東京湾の「ライトアジ」釣りといえば、船釣りのなかでも入門者にぴったりな釣りです。
メインの釣り場である横浜から横須賀沖で釣れる黄アジは食味もよく、まとまって釣れるのが特徴。
今回は、釣ったアジを美味しく食べるための下処理と持ち帰り方法を紹介します。
アジは下処理が手間、生ごみ処理も大変
ライトアジでは、だれでも一人10~数十尾釣れるわけですが、数十尾釣ると、帰宅してからの下処理も大変です。
生ごみも多く出てしまいます。
ゴミ出しの前日であればよいのですが、ゴミ出しまで日数があるとニオイなどの問題も出てきます。
一方、船宿で下処理を済ませてしまえば、ごみ問題も解決できます。
また、コマセが詰まった胃袋や雑菌が増殖し腐敗につながりやすい頭部(エラ)・鱗(ぬめり・体表)を処理しておくことで、アジの鮮度を長く保つこともできます。
釣行をする際に、現地で下処理ができる場所がある船宿へ行くのも一つです。
アジは下手に血抜きや神経締めをするよりは氷締めが効率的
アジも血抜きをすることで身の色が変わり、長期保存する際に発生する臭みも軽減します。
そのため、多く持ち帰らない場合は一ずつエラを切ってバケツで泳がせる方法もあります。
一方、一尾一尾処理をすることで手返しが悪くなるというデメリットもあります。
また、神経締めをするために魚体を強く押さえたり、魚が固い釣り座や床の上で暴れることで身割れの原因にもなります。
慣れない場合は、無理せず海水と氷をブレンドした潮氷に入れていくのがオススメです。
フィッシュグリップも使わず、リリーサーだけで魚をクーラーに入れると、サバの身割れも防げます。
船宿でやる黄アジの下処理
船宿でアジの下処理をしている人を見ると、効率が悪かったり、食味を落としてしまう処理や持ち帰り方をしているのも散見されます。
ここからは毎週のようにアジを100尾単位で下処理をしているのですが、手早くできて、鮮度を下げず、より安全に魚を食べられる方法を紹介します。
下処理工程は、工程ごとにまとめて行うと効率がよくなります。
作業速度を上げるためには、清潔な軍手(滑り止め不要)をしておきましょう。
軍手をすれば、アジをしっかりつかめるようになりますし、怪我の防止になる上、血合い除去工程での速度UPに効果的です。
※ニトリルグローブなどはアジのゼイゴや尻の棘で穴が開いてしまうのと、血合い除去に向いていません。
①ひたすら鱗を落とす
アジの温度に注意。あまり触りすぎないように
はじめにひたすら鱗を落とします。
鱗が残っていると、後工程にある3枚おろしがやりづらくなりますし、自宅のシンクまわりに鱗が貼りつきやすくなってしまいます。
魚はタライやクーラーボックスなどにいれ、氷で冷やしながら下処理しましょう。真夏などはすぐに身が温まってしまいます。
魚の胴体を素手でもっていると身が温んで鮮度落ちが進んでしまいます。
このとき、下処理で落としてしまう頭部をつかむのがオススメです。
利き腕ではない方の手の親指と人差し指でアジのえらぶた部分をしっかり押さえると、多少へこむため、アジがしっかり押さえられます。
アジはまな板などにおいた方が力が逃げず、うろこを取りやすいです。
<うろこ落としの禁じ手>
- 力を入れすぎて身をつぶしてしまう(身割れ・つぶれの原因)
- 刃側で行い、皮を切ってしまう(水っぽくなる原因)
- 胴体を手でつかんで身を温めてしまう
うろこ落としは船宿にあるものでよいですが、アジであれば専用のうろこ落としより、包丁をつかったほうが速いです。
「舟行包丁(ふなゆきぼうちょう)」を持参しておき、背部分でやってみましょう。
刃部分でやると背と腹の際にある鱗を落としやすいのですが、慣れていないと身や皮を切ってしまったり、怪我の原因になります。
舟行包丁はもともと漁師が船上に持参して、簡易調理するためにつかったことに由来しています。
刃が薄いため軽く持ち運びに優れ、アジの下処理にも向いています。155mmのものが使いやすいです。
高価なものは不要なので、錆に強いステンレス製の軽いものを持参しておきましょう。
▼筆者はブレードが薄いこの包丁(出刃とあるが、実質、船行包丁)を4年近く使っています。
▼アジ切りは小型のアジ調理に特化したもので、さらにコンパクト
頭を落とす&肛門の棘をカット
鱗を落としたあとは、アジの頭と肛門付近の棘を切り落とします。
ハラス下部を棘ごと切り落とすのがポイント
この赤いラインのように、刃を入れます。
まず、アジの胸鰭を指でつまみ上げ、腹びれごと斜に頭をカット。
このとき、包丁はまな板に対して垂直にし、片側のみで一気に引き切ると処理速度が上がります。
具体的には包丁を魚の背側に押すようにして刃をいれ、次に、一気に引き切ります。
魚のヒレには雑菌が多く、鮮度劣化につながるため、反対側(裏側)の胸鰭も頭部と一緒に切り落とせているのがベストです。
マダイなど大きな魚は刃を両側から入れますが、アジであればそれほど歩留まりに変化はないので、片面から切り落としましょう。
