したクロダイの味は臭いどころか、ものすごーく旨かったです。
関西の友人にきいたところ、クロダイって関東より関西のほうがよく食べられているようですね。
季節や釣れた水域、食べている餌、血抜きや締めの有無等の処理方法によって味に変化があるようなので、一回食べて残念な思いをした方もあきらめずチャレンジしてみてもよい魚かもしれません。
クロダイの食味がまずいと言われる理由とは?
冬に沖根で釣ったクロダイ@横浜沖は実によい身質だった
この記事を書いてから、何度かクロダイを釣ったり調理してみたのですが、やっぱり個体差があるということがわかりまいた。
あと、釣った季節も。春3月~4月の乗っ込み後のクロダイはパサパサして旨みもないですし、やっぱり酷めの温排水あたりにわーいわーいと群れている個体はやっぱりその手の呪われた味であることが多いのです。
処理として、現地で絞めて血抜きする&氷でしっかり冷やして持ち帰るをやるかどうかも極めて重要だと思うにいたりました。
三浦半島西岸長井かかり釣りセンターのクロダイ。刺身に炙りに旨かった
魚がまずいと言っている人に限って、夏場、血抜きもせず、冷やしも今一つで持ち帰って、やれ臭いとかいっていることもあるなと。ふざけるなクロダイにあやまれ。
魚の食味は、その魚が力を発揮できる場所・時期・処理をしてからどうのこうのいったほうがいいなーと思うにいたりました。
本文に出てくるクロダイを釣った川は三浦半島の相模湾側の某小河川なのですが、流域の自治体は下水普及率は名目上100%ですし、工場排水系はほとんど混ざっていないということもあります。
これが、東京湾側のメトロポリスの間をながれる運河で釣れたクロダイだったらどうなるのかというと、まーアレでしょうね。けっこうきついとは思いますよ。
ではでは。
平田(@tsuyoshi_hirata)
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