人間は、常に問いをもっている生き物。
釣り人も一緒です。
今日も世界では多くの問いが生まれ、答えが見つかっています。インターネットでは確かではない答えがいろいろと流布され、それがまことしやかに拡散されたり。
そんな、ウェブ上に転がっている「釣りのなぜ?どうして?」について、釣りメディアORETSURI編集長の平田が勝手に回答する本シリーズ。
今回の質問
釣船は、基本は港の近くで釣る?
今の時期、マダイがいろいろなところで釣れてますが、最近、茅ヶ崎~小田原あたりに比べて、明らかに松輪など三崎周辺がたくさん釣れてます。
マグロの時期だと、明らかに釣れてる海域に相模湾中の船が一か所に集まって競っているのに、マダイやヒラメなんかだと、釣れてるポイントに行かないのはなぜ?
松輪あたりから乗って釣れば済むことなのでしょうけど、自分が住んでるのが大磯なので、平塚、大磯出船が楽なので、わいてきた疑問です。
色々調べれて、釣れてる船・海域があるならその海域に近い船から乗るのほうが釣れる近道なのでしょうか。
質問者:大磯のナベさん
<平田の回答>
「船宿は水軍みたいなもんなのです」
どうも、平田です。
今回も質問ありがとうございます。
さて、さっそく回答に移ります。
「マダイが松輪あたりで釣れているようにみえるけども、なんでその他の地域の船はそこまでいって釣りをしないのか?なんだったら茅ケ崎とかから松輪にいけばいいんじゃね?」って話ですよね。
その気持ち、よくわかります。
これはですね、以下の3つの観点なんだと思います。
- 釣り船にも地先(じさき)という縄張りがある
- 港ごとの出船可能時間、釣り場での釣り可能時間(移動時間)との兼ね合い
- 燃料費という観点
一つずつ説明していきます。
- 釣り船にも地先(じさき)という縄張りがある
これなんですが、職漁師以外にも遊漁船でも「地先(じさき)」という概念があるんです。言葉の定義としては、「地先」=村落(港)に近い場所だと思ってください。
職漁師の仕事に適用される共同漁業権の概念はこの「地先」の概念に基づき、エリアが設定されています。遊漁船の場合はそのあたりが明確ではないんですが、海の上に見えないラインがあり、港の目の前は「地先」です。
つまりですね、地元の漁港に所属している釣り船がその沖目であれば有利なんです。具体的には、「地先」の海域にある有利なポイント(根上ドンピシャ)を陣取ることができます。
想像してみてください。
たとえば東京湾奥の船宿やボート(釣り船)が、三浦半島の突端ぐらいまで移動してそこで釣りをしようとする。
そうなると、やっぱり外様感がでてきますよね。
信長の野望でいえば、房総の里見水軍が三浦水軍の拠点(たとえば三崎あたり)や、小田原あたりの北条水軍の拠点まできて、わっしょいわっしょいと水練をはじめたら「ふざけんなこのやろいいますわ!」と思わざるを得ません。なんだったら、しずめたろかと。
こいつはなにをいっているんだ。信長の野望とか、なにいっているかわかんないしって人もいると思います。
なので、もっと身近な例で説明すると、自宅が一軒家だとします。庭には柿がなっている。あなたはその柿を、干し柿にしたろと思っている。干し柿が好きでたまらないんです。
そこに隣家のずる婆さんがひょいと登場し、柿をとるために無断で樹に登り、モギモギ、モギリンコってな具合にやっていたら、ちょっとなーと思っちゃいますね。
老人は大切にしなければと思いながらも「ふざけんなこのやろいいますわ!」と思うんじゃないでしょうか。なかには神速でポリスに通報する方もいるんじゃないでしょうか。実際、わたしの知っているおじさんは、「自宅になっているキンカンをとった婆さんを通報した」ことがあります。
話を戻すと、いかに隣接している行政区とはいえ、東京と神奈川でも釣りの世界ではかなり変わるのです。湘南エリアと三浦でもかなり変わるんです。
だから相模湾の小田原~茅ケ崎あたりの船宿が真鯛という釣り物で、松輪までいかないわけです。
どんなに松輪でマダイが釣れていてもいかない。
やっぱりそこは地先だったり、近隣の沖目で船を流すのがやりやすいんです。大人の世界は、無駄な軋轢を防ぐようにできているわけですね。
マグロの時期だと、明らかに釣れてる海域に相模湾中の船が一か所に集まって競っているのに、マダイやヒラメなんかだと、釣れてるポイントに行かないのはなぜ?
