イシガニは市場流通しないのですが、食味が良く知る人ぞ知る美味しい蟹です。
今回はイシガニの獲り方と美味しい食べ方を詳しく解説します。
イシガニの採捕は禁じられていませんが、獲り方などはルールが決まっています。きちんと守って楽しみましょう!
イシガニについて
イシガニの特徴
イシガニは漢字で書くと石蟹。その名の通り、殻が極めて硬いのが特徴です。
甲長10㎝程度までに成長し、オスの方がメスより大きくなり、爪も大型です。大型のオスは大人の男性の手の平をあわせて広げた程度。
小型の個体は甲羅に毛のようなものがついてますが、脱皮を繰り返し大型になると甲はつるつるになります。
サイズや個体差によって色の違いも多く、大型のオスの爪や脚は紫色を帯びています。
イシガニの色は色々
爪の力が極めて強く、うっかり手指を挟まれると大人でも苦悶の声を上げるほどです。
ただし最大クラスのオスでも、皮膚は切れて血がにじみますが、指が切り落とされる心配はありません。
もしイシガニに挟まれた場合は、静かに脚を地面につけてやり水をかけるか、海水につけてやると離すことが多いです。
筆者も自宅でよく挟まれていますが、シャワーの水をかけると離してもらえています。
あわてて振り回すと自切し、胴体から爪がもげることがあります。
ノコギリガザミほどではないが、挟まれた瞬間は「ヒィィ」と叫ぶほどの痛み
イシガニの生態
オスのイシガニ(最大サイズ)。脚が紫
イシガニは岩礁帯・砂礫地帯・砂底・砂泥底に生息するのですが、姿を隠すため、岩礁帯・岸壁付近など障害物が多いエリアに多く生息しています。
湾奥では、堤防や岸壁際の隙間や石の下にいるのをよく見ます。
水温低下に強く、真冬でも水深2m以内の浅場で多くみかけます。
タイワンガザミやガザミは秋以降、水温が下がるごとに沖に移動(砂に潜る)しますが、イシガニは1年中浅場で活動します。
食性は動物食中心の雑食で、死んだ魚や貝類をはじめとして何でも食べます。
夜行性で、夜になると障害物や砂の中から出て餌を探して徘徊します。
繁殖期は梅雨から夏です。
梅雨時は交尾を目的にしてか、大量のイシガニやタイワンガザミが岸壁際に集まるため、捕獲が容易になります。
この頃、イシガニ類を狙ってか、タコが護岸際に集まります。
タコの好物は蟹。湾奥イシガニの天敵もタコと思われる。写真はタイワンガザミメス
ワタリガニとイシガニの違い
タイワンガザミのオスとメス(左がオス)
一般にワタリガニは、ガザミやタイワンガザミのことを指します。
ガザミやタイワンガザミとイシガニを比較すると以下の特徴があります。
- 大きさ:ガザミとタイワンガザミの方が大きくなる
- 形:イシガニは丸みを帯び、ガザミとタイワンガザミは横幅がある
- 色:ガザミ類には斑点模様があるが、イシガニにはない。黒ずんだ褐色(緑に近い個体もいる)
- 甲羅の硬さ:イシガニの方が固い
- 味:ほぼ変わらないが、ガザミ・タイワンガザミの方が上とされる(食べやすさもあると思われる)
- 生息域:ガザミとタイワンガザミは砂底・砂泥底をより好む
イシガニ
イシガニが獲れる時期と旬
真正面からつかまえるとほぼ確実に挟まれる
イシガニが獲れる時期は周年です。
- 梅雨時:もっとも獲れる
- 夏:よく獲れる
- 秋:よく獲れる
- それ以外:獲れる
これといった旬はないですが、メスの場合、産卵に絡まない秋から冬場の方が身が入って傾向にあります。
「内子」がある個体もいます。
イシガニの獲り方と適した餌
たも網+ヘッドライト
網目が絡まないものは手返しがいい
夜間にヘッドライトを使い岸壁際を照らし、網ですくう方法は攻めの捕獲方法で独特の面白さがあります。
潮どまりで、風によって海面が揺れていないときが最適。釣りの合間に行うこともできるのでおすすめです。
イシガニを見ながら捕まえるので独特の面白さがあります。
特に6月前後は多くのイシガニが岸壁近くに集まるため、外れることが少なくなります。
岸壁際に牡蠣殻やイガイがついている場合、ナイロン製の網は絡んでしまうことが増えます。また、タモにいれたあとにイシガニが複雑に絡み、ほぐすのも大変です。
網目が細かいものや、コーティングされた網を使いましょう。
※注意点として、ヘッドライトを照らして網で生き物を捕まえるという行為が禁止されている自治体もあります。
このタイプのナイロン網はイシガニが複雑に絡んで手返しが下がる
手づかみ・トング等
イシガニは真冬でも水深1m以内の浅場でよく獲れます。
そのため、手づかみやトング等でつかまえるのも一つです。
素手で捕まえると、高確率で挟まれ怪我をします。軍手を装備して行うと挟まれても我慢できる程度です。
素手や類する方法での採取は基本的に制限されていないことがほとんどです。
磯場にいるイシガニ。弱い光で照らそう
捕まえ方は簡単で、夜間ライト等でイシガニを探し出し、そっと手を伸ばして捕まえるだけです。
強い光をあて続けると、イシガニが岩の隙間に隠れてしまいます。
またイシガニの甲羅はすべるので、トングの場合、暴れて逃げられてしまうことが増えます。
がっちりとつかめる長めのトングを持参しましょう。
海に入るという点で、ウェーダーをはくのが有利です。
蟹網・カゴ
ほとんどの自治体でカニカゴの使用は認められていません。
釣具店で販売されていますが、買ったはよいものの、使用できないというのは残念なのであらかじめ都道府県ごとの漁業調整規則を確認しておきましょう。
蟹網については、自治体によって取り扱いが異なります。
竿釣りや投網の範疇に入るかどうかは、自治体の水産課に確認して判断しましょう。
自治体によっては禁止を明言しています。

