テトラの穴釣りや磯釣りでたまに釣れてくる赤い蟹。
おい、こいつ茹でてないのに赤いぞ。シャアじゃないのか?
そう、それがジオンの「ショウジンガニ」です。
海の透明度が高いときであれば、堤防際にはりついている様子がみてとれます。
味噌汁にすると圧倒的な旨さ。今回はショウジンガニを味噌汁にする様子を紹介します。
知る人ぞ知る旨い蟹。それが「ショウジンガニ」
蟹のうまさには二つありますね。
なんだそれは。はい、「身を食べる旨さ」と、「ダシとしての旨さ」です。
タラバ・ズワイガニ・毛ガニは身(筋肉)を食べる蟹。まーポピュラーながらも高いです。
ゆで上げたときに赤くなるのでめでたい正月の一品として年末になると一気に高騰しますね。毛ガニなんて大型なのは一杯うん万したり。タラバガニはヤドカリのなかまだけど。
そんでもって、ワタリガニ類は身の味もズワイガニなど以上の旨さで、出汁としても最高の味。
古来より日本全国で食べられてきたモクズガニは身は少ないけれども味噌がうまく出汁もよく出る優れもの。
で、ショウジンガニですよ。
実際のところよく知らない人も多いんじゃないでしょうか。
城ヶ島産のショウジンガニ。オスの最大サイズ
こちらがショウジンガニです。漢字で書くと「精進蟹」とされているようで。雑食ながらも、みていると、岸壁やテトラにはりついた藻類を小さな爪でつまんで食べているから「精進」なのかもしれません。魚介類のネーミングって由来が不明なものが多いですね。
ショウジンガニは、地域によって「マガニ」「イソガニ」とも呼ばれます。
多くの個体で茹でてないのに赤い蟹。
先日、地引網で茅ケ崎にいったんですが、その会場わきにある堤防にこのショウジンガニがたくさんはりついていたんですね。
で、子供ちゃんらが素手で獲って、砂だらけの個体をわたしのところにもってきて、「すいませーん、この蟹食えるんですか?」みたいに言ってました。
その場では「おーす。味噌汁にすると旨いよー」と答えておいたんですが、そのときは暑かったんで味噌汁は作らず。
が、味噌汁にすると旨いんだよという点は伝えておきたいと思ったんです。ということでこの記事ですよ。
こちらがショウジンガニの動き。
ちょ、めっちゃ速えーな。通常の三倍…
あなたは、そうおもったはずです。
恥ずかしがらなくていいんですよ。それが自然な感想です。
この蟹は両爪があまり発達していないのと、動きが速いので「蜘蛛」っぽく見えます。もうね、「蜘蛛蟹」と名付けてもよかったぐらいの蜘蛛っぽさ。
環境によって色合いが異なりますが、比較的大型の個体は赤っぽい気がします。
漁港などのテトラ帯に多く生息しているんですが、テトラの上にいるというよりも、海面下でテトラにはりついていることが多いです。
陸上でもかなりのスピードで移動するけれども、波をバシャバシャかぶるような潮通しがいい海面下が好きなんでしょう。
ショウジンガニは、おそらく海水と多くの酸素が必要な蟹のような気がしています。
イシガニとワタリガニ(タイワンガザミ)とショウジンガニを1時間くらいかけて水無しで持ち帰えると、イシガニとワタリガニはまだ元気で爪をふり上げるんですね。が、このショウジンガニはだいたいぐったりしています。ほぼ死にかけていると。
イシガニとショウジンガニはほぼ同じ環境に生息しているんですが、それぞれ酸素消費量や水面下にいないといけないなどの特性があるんでしょうね。よう知らんけど。
ショウジンガニをとる際は、テトラにはりついているものをたも網ですくうのが一番いいと思います。
あとはひっこくりといって、エサで寄せて脚に輪をかけて釣りあげる方法もあります。蟹網でも獲れますが、岩礁帯にいるので、網が岩礁帯や牡蠣殻などにはまってとれなくなるのであまり向いてません。
前述のとおり、ショウジンガニは水から上げるとすぐ死にますし、水汲みバケツにいれていても酸欠になるのかすぐ弱ります。
蟹類に共通するのは鮮度劣化が速いということなので、もし持ち帰って食べる場合は、氷締めするか口に鉄串を差し込んで締めてよく保冷してから持ち帰るとよいでしょう。
もしくは小磯あたりだったら、その場で味噌汁にしてしまうのも一興です。
ショウジンガニの下処理
こちらは捕獲してから水洗いをして冷凍していたショウジンガニ。サイズはあまり大きくないですね。が、ダシ目的なので、よいかなと思ってます。
小場所で獲りつくすと、いなくなってしまうので注意ではあります。自分で自分の首をしめることになってしまったり。
下処理は以下の通り。
- 全体を洗う
- 尻蓋をとって水垢がついていれば歯ブラシなどで落とす
- 口吻あたりの胃袋を取り除く(やらなくてもOK。ただし砂などを噛んでいることもある)
- 調理バサミなどで身を半分に割る
それほど難しくはないですね。
脚や爪部分を食べるわけでもないので、調理バサミで切り込みをいれてしまってもよいです。ダシがでやすいように。
