マニアが狂う「チヌの落とし込み釣り」に挑んだ話

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チヌ(クロダイ)
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ORETSURIをご覧のみなさん、こんにちは。サラリーマン・アングラーの釣人割烹です。

さて、ものごとにはおのずから「限度」というものがあるわけです。釣りもそう。筆者のようなサラリーマン・アングラーは、たまの休日、日常を離れて大海原で命のやり取りに熱中し、自然の恵みに感謝して新鮮な魚をいただく。それで満足です。なんの不満があろうか。

狙うならアジやシロギスでしょう。レクリエーションとしての釣りにおいては、ある程度の釣果を見込んでおきたいところ(実はアジ釣りもシロギス釣りもそれぞれに奥が深いのだが)。早い話、サラリーマンの休日にボウズは、やっぱりつらいわけです。

ところがどっこい、人は因果なもの。釣るのが難しい魚ほど、釣ったときの喜びは大きい。それゆえ困難な釣りの探究にのめり込み、ものごとの「限度」を超えてしまう。

探究にはまり込んだ酔狂な釣り人によって異常な発達をとげたジャンルの一つに、「チヌ(黒鯛)釣り」があります。チヌは目がよく、非常に神経質で簡単には釣れない魚とされます。

この分野は以前からずっと気になっていましたが、今年、元号が変わる前後に初めて挑戦してみました。

すると、その難しさにボーゼンとし、くる日もくる日もボウズに泣き、ついに仕留めたときには体じゅうの血が沸騰したものです。

チヌ釣り、かなりヤバいです。

深みにはまって仕事も家族もおろそかになりかねない。いわば釣りの「ダークサイド」。ひとたび落ちれば、アナキンのごとくなかなか戻ってこられなくなりそうです。

この記事では、筆者が初めてチヌを釣り上げるまでのつらい道のりと、そのときに垣間見た奥深い世界をお伝えします。

目次

チヌの落とし込み釣り、それは安直な思いつきだった

チヌ挑戦のきっかけは4月のこと。

Amazonで安い中国製のチヌ用タイコリール(2,000円台!)を見つけ、気まぐれでポチったことにあります。元号変わり目の10連休に、ひまなので黒鯛でも釣ってやろうと。

いま思えば安直な発想でしたが、新しい道具を手に入れると、触っているうちに「釣れたも同然!」という気分になる。釣り人共通のビョーキですな。

アマゾンで買ったチヌ用のリール

のちほど整理しますが、チヌの攻め方にはいろんな種類があります。

まずは「ヘチ釣り」をやってみようと考えました。

「ヘチ」というのは「際(きわ)」のこと。堤防の岸壁にはイガイやフジツボ、カニなどが着生します。これらはチヌの大好物。岸壁ぎりぎりにエサを沈めていき、たった今、ヘチからはがれ落ちた餌であるかのような演出で食わせよう、という釣り方です。

筆者の仕掛けは、道糸(ナイロン2号)にハリス(フロロカーボン1.5号、1.5m)を直結し、先端に針1本(チヌ針5号)。チモトにガン玉(3B)を打つ。以上、終わり。

子供のころにやったマブナの浮子(ウキ)釣り仕掛けも簡単でしたが、これは浮子すら使わない。これ以上シンプルなものはないという極限の仕掛けです。

ただ一つ、この釣りにどうしても必要なのがタイコリールです。性能のよいものは、フリーの状態でスプールを手で回すと果てしなく回り続けます。

餌の自然落下の演出は、小さなガン玉の重みでスプールが回り、糸が出るタイコリールで可能となるのです。スピニングリールや両軸リールでは無理でしょう。

竿については、メジャー・ブランドの高級ヘチ竿が、すごいネーミングと値段で売られています。でも、専用竿は不要だと思います。

アタリは主に穂先ではなく、沈んでいく道糸のふけ具合の変化で取る。合わせで魚をはじかない穂先の柔らかさ、針掛かり後の強烈な引き込みに耐える胴の粘りがあれば、どんな竿でもよいわけです。

筆者が手にした中国製のヘチリール。安い割にスプールがよく回転します。これに愛用の和竿2.2mを組み合わせる。
フッフッフッ。わが勝利の方程式。チヌなど、恐るるに足りず。釣って刺身にしてくれるわ。

