人間は常に問いをもっている生き物。
釣り人も一緒です。
今日も世界では多くの問いが生まれ、答えが見つかっています。
そんな中、インターネットでは確かではない答えがいろいろと流布され、それがまことしやかに拡散されたり。
そんな、ウェブ上に転がっている『釣りのなぜ?どうして?』について、釣りメディアORETSURI編集長の平田が勝手に回答する本シリーズ。
今回の質問
釣り船で2日続けて乗る方などの、いわゆる常連という人を見かけますが、結構な額がする船釣りをなぜそんなに頻繁に乗れるのか疑問です。 お金持ちならわかるのですが、みんなお金持ちなのでしょうか? それとも常連になると割引とかあるのでしょうか?
質問者:ハニービーさん
<平田の回答>
「筋金入りの釣りバカか、船宿の身内化しているかのどちらか」
今回のお悩みは、おそらく貴重な余暇とお金を捻出して週末に船釣りを楽しんでいる方なんだと思います。お気持ちよくわかります。
ようやくの休みで潮風に応じた「ミヨシ」や「オオドモ」目掛けて朝駆けをすると、毎回のように釣り船の四隅に強力な陣地を構築するいわゆる『常連』の老兵氏を目撃するわけです。他にも、服だけでなく皮膚にアミコマセや潮のニオイが染みこんでしまっているような武闘派の中年釣り兵をよくみたり。
ここで自分の釣り座の準備をしていると、老兵氏は中年釣り兵とこんなことを話していたりします。
中年釣り兵氏「いやー、ヤッさん、どうっスか?」
老兵氏(ヤッさん)「だめだめ。昨日はね、ぜーんぜん。凪だったから釣りやすいとおもったんだけどさ、潮動かずってやつで。向こう岸(東京湾の千葉側)いったんだけどね、だめだね。また来ちゃったよ。」
中年釣り兵氏「ですかー。今日は釣りたいなー。今日はミヨシ側っすかね。そういやアレですか?一昨日も来たんですか?好きですねー。オーナーいってましたよ」
老兵氏(ヤッさん)「うん。そうね。一昨日はいくらかよかったかな。3本とヒラメが出たね。コージくんもあれだろ、今月は何回来たんだい?」
中年釣り兵氏(コージくん)「ふははは。僕は土曜日しかこないんですが、今月はコンプリートっすよ」
老兵氏(ヤッさん)「ふははは。お互い釣りバカ同士だなぁ。」
あなた「・・・(ちょ、こいつらどんだけだよ)」
という具合。
月1~2回程度の釣行を楽しみにしている堅実なあなたはきっとこう感じているはずです。
「てか、1日船で約1万かかって、交通費と食事とかの経費を考えるとだいたい一回13,000円ぐらいだろ。しかも○○が釣り物だったらエサがフグやイカにやられることもあるから、追加購入で平気で+1,000円ぐらいかかるしな。すると、1回の予算が15,000円だとする。すると一週間に3回この老兵氏が船宿にくるとして、45,000円。掛けることとの4週=180,000円ってかおい。すげーな。なんだろあのじいさん戦後の米相場と土地転売で財をなした富豪なんだろうか・・・」
ちょっと大袈裟二郎な話ですが、似たような話は全国津津浦浦の船宿で日々目にする光景です。
わたしもそういった御大各位を拝見することがあるのですが、富裕層特有のオーラみたいなものは特にありません。話すことも普通。身なりも普通。道具も普通。それにもし、本当の富裕層だったら、混みあってオマツリなどのトラブルも多く時間や釣り方の制約もある乗り合い船にあえて乗らないで、自分や誰かのプレジャーボートで釣りにいくはずですしね。
ここからは想像というか推理なのですが、おそらくこの老兵の方々は高度経済成長期の土建屋がアレコレ箱モノを作り上げて、ワッショイワッショーイと、毎日が成長であった、あの船宿黄金時代からの常連客なのです。
