はじめにいっておくと、この作品は傑作だ。でてくる登場人物はそれぞれ釣りキチである。
舞台は江戸。徳川綱吉治世の元禄時代。
釣りにでかけた絵師朝湖と松尾芭蕉の門人其角は江戸湾で死体を釣りあげる。来る日もさしたる仕事のない旗本の津軽采女は、あるきっかけで釣りにのめり込む。時に、生類憐みの令が発令され、だんだんと内容がエスカレートして、やがては釣りができないまでになり・・・
夢枕獏氏の陰陽師を読んだことがある人は、人間の心の機微を描く同氏の巧みさを知っているかと思う。
釣りの面白さとはなんなのか。
孤独のうちに釣りを極め、得たものを書に残したもの。
気の置けない仲間とする釣りに生きがいを見出だす者たち。
この本は釣りというテーマを通して、男の一生の愚かさや愛らしさを表している。
根っからの釣りバカであれば共感するところがあるはずで、歴史好きであれば、江戸という時代の太平のなかで生きた武士と庶民の呼吸を感じられるだろう。
それにしても、現代でもし釣りが法律で禁止されたら、我々釣りバカはどうなってしまうのだろうか・・・