釣行前はそんな気分……まことに愚かでした(涙)。

内房・富浦の漁港でチヌ狙い。あれ、釣り方が違うぞ

平成最後の日の4月30日、館山に近い内房・富浦の漁港で、チヌ釣りの記念すべき第一歩を踏み出しました。

この漁港、黒鯛が釣れるとネットで紹介されています。

なにしろ、ネット動画で見る「チヌ師」たちは、かっこいいわけです。右手に竿、背中にタモ網。着用するベストのポケットに必要な道具をそろえ、堤防で足取りも軽く索敵していく。

敵であるチヌにさとられないよう身を隠しがちに竿を構え、ヘチにそっと糸を垂らす。ゆっくり糸が沈んでいく。途中で突然、竿をあおると、胴から弓なりに曲がる……。

魚との至近距離での真剣勝負。武士の居合い抜きのように、静から動に一瞬で切り替わります。「これこそ釣りの中の釣り!」と、あこがれをかきたてられます。

よし、オレも。筆者は幅広のベルトを腰に巻いて背中にタモ網を差し、ベストはないので小さなプラスチックの道具箱とえさ箱、フィッシュグリップ、ストリンガーをベルトにつるし……。滑稽を通り越して怪しげな風体だな、こりゃ。

間の悪いことに、その日は未明から風が強く、滝のような横殴りの雨が降っていました。しかし、釣りびとに雨は関係なし。むしろ「嵐の方が釣れる」くらいの気分で、カッパにゴム長の完全防水で臨みます。

まずは情報収集。

午前4時すぎに開店する漁港そばの「田仲釣具店」に寄ると、親切なおかみさんが出てきました。

私「黒鯛、狙うんですが……」
おかみさん「釣れてるよ~。ここでは、みんな浮子(ウキ)でやってるよ~」
私「えっ。そうなんですか?」

内心、動揺しました。

コマセを打ってチヌを寄せ、飛ばし浮子でオキアミ1本針仕掛けを投げ入れる「浮子フカセ釣り」が主流のようです。長年かかって定着したご当地釣法に逆らって、釣れるものなのか……。

事前リサーチ失敗、それでも……

でも、ここまで来たら、やるしかない。

堤防にいくと、大雨のなかで釣りをする物好きは筆者以外に2人。釣りバカだなぁ。

一人は浮子フカセ、もう一人はルアーです。浮子フカセ氏は6mもありそうな磯竿で15mほど先へ巧みに仕掛けを飛ばし、コマセをうっています。

まずは現場を偵察。

・・・

自分のリサーチの完全な失敗をすぐに悟りました。

堤防は北へ延びています。外の潮がぶつかってチヌの寄りそうなのは、沖に向かって左手(西側)の岸壁。ところが、足もとから大きな石が敷き詰められ沖へゆるやかに傾斜し、手前は浅すぎてヘチ釣りは物理的に不可能。一方、右手は港内で深さはありそうですが、水は淀み、ゴミが多数浮いています。

浮子フカセ氏もルアーマンも左手に投げています。

しかし、だ。右側だってやってみないと分からないぞ、と実釣を開始。

ヘチにカニを落とし、何度か誘いのしゃくりを入れます。

だめなら2m移動し、また落とす。そこもだめならさらに移動。ひたすら歩き、ひたすら落とす。これがヘチ釣りの基本です。

こうして長い堤防を1往復。2往復……。チヌどころかフグの攻撃もありません。とほほ。

浮子フカセ氏の竿はときおり大きな弧を描き、そんなに大きくはないものの、本命のチヌがポツポツ上がっています。

それに引き換え、オレは大雨のなか、いったい何をしているのか。これは何かの修行だろうか。泣きたい気持ちになってきます。

こりゃあダメだ、とヘチ攻めに見切りをつけたのは昼近くでした。最初の偵察でこの漁港をあきらめ、別の堤防に転戦すべきだったかもしれません。

しかたなく、堤防の西側へ向けて「ぶっこみ釣り」を試みます。重たいガン玉を3個ほど追加。右手に竿を持ち、リールから左手で糸を引っぱり出して、フライフィッシングの要領で仕掛けを遠くへ飛ばします。もうヤケクソ。あえなく「ヘチ釣り」作戦は崩壊しました。

何度かぶっこんでいるうちに「グンッ」とアタリがあり、合わせると和竿が曲がります。

#貴殿でしたか(タカノハダイ)。平成最後の日、内房の富浦で

上がってきたのはタカノハダイ。貴殿でしたか……(涙)。

降りしきる雨のなか、改元にわく世の中から切り離された小さな漁港の堤防で、ぽつねんと魚を見下ろすオッサン一人。

貴殿は海へお帰りいただき、筆者も竿を納めてわが家へ。荒天で他の場所に転戦する気力が萎えている。これが人生初のチヌ挑戦でした。

金谷港よ、ここにもチヌはいないのか?