これはですね、キハダマグロだと地先というよりも、さらに沖目だったりして、なかには伊豆大島近海までいったりしますよね。
そうなると、地先とかの概念が薄くなってくるわけなんです。まさに「沖」なので。だから、みんな海を縦横無尽に走ってキハダマグロをおいかけるわけですね。
- 港ごとの出船可能時間、釣り場での釣り可能時間(移動時間)との兼ね合い
次にこれは「時間問題」ですね。
人間が生きる限りつきまとってくる問題です。
先ほどの地先問題が仮になくなったとします。たとえば、その地先の船宿衆と遠征船宿衆が同盟を組んで、「お互いの地先で釣りができるようにしよう、いざというときは一緒に信長に対抗しよう」みたいになったとする。
でも、どうしてもあるのが時間問題なんですね。
なんのことか。はやくいえ。
落ち着いてください。今から詳しく話しますので。
釣り船が所属している港には、出船可能時間・帰船時間というのが組合によって決まっていたりするんですよ。AM7時以降ならOKとか、夜明け以降でOKとか。これは漁業組合によってそれぞれ異なります。
仮に遠征によって他の地先で釣りができるとします。それで、出船可能時間が7時だとする。
そんでもって到着時間が8時30分だったりすると、やっぱりよいポジショニングはできないんです。地元勢や近隣勢による亀甲陣みたいなものができていて、近寄れません。それに、モーニングタイムの一番良いときが過ぎてしまったりするんです。
釣り客にとっても、釣りができる時間も短くなっちゃいますしね。その点を考えると、やっぱり、地先の海や近隣を中心に釣りしたほうが合理的なわけです。
- 燃料費という観点
釣り船の燃料は軽油なんですが、船のエンジン自体の燃費がよいかというとまったくそうではなくて、燃費としては最悪なんです。そのあたりはググってみてください。燃料費がすごいかかる。目安としては距離にもよりますが、一回の出船で1万円強です。
乗用車がいろんな規制でエコになってきているのと異なり、釣り船はどうしてもそのあたり古い船も多く、燃費はよくないんです。釣り船の大ドモあたりに座るとわかりますよね。排気の臭いからして。
だから燃料費の観点から、乗合などは最低○人から出船しますという取り決めをしている船宿が多いんです。
これがたとえば小田原から松輪まで超遠征!となると、往復ですんごい燃料費がかかるんですね。
そうなると、ノーマルコマセマダイ船の乗船費用の1万円ぐらいでは割に合わないということになってくるわけです。なんなら遠征コマセマダイだったら1万5000円ぐらいないとキツイということになったり。
すると、お金にキビシイ釣り客の立場としてはどうでしょうか。やっぱり、一回の乗船で1.5諭吉となると、キツメイシってことで気が引けますよね。わたしだったら躊躇します。
同じマダイであれば、松輪で乗ればいいんじゃないかと。そこまでの交通費や釣りができる時間を考えても、そっちが合理的です。
そろそろまとめに入ります。子供が保育園にいけないので、ご飯をつくらないといけないんです。
基本的に釣り船が港の近くで釣る理由は以下の通りです。
- 釣り船にも地先(じさき)という縄張りがある
- 港ごとの出船可能時間、釣り場での釣り可能時間(移動時間)との兼ね合い
- 燃料費という観点
要は釣り船としては、無駄な遠征をさけているわけです。
他にも、釣り船は老朽化していることも多く、エンジンなどのトラブルで航行不可になることもあるんですね。
そうなったときに、縁もゆかりもない土地よりは、港近くのほうが安心なんです。おなじ船宿や組合の仲間で曳航し助け合えますし。
と、いうことで、そういった合理的な観点から釣り船は無駄な遠征をしてないんだろうなーと覚えておいて間違えはないと思います。
以上、いつにもまして、真剣に回答することができました。
今後ともよろしくお願いいたします。
平田(@tsuyoshi_hirata)
<追記>
遊漁船事業を行うためには「遊漁船業の適正化に関する法律」に基づき「遊漁船業者の登録」を受けることが必要です。この際、遊漁船業の業務規程を定めて、所轄知事に届け出るのですが、この業務規程の中に「案内する漁場の位置等」というものがあり、各船宿がどう申請しているかなのですが、厳密にいえばこの届出項目を守っているわけです。(参考リンク:水産庁)
※質問がないとエンドレスでYahoo!知恵袋などの質問を勝手に回答していく仕様です。自粛に勤しんでいる&子育て繫忙期のため、これはという質問のみ回答します。出前はしておりません。