▼特に蟹籠タイプはイセエビやタコも捕獲できてしまうため、漁業者とのトラブル原因にもなります。
イシガニ獲りって違法なの?
イシガニ自体は共同漁業権の対象にされているものでもなく、採捕は違法ではありません。
一方、以下の点については共同漁業権や漁業調整規則に関わるので注意しましょう。
- ヘッドライトで海を照らして網ですくう行為→シラスの密漁と間違えられる可能性
- その他の蟹が漁獲対象になっている地域→混同され密漁扱いになる可能性
- 蟹網、カニカゴ→自治体で明確に禁止されている可能性
- イセエビ、サザエ、タコ、ナマコ漁が盛んなエリア→同密漁と間違えられる可能性
ルールをまもって楽しみましょう。
疑問を持った場合、自治体の水産課に問い合わせると色々と教えてくれます。
イシガニ獲りと節度
外子が出ている個体はリリース推奨。産めよ増やせよ
梅雨時など、イシガニが大量に接岸する時期は、簡単にクーラーボックス1杯のイシガニがとれてしまうかもしれません。
市場流通しているものでもないですが、生態系のひとつを担っているわけです。
個々人の自由ですが、毎年イシガニ獲りを楽しみたい場合は以下の点に配慮することをおすすめします。
- 食べられるだけ持ち帰る
- 抱卵した個体は逃がす
- 小型の個体は逃がす
▼イシガニやタイワンガザミの外子はあえて食べる価値はそれほどありません

