その日、最後のアポイントを終えると、シーバスを釣りに多摩川河口部に向かった。
晩秋なのか初冬なのか、風が寒い季節であることは確かだ。潮回りは大潮の干潮に近づいている。
潮の変化、淡水と海水の位置関係、ベイトの位置と種類、シーバスの向いている方向、そんなことを考え整理しながら、ショアラインシャイナー9センチのミノーを投げると一投目でアタリ。
グググッ
頭の中で、したりと、すかさず巻き合わせをする。
竿先がググンと、引き込まれたあと、軽くなりバレたことがわかる。
胸が高鳴り呼吸が荒くなる。大きく息を吐き出す。
いつの瞬間もシーバス釣り師だけでなく、すべての釣り師を熱くさせるアタリというやつは、この世で最もタチの悪い興奮剤なのかもしれない。
こうして寒い中、人に釣りをさせるのだから麻薬といっても過言ではなさそうだ。
その後アタリはなかった。
上州屋川崎店で買ったばかりのリョウビの安ナイロンウェーダーは、なんの呪いかわからないがすぐに浸水してくるようになり、その浸水が体温を奪う。日頃の行いが悪いのかもしれない。
闇にたゆたう流下物を見ながしつつ、多くのシーバスはもう南下して産卵にそなえているのかもしれないと思いこむようにする。思いこまないと止められないのだ。
そして、今年の俺のシーバス釣りが終わりを告げた。
深夜、羽田空港の治安を守っている警察官に、こんばんはと声をかけてもらい、
シーバスとブラックバスの違いについてや、どんな仕事をしているかや、クラウドサービスについて説明することも、しばらくの間はなさそうだ。
グッバイ羽田。グッバイ警察官。グッバイ シーバス。
こころの中であいさつをして多摩川を去った。