ORETSURIをご覧の皆様こんにちは。漫画家の岩国ひろひとと申します。
このたびは拙著『銛ガール』第1巻の発売を記念して、コラムを書かせていただくことになりました。
そこで『銛ガール』の題材である「魚突き」という趣味を紹介したいと思います。
釣りとは一味違った、魚との勝負の世界をぜひ知っていただければ幸いです。
魚突きとは?
「魚突き」と聞いて、おそらく真っ先にイメージされるのは、テレビで某芸人が「獲ったどー!」と、やっているアレだと思います。
海の中に直接潜り、ゴムによって手銛を飛ばして魚に突き刺す……。やることはとてもシンプルですが、なかなかどうして、一筋縄ではいかないものです。
そもそも海は人間の世界ではありません。どんどん体温が奪われ、潮には流されますし、何より水中では息ができません。海に牙を剥かれたら、人間はすぐに死んでしまいます。
そんな海の猛威を、装備と知識と自制心で回避しつつ、海の住人である魚たちを仕留めたときは、えもいわれぬ高揚感を味わうことができます。
それはもう、一度味わってしまうと忘れられないほどの…。
魚突きの特徴。釣りとの違い
釣りとの最も大きな違いは、海中を直接見ることができる点でしょう。
海中の地形を見れば、魚が潜んでいそうかどうかが判別できます。
魚の通り道「魚道」を見つけたならば、どれほどポテンシャルのあるポイントであるかも、おおよそ予測できます。ですから、たまに釣りをしているときは「ここはどんな地形なんだろう?潜って見てみたていな」などと思ってしまいます。
魚がいそうにない「砂漠地形」は釣りだと判断しにくい
また、見えるからこそ海の透明度はとても重要です。
同じポイントでも、天候の影響で透明度は大きく変わります。台風が過ぎたあとなんかは、1週間は濁りが晴れません。
視界が悪いと突果(釣果ではありません!)は落ちそうに感じられますが……、意外とそうでもありません。というのも、濁っているときは”魚の視界も悪くなるから”なんです。
魚も人間も、お互い気づいていないものだから「鉢合わせ」なんてこともあります。海の中と言えど、魚も人間と同じものを見ていて、驚いたり慌てたりするんだな、と親近感を抱いていてしまいます。
「銛ガール 第5突き:バディ」より、夏子とチヌが「あっ」と鉢合わせする場面
また当然ながら、装備は釣りとは全く違います。先述のとおり、海の中は危険がいっぱいです。そんな中で長時間活動するのですから、相応の装備が必要です。
「銛ガール 第3突き:クロダイ」より装備の説明シーン
基本的にはスキューバダイビングに近い装備ですが、空気のタンクを背負うことはありません。ですから、息が続くかどうかは、突き師にとって重要な要素です。
釣り人が知らない、水中でのクロダイの様子とは
突きと釣りの大まかな違いはご理解いただけたかと思います。
それでは魚とのやり取りについてはどうでしょう。
ひとつ釣り人にとっても人気の高い魚である「クロダイ(チヌ)」を例にとって、水中での様子を紹介します。
一般的にクロダイは臆病だといわれていますが、水中ではどのようにふるまっているのでしょうか。
実際に水中でやり取りしてみると、クロダイはまさしく臆病な魚です。
クロダイのビビりっぷり、逃げっぷりときたら、水中でやり取りしてみるとウンザリさせられるほどです。
魚突きにおける難しさは、石鯛以上ではないでしょうか。(石鯛は逆に呑気なところがあります)
そのくせ食い意地がはっているのか好奇心は旺盛で、何かあると寄ってきます。海中の石をひっくり返て砂埃を立てていると、いつの間にか背後をウロウロしているときもありました。
「銛ガール 第5突き:バディ」より、クロダイが砂煙の中をキョロキョロしている場面
黒鯛を突く際は、射程距離が長く、スピードの速い銛でない限り、泳いでいる個体に命中させることは難しいです(少なくとも筆者は)。
むしろいったん岩に隠れさせて、もう一度顔を出すところを待ち伏せして獲ることが多いです。
どの魚ものんびりと泳いでいるときは、背びれを畳み、胸ビレや腹ビレを優雅にゆらめかせています。しかし突いた瞬間、口を「アッ!」と開け、背ビレも全開させます。
クロダイの背びれの棘には注意!
黒鯛もその例にもれず、あの立派な背ビレを立たせてくるので、捕獲するときは注意しないと色々なところに刺さって痛いです。
突いた魚を食べるときの感覚
突いた魚を食べるときは、また特別な気持ちになります。
なにしろ水中で生活している姿を見て、性格を把握して動きを読み、死ぬところまで観察しているのですから、もう他人とは思えません。
黒鯛の身をかみしめると、「あのスピードを生み出す筋肉がこれか……。さすがに締まっているな」と感慨にふけり、特別な味に感じられます。
それは「食べ物」であると同時に「相手」だからです。
「銛ガール 第5突き:バディ」の食事シーン
魚突きならではの魅力を伝えたい
魚突きは釣りに比べると、効率の悪い魚の獲り方かもしれません。
それでも、魚一匹一匹に対する思い入れ、自然に対する畏敬の念が特別強くなるのは、魚突きならではの魅力だと思います。
こんな魚突きの魅力を描いた拙著『銛ガール』第1巻を、ぜひご覧ください。
寄稿者
岩国ひろひと(@fPma6rdSo0Gz1Jx)