紀伊水道・友ヶ島で「鬼アジ」を釣る!@加太港・三邦丸

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写真⑪鬼鯵持ち帰り_w1200
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みなさん、こんにちは。サラリーマン・アングラーの釣人割烹です。

これまで東京湾と外房を主戦場にしてきましたが、サラリーマンの宿命である人事異動により、4月1日付で大阪へ単身赴任しました。

というわけで、関東の人間として関西の釣りを体験し、さまざまな気づきや学びを少しずつ記事にしていきたいと思います。

釣人割烹関西編。今後ともよろしくお願いします。

目次

関西で「鬼アジ」と呼ばれる魚

引っ越しの片付けが終わって仕事に慣れると、やはり腕がムズムズとうずいてきます。

道を歩きながら自然と右腕でシャドーフィッシング。

西日本での釣りデビューをどこの海で果たそうか。

迷っていると、紀北(和歌山県北部)の加太(かだ)で面白そうな釣りがありました。

加太の「鬼アジ釣り」です。

鬼アジといっても、実際にいる分類学上の「オニアジ」ではありません。

マアジのでっかいやつを地元でそう呼ぶらしい。これを、船に乗ってコマセなしの胴突き仕掛けで狙うという。おもしろそうだ。

というわけで、さっそく4月中旬の週末、大阪から車を飛ばして和歌山を目指しました。

釣り人が「鬼アジ」と呼ぶ魚の正体は外洋を回遊するマアジ

加太港は淡路島と約11kmの距離で向かい合い、沖合一帯は大阪湾と太平洋の境目で、紀淡(きたん)海峡と呼ばれています。

紀淡海峡の北は大阪湾。南は紀伊水道。

加太と淡路島の間には四つの小さな無人島が浮かんでいて、これらを「友ヶ島」と総称します。

島の周囲は潮の流れが速く複雑で、美味な魚が育つとされ、とりわけマダイが有名のようです。

ここに「鬼アジ」が回遊するというわけです。

ちなみに、マアジには外洋を回遊するものと、ひとつの場所に居着くものがいます。筆者が東京湾で釣っていた浦賀(大津、走水など)の金アジは後者。

一方、加太一帯で釣れるのは回遊組のようです。

で、これがデカい。

40cmを超え、50cmに達するものもいるらしい。針にかかったらどんな引き込みをするのか。食べたらうまいのか。これは友ヶ島へ鬼(アジ)退治に行くしかない。

事前に仕掛けを作ります。

オモリ30号の胴突き3本針。船宿仕掛けを参考に枝スの長さ40cm、枝針間のハリス90cm、捨て糸60cmで全長3m近くになります。

針は、がまかつの「玄人アジ」13号。これを四つほど作りました。枝針をよれにくくするため、幹糸と直結せず、回転ビーズを使うことに。真ん中の針には飾りをつけまた。


「玄人アジ」は平打ち針。断面が四角いので口切れしにくいという

当然ながらマアジの口はヤワです。

上あごにがっちり針がかりしない限り、バレやすい。「鬼アジ」ともなればパワーも重量もあるはずで、針がかり後に無理をすれば、すぐに口がちぎれてバラしそうです。

これを踏まえて竿をどうするか。

仕掛けが長いのである程度の長さがあって、強い引きを弾かないものがよいはず。ということで、やわらかくて粘りのある一つテンヤ真鯛の竿を選びます。

鬼退治の日が近づくにつれ、上がるテンション!

加太港の三邦丸へ。船宿では驚きの連続

当日は未明に家を出発。

阪和自動車道を泉南ICで下りて和歌山へ入り、加太へ近づくと、まちの灯を写す真っ暗な海。

あぁ、おれは浦賀水道から紀伊水道へ流れてきたんだなぁ。

目指すは加太港の三邦丸(さんぽうまる)。

この船宿で鬼アジを狙う船は「早朝便」と呼ばれ、午前5時半に出港します(戻りは11時半)。4時50分までに受付を済ませよ、ということで、4時すぎには宿に着きました。

初めての利用ですが、驚きの連続でした。

これが船宿か、という雰囲気。関東では見たことない

な、なんだ、ここは?

