船釣りをはじめると出会う「中乗り」「上乗り」という存在。
その役割について割と謎に思っている釣り客も多いのではないでしょうか?
たとえば初めていく船宿の場合や、自分が初心者だったとします。
そんなとき、「中乗り」と思われる船宿スタッフに「オマツリやタモ入れ等いろいろサポートしてくれるんだろうな」という思い込みをしがち。
一方、中乗りもいろいろです。
釣り客の期待値と中乗りの言行にギャップが生じることもしばしばあり、結果、Googleレビューの低評価をする釣り客も散見されます。
今回はあまり知られていない「中乗り」「上乗り」について解説します。
この記事を読めば「中乗り」「上乗り」が設置される背景や役割、それぞれの業務のスタンスなどが理解でき、お互いにストレスが少なくなるはずです。
▼釣り慣れないときに、こういう疑問はだれでも感じたことがあるはず。
船釣りに行くと、大抵上乗り(中乗り)さんがいます。準備や釣客の世話(おまつりのほどき等)で自分自身は釣らないのはわかるのですが、ほとんど釣をしていて極たまに手伝う程度の人はどういう契約(約束)なんでしょうか 。いつも疑問に思ってますが、聞くわけにはいきませんので。
出典:ヤフー知恵袋
中乗りと上乗りという言葉について
「中乗り」と「上乗り」については由来が所説あります。
一般的なのは、「中乗り(仲乗り)は筏(いかだ)で中心に乗る存在を指す」という説。
また、上乗りについては、「港湾労働で船に同乗して作業する立場からきている」説があります。
今日、釣り船業界においては同じ意味合いで、「釣り船を操船する船長とは別に同乗する船宿スタッフ」を指します。
参考: goo辞書
中乗り(上乗り)の仕事は人それぞれ
まず、中乗り(上乗り)の仕事を整理します。
大きくわけて5つの役割があります。
- 釣り客のヘルプをする役目
- 船の清掃・片付け・準備などをする役目
- 餌の仕込み・駐車場の案内・設備の修復や清掃などをする役目
- 集客用に釣果を安定させる役目
- 出荷用の釣果を調達する役目
それぞれの役目を単体でやっているというよりも、複数業務を兼ねた仕事をしている人がほとんどです。
また、重要なのは、上記1~5すべてをやるのが中乗りというわけではなく、船宿や契約(口約束のケースもある)によってまちまちということです。
例えば、1&2の人、1~5までやる人、4&5だけ担当する人、2&3メインだけどたまに1、というような様々な働き方があります。
後述しますが、実は、すべての中乗りスタッフに「釣り客のヘルプをする役目」があるわけでもありません。
このあたりはしっかり認識しておいたほうが釣行時にストレスが少なくなります。
次に中乗りスタッフの仕事を整理していきます。
釣り客のヘルプをする役目
まずわかりやすいのが釣り客のヘルプをする役目ですね。
- オマツリをほどく(めちゃくちゃクイックリーな解きをするスーパー中乗りがいたり)
- タモ入れ等をする
- 釣り方をレクチャーする(釣れない人・初心者を中心に)
- 針を外す
- 魚を締める
など。
ビギナーはもちろん、中級者以上でも自分の釣りに集中するために、有難い存在です。
週末や祝日などの釣り船や、「人気釣り物」がよく釣れているタイミングは平日でも混み合いやすく、中乗りスタッフを同乗させるケースがよく見られます。
釣り客の立ち場からは同乗しているのであれば、「釣り客のヘルプをすること」がメインと考えがちですね。
船の清掃・片付け・準備などをする役目
船の清掃・片付け・釣り客の釣り座準備(バケツ・コマセ・付けエサの配置等)をする役目を、中乗りスタッフが担っていることもよくあります。
特に午前船・午後船など、1日複数の出船をしている場合、出船準備や帰着後の清掃に迅速さが要求されます。
そんなときに、船長のみだと対応に遅れがでるため、地上スタッフ(女将さん等)に加えて、中乗りスタッフが手伝うわけです。
餌の仕込み・駐車場の案内などをする役目
