やっとたどり着いた釣り場になにやら設置されている、あの看板。
そう、それが「投げ釣り禁止」です。
「参ったなー。せっかくの週末に家族連れで釣りに来たのに・・・」
「なんで投げ釣り禁止なんだろう」
そう思ったことはありませんか?
今回は日本全国でよく見る「投げ釣り禁止」について考察します。
みなさんが「投げ釣り禁止」問題について考えることで、明日の釣り場がよりよくなるきっかけになれば幸いです。
はじめに、結論を言うと「投げ釣り禁止」が示す意味は、釣り人がどう思うかではなく、場所(管理者)によって変わります。
堤防や岸壁等は所在地を管轄する港湾局、公園・緑地・漁港施設等は自治体から一定期間委託された管理者が、どのような意図やルールで管理しているかによります。
日本の釣り文化は個人の良心に委ねられている
前提として、日本の釣りはアメリカ・オーストラリアのようにライセンス制ではありません。
ルールが不明確(いわゆるグレーゾーン)なものが多く、釣り公園など以外は、個人の良心に大きく委ねられています。
- 釣り場の選択
- 釣法(釣り方)
- 仕掛け
- 魚の持ち帰り制限(魚種・サイズ・量)
- 自然環境の保護(投棄など)
港湾施設などで管理者が立ち入り禁止としたものは、破ることが軽犯罪法(第一条,三十二 入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者)に抵触します。
また釣り針などで他人を傷つけたり、財産物を傷つけたり汚したりすることは、それぞれ傷害や器物損壊になる可能性があります。
日本では、釣り自体に関して明文化された制度はありません。
ライセンス制でないことから、多くの人が思い立ったら釣り道具をもって「釣り場」で釣りを楽しむことができます。
また「釣り場」では、概ね好きなような釣り方をして、好きなように魚を持ちかえることができるわけです(漁業調整規則はある)。
その気軽さは、同じく制度がなかった自転車のユーザーと同じで、多くの釣り人を生む機会にもつながっていました。
ガチっとしたルールがないことにはメリットもあるのですが、デメリットもたくさんあります。
その一つが、他人に大きく迷惑をかけ、環境に大きく負荷をかける人の存在です。
自分勝手に行動する人が跋扈することで、同じ釣り人や地域住民が迷惑をこうむり、事故が生じる可能性が高まり、釣り場が荒廃していきます。
日本全国の釣り場が少なくなっている原因には、改正SOLAS条約もあります。
さらに、誰しもが気づいているように、こうした一部の迷惑な釣り人による行動も含まれるわけです。
なぜ「投げ釣り禁止」なのか
「ルアーなどの投げ釣りが禁止」されている横浜市の公園
冒頭の話にもどりますが、なぜ「投げ釣り」は禁止になったのでしょうか。
実は「釣り場」と釣り人がよぶ場所の大部分は、釣りが黙認されている場所であり、自治体が釣りを推奨している場所ではありません。
海釣りであれば、自治体が「釣り公園」「釣り施設」と呼ぶものだけが釣りが公認されている場所なのです。
管理者が自治体の場合も、自治体から民間企業が管理を任されている場合も、それぞれの場所をトラブルなしに管理することが求められます。
そういった背景を考えると、危険が大きくなる「投げ釣り」は禁止しておくことの方にメリットがあります。
諸事情で「釣り禁止」には、できないものの、リスクは最低限に抑えるというわけです。
ここで「投げ釣り」から生じるトラブルを想定してみましょう。
対人面
釣り人が「釣り場」と呼ぶ場所には公園や緑地のように、広く観光目的で整備されているものがあります。
観光地では釣り人は勿論のこと、釣りをしない人(子供含む)やペットが多く通ります。
こうした場所で投げ釣りをすると、針が服や体にひっかかったり、ルアーやオモリがぶつかることによる怪我が生じるかもしれません。
重いオモリやルアーが目や頭部などに直撃すると失明や死亡事故につながる可能性もあります。