挑戦2日目はうって変わってカンカン照りの5月2日、内房の金谷港。奇っ怪な姿で有名な鋸山のふもとで、神奈川・久里浜行きのフェリーが出る場所です。

この日はかみさんと息子、娘がママ友家族と鋸山に登るという計画がありました。それはまことにラッキー。車で登山口へ送り届け、下山まで釣りをすることが許された次第です。しめしめ。

フェリーの桟橋と向かい合い、間近で発着を望む岸壁で、たくさんの家族連れがサビキ釣りを楽しんでいます。とろりとした鏡のような水面で、深さはそこそこありそう。

家族の都合優先なので朝マズメは逃し、午前10時ごろに実釣スタート。装備や仕掛けは富浦漁港のときと同じで、さっそくヘチぎりぎりにカニ餌を沈めていきます。

道糸のナイロンはフロロと違って水に浮きます。これを利用し、餌を一直線に沈めていくのではなく、余分な糸を送り込み、水面で一定の糸フケをわざと作ります。

途中でスッとフケが消えたり、逆に餌が沈まなくなってフケが大きくなったらアタリ。竿を少し聞き上げ、強い引き込みがあればがっちりと合わせ、針がかりさせます。

「おおっ!」。時おり糸フケが大きくなり、緊張して竿先をわずかに上げます……が、生き餌のカニが途中でヘチの藻やフジツボにしがみついただけで、がっかり。「べりっ」という感触でカニを壁からはがし、さらに沈める。息を詰めて糸フケを見守るものの、なかなか変化は出ません。

岸壁の片隅に、廃船が浮いていました。いかにもチヌがいそうで期待が膨らみます。船の周囲や底をていねいに繰返し攻めますが、まったく音無し。

何なんだよ、これは。

「この一帯にチヌはいないのか」と絶望的な気分になります。

午後2時ごろに家族から下山の連絡。

チヌにかすりもせず、むなしく納竿です。

東京湾に浮かぶ見事な赤富士

帰りがけ、家族で港近くのスーパー銭湯「海辺の湯」に寄ってスッキリ。駐車場に戻ると、夕陽を浴びた赤富士が東京湾に浮かんでいました。素晴らしい自然のスペクタクルに我を忘れ、傷心が癒されたことでした。

気合をいれて木更津の沖堤防へ渡るも、暗雲が……

総延長約3kmの木更津の沖堤防(グーグルマップより)

挑戦3日目は5月4日。今度は本当にチヌのヘチ釣りで有名な内房・木更津の沖堤防へ。

朝からどんより厚い雲におおわれ、小雨が降ったりやんだり。しかし、天気などもはや眼中にありません。

三度目の正直。きょうこそ、ぜったいに釣る!筆者なりの「確率論」もありました。

チヌにも多少トロいやつはいるはずだ。釣り人にもトロい素人がいるだろう。素人は短時間の勝負ならボウズの可能性が高い。でも、3日間もまじめに釣り糸を垂れれば、トロいもの同士が出合う確率は決して低くない。延々やれば1枚くらいは釣れるはずだ――。

