ORETSURIをご覧のみなさん、こんにちは。サラリーマン・アングラーの釣人割烹です。
ORETSURIが10月で3周年を迎えたとのこと。まことにめでたい。
メーカー提供のプロアングラーによる豪快な動画、セミプロたちによる求道精神の結晶のようなブログと違って(それはそれで面白いのですが)、ビギナーや中級者の目線で魚や釣りや料理の魅力を伝える「俺釣」。
このメディアで釣りに興味を持ち、はじめる人が増え、釣りのマナーや環境が向上するのは喜ばしいことです。
目次
堤防釣りをしていたらテトラポッドの隙間へ滑落して死にかけた
今回、そんなおめでたい気分に水を差すかもしれないシビアな手記を寄稿します。
わたくし、やらかしてしまいました。まことにお恥ずかしい話で、最初は胸の奥にしまって墓場まで持っていくつもりでした。でも、少しずつ「広く伝えるべきでは?」という思いが強まり、気持ちが揺れてきました。
実は9月末、堤防釣りの最中にテトラポッドのすき間へ滑落して、死にかけました。「まじか?」と突っ込まれそうですが、まったくもって冗談ではすまない事態でした。
釣り、ことに堤防や磯での釣りでは人がよく死にます。それをニュースなどで知ってはいました。しかし、どこまでも他人事で、まさか自分が「三途の川」のすぐそばまでいくことになるとは思ってもみませんでした。
当たり前ですよね。「死ぬかも知れない」と思いつつ、竿をかついで釣りに行く人はいません。しかし、そこに油断が生まれます。
釣りをなめてはいけない。海をなめてはいけない。
ごめんなさい。わたくし、完全になめていました。それを今回の滑落事故で思い知り、深く反省しています。みなさんに釣りを安全に長く楽しんでほしい。ビギナーからベテランまで、多くの方々に筆者の失敗を教訓としてほしい。そのために、あえて生き恥をさらします。
なお、筆者が滑落した場所は、誓って釣り人立入禁止エリアではありません。筆者は禁止エリアでは絶対に釣りません。漁協による注意事項が看板で明示され、多くのアングラーがルールを守って楽しんでいる場所です。
ただし、自分の事故をメディアで公表すれば、そこでの釣りを禁止する動きが起きないとも限らない。同好の仲間たちに迷惑をかけかねません。ご批判もあるでしょうが、堤防の固有名詞は伏せます。
巨大なテトラに恐怖を覚えたが……
9月最後の日曜日。午前5時半ごろに家を出て、ひとりで車を転がし、その堤防へ向かった。途中で24時間営業の釣具店に寄り、生き餌の磯ガニを買った。単独釣行だった。
前打ち(落とし込み)釣りでチヌ(黒鯛)を狙う。
難しい釣りで、まだビギナーだが、魚の活性が高ければ釣る自信はある。助手席に置いたカニが、透明なプラスチックトレーの中でカサカサと動く。その音を聞くと、はやる気持ちを押さえることができない。
午前7時ごろ、目指す漁港に到着。
当初は港の南に延びる堤防の岸壁で釣ろうと考えていた。先に陣取っているセイゴ狙いの地元の釣り人たちにあいさつをしたところ、「チヌは北の堤防でよく上がっている」という。よし。そっちでやってみよう。
再び車に乗り、迷いながら北堤防を探し当て、堤の付け根あたりに駐車。竿道具一式とクーラーボックスを手に、歩いて堤防の先端を目指す。
堤は先端に向かって右半分の港内側が低い岸壁。外海に洗われる左半分は高くなっている。その差は大人の身長ほど。
低い港内側を歩いているので外海の様子は分からない。港内側にも釣り人がちらほらいるが、みな投げ釣りのようだ。チヌは潮通しのよい外海側についているだろう。
先端に着くと、左半分の高い岸壁に上る階段があった。そこを、釣りたての良型をぶら下げた老チヌ師が下りてきた。
おっ。釣れているな。
老チヌ師は周囲の仲間に「カイズ(黒鯛の幼名)だ!」とうれしそうに言い、港内側に吊るしたストリンガーにかけている。いやいやどうみても40cmを超えてそうな立派なチヌだ。
よし、おれも!。こちらも気分の高揚を覚えつつ階段を登っていくと、堤に沿ってテトラポッド(消波ブロック)が多数沈められており、その先に外洋が広がっている。

筆者が滑落したテトラ帯。平面型。外洋に面して、チヌがよく釣れる
