【神奈川県警取材】2022年に「江の島」で発生した釣り人転落事故と多発する”帰還不能海難”について

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江の島裏側
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どうも平田です。

今回、神奈川県警察本部からお声がけいただき、2022年度に発生した藤沢市「江の島」での釣り中転落事故についての話を伺ってきました。

ORETSURIは釣りのルールやマナー面をふくめて「神奈川県で多くの釣り情報を発信している」ということでお問い合わせいただいたわけです。

本記事は県警担当者から直接お話をきいた内容をもとに、筆者の所感を付記しています。

特にコロナ禍以降で岸釣りをはじめた方は安全な釣り場の減少もあり、リスクが高い釣りを軽装で行いがちではないでしょうか。

釣り場の改めて岸釣りのリスクについて認識いただければと思います。

目次

2022年9月に「江の島」で発生した釣り中の転落事故2例について

江の島は岸釣りスポットとして有名なこともあり、ビギナーからベテランまで多くの方が釣りに訪れます。

東側は湘南大堤防、南側に表磯・裏磯と呼ばれる地域があり、いずれもしばしば転落事故等が起きています。

毎日釣りに関するニュースをチェックしているのですが、江の島に関する事故が近々で発生したことをしりませんでした。

わたしが知らないということは、一般の釣り人の多くにも本件が知られていないと考えて、事故内容をまとめておきます。

▼まず海上保安庁担当者による事故当事者ヒアリングを一読ください。2つの海中転落事例は2022年9月に発生したものです。

令和4年9月 海中転落事例ケース1(生還)

9月某日0530頃から江の島磯場を訪れ、釣れるポイントを探して磯場を渡り歩いていた0620頃に稚児ヶ淵にて高波を受けて海中転落しました。

転落後、磯場に打ち寄せる波に撒かれることを防ぐため、意図的に沖に泳ぎ岩場から遠のきました。

その後、潮流により沖に流されましたが、磯上の釣り人が通報している様子が見えていたので、落ち着いて動かずに救助を待っていました。

0640頃に磯場沖で漂流する事故者を監視していた釣り人が、付近航行中のアウトリガーカヌーを呼び止め、事故者漂流地点を指し示し誘導した結果、0649頃にカヌーにより確保され、その後、通報により駆けつけた消防水上バイクに引き継がれ湘南港入港しましたが、怪我等なく病院搬送は必要ありませんでした。

この釣り人は釣りを始めて3か月弱で、磯釣りは今回が初めてであり、海難に遭った時も、どういった場所が釣れるのか分からず、付近釣り人に良い釣り場を聴いて回っていたところ、ちょうど入り組んだ磯場にいた時に腰ほどの高さの波が押し寄せ、正面からの波は耐えられましたが、入り組んだ場所にいたことから、回り込んだ波を背面からも受ける状態となり、海の方向へ波に押し出されるような状態で海に落ちてしまったとのことです。

なお、この釣り人は、救命胴衣(フローティングベスト)を着用していたおかげで、死亡は免れたものと思われます。

 

ケース1で、チェックしておきたい点は以下の通りです。

  • 釣りを始めて3か月弱で、磯釣りは今回が初めて
  • 0530頃
  • 救命胴衣(フローティングベスト)を着用していた
  • 磯場に打ち寄せる波に撒かれることを防ぐため、意図的に沖に泳ぎ岩場から遠のいた

 

ケース1では釣り人は無事生還していて、怪我等なく病院搬送も不要であったとのこと。

事故にあった方がどういった釣りをしようとしていたかは不明なのですが、なぜ不慣れな磯場にいったのか。

「魚を釣りたいから」

「釣れると聞いたから(ネットでみたから)」

おそらくこういった単純な動機で、ビギナーによくみられる行動パターンです。

9月の江の島裏磯エリア稚児ヶ淵の5時30分頃は日の出後でもあり、曜日を問わず、朝方からショアジギングや遠投かご釣りなどの釣り人でにぎわっています。

多くの釣り人が相模湾を回遊してくるイナダ・ショゴ・ソーダガツオなどの青物を狙っています。

この事故ケースでは、時間帯+フローティングベスト+磯場から自分で泳ぎ離れたという点が、死亡や怪我のリスクを軽減したと判断できます。

もし、以下のような条件であれば、やはり死亡や怪我のリスクが高まってしまいます。

  • シーズン的に釣り人が少ない
  • 時間が夜間
  • フローティングベスト未着用
  • 磯に這い上がろうとする

 

