三鷹の玉川上水で出会った手釣りのチカさんについて【釣り場の忘れ得ぬ人】

リンクにプロモーションが含まれます
三鷹 玉川上水 手釣り ちかさん
スポンサーリンク

~この記事は約 4 分で読めます~

或るうだるような真夏の昼下がりのこと、武蔵野のなごりがのこる三鷹の玉川上水界隈を散策していると、堰の上に爺さんがいた。よくみると釣り竿を使わずに器用に釣り糸を流れに流しているようだ。何を隠そう、わたしは爺さんについては強い自信がある。爺さんに気に入られるという自信である。それはわたしが祖父正臣に育てられたところからきているのかもしれない。

「どうもー釣れますか?カワムツですかね?」

「オウ!これみてみろ、な?ヤマメ。カワムツ?って、おまえさんなに?どこ出身?トウキョー?おうそうかい。こんなちっさな川で魚が釣れると思わねーだろ?鯉?まー、鯉の野郎も居やがるし、鰻も居やがるよ。両方とも掛かるとサ、仕掛けが駄目になっちゃうからサ、俺は厭なんだけどね。魚?南蛮漬け?んな、こんなとこの俺は食べねえよ。みーんなカメの餌ゆきだよ。餌。これ、なにかわかる?おまえさんなに?釣りやんの?へー、よくしってんねー。ものしりだねー。そうこれ饂飩。饂飩にきな粉まぶしたやつね。

三鷹 玉川上水 手釣り ちかさん

で、さ、これをね、投げて流れにながすんだよ。ウキ?あー、つかわねーつかわねー。あーあ、ったく、おい!鯉の野郎が登ってきやがったな。邪魔しやがってよ。オイ!鯉こくにしちまうぞこのやろうが。お、素直に下りやがったな。アイツらも言葉がわかるんだよな。おいおい、またきやがったな、こんにゃろう!フライにしちまうぞこのやろうが!ったく、このチカ様をなめやがってよ。んまー、こんな感じで月二回くらい釣りにきてよー、釣った魚をもってかえってよ老人ホームの池に居るミドリ亀にな、やるんだよ。ミシシッピアカミミガメっていうんだよな、あれが二匹いてな、一匹につき一日二匹ずつやんだよ。いや、老人ホームの冷蔵庫によ、たくさん冷凍してあんだよ。今日とったんは冷凍しておくの。で、日付を書いといてな、古いやつから亀にやるわけよ。ったく、ババアどもがさ、チカさん、なにやってんのとか云うんだけど、黙れ!ってな。そんなこんなで、俺に老人ホームで話し掛けるやつなんて居ねえんだよ。もともとな、俺、大坂にいたんだよ。寿司屋をね、やってたの。で、その前は九州な。でな、大坂でよ板前やってて、そこの奴とよ、まあ喧嘩しちまってさ、包丁投げつけてよ首になっちまったんだよ。俺よ、すぐにカッとなっちまうんだよな。でな、そこの息子さんがよ、やめる前な、俺を慕っててな、いつも俺が学校の弁当をつくってやっててね。俺がつくんねーとあいつぜんぜん食べねえでもって帰ってくんのな。何でわかんのか?ってきいたら、チカが作ったかどうかなんてみればわかるとかよーほざきやがってよ。ったく、強情なやつだよなー、お前、御飯食べねえと身体に悪いぞ、っていうとよ、一食や二食抜いたってダイジョブだい、とかいいやがんのな。ったく、なー。そんときはよ、俺だけさ待遇が『雇われ』じゃなかったからさ、月給制じゃなかったわけ。俺がさ金がほしいときに、おかみさんに云えばいつももらえたの。でな、トウキョーにでてきてよ、今はなんだかんだで老人ホームってわけ。いま餌につかってんのはウドンだけどよ、俺はよ、そうめんとかの方が好きなんだよな。ラーメンとかは嫌い。銀座の○○のカレー知ってる?あれはビーフの煮込んだ奴がのっててよ、うまいけどよ。ヨンセンナンビャクエンとかするんだぜ。まいっちまうよなー、んでな、俺のよー、行きつけの飲み屋の○○はね、ツケがきくんだけど、知らねえやつらがよ、俺の名前だしてツケにしたことがあってな。あれは、十五万円くらい払ったかなー。まーよ、しようがねえからな。そういうところ俺は真面目だからな。意外と俺は昔から真面目だったんだよ。小さいころからよ、俺に逆らうやつなんてクラスに居なかったなー、で、昔はコロッケがさ五円くらいで、二個も食べればお腹一杯だったんだけどよ、それのくずれちまったやつをよ、ただで貰ってきてさ、学校でね売ったの。えへへ。三円とか四円で。みーんなから金とんだけどよ、俺はそんとき、キクエが好きでね、キクエだけにはタダでやったらな、シュウイチなんかがよ、チカズルイヨーとかいうから、そんときは俺、ポカリと殴ったよ。まー想いかえすとキクエだけだよな、俺のことを分かってくれてよ、みんな俺のことを怖がってるから、みーんななんかあったらキクエにいって、俺がキクエに怒られんのな。でも、キクエの云うことなら俺は聞いてたなー。でよ、そんときの学級費な、あれ、俺はぜーんぶ釣り道具に使っちまってよ。ったく、母ちゃんから怒られても、もう使っちまったもんはしょうがねえーよな。買った釣り道具はよ、お宮さんの縁の下に隠しておいてよ。小さい頃は勉強しろとかゼーンゼン言われなかったんだけどな。まー、あんときはよかったよな。今じゃ勉強勉強の時代だもんな。でも俺の弟はね、今ヒタチのなんだかコンピューターの偉いやつになっててよ。アイツの部屋には部長とかも入れねーんだってよ。すげーよな。え、なに?おまえさんもコンピューター?じゃあ頭がいいんだね。あんなのわかる方がおかしいんだよ。」

そんな会話のやりとりをした。

藪蚊が爺さんのたるんだ腕を刺し、わたしにもまとわりついてくる。

「それではお元気で」というと、「ああ、おまえさんもな」という返事が返ってきた。

雑木の間をぬける風が、汗をひやして気持ちがよい。まだ夕方は先だ。

数年たったが、いまだに玉川上水に釣り糸を流していたあの爺さんのことは忘れることができない。

関連記事

あわせて読みたい
三浦半島の小河川で出会ったウナギ釣りの老人【釣り場の忘れ得ぬ人】 神奈川の三浦半島。と或る河川。 梅雨時に鳴いていたニイニイゼミにミンミンゼミが混じりその勢いがなくなったのかと思うとぐらい、アブラゼミたちが繰り広げる叫びが鳴...
<お知らせ>
🌊Amazonタイムセール! 釣具も安い!
🌅楽天スーパーDEAL-人気アウトドア商品もポイント高還元!
🐙Yahoo!ショッピングならPayPay毎日5%還元!竿とリールが超得!
三鷹 玉川上水 手釣り ちかさん

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

記事をシェアしよう!
目次