もともと岸壁で釣るつもりで、履きものは「かかとバンド」つきのサンダルだった。さらにライフジャケットも、着るのがおっくうで持ってきていなかった。以前は岸壁での釣りでも身につけていたが、かさばるため着用しなくなって久しかった。
テトラを目にして「怖いな」と感じた。
ブロックの一つ一つが巨大で、すき間も大きい。明らかにサンダルで乗れば危ない。しかしチヌは釣れている。釣りたいという欲望に打ち勝って戻る意志の強さはなかった。
チヌをバラすことによる焦り。そして、私はテトラポッドから落水した…
午前7時半すぎ。道具とクーラーボックスを堤防に置き、竿と玉網、餌箱を持ってテトラ帯へ。
なるべく水平に近いブロックを踏み、波打ち際まで慎重に下りていく。竿を出すにふさわしい場所を見つけ、チヌ針にカニを刺して投入した。
9月末、初秋だが晴れて気温は30度近くあり、上は下着にTシャツ1枚、下は短パン。海風が気持ちよい。波がブロックで白く砕ける。大潮で、海は適度に濁っている。いかにも釣れそうな、理想的な海況。
数投目。カニが海底についたときにアタリがあり、立てた竿が弓なりになる。しかし、すぐに「ブンッ」といういやな手応えが……。バレた。針がかりが不十分だったのだろう。カニは食われていた。
こうなると、釣り人の性(さが)でヒートアップする。アタリがあった周辺を念入りに探っていく。テトラ帯だが行動は大胆になっていく。
ふたたびアタリ。ゴツゴツという感じでチヌではない。竿を立てると20cmクラスのカサゴが上がった。残念だが釣れないよりいい。美味しいのでキープする。
小刻みに移動しながら、根がかり覚悟で半分沈んだテトラのへりギリギリにカニをうっていく。最初のバラしから1時間ほどたっただろうか。竿先に微妙なもたれ。合わせると竿が満月に引き絞られ・・・。
これは間違いなくチヌだ。

筆者の釣り座の近くで竿を出していた人。テトラやすき間の大きさがよくわかる。
遊ばせてテトラの下へ潜らせたくない。魚は引っ張られる方向と逆に走るので、沖へ走るよう竿を横に寝かせぎみにする。「ヒューン、ヒューン」とナイロン2号の道糸が鳴る。
今度こそは、と強い引き込みに耐える。
やがて魚体が浮き、水面で銀色のストライプがひるがえった。
次の瞬間、竿先が跳ね返った。
なんたることか。またしてもバラした。心の中で舌打ち。小さめの針で、チモトにガン玉を打っていたので、針のふところが小さく、刺さりも浅かったにちがいない。大きな針に変え、ガン玉も打ち直す必要があると考えた。
午前9時を回り、魚の活性がいつまで続くか分からない。竿や玉網をテトラ帯に残し、道具を取りに堤を目指して身ひとつでテトラをよじ登った。
2度もバラして、あせっていたのかもしれない。
かなり傾斜したブロックに左足をかけてしまった。
そして、体重をのせたときにやはりズルッとすべり、バランスを崩し、私はテトラポッドから落下した。
テトラポッド下の複雑な潮流。引き波で海底に引きずり込まれそうに
本当に一瞬のできごとだった。
「あっ」と思う間もなく数m下のテトラポッドに体が叩きつけられ、さらに数m落下。そこで再びテトラに体を打ち、みたび転げ落ちてテトラ下部の海に落ちた。
テトラブロックは非情だった。途中でつかまる手すりも、衝撃を和らげるクッションもない。パチンコ玉が勢いよく釘の間を落ちていくようなものだった。
転落した瞬間はパニック状態で、よく覚えていない。おぼろげな記憶だが、「ぐえっ!」と途中でぶざまな悲鳴を上げたかもしれない。
気がつくと首の上まで海につかっていた。
塩辛い海水を少し飲んでしまい、喉がむせる。かろうじて右手が、海に半分沈んでいるブロックの角をつかんでいた。水中に沈む左腕は激痛でまったく動かせない。折れているのだろうか。右手1本で海に浮かんでいた。
薄暗いテトラの下部で寄せる波が砕け、複雑に渦を巻いている。寄せ波で体がフワッと持ち上げられるが、引き波で今度は強く引っぱられる。落水時に右手が反射的にブロックをつかまえていなければ、引き波の強い力で暗いテトラの底深くまで引きずり込まれていたかもしれない。
足を滑らせたところから水面までは落差6mほど。
しばらく海につかっていると、少しずつ気持が落ち着いてくる。すると、自分が非常にシビアな状況にあることがわかってきた。