やはり釣り歴が浅いうちは、きちんとした装備やスキルがある経験者と同行してもらうことでこうした事故リスクはさらに減らせるのではないでしょうか。

何より無事でよかったです。

ケース2(行方不明)

9月某日1800頃から友人と2人で釣りを目的として江の島来島しましたが、波が高かったためしばらく様子を見た後、2000頃から事故発生場所である稚児ヶ淵にて釣りを開始しました。

2040頃に高波にさらわれ、偶然その様子を見ていた付近の釣り人が119番通報と118番通報を実施し、駆けつけた警察、消防、海上保安庁により捜索しましたが、10月20日現在、発見されていません。

目撃者に海中転落時の状況を確認したところ、稚児ヶ淵には海中転落してしまった事故者1名のみがいて、事故発生直前にも事故者の足元を濡らす程度の波が何度か打ち上げている状況でしたが、事故者の腰ほどの高さの波が打ち寄せた時に、波に押され後ずさるような状態で転倒したところを引き波により海中に引き込まれたとのことでした。

転落直後、目撃者は付近にいた釣り人と手分けして通報するとともに、事故者に対し、流れの弱い波の岩陰に泳ぐよう叫んだが、上手く泳ぐことができず直立の姿勢でバタついてい
たそうです。

転落から5分くらい経った頃には目測50メートルほど沖へ流されてしまい波間に姿が見えなくなったとのことでした。

なお、救命胴衣を着用していなかったことから、海中に引き込まれてしまったものと思われます。

 

次にケース2です。

こちらは残念ながら行方不明のままで、事故者は未だ発見されていません。

チェックしておきたい点は以下の通りです。

※ケース2では被害者が行方不明のため被害者からヒアリングができないということもあり、目撃者からの話をまとめてあります

 

  • 波が高かったためしばらく様子を見た
  • 2000頃から事故発生場所である江の島南西部にある稚児ヶ淵(磯場)にて釣り開始
  • 事故者の腰ほどの高さの波が打ち寄せた時に、波に押され後ずさるような状態で転倒したところを引き波により海中に引き込まれた
  • 偶然その様子を見ていた付近の釣り人が119番通報と118番通報を実施
  • 目撃者は事故者に対し、流れの弱い波の岩陰に泳ぐよう叫んだが、上手く泳ぐことができず直立の姿勢でバタついていた
  • 転落から5分くらい経った頃には目測50メートルほど沖へ流されてしまい波間に姿が見えなくなった
  • 救命胴衣未着用

 

