多くの貝類は夜行性である。
だと思う。
日中はテトラや磯のスキマに引きこもっていた陰キャな彼らも日が暮れてしばらくたつと、やる気がでてくるのだろうか。これがまた予想外のスピードで暗くて湿った磯を這いまわる。
ヒザラガイ、マツバガイ、よくわからない貝。
それをみつけて顔を近づけると、潮のにおいがむっと立ちのぼる。
イソガニが這いまわる磯から水深30㎝程度の澄んだ冬の浅瀬でダイダラボッチのように覗き込んでみる。
すると大型のイシガニがモクズガニと鉢合わせ、にわかに一騎打ちがはじまったようで、イシガニ氏は三国志でいえば馬超あたりだろうか、武力98程度で赤紫色の両手の爪を逆ハの字に怒らせている。
それに対して、モクズガニ氏は楽進あたりであろうか。武力は80程度であり、コーエー三国志の一騎打ちであればこの武力差は一撃でモクズ氏の死亡、もしくは数合で負傷といったところだ。
が、一応、楽進氏も一軍を率いる将であり一人の漢でもあるので、「ふはははは。馬超恐るるに足らず!」とかなんとかいって、モクズがついたボンボンのような両の爪を頭上に掲げて一応のこと領土権を主張して対抗しおうとする。
オッズは、楽進氏の勝利で250倍。
全磯闘技場が沸いているが、
どうも相手が馬超では分が悪すぎる。
お、両者が闘いはじめたぞ・・・
カキンカキンカキン!
・・・
「くっ。今日のところはこれまでだ。また会おう」
とか、モクズガニ氏は、「実際、腹が痛かったからー」とかなんとか同僚に言い訳がたつかのようにしつつ逃げ腐る。
それに対して、馬超ことイシガニ大使は岩場の間にて圧倒的な存在感で、
「ふはははは。錦馬超とは私のことだ!どいつもこいつも骨のないやつばかりだな!」
とかいっているところを、先ほどのダイダラボッチの眼鏡が、キラリ、と光り、
ぬわり。
と、
異様な音がしたかと思うと、右手にもったたも網を一閃し、
瞬時に馬超ことイシガニ氏を背後から捕獲。
返す網で、岩影に潜んで一息いれている楽進ことモクズガニを捕獲。
いわゆる漁夫の利というやつである。
ふはははは。俺氏凄い。
・・・
さて、なんの話だったか。
あ、今回はカコボラの話だった。
カコボラという巻貝
磯にいくと、貝がたくさんいるよという話から蟹の一騎打ちと漁夫の利について脱線してみたのだが、今回はカコボラについてである。
カコボラは、巻貝なのだが磯と一体化していることが多く発見しにくい。
もともと個体数も多くはないのだけども、とにかくカモフラカラーというか、貝殻に毛がはえていて貝のようには見えないのだ。
この日、干潮になって磯を後にしようとおもったところ、不自然に岩がこぶ状になっているところがあった。
ム。
疑わしきはチェックである。
ということでライトを照らしてみると、
ビンゴ!
と、
頭で何かの鐘がなり、右手を伸ばして無慈悲な瘤取り鬼のように岩から生えるコブをもぎとったところ、
それが、カコボラであった。
カコボラから毒を取り除こう
これが持ち帰ったカコボラだ。
貝類は鮮度が重要だが、帰宅後、調理が行えなかったので冷蔵庫にいれておくこと三日目。
まだ生きているようだ。
ひっくり返すと、こんな感じ。
例えるなら、
宇宙要塞
ア・バオア・クー
みたいなところだろうか。
なんとなく、入り口は鮮やか。
この貝は外側の毛をそぎ取り磨くときれいなようだ。
今回この殻には用はないので、以前、ツブ貝の調理でお見せした通り、打撃策をとることに。
まず手元にあった調理ばさみの金属部分でタコ殴りにしてみる。
堅。
防御力255といったところだろうか。
アダマンタイマイかよ。
ちょっと調理ばさみでは軽くて力が分散してしまうな・・・
やはり、武器を変えるか。
どん。
大きめのレンチである。
わたしはバイクにのるのでこういったものが家にある。
いざ、打撃!
ガツン!
ふはははは。
いくらカコボラの殻と言えども、長い柄と重さによって増幅された打撃はこらえようがなかったようだな。
ガツン!
と、この通り。
ジオンが誇る宇宙要塞ア・バオア・クーも、あっという間に崩壊していく。
これが全体像(すこし内臓は切れた)
この内臓部分(中腸線)に、フグ毒であるテトロドトキシン(TTX)が含まれている模様。
個体や地域差はあるだろうが、「触らぬTTXに祟りなし」と古来から言われていることわざがあるわけで、これはすぐに捨てる。
だが、諸君!
ここで、油断してはいけない。
カコボラは、もう一つ毒をもっているのだ。
それが唾液腺の神経毒。
二段備えの毒である。
フジツガイ科のカコボラの唾液腺にはタンパク毒(echotoxin)が高濃度に含まれている[19]。 Echotoxinは25 kDaの単純タンパク質で一次構造も明らかにされているが[20]、60℃、10 minの加熱で完全に毒性を失うので、加熱調理さえすれば 唾液腺を除去しなくても食品衛生上の問題はないと思われる。カコボラの他、フジツガイ科のボウシュウボラやエゾバイ科のエゾバイも唾液腺は 有毒であることが報告されているが[11]、毒成分についてはよくわかっていない。
出典:厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル:巻貝:唾液腺毒
巻貝は色々いて種類が見分けにくいが、概ね内臓と唾液腺に毒があるので、両者をすてて筋肉部分だけ食べれれば問題ないと思われる。
まだらのある色艶がいやはやなんとも。
この通り、しっかり唾液腺は取り除いた。
まな板にたたきつけると筋組織が収縮して歯ごたえがでる。
刻んで食べてみよう。
・・・
コリコリ。
やや甘い。
ツブ貝などによく似ているね。
カコボラのバタ―炒め
とりあえず、ブナピーとニンニクとバター&ガーリックでソテーしてみる。
仕上げに白ワイン。
もはやどれがカコボラだかわからない。
ブナピーのホワイトな身体のせいか、カコボラの身と一体化してカサが増したようにみえるが、カコボラは炒めるとさらに縮んで歩留まりの悪さが露呈される。
日清カコボラヌードルを作る
最近、日清さんといえばいろいろ攻めまくっている。
こちらはリッチ路線の松茸風味のきのこクリーム味。
とりあえず湯をいれてカップヌードルをつくろう。
仕上げに香味油を入れる。
この香味油自体は松茸+バターオイルのような香り。
うーむ、油脂のニオイに特徴がある。なんとなく、好みが分かれそうだ。
味は、旨い。
でも、ちょっとこうしたクリーミー系の食べ物につきものの、くどさもある。
値段と価格を考えると、シーフードヌードルの勝利だなこれは。
シーフードヌードルの偉大さが思い出される。
そんでもって、カコボラとブナピーのバターソテーを盛り付ける。
・・・
フツーに旨い。
仕上げに白飯をぶち込み、カコボラリゾットに。
うーん。旨い。
ツブ貝入りのリゾットみたいなものだろう。
この頃には、カコボラの存在感はゼロになっていた。
でも、ごちそうさま。
まとめ
- 馬超(巨大イシガニ)は強い
- 『漁夫の利』の漁夫になれると爽快
- カコボラは夜の磯で獲れるけども、歩留まりは悪い
- カップヌードルはシーフードが最強