都市河川の「前打ち釣り」。念願のチヌを釣った話

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前打ち釣りでチヌがかかった竿
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ORETSURIをご覧のみなさん、こんにちは。サラリーマン・アングラーの釣人割烹です。

4~5月の10連休の3日間でチヌ(黒鯛)に初めて挑戦したのです。堤防や岸壁のヘチ(壁ぎわ)に生き餌のカニを落とす「ヘチ釣り」でしたが、1枚も釣れずに終わりました。

3日間やって、まったくかすりもしなければ「縁がなかった(涙)」と、チヌ釣りを自分の「黒歴史」として封印してしまったことでしょう。でも3日目、最後にかすりました。チヌがカニ餌にアタックしたのです。

アタリは取れませんでしたが、これは、うれしかった。値千金のファウルチップ。「必ず釣ってやる!」と闘志がよみがえりました。

今回は「落とし込みでチヌに挑む!『究極の釣り』の魅力」の後編です。

目次

チヌ攻めの戦術を変える!

連休が終わって日常にもどりましたが、もうチヌが気になって仕方がない。

その後、会社の仲間たちと釣行し、手ばね竿で3kg近いマダイを上げ、金沢八景の「相川ボート」でシロギスの自己記録数を更新しました。だけど、頭の中ではずっと黒鯛が泳いでるんです。

3回連続ボウズでヘチ攻めに限界を感じていました。素人にはそもそも難しいうえ、釣りに適した場所が限られ、数少ない適地ではベテランのチヌ師の攻撃で魚がスレているにちがいない。

うだうだと悩み、だらだらと時間が過ぎ去っていくなか、釣り仲間の一人から耳よりな情報がもたらされました。

「東京湾に注ぐ某一級河川の河口で、でかいチヌが釣れてるぞ」

この仲間が家族でテナガエビを釣っていたとき、その横で地元の釣り師が50cm近い良型を上げたというんです。5mほどの長い竿で河岸のテトラポットの向こう側を攻めていた、とのこと。

話を聞くうちに、頭の中をさわやかな風が吹きわたり、濃霧がサーッと晴れていくような感じがしました。よし、「前打ち釣り」をやろう――。

この釣り方は、文字通り「餌を前に打ってチヌを釣る」スタイルで、ハリスから先の仕掛けはヘチ攻めと同じ。ヘチ釣りは、いったんペンディングです。

落とし込み竿、謎の「U字ガイド」の特性は?

某日夕、会社を早めに出て、東京・神田の中古釣具チェーン「タックルベリー」へ。

落とし込み(前打ち)の専用竿がほしい。店舗が小さくて品数も限られ、期待していませんでしたが……おおっ!あったよ、ありました。たった1本。まるで竿が筆者が来るのを待っていたかのようです。

「黒鯛工房」というメーカーの「BLACKY THE落し込み」。定価28,000円が7,000円台。わずかに傷はあるものの、美品です。

前打ちの専用竿はまことに奇妙です。

道糸を通すガイドが、針金を小さく丸めたような形状なのです(「U字ガイド」と呼ばれる)。一般的なガイド(「テレガイド」と呼ばれる)に比べ、穴が非常に小さい。竿にリールをつけて道糸を出そうにも、ガイドのせいでスムーズに出ていきません。何のためのガイドやねん、とツッコミたくなります。

これが「U字ガイド」だ

実はU字ガイドには優れた性質があります。一般のテレガイドの竿は糸がたるみがちで、チヌの微妙なアタリがたるみに吸収され竿や手に伝わりにくいんです。一方U字ガイドでは道糸が竿に密着し、たるみがほとんど出ず、微妙なアタリが穂先に敏感に伝わります。

前打ち竿の特徴は、U字ガイドとともに穂先そのものにもあります。穂先がきわめつけに細く、よくしなるのです。
筆者が使っている他のロッドの穂先と比べてみましょう。違いは一目瞭然です。

① ビシアジX MH-170(ダイワ)
横須賀・走水の金アジ釣りに使う。穂先が折れトップガイドを自力で再建。ますます硬調子となり、オモリ150号も楽勝。ヤリイカや中深場もオッケー。穂先は当然、極太です(笑)。

②早技 カワハギ 硬調 180(ダイワ)
繊細なアタリを取る極端な先調子のカワハギ竿。ラインのたるみを作らないためガイドは穴が小さく、間隔も狭い。これも穂先が折れ、トップと2番目のガイドを自力再建。

③ 和竿1.9m
やや硬調子。シロギスやアジ(ライトタックル)、メバル、カサゴなどに使える小物用の万能竿。穂先はグラスソリッド。

④ 和竿2.2m
やや軟調子。グラスソリッドの穂先がとても柔らかく、胴には素晴らしい粘りがある。大きなマダイやヒラメ、青物に対応でき、とりわけ、ヒラメの泳がせ釣りで真価を発揮しています。今回のチヌのヘチ釣りでも使いました。