万が一の事故を防ぐため、さらに事故発生時に管理者が責任追及を免れるために、リスクが高い投げ釣りは禁止しておいた方がよいわけです。
良識ある釣り人からすると、「毎投周囲を確認して人がいないことを確認してからキャストすればよいのに」と考えるかと思います。
一方、世の中はそういった細かい配慮がある人ばかりではありません。
周りを全く見ずに投げ竿をぶんぶん振り回し、逆に近くを通る人を「邪魔だ!どけ!」と威圧して憚らない人もいるのです。
対物面
対人以外では、船舶や漁業者(設置物)のトラブルがあります。
釣り場が漁港施設・水路などの場合、投げ釣りによって、船道を通る漁業者の船舶が被害にあうかもしれません。
また岸壁のすぐ沖合に網、生け簀、海苔網などがある場合、漁業に支障が出る可能性があります。
多くの釣り人が、「漁港施設では漁業者優先」と理解しているとは思うのですが、中にはそうでない人もいます。
例えば、漁港出入口で船舶の出入りがあるのに、竿を上げなかったり。
実際に、出入りする船のスクリューにラインを巻かれ、竿をロストしたことを逆恨みして賠償を求める人などが実際にいます。
※拡散希望※
先程入港したのですが、入港の際に漁港で釣りをしていた方の仕掛けが船に引っかかって竿ごと引っ張ってしまったらしく、船まで追いかけてきてブチギレされました。
港で釣りをするなら船が来たら仕掛けを回収して竿を上げるのが釣り人のルールだと思います。
キレられても困ります!— えっこ@漁師募集中 (@Ryueimaru1) August 21, 2022
海で魚釣りをしていました。漁港です。
竿を4本出していました。
すると、遠くから猛スピードで小型のボートがやってきました。
竿を全部上げようとしましたが、間に合わずに竿を一本海にもっていかれてしまいました。
糸が途中で切れたのでなんとか竿は取り戻す事ができました。
魚釣りをしているのに、その前を猛スピードで通るのは非常識ではないですか?
皆さんには、このような経験はございますか?
出典:Yahoo!知恵袋
こうしたトラブルを避けるためには、投げ釣り禁止とすることにメリットがあるわけです。
漁港施設の場合、釣り禁止・立ち入り禁止を明示する前に、堤防先端部・漁港出入口付近を「投げ釣り禁止」とする例が見られます。
投げ釣り禁止の範囲とは
「振りかぶっての」投げ釣り禁止
次に「投げ釣り禁止はどこまで禁止なのか?」を考えてみましょう。
ちょい投げと投げ釣りの違いは?
「振りかぶっての投げ釣り禁止」
よく話題に上るのが、「投げ釣りとはどれぐらいの距離を言うのか?」問題です。
釣り人がよくイメージする投げ釣りとは、サーフや鯉のぶっこみ釣りで、長竿をつかって仕掛けの遠投を目指す釣りかと思います。
重いオモリを使い、力強く投げるものです。
サーフからのキス釣りでは100m以上投げることもしばしば。
また、投げと名の付く釣りのジャンルとして「ちょい投げ」があります。
これらは短めのルアーロッドなどを使い、軽量オモリをつかって軽く投げる釣りです。
筆者の考えでは、20~30m程度がちょい投げ釣りの範囲と考えていますが、これも人によって考えが変わります。
- 下手投げ(アンダーキャスト/アンダースロー)なら、ちょい投げ
- 力まず投げていたら、ちょい投げ
- 本格的な投げ竿ではなくコンパクトロッドで、オーバヘッドキャストでも、軽くなげるのはちょい投げ
ちなみに「投げ釣り禁止」とある釣り場の管理者に、実際に問い合わせてみると、だいたい以下のような回答にわかれます。
- リールをつかっての釣りはどんな釣りでも禁止です
- 竿をふりかぶって投げることは危険なので遠慮いただいています
- 下手投げや竿を振り出す程度は周りに気を付けていただければ問題ないです
このように、釣り場によって「投げ釣り禁止」の考え方は異なります。
気になる場合は問い合わせてみるとよいでしょう。
ルアー釣りはOKなの?