船宿の初代船長のころから通っているわけです。船宿の2代目オーナーが、ウンコをびりびり漏らしてびゃーびゃー泣いている姿をみてきたんです。時には、船宿の手が足りないときに中乗りなどをして手伝っていたこともあるかもしれません。2代目が成長するにつれて釣りの手ほどきをしたこともあるのかもしれないですね。
そうなると、最早、釣り客と船宿関係者の境界線がおぼろ豆腐のようになるのです。
ほーん、あれ、船代ってなんだっけ。ていうか、俺は○○屋と一緒に生きてきたしな。むしろ身内。てか、中の人だし。
という具合です。
船宿側からしても、ヤッさんは数十年間その船宿で釣りをつづけてきたわけなので、もはや釣り腕も名手級になっており、釣果を底上げし、全体をリードするという点では必要不可欠になってきます。
釣り船の集客要素は、集客ポータルの費用をつぎ込んだり、ソフト面であるサービス力云々もありますが、その根本は狙っている魚(本命)・高級魚が何匹釣れて、何センチだったかという点に帰結します。
例えば、もしあなたがアマダイを釣りたいとします。
すると、毎日仕事をやっているふりをしながら、ネットサーフィンで、いろんな船宿のウェブページを巡回するわけですね。このとき、同じ日の釣果で以下の2種類があったとします。
船宿A:「アマダイ3~8。潮よく、最大50のオオアマでました!竿頭は当店常連○○さん!」
船宿B:「アマダイ0~3。いろいろ流してみましたが今日はトラギス・黄鯛などの『貴殿』ばかりでした\(^o^)/初心者さんも多く、2枚潮だったためか、オマツリも多かったです。明日もがんばります」
さて、どちらに行くか。
このあたりはもう自明の理ですね。
おそらく、よっぽど船宿Bが気に入っていない限り、船宿Aにいくわけです。絵文字や顔文字を屈指し事実をゆがめ、頻繁に潮と釣り客のせいにする船宿に用はない。そう思うのではないでしょうか。
このように釣果は船宿の生命線でもあります。
船宿のなかには、釣果を誤魔化したり、あまりにも釣況が酷いときは、その日の釣果だけサイトをUPせずスルーという戦法をとるところもあります。
一方、鼠小僧次郎吉の時代から、「お天道様はぜーんぶお見通しだぜ」っていうわけで、今日の情報化社会では、すぐにデマや嘘の類やダメ船宿やダメ船長&中乗り氏のしようもない言行はSNSやネットの掃きだめに投稿され露見していくわけです。
そういったことを考えると、船宿には高確率で釣果をあげてくれるヤッさんが必要なのです。
まさに、俺たちのヤッさん。
二代目が実質オーナーになると、あれがこれでそうなり、頭が上がらなくなり、ちょっと対応がめんどくさくもなるのですが、釣果は折り紙つきです。
実際のところ、ヤッさんへの料金徴収の有無や、なぜ連日船釣りができているのか、年金以外のどこに油田を持っているのかなどの事実はわかりません。
他に、船宿によってはこの釣果の底上げをするシニア層向けの会員枠を用意していて、乗船料を割り引いているところもあります。
次に気になるのが俺たちのヤッさんが毎回膨大に釣った魚の行方です。これは全部食べるのか。マアジ100尾・タチウオ100尾・マゴチ15本を週三回釣ってどうするのか。
この問題。
これはヤッさんが毎度知り合い友人・隣近所・行きつけの飲み屋に納入しているという説もあるのですが、ほかにあるのが、きちんと船宿が引き取って、氷締めや神経締めされた状態や活魚の状態で魚市場に出荷している場合もあります。
いずれにせよこの構図はウィンウインなのでしょう。
- シニアベテラン層のおかげで釣果が底上げでき集客が伸びる(船宿の収益向上)
- 魚市場へ出荷できれば現金収入の一つになる(船宿の収益向上)
- シニアベテラン層は船宿という居場所にいく回数が増える(老人福祉)