スマホは堤防の道具箱の中に置いてきた。単独釣行なので、私の異変に気づき、探してくれる仲間はいない。助けを呼ぼうにも広いテトラ帯に釣り人はまばら。大声を出しても、テトラ内で砕ける波の音が反響し、かき消されてしまう。
自分でよじ登るほかないのだ。
右のサンダルが脱げていたが、幸い両足は大丈夫だった。水中のテトラで足場となりそうな箇所を探した。両腕と両足が使えれば、目の前のテトラへ這い上がれるだろう。が、左腕はだらりと垂れ下がり、尋常ではない痛みでまったく上がらない。やはり骨が折れているのかもしれない。
右腕に力を込めるが、目の前のテトラに登れない。単独登山でクレバス(雪渓の割れ目)に落ちたようなものかもしれない。「もしや、ここでくたばるのか?」と不吉な思いが頭をよぎる。
映画「ダイハード」を地でいく
引き波に耐えながら、どれだけ海につかっていただろうか。
海中で波に揺られていると、何十回かに一度、大きな波がくることに気づいた。ブロックをつかむ右手を軸に左右に動き、両足の裏で水中のブロックの状況を探った。
足を乗せて踏ん張り、上体を持ち上げるのによりよい場所が見つかる。
とにかく必死だった。大きな寄せ波で体がぐっと浮き上がるタイミングをはかる。
よし、これかっ?
大きめの波に合わせて両足を強く蹴り、右手と上半身で渾身のちからを振り絞る。ついに目の前のテトラへ這い上がった。
全身ずぶ濡れ。テトラに付着した牡蠣殻やフジツボなどで皮膚が切れ、あちこち出血している。それでも、ようやく海から脱出できてほっとし、何度も何度もため息をついた。やはり人は陸上生物だ、とつくづく思った。
だが、そこからがまた、ひと苦労だった。
しばらくじっとして体力の回復を待つ。この巨大なブロックをよじ登らなければならない。一段登っては休む。映画「ダイハード」のようだと思ったが、しんどくてシャレにならない。
ついにテトラの最上部へ。ようやく堤防に戻ったときには、滑落から2時間近くが経過していた。
クーラーボックスにヘナヘナと座り込み、体の傷を確認する。擦り傷や切り傷、打ち身は各所にある。左ひじはとくにひどく擦りむいて、血が出ている。だが、左腕以外に重篤な負傷はなさそうだった。

堤防に戻った直後。右足はサンダルが脱げ、ところどころ出血していた
恐怖はあとからあとからよみがえってくる。スマホを取り出し、信頼する釣り仲間のひとりに「テトラで滑落。死にかけた」とメッセージを送った。
自分を落ち着かせるためだったが、仲間とやり取りを繰り返すうちに、腹の底が冷えるような感じがした
もし頭を強く打っていたら……。間違いなく気絶して溺死していたはず。もしあのとき右手がブロックの角をつかまえてなかったら……。
死。
そして、生。
竿と玉網をテトラ帯に残していたが、取りにいく体力も気力もない。近くを通りかかった同年輩の釣り人に事情を話して回収をお願いすると、気持ちよく応じてくれた。ありがたい。何度もお礼を言った。

メガネも破損した。
右足にサンダル代わりにタオルを巻き、敗残兵のようなありさまで堤防から撤収。右手でハンドルを握り、車をころがす。途中のコンビニでビーチサンダルを買った。
帰りの道すがら、滑落した理由を考えた。
チヌを連続でバラして冷静さを失ったのではないか……。
それでも助かったのは、連続バラしで運がたっぷり残っていたからか。どちらの魚も手中に収め、限られた運を使い果たしていたら……。バラしがなければ滑落しなかったのでは……。いやいや、そもそも装備が甘かったんだ
興奮もあり、堂々めぐりがとまらない。
夕方、帰宅。左腕がひどく痛むので、すぐに夜間救急の外科へ。レントゲンを撮ると、上腕骨の上部(肩の付け根のあたり)の骨折。幸い、手術の必要はなく、三角巾で腕を吊って自然治癒を待つことに。

左腕は骨折していた。全治2カ月の重傷
余計な心配をさせたくないので、家族には「ちょっと堤防で変な転び方をした」と言った。詳細に伝えれば、キモをつぶすに違いない。今後、釣りにいけなくなるのもツライ。
とにもかくにも、テトラの底から生還し、警察や消防の世話にもならず自宅に戻れた。本当にラッキーとしか言いようがない。
水死してテトラの底に沈んだら、遺体はなかなか見つからないだろう。