未明の闇に浮かぶ美しい英字の看板。

船宿というより上品なカフェ風な建物。入り口外のテラスで乗船名簿を書いて受付へ。

まるでリゾートホテルのクロークのような雰囲気です。料金を払うと、スタッフが袋の中から一枚札をとり、渡してくれました。

「21番」

釣り座は早い者勝ちではなく完全な抽選で決めるようです。

東京圏の船宿の席決めは大部分が「早い者勝ち」。

これは一見フェアに見えて、実はかなり不透明。

出港当日の午前0時から席札を取れると聞いて0時少し前に行ったら、ミヨシとトモの四隅がしっかり押さえられていた、なんてことがよくあります。

船宿が常連客のためにとっているのでしょう。努力が水の泡です。

三邦丸は厳密に抽選を実施するので、前日に来ようと、2時間前だろうと、受付の締め切り間際だろうと何の差もありません。実際、釣り客は受付20分前くらいに続々と集まってきました。席取りのため無理に早起きする必要はない。じつに顧客本位です。

さらに驚いたのが、船の大きさでした。

出典:三邦丸

なんと鬼アジを狙う早朝便は52人乗り!

片側26人ずつ。こんなにドでかい遊漁船は初めてです。

「大きいので揺れない」というのが船宿の売り。

そして、席を示すホワイトボードには、船長のほかに2人の名前が……。肩書きは「中乗り」ではなく「アドバイザー」!

だいたい、東京で中乗りさんの名前なんて教えられたことも、尋ねたこともない。初めて乗る船でも「なんとなくこの人かな」と推測するくらいでしょう。

関西はさすが「あきんど」の国。

ルールがシンプルかつ透明、合理的で、サービスが行き届いている。

これらは商売のイロハですね。もちろん、関西の船宿のすべてがこんな感じではないのでしょうが。

厳正なくじ引きでミヨシに座る

わかりやすい釣り座表

さて、受付で最初にもらった札は「21番」。

筆者はこれが自分の釣り座かと思っていたんですが、違いました。

番号順に呼ばれ、自分の好きな席を指定する。札はその呼び出し順だったのです。客たちは宿の外に待機し、番号と名前が呼ばれ改めて中へ入り、ホワイトボードを見て席を選んでいく仕組みです。

呼ばれてボードを見ると、右舷ミヨシから3番目が空席。

「3番!」

これで「3」と書いたチケットをもらい、釣り座が確定。

潮の干満と風予想を参考に、ミヨシが「潮上」と予想。コマセを使わないので潮先が有利ではないかと考えました。

船には屋根がついている。関西の釣り船の特徴

いざ、荷物を持って船へ。

桟橋から巨大な船に乗ります。5時半に出船。両ミヨシに陣取る若者2人は釣り仲間のよう。右隣は真っ黒に日焼けしたベテラン氏。常連客のようで、釣り仲間たちと盛り上がっています。

ポイントへ向かう途中で紀伊半島から日が昇った

「きのうも乗ったんやろ? どやった?」

「ああ、あかんかったわ。豆サイズばかりや。途中からガシラ(カサゴの地方名)狙いに変わってな」

「そやったんか」

「きょうも宿に『型小さいから乗らへん方がええで』と言われたんやけどな!」

「いや、きょうは急に大きくなるかもしれへんし」

関西弁のマシンガントーク全開。

筆者はソロ釣行でアウェー感ハンパない。

学生時代は京都で過ごしましたが、関西弁はすっかり洗い流されているわけです。

船が出たところで右隣に「よろしくお願いします」とあいさつしました。続く会話は以下の通り。

私:「東京から来ました。アジは向こうでやってましたが、関西では初めてです」

お隣さん:「わざわざ来たんか?」

私:「いや、単身赴任でこっちに来ました」

お隣さん:「東京ではコマセ使うんやね」

私:「はい。こっちでは使わないんですね」

お隣さん:「大阪湾やこの一帯はコマセ禁止やからね。魚がくそーなる(臭くなる)しな」

むむ。聞き捨てならん。

東京湾のアジのうまさを知らないのでしょう。ベテラン氏に悪気はないようですが、コマセを使うビシアジ釣りに誤解があるようです。

まぁいい。「初めてなんで、いろいろ教えてください」と笑顔でいいました。

相手は「なんや、この東京もん……」といぶかっているようです。

1投目でいきなりアジがきた。しかも引きが強い

淡路島は加太港から目と鼻の先。

その間に飛び石のように友ヶ島が浮かんでいます。15分も走るとポイントに到着。

船はしばらく一帯をぐるぐると回って群れを探します。

ようやくエンジン音が変わって「プワンッ」とホーンが鳴り、仕掛けを投入します。

バラしを減らすためにやわらかい真鯛竿を選んだ

まずは枝針3本すべてに青イソメを1本ちょん掛け。オモリは30号厳守。

潮が速いと聞いており30号で不安でしたが、さほどの速さではありません。浦賀水道のようにラインが横に激しく倒れるようなことはありませんでした。

1投目。

40mほどの底を取って糸ふけを取ると、いきなり竿が曲ががる。

東京湾のビシアジの感覚とはまるで別物。仕掛けの差もあり、竿先をたたくような引き。

ガツン!ググーン!ガッ、ガッ!