サバ短冊などの身餌づくりやアサリ剥きなどは、かなりの数をこなすため、一定の時間が必要です。
また駐車場案内も、混雑時にはスタッフが常駐していないとトラブル発生源になりがち。
それぞれ中乗りスタッフが兼任していることがあります。
船宿によっては、早朝の駐車場案内のみ担当している方もいます。
集客用に釣果を安定させる役目
釣り船の集客は、シンプル。
マーケティングでは、媒体経由より、自社サイトや船長や女将さんなどが投稿しているSNSからの比重が高いのが一般的です。
釣り客が予約するしないの判断は、以下の要素で行われます。
- 1尾~10尾釣れたという表現(釣り客人数、釣り座表、平均釣果などを公開するところもあり)
- 釣果写真(いわゆる竿頭や、大物・珍しい魚を釣った人)
- 船宿のコメント(上向きなのか、低調なのか、空き具合)
中でも、「○尾~○尾釣れた」という内容は大切です。
この数字で予約有無を決める人も多いわけです。
たとえば釣り客の人数は「大人の事情」で多くの船宿であえて公開しないことがほとんどなのですが、実際は3人いたとします。
ひとり目が3尾、ふたり目が2尾、さんにん目が20尾釣ったとすると、表記は「釣果:2~20尾」となるわけです。
ここで、だいたいの釣客の意識は最小釣果の「2尾」より、最大釣果の「20尾」にいきがち。
こういった背景から中乗りスタッフを「釣り手=集客用に釣果を安定させる役目」として同乗させ、釣りだけに専念させる船宿もよくあります。
また、先代から通い続ける常連客や親戚筋が半ば釣り船スタッフのような形で乗船し、釣りに専念していることもあります。
この場合、実際は明確な雇用関係が船宿と結ばれていなかったりします。
他に、なんらかの理由で一時的に釣果を上げる必要がある場合、特に船長と親しい釣り客が無償で乗船し、釣りをしているケースも。
この種の「釣り手」は、もともと「目的」が釣り客のサポートではない点に留意が必要です。
出荷用の釣果を調達する役目
船宿のなかには、刺し網や養殖など漁業者としての事業もしており、釣りあげた魚を市場や契約する料理店等に出荷しているケースもあります。
他に自社経営の飲食店を兼業しているケースも見られます。
これらのケースでは、出荷用の釣果が必要なため、調達役の「釣り手」が必要です。
この場合も、「釣り手」は船の片付けや準備はやるものの、釣り客のサポートまで細かく行わないこともしばしば。
中乗り(上乗り)スタッフとして働く理由
釣り客からするとなんとなく気になるのが、「中乗り(上乗り)スタッフとして働く理由」です。
これまで複数の中乗りスタッフと話した内容をまとめておきます。
釣りが好きだから
単純に釣りが好きだから中乗りをやっている方も多いです。
釣り自体が好きだったり、他人の釣りをサポートすることが好きだったり。
正社員等で平日は別の仕事をしていながら、兼業で祝日や休日に中乗りとして働いているケースがほとんどです。
他に大学生や高校生等で、釣り好きを活かしたバイトを長期休み期間にやっているという場合も。
船長になるためのステップ
中乗りスタッフのなかには明確に「釣り船の船長になりたい」という考えを持つ人もいます。
釣り船の船長になるためには、以下の条件があります。
遊漁船業務主任者になるためには、次の3つの条件を満たす必要があります。
[1]海技士(航海)又は2級以上の小型船舶操縦士の免許を受けていること
[2]遊漁船業に関して1年以上の実務経験を有すること、又は遊漁船業務主任者のもとで10日間(1日につき5時間以上)以上の遊漁船における実務研修を修了していること
[3]農林水産大臣の定める基準に適合する講習を修了し、5年を経過していないこと
出典:水産庁
この内[2]での実務経験・研修期間が中乗りスタッフであるというわけです。
報酬をもらいながら、経験を積めるので一石二鳥ですね。
中乗り(上乗り)スタッフになるには