⑤ BLACKY THE 落し込み XL 2WAY 45/50(黒鯛工房)
筆者の買った前打ち専用竿です。どうです、この穂先! 他の竿とはまったく異次元です。

同じ落とし込み釣りでも「ヘチ攻め」と「前打ち」は似て非

この専用竿こそ、チヌを釣ることの難しさを物語るとともに、人がチヌに燃やす執念の結晶ではないか、と思うわけです。

使い方はかんたん。釣り場の状況に合わせてあらかじめ必要な長さの糸を出しておき、ポイントに餌を入れアタリを穂先で取っていきます。要は「リールつきの延べ竿」です。

前打ち釣りには専用竿が必須です。一方、リールについてはタイコリールが標準装備となっていますが、魚をかけて取り込むとき以外は基本的に糸を出し入れしないので、スピニングでも両軸でも不都合はないでしょう。

黒鯛工房の落とし込み専用竿。漆黒の細身がかっこいい

それにしても、おもしろいなぁ。

同じチヌを同じ仕掛けで狙うのに、ヘチ攻めと前打ちはコンセプトが真逆なのです。

【ヘチ釣り】
ガン玉の重みで糸をスムーズに出していく。糸フケでアタリを取る(主に目感度)。攻めは線(ヘチ)に限定されるが、縦(水深)の制約はない。タイコリール必須。

【前打ち釣り】
糸は出し入れしない。穂先や手もとに伝わる感触でアタリを取る(主に手感度)。攻めは面(竿の届く範囲)だか、縦は制約される。前打ち竿が必須。

ちなみに「ヘチ釣り」と「前打ち釣り」、さらにはラインに目印をつけて餌を沈める「目印釣り」(西日本で盛ん)をまとめて「落とし込み釣り」と総称します。

一方、「浮子(うき)フカセ釣り」「浮子ダンゴ釣り(紀州釣り)」「かかり釣り(筏釣り)」など、集魚餌を効果的に使うスタイルもさまざまに発達。こうした「エサ釣り」に対し、ルアーで狙う「チニング」も盛んなようです。分かりにくいので、まとめてみました。

チヌの攻め方はいろいろだ

ついにチヌを針に掛けた、が……

さあ、いよいよ実釣です。

7月の3連休の土曜日。ひとり始発電車に乗り、午前6時半、某一級河川の河口へ。土手を降りると岸にテトラポットが沈んでいます。グーグルアースで確認すると、テトラの護岸は断続的に1km以上延びています。

沈んでいるテトラポットの先を狙う

その一角に陣取りました。

青イソメのぶっ込みでスズキを狙う年配の方がおり、あいさつしましたが、チヌ師はいません。

竿のU字ガイドに2号のナイロンラインを通し、仕掛けを作ります。フロロカーボン1.5号1,5mのハリスを道糸に直結。針はチヌ5号。そのチモトにガン玉(3B)。

竿は手もとの部分を伸縮でき、4.5mと5mの2通りで使えます。竿尻にはひじ当てがあり、テコの原理で合わせを入れられます。

餌はカニ。現場の状況から、合わせやすさを考えて竿を4.5mに設定。偏光グラスを装着して沈んだテトラのふちとおぼしき場所を見定め、そこへカニを打ち込みます。

干潮へ向かう時間帯で、水は下流へ動いていきます。

着底させ、しばらくステイ。そのあと竿先をゆっくり上げて誘い、また着底。満潮に向かう時間帯なら、水の遡上とともにチヌも上がってきそうだなぁ。

上流へ向かってテトラを移動していきます。1時間半ほどたったころ。誘い上げるとラインが突っ張り、竿が曲がりました。

根掛かり……?

一瞬、そう思いました。

いや、違う、違う。引いてるぞ。慌てて竿を立てると、穂先が強烈に引き込まれます。

チヌだっ!

力比べをしているうちに浮いてきた魚体。

白っぽい腹が水面近くでギラリと光る。次の瞬間、ビンッ!と勢いよくすっぽ抜け、仕掛けが後ろへふっ飛びました。

うぉーっ!!!

痛恨のバラし。これがチヌなのか……。うれしさと悔しさが混ざり合い、しばらくその場で固まってしまいました。引き込みの感触が手に残り、動悸が収まりません。

初クロダイの顔を拝んで満願成就!

