私の住む某市のあたりでは、秋口になると河原で芋煮会なるイベントがあって、私の子供のころには、9月の週末には毎週どこそこの集まりの芋煮会、なんてことが珍しくありませんでした。
これは、今からさかのぼることウン十年ほど前の話です。
小学生だった私は親に連れられ、大人だらけの芋煮会に参加することになりました。
当然、まわりは親の知人ばかりで同年代の子供はおらず、私より小さい子供が数人程度という顔ぶれでした。
親たちは火起こしや具材の準備に忙しく、気の早い人はビールをやっつけはじめ、子供の私はすることもなく、川岸でこっそり忍ばせてきた延べ竿に玉ウキ毛鉤仕掛けでハヤ、オイカワなどポツポツと釣っていたわけですよ。
そうこうしているうちに芋煮もできあがり、「できたぞー」という声に呼ばれて火のまわりに集合、遅めの昼ゴハンとなりました。
親たちはビール片手にいつ終わるとも知れない宴会をしてますが、こっちは子供、食べるだけ食べたらまたもや暇を持て余し、早々に釣り再開となったわけです。
1時間ぐらいたったでしょうか、ふと上流からなにやら白いかたまりが、どんぶらこっこどんぶらこと流れてくるのが見え、大きいビニール袋か何かかな?上流でも芋煮会してる人たちいるんだなー、みたいに思ってたわけですよ。
今にして思えば、私たちの団体はこの川のかなり上流域でやってたので、この場所から上手はかなり急な渓流で、左右は切り立った崖になってるので芋煮会などできる場所はなかったんですよね。
で。
白いかたまりはだんだん近くなってきたのですが、よくみると真っ白ではなく、ところどころピンク色の模様がついてるようでした。
ちょうどまんなかあたりは赤い帯で縛ったようになっていて、白い布でなにかを束ねたようなものに見えました。
長さは1mあまり、太さ50センチほどの筒のようなもの、という感じでしょうか。
ん? とよく目を凝らしていると、そこはあまり深くない流れですからときどき川底の岩につかえながら、それは徐々に流れてきます。
ちょうどこちらに向かってくる先端部分は黒っぽく見え、くるっと横向きになったときに黒っぽい部分の中に、人の顔のようなものがちらっと見えた気がしました。
ぎょっ
その瞬間、私は釣り竿を放り投げて大人たちのもとへ一目散に走っていき、白いかたまりを指さして言葉にならない言葉を発していたと思います。
大人たちの数人がその白いかたまりを引き上げると、若い女性が白いワンピースに赤いベルト、という身なりで、肌の出ているところは足も腕も傷だらけという状態で流されてきた、ということがわかりました。
幸いまだ息があったこと、集まっていた大人たちの中に医師と看護婦さんが数人いたことで完璧な応急処置からの病院搬送、という連係プレーで命は取りとめたとのちに知りました。
ことの顛末は子供にはあまり詳しく教えてはもらえなかったものの、なにやら上流の吊り橋で、男女の別れ話の末、女性が落とされたと。
この後すぐに事件となって男性は捕まった、というようなことだったとうっすら覚えています。
以来、川で釣りをしていてどんぶらこっこと流れる白いものを見るたびに、
ぎょっ
として身構えるようになってしまいました。 ま、霊感とかは感じないタイプの人間なので一人で夜釣りとか平気なほうですが、いまだにその出来事はひんやりする思い出ですね。
※投稿いただいた釣り場の怖い話は編集部で編集して紹介しています。