ショウジンガニを味噌汁にするときの秘訣を披露する
では、味噌汁工程に進んでみましょう。
料理には「素材の味を活かす派」という人が存在していますが、わたしはどちらかというと「旨ければいいんじゃないか派」に所属しています。
なんだそれは。
「素材の味を活かす派」の場合、素材に余計なものをくわえないでその素材の味を楽しむという至ってシンプルな考え方です。
たいして、「旨ければいいんじゃないか派」は、素材の味は活かしつつもさらに旨く仕上げるためには手段を選ばないというなかば過激派みたいな考え方です。
司馬遼太郎氏の創作「竜馬がゆく」には、長州藩のやり口にたいして、「目的は手段を浄化する」というような評があったような気がします。
「旨い料理を作る」「誰かを心から満足させたい」というのが目的であれば、その目的達成のために手段を選ばないのが「旨ければいいんじゃないか派」です。
でもご安心ください。わたしは左翼でも右翼でもなく、ど真ん中ストレートです。おれは直角。
さて、ショウジンガニの味噌汁を最高レベルに仕上げるにはどうしたらよいんでしょうか。
いいでしょう、教えてあげましょう。
ポイントは以下の通り。
- ショウジンガニの出汁をきっちり出す
- アクをしっかりとる
- 具材はショウジンガニと薬味のネギのみ
- 四の五の言わず「昆布だし」を使う
- 四の五の言わず「カツオだし」を使う
- 本みりんを入れる(必要不可欠)
- 味噌は火を止めてから
これです。
みなさんが蟹関連の汁をつくるときは、以後これだけを覚えておけば、ビクトリー間違いなしです。
ショウジンガニはいい出汁がでるんですが、それと昆布だしだけだとちょっと物足りない。そこにカツオ出汁の援軍を派兵する。全体を本みりんのまろやかさで統一する。
税率が変わっても、選ぶべきなのは俺たちの「本みりん」。
鍋に、水・みりん・ショウジンガニをいれて炊く。
ショウジンガニからエキス分がでたら、昆布だしとカツオだし(だしの素でOK丸くん)を入れる。
ショウジンガニの蟹味噌が溶けだすとこのように褐色に。
そこで火を止める。
味噌をしっかり溶かす。
味噌は白みそと赤みそを適宜ブレンドすると、甘みと辛みがいい具合になるんですが、こだわってる感も出てくるので、人に蘊蓄を伝えやすくなります。
「ふはははは。味噌は西京味噌と仙台赤みそをブレンドしてましてね」
みたいなドヤ。
こういう奴いますよね。
はい、わたしです。
そう、人はブレンドに弱いのです。
味噌をいれたら、火はつけず、碗に汁をうつしてネギと七味唐辛子を散らす。
ネギは、小葱系でも長ネギでもいいんじゃないかなと。
できあがり。
盛り付けは、これ見よがしに、ショウジンガニが碗の縁を這いあがるっぽくするといろいろ映えます。
UPで見せたろか。
はい、こちらです。
ちょっと水木しげるが描いた「悪魔ブエル」っぽいな。
ショウジンガニ汁=ブエル汁ってことで。
そんじゃ、早速すすってみましょうよ。
そうですね。すすってみましょ。
よいっしょ。すす。
・・・
ん、なんこれ!
めっちゃ旨い。
旨過晋作ここにあり。
舌から脳に磯の電撃が走る!
ふぅ。
よくショウジンガニの汁は、イセエビ汁より旨いと言われたりしますが、ほんとだと思います。イシガニやワタリガニの汁とはちょっとことなる、藻類由来の濃さちゅーか、ほんちゅーか。
いやはや、いやはや。
長州おそるべし。
こちらは以前つくったもんですが、残ったショウジンガニの味噌汁に加ト吉冷凍うどんを放り込んでショウジンガニうどんに仕上げたものです。
これがまた半端なく旨い。もともと武力100の呂布が方天画戟を装備しているから100超えているみたいな味わい。
回転寿司チェーンで注文できるとしたら、確実に注文しちゃうなー、でも消費者は知らないものは食べないからなー、さっぱり売れないだろうなーという味。
まとめ
ショウジンガニは一般には流通せず、東北以南、とくに伊豆あたりの民宿にとまると朝食のアジの開きに加えて味噌汁として登場したりします。
漁場がかぶるため、イセエビの刺し網漁でも獲れるのですが、これは漁師が自家消費してしまうとのこと。
その点、釣りにいったついでに、両手剣ならぬ、たも網を装備し、潮どまりの時にでも、やんややんや捕獲しておけば、本命の魚がボウズだったときにも美味しい料理を味わえるわけです。
そうそう、ショウジンガニは身近な堤防や漁港にもいるんですが、だいたい外海に面した波があたるテトラ帯にしたりします。そういった場所はほとんど釣り禁止&立ち入り禁止なので無茶をするのはやめましょうね。
ねらい目は、潮通しがいい小磯あたりです。
房総半島・三浦半島・真鶴半島・伊豆半島などなどであれば大体います。
それと取りすぎるといなくなってしまうかもなので、ほどほどに楽しみましょう。
ではでは。
平田(@tsuyoshi_hirata)