デメリットとしたら、常連化してない釣り客がどうやってもその日に有利な四隅の席を取りづらいという点ぐらいです。
いつもより熱心に答えすぎてしまったために、長くなりました。
・・・
もう一つが、筋金入りの釣りバカ氏の存在です。
この方々は、釣りにのめりすぎるあまり、人生のほぼすべてを釣りに捧げていると言えます。
「人生は釣りだ」
「宵越しの銭はもたねえもんだ」
「銭なんてものは全部海に投げてやら」
「銭こそコマセ」
こういった江戸っ子ライクな生き方ができる釣り人が世の中にはいます。
彼らは、自分の稼いだお金を自分が一番好きな船釣りに注いでいるわけです。
「好きなことで、いきていく」
ご存知かもしれませんが、これはユーチューバーにグーグルが重ねているメッセージですね。
これは、別に、
『アミコマセのパフェを一気食いしてみた』
や、
『アニサキスの唐揚げの味が超絶すごかったwwwww』
や、
『あの高級貴殿○○を釣って貴殿丼をつくってみたので披露する!!!!』
や、
『2.5キロのメタルジグをショアジギングで投げてみたらこうなったwwwwwwww』
というような、我々の人生にとって1mgの利益にもならないクソ無駄な動画をあげて広告収入を稼がなくても実現できる世界なのです。
例えメシが、三食松屋&吉牛・なか卯・ゆで太郎・富士そば・カップラーメンになっても、ストイックに削減した原資を自分が一番好きな船釣りに投資する。
選択と集中。
そして、毎週のように船釣りを楽しむ。
これも、
「好きなことで、いきていく」
ということの一つです。
中年釣り兵氏(コージくん)の話に戻ります。
よっぽどの不器用でないかぎり、頻繁に釣りにいっていれば、その釣りがうまくなるはずです。釣りに極めるということはないとは思うんですが、まーうまくなります。平均釣果も上がってくる。
すると、将来的には前述の老兵氏(ヤッさん)がこの世から抹消登録されたあとの後釜ポジションをゲットすることもできるかもしれません。
が。
この国の船釣り業界も、とっくの昔に古き良き時代が終わりました。
これからは古参の常連老釣り師たちが自然の摂理として集団であの世に片道切符をもって旅行するようになります。
また、旅立つ10年か20年前には、どんなに釣りがしたくても、足腰が弱って船宿に来店しなくなることが明白な現実。
このあたりはあえてコンサルみたいにグラフなどを引用しませんが、ググって人口動態統計あたりをみればすぐにわかるはずです。
この国は老人数人をまとめて若者がおんぶして成り立っているのです。
こういった釣り客の世代交代があり、そのなかで各船宿はどう生き残るかの時代にはいっています。
その点で、船宿は釣りがうまい人をおぼろ豆腐状態にして内輪に入れるだけでは、なかなか経営が安定しないような気がします。
むしろ、そこそこ釣れて、SNSやウェブサイトでの情報発信も的確な船宿。禁煙もしくは完全分煙で、他の釣り客をドン引きさせるアレなDQN常連が寄り付かないホスピタリティあふれる船宿が有利な気もします。
本当の意味で初心者歓迎で、みずからマーケットをつくりだす船宿が中長期的には勝利するはずです。
今回の質問への回答は、わたしの想像と直感が9割9分9厘といった高濃度で構成されています。
なので、まーよくわかんねーけど、そういった世界もあるかもしれないなと、しばらくは、ヤッさんとコージくんらを温かく見守っていただければと思う次第です。
いろいろ目くじらをたてるよりは、魚をどう釣るかに集中したほうが釣りは楽しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
ではでは。
※質問がないとエンドレスでYahoo!知恵袋などの質問を勝手に回答していく仕様です。