9月、湘南エリアの日没は18時頃。

事故者は釣りをはじめる前に、波が高いことに気づき、一旦様子をみて20時ごろに釣りをはじめたとのこと。

釣り経験などは不明ですが、夜間に磯場で釣りをはじめるというのは経験者でもリスクが高いのは誰でもわかることです。

釣りはじめたころは波が足元を濡らす程度だったとのこと。

磯場での釣り経験が少ないとわからないことかもしれませんが、波は常に一定ではありません。

波がそれほど高くない状態でも、何度かに1度、平均波高とは異なる高波がやってくることがあります。

9月の場合、南海上の台風等によっても、大きな波が打ち寄せます。

夜間に足元が濡れるような状況でライフジャケットをしないで釣りをするということは、きわめて危険性が高い行為です。

落水した事故者は上手く泳げず、数分で沖に50mほど流されてしまい波間に消えてしまったとのこと。

ちなみに、稚児ヶ淵エリアは釣りをしない観光客も夕陽などを見に、やってくるエリアです。

東側の表磯同様、一見フラットな磯ですが、波に洗われると極端に足元が滑りやすくなります。

磯場で何度か釣りをしたことがある人はご存じだと思いますが、波の力は極めて強いものです。

たとえば、ひざ下程度の波でも足払いをされたようによろけてしまいます。

腰程度の波は、どんな大人でも耐えることができません。

江の島で”帰還不能海難”が多発

次にお伝えしたいのは、江の島で多発している”帰還不能海難”です。

”帰還不能海難”とは、釣りをする前は渡れた磯場などから、潮が満ちたことにより帰れなくなってしまう海難を指します。

この帰還不能海難が江の島でもしばしば起きています。

こちらは江の島裏磯エリアの干潮時と満潮時の違いです。

通いなれている人や潮の干満をきちんと意識しているひとであれば、帰還不能はおきづらいもの。

また、釣り以外の観光でも長時間居合わせないため、発生しづらい事故です。

(潮干狩りが盛んなエリアではしばしば発生)

一方、釣り慣れていない人が干潮から磯場に入って満潮をむかえると、「戻れない」ということはよくあります。

潮汐以外にも、江の島の場合、南西風が強い場合に高潮気味になりがち。

釣りに夢中になると、まわりの変化に気づきづらいものですが、釣行時は注意したい点です。

  • そもそも潮汐アプリなどを常に意識する
  • 満潮から下げの時間帯で釣る
  • 干潮から上げ潮にかけて釣る際は、納竿時間(撤収準備を入れたエンドの時間)をあらかじめ決めておく

こうした注意により、磯場に取り残されることは減ります。

スマフォ等は防水のものを選び、カバーなどで濡れても通話できる状態にしておきましょう。

また、帰還不能時に無理矢に岸側に戻ろうとすることは波に足元をすくわれる等の危険も高まります。

万が一帰れなくなった場合は「118(海上保安庁緊急ダイアル)」へ通報しましょう。

▼現地の井上つりえさ店による、江の島(表磯)の帰還不能海難事例動画です

▼頻発する江の島の海難事故に備え、藤沢市の消防局も訓練を実施しています。

まとめ

今回は神奈川県警本部への取材により、江の島で発生している釣り人の事故について紹介しました。

江の島の磯場は比較的足場もよく、その昔から、三浦南部(城ヶ島)・真鶴・伊豆などの磯へ向かう前の練習場のような存在でした。

そのため、昔からビギナーが釣行できる気軽な場所であったのは事実です。

一方、磯は磯。

潮位や風向きによってはフラットな場所でも危険な場所になってしまいます。

日本の釣り環境は、他国に見られないほど釣り人が自由に動ける点が魅力でもあり、最大のデメリットでもあります。

資源保護、ルールやマナーなどが各人にゆだねられる状態。

そんな釣り場環境に対して、我々メディア側は、「○○がよく釣れる場所○選」「○○が釣れるルアー〇選」のようなSEO主体の情報発信主体になっているのも事実です。

また、釣具量販店にいくと、神奈川各エリアの釣り場情報も店頭の壁に掲載されているものの、釣り場ごとのリスクや必要な装備などの注意喚起はほとんどされていません。

神奈川県警の担当者にはこうした釣り業界側の改善も必要という点をお伝えし、今後も相互に情報共有し、神奈川での釣りの事故を減らしていく努力ができればというようなお話をしました。

江の島の磯場エリアをはじめ、神奈川県の現状立ち入り禁止ではない各釣り場も今後の事故多発等では状況も変わってくるかもしれません。

一人一人が事故防止を心がけることが釣り場の保全につながります。

本記事をご覧の方も、ぜひまわりの方に共有いただければ幸いです。

平田(@tsuyoshi_hirata

<取材協力>

▼同課はTwitterで神奈川の海や山のレジャーを楽しむ方へ安全情報を発信しています。

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▼磯場での釣りは膨張式のライフジャケットではなく、浮力体が入ったゲームベストが適しています。※浮力体が岩や貝殻等で切れてしまうことがあるため

▼冬から春の平磯は藻類が繁茂しとても滑ります。スニーカーでは踏ん張れません。磯靴やフェルト&ピンソールのウェーダーを着用しましょう

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