「けさ、50代の男性が釣りに出かけたまま行方不明となり、地元の消防や警察が行方を探しています」
と、テレビのニュースになるところだった。家族にどれほどの心労をかけるか。関係者にどれほどの迷惑をかけるか。それを考えるだけでも胸が潰れそうになった。
テトラポッドからの落下事故から学ぶべき教訓
以上が、当日の詳細な状況です。
幸いにも3週間後に再びレントゲンを撮ると、骨は順調にくっつきかけていました。三角巾から解放されましたが、痛くて腕が上げられません。
医者から「腕が固まっている。痛くても動かさないと、一生上がらなくなりますよ」と脅かされました。そりゃまずい。左腕で竿を立て、右手の玉網で魚を救うという釣りの基本動作ができなくなる。ということで、必死でリハビリに取り組んでいます。
あわや滑落死という極限状況だったせいか、はるか遠い昔の出来事のように感じています。それにしても、左腕損壊だけで済んだのは奇跡でした。
堤防やテトラ帯での事故を防ぐ教訓を以下にまとめてみました。
危険なポイントはさけたほうがいい
まずこれです。海況や装備などによっても変動しますが、死んでしまってはもう釣りができません。
単独釣行はなるべく避ける
これは一緒に釣に行くベテランの先輩から特に強くいわれたことですが、単独釣行は非常に危険です。
ひとりで事故に遭い、まわりに釣り人がいなければ気づかれません。筆者も、今回の事故でけがの程度がひどく、自力で上がれなければどうなっていたか。
仲間がいれば異変を察知してくれるでしょう。先輩によると、過去には、ひとりで釣りをしていて筆者と同じように滑落し、テトラのすき間に体がはさまれて動けなくなり、潮が満ちてきて溺死するという悪夢のような事故もあったそうです。
大音量のホイッスルや防水スマフォを携帯する
とはいえ仲間の都合もあり、単独釣行もあるでしょう。事故があったときに周囲に気づいてもらうために、体育教師が使うような大音量のホイッスルを身につけているとよいと思います。力いっぱい吹き続ければ、遠くにいる釣り人も気づいてくれるかもしれません。仲間がいる、いないにかかわらず常に携行すべきでしょう。
スマートフォンも防水のものを肌身離さずもっていることが必要だと思いました。
ライフジャケットは必須
これは、万が一の落水時に生死を分けるもので、テトラ帯だけでなく岸壁や磯でも着用すべきものです。それを着てないで危険度の高いテトラポッドで釣りをした筆者は、緊張感を欠いていたと言うほかなく、強く反省しています。
滑落で骨折したことを踏まえると、落水時にガス圧で勝手に膨らむ新しいタイプよりも、浮力材が胸や背中に入った古いタイプの方が衝撃から身を守るのにはよいかもしれません。
滑らない靴をはく
今回の滑落の直接的な要因は「足回り」でした。体重をのせたときに支えきれず滑ってしまうサンダルは論外です。テトラに乗るなら、底がフェルトやゴム、スパイク、地下足袋など滑らないものを履くべきでした。
長い竿と玉網がリスクを減らす
テトラ帯でのチヌ釣りにやや特化したことですが、チヌを釣るには、水面に伸ばす振り出し式の玉網がなければ取り込めません。筆者は今回の事故のとき、柄の長さが4mの玉網を携行していました。しかし、テトラと海面の高さを考えると、最低でも6mの玉網が必要でした。
柄が短いとテトラ帯で水面近くまで降りる必要があり、上り下りで滑落のリスクが高くなると感じました。海面の近くでは波をかぶったり、波で足をすくわれたりする危険もあります。柄の長い玉網が必須です。竿も一緒です。
しかしながら、以上の点に留意しても滑落のリスクはゼロにはなりません。
子供のころ、テトラポットで子猿のように跳ね回った記憶がありますが、寄る年波。
いまや脚力もバランス感覚も衰え、体重は増えている。そもそも、筆者のような運動不足のオッサンは、テトラポッドには乗るべきでないのかもしれません。
悲しいけれど、自身の「老い」こそが、最大のリスクかもしれません。
「自業自得だろ?」という批判も当然ながらいただくでしょうが、この手記がみなさんの事故の防止に少しでも役立てば幸いです。
寄稿者
釣人割烹
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