落ち着きを取り戻し、新しいカニを針につけて、同じ場所に再投入。何度も誘いましたが再びかかる気配はありません。

それにしても、何ということだ。この異次元の繊細さを誇る前打ち竿をもってしても、アタリらしき感触が取れなかった。誘い上げで穂先が曲がり、根掛かりと勘違いしてしっかり合わせを入れられず。

その後の引き込みのパワーは尋常ではなかった。敵は最後に身をひるがえし、やすやすと針をはずして泳ぎ去った。

チヌ、恐るべし……。

足場のよくないテトラ地帯で、上流への移動・索敵を再開します。魚のいることは分かった。今度こそ釣り上げるべく、無我夢中です。

10時過ぎ。干潮で水がほとんど止まっていました。着底後のステイで竿先に違和感……。

???

「グン」「コツン」ではなく「モゾッ」と煮え切らない感じ。何とも表現しようのない感触でした。

慎重に聞き上げると、ギューンと道糸が突っ張る。

今度こそと、両手で竿を力いっぱいあおると、手もとから曲がる前打ち竿。

おっしゃーっ!!!

道糸が水面を8の字に切る。

パワーは先ほどバラしたやつよりもすごい。立てていた竿が強い力で引っ張られ、水面近くまで倒される。驚いたことに、強烈なテンションで道糸がキュルル、キュルルと、うなってます。

チヌをかけ、竿がここまでのされた

引き込みに耐え、リールを巻くと敵が水面に浮上。左手で伸ばしたタモに入りました。

ついに、ついに取ったぞ!

38cm、1.2kg。感無量の人生初チヌ。

血が沸きたち、全身を貫くシビれるような快感に身をゆだねる。

あぁ、釣りの「ダークサイド」へ墜落していく……。

このあと短時間でアタリ連発。30cmを上げ(この「カイズ」クラスでも引きは強烈)、さらにサイズアップで40cmを釣りました。この2枚のアタリも微弱で、竿先がわずかにもたれるような感触しかありませんでした。

3枚で、もう胸いっぱいです。

筆者の疲労が激しく、納竿。きょうは十分です。

もう後戻りはできない……

おまけ:外房・片貝漁港の堤防で痛恨のバラし

その2日後、連休3日目の月曜日。

雨ですが車に前打ち竿を積んで早朝に出発しました。内房の市原海釣り施設へ。どうしても海で取りたい、という欲望を抑えきれません。チヌ熱、すでにかなり深刻……。

この人工釣り場、チヌが上がることで知る人ぞ知るポイント。

でも、この日は「海の日」で入場料(大人920円)が無料。午前6時オープンで7時ごろに入ると、すでに家族連れが大勢詰めかけ、広範囲の索敵は不可能な状況でした。

釣り座を固めてカニを打ちますが、魚の気配はありません。

ベテラン職員が立ち話で「きょうは青潮気味。黒鯛やる人は一人も来てないよ」と耳打ちしてくれました。魚の大量死を招く青潮はこの時期、東京湾でよく発生します。

その言葉で即座に撤収を決断。房総半島を横断して外房・九十九里町の片貝漁港へ向かいました。大転戦です。

選んだ場所は同漁港の通称「南新堤」

午前10時半過ぎにリスタートしました。

堤防の南側は水深があって外洋に洗われる一方、北側は遠浅の砂浜。堤防の付け根から南側で落とし込んでいきます。

外房・片貝漁港の南新堤

前打ち竿から十分な糸を出して堤防のふちに立ち、5m(竿の長さ)先のヘチに落とします。

そこから時計回りに竿をずらしながら90度の範囲を探り、アタリがなければ沖へ向かって2m前進。そこで同じことを繰り返します。

やはり海は難しい。河口と違って潮が複雑にからみ、海面もチャプチャプと騒がしく、アタリが取りにくいわけです。

正午過ぎ、誘い上げのときに微妙な違和感があり、合わせると強烈な引き込み。竿が弧を描きます。掛けたぞ!

強烈な引き込みに耐えていると、

ブシッ!

……。

すっぽ抜けた(涙)。

この堤防で午後2時まで3時間あまり実釣しましたが、ほかにアタリもアタックもなく、この日は結局ボウズ。バラしはあまりに悔やしすぎます。

とはいえ、今後の堤防攻略に向けていくつか教訓が得られたし、何より短時間であっても針に掛ける自信がついた有意義な一日でした。

チヌという魚の奥深い世界の入り口にようやく立っただけですが、魅力は尽きません。

異常発達を遂げたジャンルとしては、カワハギの船釣りなどもあります。

でも、釣ること自体それほど難しいわけではなく、取っつきにくい印象はありませんでした。チヌにまさるとすれば、ヘラブナの世界か。恐ろしすぎてやるつもりはありませんが(笑)。

みなさんも、ぜひチヌに挑戦してみてください!

寄稿者

釣人割烹

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