では、ルアー釣りは投げ釣りに入るのでしょうか。
足元にワームを落とし込むなど、餌釣りと比較しても危険性の変わらない釣り方もできるわけです。
これも以前、某所管理者に問い合わせたことがあります。
回答は以下のようなものでした。
- リールをつかっての釣りは禁止しています
- ルアーは種類によらず危険性が高いと判断して禁止しているのでご理解ください
たしかにルアーはいろいろですし、個別に「メタルジグはNGだけどワームはOK」などと許可を出すこと自体が現実的ではないですね。
また一旦許可を出すと、釣り人で拡大解釈をしていき、危険性が高まってしまう釣り方が広まるというのは容易に想像できます。
ちなみに釣り場によっては、「投げ釣り禁止」という表記のほか「投げ釣り・ルアー釣り禁止」というようにルアー釣りを明記しているところがあります。
前者の場合もルアー釣り自体が禁止のことがあるため、気になる場合は管理者に問い合わせてみるとよいでしょう。
投げ釣り禁止場所での釣り自体はOKなん?
釣り禁止・立ち入り禁止のところは、釣り自体が禁止
「投げ釣り禁止」と明示された場所では、ほとんどの場合、釣りができます。
ただし後述の通り、現地で管理者に委託されている警備スタッフ等に注意を受けた場合は控えた方がよいでしょう。
投げ釣り禁止場所での注意点
次に投げ釣り禁止場所で、注意したいポイントを挙げておきます。
注意点その1 管理者の指示には従おう
釣り場によっては、管理者から警備を受託している企業があり、警備員が巡回していることあります。
その場合、釣り方によっては、中止の依頼を受けることがあります。
この時は、「投げてはいない」「投げるとはなんなのか」「そもそも海はみんなのもの」などと言い争いなどせず、指示に従うのが無難です。
内容によっては迷惑行為として通報され、検挙されないまでも警察官から事情聴取を受けることがあります。
注意点その2 事故が起きたりマナー悪化の場合、釣り禁止も
投げ釣り禁止の場所でフルキャストして釣りをするなどして、対人・対物の事故が発生したとします。
この場合、最悪釣り自体の禁止につながることもあります。
投げ釣りとは関係なくても、周辺住民や漁業者とのトラブルも釣り禁止につながりやすいと覚えておきましょう。
注意点その3 SNSでの炎上トラブル
投げ釣り禁止の場所でフルキャストしている動画等をネットにアップすると、SNSで炎上しトラブルにつながることがあります。
ルールがそうなっている以上、ルール違反はルール違反。
一旦炎上すると、様々な人が興味本位で集まり、その正義感の下、たたかれ続けることになります。
投げ釣り禁止の効果や課題について
夜になると多くの人がフルキャストしている投げ釣り禁止の釣り場もある
実際のところ、自治体や指定管理者が設定する「投げ釣り禁止」ルールには効果があるのでしょうか。
これは管理者がデータを公開しているわけではないので、誰もわかりません。
想像するに、たしかに投げ釣りができる場所よりは事故の発生件数は少ないはずです。
ただ、「投げ釣り禁止」ルールがある釣り場にいくと強く感じる課題があります。
それは、「投げ釣り禁止」が有名無実となってしまい、現地では「みんな投げ釣りをやっている」という状態です。
地形的な問題、狙える釣り物などから、すこしでも投げて釣りをしないとほとんどの釣りが成立しない場所があります。
そうなると、名目上「投げ釣り禁止」と取り決められていても、やがて誰もルールを守らなくなってしまうことが当たり前になってしまうわけです。
これは管理者が期待している状態ではないと思います。
場所にもよりますが、「投げ釣り禁止」措置には、ルールをつくることで、ルールを守らない罪をつくってしまう構図がある。
筆者はそう感じます。
自治体や指定管理者は各釣り場の現状をしっかり調査をしつつ、安全により多くの利用者が楽しめる運用ルールの更新をしていく必要があるのではないでしょうか。
まとめ
自治体はすべての市民に益があるような配慮をする必要がある
今回は釣り場によくある「投げ釣り禁止」問題について考察しました。
冒頭に結論を言いましたが、「投げ釣り禁止」が示す意味は、釣り人一人ひとりがどう思うかではなく、場所(管理者)によって変わります。
港湾局や指定管理者が、どのような意図やルールで管理しているのか。
自分のホームが「投げ釣り禁止」で気になる人は一度管理者に問い合わせてみましょう。
場合によっては、「下手投げ(アンダーキャスト・アンダースロー)は問題ない」などの回答が得られるかもしれません。
みなさんが「投げ釣り禁止」問題について考え行動することで、明日の釣り場がよりよくなれば幸いです。