さて、木更津の沖堤防は東西に伸び、4基の堤からなります。西からA堤800m、B堤1200m、C堤800m、D堤200mで総延長約3km。

木更津港から1時間おきに渡船が出ていて、好きな堤防へ渡れます。堤防の幅は6mあり、波間で揺れる釣り船と違って巨大戦艦に乗ったような爽快さがあります。

渡船「栄宝丸」でA堤に向かう。待ってろよチヌ

午前5時に「栄宝丸」で出発。船内を見渡すと、チヌ師もちらほら。筆者は黒鯛の実績があるA堤に渡りました。

潮通しのよい堤防の沖側(北側)で、さっそく実釣開始。水面まで4mほど。ヘチに生き餌のカニを落とします。

途中でチヌ師とすれ違い、こちらから声をかけました。

「どうです?」
「渋いねぇ」

きょうも厳しいのか。気持ちがへこむなぁ。

2m刻みで移動しながらカニを落とす。

「釣れてくれ。せめて食ってくれ」。

祈るような気分で水面の糸フケを見つめます。時おり餌がなくなったり、カニがかじりとられたりします。これらはフグの仕業です。

釣りをしていると時間が速く進みます。

沖側を何度か往復し、陸側(南側)のヘチを攻めているうちに暗雲が広がってきました(←これ心理描写ではなく実際の話)。

真っ黒い雲が神奈川方面からぐんぐん近づいてきます。そして遠くで「ゴロゴロ」という音。

これはまずい。沖堤防の鉄則で、雷が鳴ったら即撤退です。周囲にまったく建物がないところで竿を振っていたら、それは「人間避雷針」。あぁ(涙)

まもなく船が来て、スタッフが「すぐに片付けて乗ってくださ〜い」。午後3時までやる予定が、午前10時過ぎに強制終了。どこまでも、ついてない……。

ついにチヌがアタック!

港に戻ったものの、すごすごと帰るわけにはいきません。雷が遠のいた正午過ぎから木更津港の周辺で、釣れそうな場所を歩いて探します。

竿を手に海っぺりをうろついてみて、釣りが禁止されていない場所でヘチ釣りができるところは、実はかなり限られている、という印象を受けました。

岸壁があってもテトラが沈んでいたり、テトラがなくても浅かったり……。負け惜しみかもしれませんが、ヘチ釣りというスタイル自体にポイント選択の限界があるのではないかと感じます。

とりわけ釣り人の多い東京湾で、木更津の沖堤防のようなヘチ釣りができる数少ない場所は、チヌ師たちに徹底して攻められ、魚がスレきっているに違いありません。

オレに釣られるようなトロい魚は、いないのか……。うつうつとしながら歩き回っていると、港の近くで漁船が多数係留された小さな桟橋に行き当たりました。金網に囲われているが、入り口の鉄柵は開いている。

釣り禁止や立ち入り禁止の表示はありません。でも、入り込んで釣りをするのはさすがに無理でしょう。

おやっ。人がいる。地元の漁師が係留船の上で作業をしています。

「すみませ~ん!」。だめもとで声をかけました。

「中で釣りをしたいんですが」。漁師はこちらをちらっと見て苦笑し、「いいよ。やってみなよ」と許してくれました。

おおおっ。「ありがとうございます。お邪魔します!」と礼をいい、桟橋の中へ。

仕掛けを落とすと深さは3mあるかないか。水面は静かでトロリと濁っています。桟橋の支柱、海中に打たれた太い杭、係留船の陰などにチヌが潜んでいそうです。

生き餌のカニは残り2匹。ここは集中しよう。貝や藻がびっしりおおった支柱や杭の近くにカニを沈めていきます。
1時間近くたったでしょうか。仕掛けを上げて「あっ」と叫びそうになりました。

カニが潰れている!

午前中、沖堤防でフグの攻撃に遭いました。

フグには強力な前歯があり、カニは一部を残してかじり取られ、包丁で断ち割られたような状態で返ってきます。しかし今回は体全体が押しつぶされ、バリバリに割れた状態で針にぶら下がっていたのです。

チヌがカニを臼歯でかみつぶした

チヌの初アタック。カニが潰された。

間違いなく本命です。

この3日間で初めてでした。

しかし、問題はここから。確かにチヌが口を使ったはずなのに、アタリがまったく分かりませんでした。

糸フケの具合を見ていたつもりです。でも、道糸は風や波を受けて常に動きます。結果として異変をキャッチできませんでした。

チヌとの真剣勝負で、出合い頭に相手に斬られ、しかも自分が斬られたことにすら気づかなかった状態。

チヌ、いったいどれだけ難しいのか。

まもなく再び雷雨に見舞われ、この桟橋で納竿。漁師にお礼を言って撤収しました。ついに3回連続ボウズ。それでも帰りの車のハンドルを握りながら興奮が収まりません。

奥深い世界への入り口がほんの少し開き、わずかに光が差し込みました。

(後編に続く)

寄稿者

釣人割烹

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