まるでブリ属のような感じです。

強く引き込む時はリールを止め、竿でためる。無理に巻けば口切れは必至です。

グン! グン! グン!

強い。これがアジなのか?

竿の長さは2.4m。これに対して仕掛けは3m近くある。リーダーとハリスをつなぐサルカンまでぎりぎりいっぱいに巻き上げ、仕掛けの途中を右手でつかんで一気に抜き上げ。

針は弱い下あごの薄皮一枚にかかり、抜き上げたあと針が外れて床を跳ね回る。おっと危ない、危ない。

最初の1匹は25cmほどのアジ

きれいな中アジ。

それでもこの引き。東京湾のアジはもぞもぞと控えめなアタリで、針がかりしたあともそれほど激しくは引きません。

この差は仕掛けの違いからくるのかもしれません。

オモリが30号と軽く、かつ胴突き仕掛けなので、魚のパワーがダイレクトに伝わり、竿を曲げるわけです。

東京湾のビシアジは天秤がクッションの役割を果たし、ビシも40~60号と重いため、魚のパワーがじかに伝わってきません。

こりゃ楽しいわい! おそらく船中最初のアジでしょう。隣のベテラン氏が話しかけてきました。

「えらい早いな。食いダナはどれくらいやった?」

オモリが底につき、糸ふけをとっている最中に食ったこと、いちばん下の針にかかったことを教えると、急速に打ち解けました。

船にアジの群れが寄りつかない

「幸先よし。釣るぞ!」と高揚していたら、開始から15分ほどで「上げて~」という船長のアナウンス。

船中でポツポツ上がっているのに、あれれ? 船は一帯をぐるぐる回り、また開始の合図。

当たり前ですが、東京湾とちがってコマセを撒かないので群れが船に寄りません。

群れが消えるたびに船を動かし、見つけては群れ目がけて仕掛けを送り込む。

その後もひたすら小刻みな移動の繰り返しで、東京湾のビシアジ、LTアジと違ってバタバタ釣れ続けることはない。どうやらそんな釣りのようです。


友ヶ島の奇観を眺めながらの釣り。この日は凪

食いダナは東京湾と同じで底から1~3m。

仕掛けが長いので、オモリを底から少し浮かし気味にしてアタリを待ちます。最初に釣ったのは「鬼アジ」サイズではありません。

「50cmもくるで」とベテラン氏。

ドラグの強さを聞くと「ユルユルでやる人もおるし、きつく締めて竿でいなす人もおる。いろいろやね。自分はゆるめにしてる」とのこと。

その意見を参考に、ドラグをかなりゆるめておきます。

船の移動で何度か上げ入れを繰り返していると、強烈なアタリが出ました。

竿がグン、ググーンと強くたたかれ、やわらかいマダイ竿の穂先が水面に突っ込んでいく。ラインが出てオシアコンクエストのドラグ音がジリッ、ジリッと鳴ります。

ゆっくり慎重に巻き上げ、水面にユラッと上がってくる。

デカい! タモは使わず一気に抜き上げます。

胴突きなので抜き上げは楽ちん。34cmとサイズアップです。尺超えはでかく見えますが、それでも「鬼アジ」としては下っぱで、40cm超えの期待が膨らみます。

釣り物としての「鬼アジ」

潮はミヨシからトモへ流れています。潮上で有利。

潮はそんなに速くありませんが、胴の間ではオマツリが頻発し、2人のアドバイザーが大活躍。快活にキビキビとほどいていきます。船が大きいため、ほとんど揺れません。

最初はロケットスタートでしたが、バタバタッと3匹ほど釣ったあと、なぜかアタリが出せなくなりました。

一方、右隣のベテラン氏の竿は頻繁に曲がる。青イソメの垂らしを長くしたり短くしたり、オキアミに変えてみたり、青イソメとオキアミを混ぜたり……。誘い方もいろいろ変えます。