次に、ハラスの下端を肛門の棘がギリギリ落とせるところまで切り落とします。
なぜ棘を取るかというと、後工程の血合い処理や調理をする際の怪我防止目的です。
また、ジップロック等に詰める際も、袋に穴があくことが少なくなり、浸水(身への吸水)も減ります。
時短のため、包丁をつかって内臓を掻きだすことはしません。
中型から大型のアジの場合、「カマ」にあたる胸鰭と腹びれ部分の付け根からカットして持ち帰り、素揚げにするのも美味です。
血合いを落としつつ、鱗などを流す
次に流水か、たらいなどに溜めた水のなかで、内臓・血合い・鱗を洗い流します。
衛生面を考えると流水がベターです。
よく、船上で海水をつかって処理をする場面をみますが、海水は腸炎ビブリオ対策という点で難があるため、真水を使います。
真水で水洗いすることで、腸炎ビブリオの原因菌を洗い流すこともできます。
また、重要なのは血合いの処理です。
右利きならば、左手でアジをつかみ、右手の親指で内臓と血合いを洗い流します。
軍手をしていると、繊維が腹腔の奥にある血合いに絡みつき、よりきれいに取れます。
血合いが多く残っていると、その分、保存性が落ちる(腐敗やニオイの原因)と覚えておきましょう。
船宿での下処理でやらない方がよいこと
船宿でアジを下処理する際、オススメしないのが以下の点です。
ゼイゴを落とす
アジの側面には「ゼイゴ(ゼンゴ)」と呼ばれる固い棘状の器官があります。
このゼイゴを船宿で落としている人もいますが、持ち帰り時に水分がしみこみやすくなり、身がぐずぐずとなってしまう原因になるので、帰宅後の料理直前に落とすのがオススメです。
また、まな板部分にゼイゴを落としたあとの断面が接触してしまうため、保存性も悪くなります。
さらにゼイゴを落とすと血合いが露出し、酸化しやすくなってしまいます。
酸化した血合いは赤ではなく茶褐色になり、臭みの原因にもなります。
三枚におろす
船宿で魚を三枚におろすことはオススメしません。
身の断面がさらに増えて、水分がしみこみやすくなり、身がぐじゅぐじゅになってしまいます。
また、食用にする身の断面がまな板に触れるのも衛生上よくありません。
帰宅するまで
棒身にした魚と氷をわける
棒身にした魚を持ち帰るときは氷とわけましょう。
冷凍用のジップロック(やや厚め)にアジの棒身をいれて、別のジップロックに氷を密封すると、棒身の断面が吸水することをさけられます。
寄り道しないで帰る
クーラーボックスの性能と氷の量にもよりますが、あまり寄り道せず帰宅しましょう。
特に、夏場に性能が低いクーラーボックスをつかっていると、保冷ができていない状態になり、鮮度落ちが速くなってしまいます。
また氷に魚を直にあてると傷んでしまいます。
帰宅後の処理
棒身にしたアジ
ざっくり水洗い
帰宅後、持ち帰った棒身はすぐに水道水で洗い流しましょう。
流水をつかい、数秒以内で済ませるのがポイントです。長く水につけると水分を吸い込みます。
ジップロックを使っている場合は、袋内に水を注ぎ、その後、すぐに水を切ります。
この工程で、腸炎ビブリオなど食中毒の原因になる菌や、ウィルスを洗い流します。
腐敗やニオイ予防(持ち帰ったばかりは無臭ですが)にも、一度洗い流すほうがよいと言えます。
清潔な布巾orキッチンペーパーで水分を拭う
ざっと洗い流したあとの棒身は、布巾やキッチンペーパーをつかい、しっかり水分を拭きとります。
バットに並べてラップしてチルド保冷
尾は邪魔なのでカットしておいてもよい。カットするとさらに保存性が上がる
その後、バットに並べてラップして保冷しましょう。
1尾ずつラップで包むと、さらに丁寧です。
ラップの隙間があると、皮や尾部分が乾燥してしまいます。
冷蔵庫にチルドルームがある場合は、ぜひ活用しましょう。ほかの場所より低温なため、雑菌の繁殖を抑えられます。
ただし、冷気吹きだし口付近に魚を置くと、凍ってしまうことがあるので注意です。
血抜きなしでもアジは~4日間は生食可
以上の処理をすれば、アジは4日間程度は生食できます。
4日以上になると、ややニオイが出てきます。これは処理状況・温度にもよります。
食中毒の原因菌はニオイと関連しないこともありますが、明らかに臭みが増したり、全体にぬめりがでているような状態のものは生食を避けましょう。
また、長く寝かせるから食味が極端によくなるわけでもありません。
血抜きをしていないアジであれば、当日~3日以内程度が一番美味です。
▼以下は釣行日を入れて5日目の黄アジ(血抜きなし。船宿で下処理完了)で作った料理です。臭みなく美味。
色つやを見てわかる通りに鮮度が保たれている状態。ドリップが出ると鮮度悪化につながります
皮をつけて保存すれば血合いの色もきれい
黄アジの塩タタキ
黄アジのハラス刺し
まとめ
今回は、釣ったアジを美味しく食べるための下処理と持ち帰り方法を紹介しました。
同じ釣ったアジでも適切な処理を行っているか、いないかで鮮度保持の期間や食味が変わります。
どうせ食べるなら美味しく食べたいですね!