この記事を読む方のなかには「中乗り(上乗り)スタッフになりたい」という希望を持つ人もいるかもしれません。
そこで、中乗りスタッフになるための方法を紹介します。
船宿の常連になって自然と声をかけられる
よくあるのが、船宿に長年通ってスタッフと親しくしていたら、「あら不思議、自分がスタッフになってたんだよね~」というケースです。
「スタバの店員がもともとスタバのお客さんだった」というのはよくある話なのですが、そういう話です。
このケースでは、以下の働き方があります。
- アルバイト等の雇用契約を書面で結ぶもの(「毎週末・祝日・繁忙期勤務等のシフト制」)
- 口約束でのスポットのバイト(「日曜暇してない?ちょっとヘルプ入ってくれないかな?1万出すからサ」)
- 無償のお手伝い的なものがあります(「水曜暇してない?乗合出す前に○○がいるか調査したいんだけど?船代はいいからサ」)
結果的にそうなっていたという経緯なわけですが、長年同じ船宿に頻繁に通ったり、経営者や舵を握る船長と良好な関係にあると声掛けがあるかもしれません。
また、釣り客の定年退職を機に、「○○さん、暇だったら、ちょっと手伝ってみないかい?」という声掛けも昔からよくあるようです。
本職が嘱託契約になったのにあわせて週末は中乗り、というケースですね。
船宿の募集に直応募する
船長や中乗りスタッフは特殊な仕事のため、引く手あまたです。
船長は資格や経験が必要、かつ勤務形態が特殊なため、なり手が多いとはいえません。
そのため、船長をみすえた中乗りスタッフ募集をしている船宿もよく見ます。
また、単純に業務が繁忙なため、中乗りスタッフを広く募集している船宿も多々あります。
このケースでは、以下の働き方があります。
- アルバイトや社員等の雇用契約を書面で結ぶもの(「毎週末・祝日・繁忙期勤務等のシフト制」)
中乗り(上乗り)スタッフの雇用形態と報酬は?
溶接・塗装・調理師免許・船舶免許など特殊技能があると優遇されるかも
中乗りスタッフになりたいという方で、その報酬について気になるかもいるかもしれません。
だいたい以下の3パターンに分かれます。
- 時給制もしくは日当でのアルバイト。時給の場合1,000円~1,500円程度、日当では8,000~12,000円程度が相場(労働時間による。大入り、年末年始の手当等も)
- 口約束でのスポット中乗り。日当では8,000~12,000円程度が相場(労働時間による。大入り、年末年始の手当等も)
- 無償のお付き合い。船代なく乗船して釣りができるが、報酬は発生しない
※交通費はだいたい満額支給(上限あり)、船舶免許保持は優遇、食事補助ありのケースも多い
※船長見習いの場合、月給制で20~25万程度
<参考サイト>
indeed,バイトル,求人ボックス,スタンバイ,
まとめ
今回は船釣りをはじめると割と謎に感じる中乗りスタッフの存在に注目して解説しました。
冒頭にあげましたが、釣り客はなにかと「中乗り」にフルサービスを求めがちですが、中乗りも色々なのです。
この「中乗りも色々」が、ときに誤解を生みやすかったりします。
たとえば、船宿のTシャツやパーカーを着ているから雇用契約があるかというと必ずしもそうでもありません。
ただの趣味と善意で手伝っているコアファン的な常連さんで、雇用契約がある中乗りではなかったり。
また、混雑する船上でオマツリやタモ入れもしないで、一心に釣っているスタッフは、釣り客からすると謎に感じますね。
でも、その実、「アジを100尾(○kg)確保して」と経営者に指示されているだけだったり。
船釣りも慣れないと、一方的にイライラしがちですが、「中乗りも色々」を理解すると、新たなお付き合いがうまれるかもしれません。
また、船宿側、「中乗り」スタッフ側も、誤解を生まないためにできることがありそうです。
「今日はちょっと水揚げの手伝いで釣ることに専念しているんですよー(笑)」みたいなアナウンスをしているとよいのかもしれません。