オマツリがいやなのでかなり遠くへ投げ、カーブフォールで仕掛けを入れると着底直後に食う。そのパターンで何匹か取りました。


青イソメとオキアミの間を行ったり来たり

それにしても……。

コマセを使わないアジ釣りは関西圏では当たり前なのでしょうが、東京湾をホームとする筆者にはまだ慣れず、違和感が残っていました。

同じアジでも、地域によって釣り方はいろいろなんだなあ、とつくづく思います。

午前11時半ちょうどに沖上がり。

結局、筆者は8匹釣りました。

巨アジは来ず、尺超えは2匹。ベテラン氏は12匹釣り、竿頭は16匹。釣果を伸ばすために、さらに試行錯誤が必要です。

お隣さん「昨日はほんまに豆サイズばかりであかんかった。今日はあんた尺超え釣れてよかったやん」

私「ありがとうございます」

お隣さん「夏にはもっと大きいのが30匹、40匹と釣れる。外道にマダイやヒラメも来るしな」

私「そりゃすごい! この釣り、面白いです」

ベテラン氏と再会を約束して船を下りました。

外洋型の「鬼アジ」はうまいのか?

初めて体験したコマセなし、胴突き仕掛けの鬼アジ釣り。

針がかりしたあとの駆け引きは、迫力があって面白い。大型になればなるほどパワーがある半面、口が弱いためバレやすく、とるのは難しくなる。スリリングな釣りだと思いました。


持ち帰った鬼アジ

そして気になるのは、この鬼アジが旨いかどうかということ。

肝心の味がイマイチなら、がっかりしてしまうわけで。

釣るのは楽しくても、割烹としては意欲がそがれます。

「釣人割烹」というペンネームは「魚を釣って、さばいて食べる」というトータルのプロセスを楽しみたい、という筆者の願望を表しています。

しかし、ときどき「釣人」と「割烹」が微妙に噛み合わないことがあるんです。

東京湾や外房でマダイを狙っているとき、エソやウマヅラハギがかかると、釣人としては、がっかりする。

ところが、「割烹」としては小躍りするほどうれしい。

エソもウマヅラも旨いわけです。

逆に、外房で夏にヒラメを狙い、本命が釣れたら釣人としてはうれしい。ところが、持ち帰ってさばいて食べたら「ありゃりゃ」となる。夏痩せしたヒラメは真冬の寒ビラメに遠く及ばないのだなあ、と。

さて。加太の鬼アジはどうか。本命がおいしければ申し分ない。

正直に言うと、あまり期待していませんでした。

脂が乗った東京湾の居着きの金アジ、特に横須賀の走水や大津界隈で釣れる最高級クラスをたくさん食べてきた過去があります。

それに比べ、外洋を回遊するアジは、味が劣るという先入観がありました。

外洋は栄養が乏しく、回遊する魚はよく言えば、筋肉質のアスリート。

これに対し、栄養豊富な東京湾の居着きのアジは脂肪たっぷりのメタボです。舌は「脂ノリ」を旨さとして認識しています。

家に持ち帰って最も大きな鬼アジを最初にさばくと、脂が少ない。

食べなくてもわかります。東京湾の金アジをさばくと手も包丁も脂でキトキトになりますが、鬼アジは脂があまりつきません。


鬼アジの三枚下ろし。血抜き処理済み

とりあえず、刺身にしました。

……おっと。けっこうイケる。

死後硬直もあってコリコリした歯ごたえ。

旨みは不足しているが、パサパサ感はなく、箸が進む。身にある程度の脂を蓄えており、寝かせると化けそうです。


釣りたての刺身。けっこうイケるぞ

かくして何匹か下ろし、さくの状態で熟成させます。

2日、3日と寝かせるうちに、しっかり旨みが出てきました。

こりゃ極上。

「まずいのでは?」と疑った筆者は愚かでした。最後の1匹を4日寝かせて塩焼きに。大げさではなく、自分史上最高クラスでした。


熟成3日でハムのような状態に。色といい、艶といい最高!

結論。加太の鬼アジはオニ旨い。

隣に乗ったベテラン氏によると、夏にはもっともっと脂がのってくるとのこと。

いったいこのアジ、どこまで旨くなるのか。今から楽しみで仕方がありません。


フィッシュバーガー、カルパッチョ、塩焼きにもした

それでは、また!

釣人割烹@tsuribitokappou

お世話になった船宿

三邦丸(和歌山市加太)

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