三浦半島の小河川で出会ったウナギ釣りの老人【釣り場の忘れ得ぬ人】

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三浦半島の河川
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神奈川の三浦半島。と或る河川。

梅雨時に鳴いていたニイニイゼミにミンミンゼミが混じりその勢いがなくなったのかと思うとぐらい、アブラゼミたちが繰り広げる叫びが鳴り響いている。油で揚げるときの音だから余計に暑く感じるが嫌いではない。夏っぽいから。

この川は秋・冬のハゼ釣りシーズン以外は釣り人があまりいない。

だけど、夏から秋にかけて通りかかると、時折竿をだしている老人がいる。

この老人はよく笑うが、前歯が一本しかない。

「どうもー釣れますか?うなぎですかね?」

「二ヒヒ。あーそうそう。ウナギやるの?二ヒヒ。そこのね、葦際あるでしょ。そこにね、いつもいるんですよ。ぶっといのがさ。あの杭の間もえぐれているんですよ。そこにね、ウナギがね、いるんですよ。この間も釣ったんだけども、ウナギっていい穴が空き家になると、入れ替わるんです。一匹釣るでしょ。それで2週間ぐらいたって、もうそろそろどうかな、って入れてみると、釣れちゃうんです。ちょっとこれみて。ね?でかいでしょ。そう70cmぐらいあったかな。泥抜き?あーしないしない。だいたいその日にさばいて食べちゃいます。食べないときはね、白焼きにして冷凍しちゃう。白焼きにしたやつを人にあげることもあります。この前は、これ。デカいでしょ。そうナマズ。これも70㎝ぐらいあったんじゃないかな。ナマズもね、意外といるんですよ。それでね、ここのは臭くないんですよぅ。輪切りにして煮付けにしたり。でもやっぱりフライが一番うまいかなー。二ヒヒ。餌?エサはね、ウナギもナマズもドバミミズじゃないの。二ヒヒ。ちょっと待って。・・・ほら、これ。そうそうボラとか小鮎をね、付けるんです。針はね、ウナギ針じゃなくてセイゴ針をね、使ってます。私はね、ウナギをやるときは昼ぐらいからくるんですよ。ひっかけ針で、これ。自分でつくったんだけども、これをね、つかってボラを20匹ぐらいかな、ある程度釣ってから、よーしって夕方からウナギをはじめるんですよぅ。暑くないかって?あー大丈夫。塩と砂糖をお茶に入れたりして飲んでるから。酢も入れたり。あのね、ボラはね、でかいのはハサミで切っちゃう。あんまりデカいと食い込めないからね。ウナギは。ナマズは大丈夫だけど。ボラは川で手に入っちゃうし。え?あー、糸はね、ナイロンの太いヤツ。安いやつですよぅ。ウナギはね、糸の太さは関係ないから。ひっぱりっこになっても、ちゃんと釣りあげるために太いのね。・・・ん?あー引いてんな。これね亀なんですよ。亀。ほら、かかんない。ここはね、けっこう亀がいるんです。秋ぐらいになるとモクズがちょっかい出してくるんだけど、夏の間は亀のほうが多い。亀もね、なんていったっけな。ミシシッピアカミミガメだっけか。あれがくるとこうやって壁際を手繰ってあげちゃう。けっこうデカいのがいてね。ウナギはね今、絶滅危惧種とかいってるでしょ。あれね、嘘だと思うんですよ。だって俺もう何十年もこの川でウナギを釣ってるし。毎年釣ってる。ウナギなんてそこら中にいるんですよ。それがね、川をくだって、フィリピン沖だっけか?そんな遠くまでいって産卵しているなんて信じられないんですよ。どっかに本当のウナギの産卵場所があるんじゃないかって。ハゼとかも海と川を行ったり来ているっていうけど、本当なんでしょうかね。川で一生終わる奴もいるんじゃねーかなって。ウナギはね、エライ人がなんだか産卵場所発見とかいってるけど、まだまだ分からないことのほうが多いんでしょ。推論ってやつで。実際にはわかんないんだから。ウナギが卵産んでるところをその目でみたわけじゃないんだから。だって、現に、ちゃんと毎年釣れてるんだからさ。二ヒヒ。絶滅とかはしないんですよ。え?あー竿はね、なんでもいいんですよ。リールもなんでもいい。ほんとは竿なんてなくてもいいんだけど、足場が高いでしょ、やりづらいから使っているだけなんです。ウナギなんてほんとは針と餌があればだれでも釣れるんです。それをなんだか貴重貴重っていってるのがどうかと思うんですよね。あのね、ウナギも2種類いて、ああいった岩や葦際などに隠れている「居つき」と、海や河口から潮にのって上がってくるやつがいるんです。私はね、「ナガレ」っていってるんだけど。あのね、橋のむこうの下流の瀬あるでしょ。あそこ。あそこね、障害物もなんにもないでしょ。でもね、あそこにね、夜ね、潮があげてくるときに餌をやっておくと釣れるんですよ。ウナギが。あれはね、海からウナギがあがってくるんだろうなー。あのね、今ね、上流のあそこ、工事中でしょ。だから、鮎なんかは上流のほうにたまってるみたい。だから、ウナギやるんなら、エサはね、あっちで獲ったほうがいいと思いますよぅ。」

そんな会話のやりとりをした。

老人と話すと孤独からなのだろうか、やけに傲慢な口調の人も多いが、この目の小さな老人はとてもにこやかに丁寧語で話す。

時折、老人の万能リール竿の穂先が水面にむけてすこし引っ張られる。

「あ、きたんじゃないですか?」

「いやこれはウナギじゃないんですよ。」

どうやら、このあたりはウナギではなく蟹か亀とのこと。

見続けているのもうっとうしいだろうから、「じゃ、また」というと、「はい、またね。二ヒヒ」という返事が返ってきた。

うしろをふりむかないで、夕焼を見に河口へ歩いていく。

8月になると、浅く流れのゆるい川は水もぬるま湯のようになり、匂いもよどんでくる。ボラが群れている。そんなどこにでもある光景。

前歯一本しかない老人の顔がにやける姿が思い浮かぶ。

ウナギは絶滅危惧種。と、されている。

シラスウナギ着岸地点と海流の関係や採捕する人間の数などありながらも、採捕されている絶対的な個体数が減っているという点では数は少なくなっているんだとは思う。

けれども、ウナギはどこにでもいるというのも事実だとは思う。

性格の悪い堰さえなければ都市河川でもよどんだ水でも、上流までぬるぬると上がってくる。

ネットでは顔の見えないひとにより、ウナギを食べること自体、気が向いたときにウナギを釣るということ自体が攻撃の対象になったりしている。何かを守りたいと思って発言する気持ちは大切だとは思う。

が、こういった爺さんの唯一の楽しみぐらいはとっておきたいものだなとも思った。

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