イシガニの持ち帰り方法・締め方
イシガニは生命力が強いため、持ちかえる際は水を抜いて保冷して持ち帰れば暫く生きています。
何匹か持ち帰る場合で、爪がもげるのを防ぎたい場合は、強めの輪ゴムで両爪を甲に縛りましょう。
気温が高い時期は海水にいれたまま持ち帰ると、いつの間にか死んで腐敗がはじまってしまうので注意です。
持ち帰ったイシガニは、熱湯等にいれると爪がもげる可能性があります。
自切を防ぐ場合は、生き締めをしておきましょう。
- 酒類につけこむ(焼酎・紹興酒・日本酒):臭みを消し旨みを追加する効果も。10分ぐらいで完了
- 氷水で締める:手軽。10分ぐらいで完了
- 鉄串などで締める:蟹の苦悶を見るためそういったのが苦手じゃない人向け。30秒以内で完了
串で締める場合は以下の通り。
- 蟹を寝かして片手で挟まれないように押さえつけ、口から鉄串を差し入れる
- このとき、すーっと串が入る場所があります。甲羅と垂直に差し入れるのがポイント
- 串を差し入れたあとに、串を左と右に傾けると、それぞれ左右の爪を動かして暴れ絶命します。
イシガニの食味と美味しい食べ方
長期間冷凍しても味は落ちません
イシガニは購入することがむずかしく、自分で獲らない限りはほぼ食べられません。
全体的に身は少ないのですが、ワタリガニ類と同等に身の甘みが強いのが特徴です。
大型はそのまま食べるのも良いですが、蟹独特の風味を生かした汁物等につかうのも一つです。
出汁をつかう料理はとにかく殻をわってから調理
茹で・蒸しイシガニ
大型のイシガニ
大型のイシガニは比較的身が多いため、蒸したり茹でたりしてそのまま食べるのも美味です。
ただし、殻がきわめて固いため、殻割等を用意しておきましょう。
一般に蟹はゆでより蒸しのほうが旨味が逃げないとされます。
蒸す際は、腹を上にして蒸し上げるとエキスが落ちづらいとされます。
イシガニ汁
イシガニ汁
イシガニの味噌汁はイシガニ料理のなかでもシンプルかつ味わい深い一品です。
昆布だしに加え、本みりんと少量のカツオ出汁をいれることで一体感が出ます。
イシガニを加熱するときは、事前に甲羅をつぶしてから、水から炊きましょう。
イシガニチゲ
イシガニは朝鮮料理風にチゲにしても味わい深くおすすめです。
好みですが、キムチは入れず、昆布だし・カツオ出汁・本みりんに粉唐辛子やコチュジャンで味をつけていきましょう。
イシガニは具を食べるというよりも出汁をとるため、甲羅をつぶしておきます。
イシガニ・パッポンカリー
タイ料理屋で2,000円ぐらいしそうな出来栄え
大型のイシガニはタイ料理、プーパッポンカリーにするのも一つです。
ライムがよくあいます。
殻は固いので、あらじかじめ割っておきましょう。
もち米がよくあいます。

※蟹が少ない場合、蟹の身がはいった調味料をつかうのも一つ。
トムヤムプー
タイ料理といえばトムヤムクン。
「クン」はエビを指し、蟹は「プー」と言います。
イシガニをつかったトムヤムプーはエビとはまた違った味わいです。
ココナッツミルクをつかうことでコクを増すことができます。

ブイヤベース
ブイヤベースは、ざっくりいうと魚介のごった煮です。
カサゴなどとあわせてイシガニを具材につかうことで甲殻類の旨味と香りが濃厚になります。
イシガニパスタ(オイルベース・トマトベース)
イシガニの出汁はパスタともよくあいます。
身というより出汁を活用するとよいでしょう。
アルデンテより硬めに茹であげた麺を、フライパンのイシガニソースにいれてなじませることでパスタの旨味がグンと増します。
ペペロンチーノ風でもよいですし、トマトソースでもOK。
基本的にソースに旨味を出す調理法がおすすめ
イシガニラーメン・つけ麺
味噌味との相性抜群
イシガニの出汁はラーメンにも最適!
もちろん身メインというよりも出汁メインです。
食べづらいがつけ麺にしても映える
濃厚なハイブリッド


その他イシガニに関する豆知識
お値段は?
イシガニは典型的な未利用魚なので、市場でみたことがありません。
値段が気になる人も多いと思いますが、「値はつかない」が大枠で正解です。
臭いはあるの?
下処理をすることで臭みは軽減する
孵化後のイシガニは潮流にのって大きく移動することが想像されますが、一度居着いた場所から大きく移動するような蟹ではありません。
そのため誰もが居着きのイシガニを狙うことになり、食味は水質や食性など釣り場の状況に大きく左右されます。
河口部よりは遡上しないため、モクズガニほど臭みが顕著な個体は少ないと言えます。
一方、湾奥の港湾部や河川がらみなど、食用をためらう場面もでてくるかもしれません。
筆者はかなり湾奥の個体を食べたことがありますが、それほど臭いが気になったことはありません。
もし気になった場合は、以下の下処理をするとよいでしょう。
<イシガニの下処理>
- 尻蓋をとって腹部分と爪のつけね内側の水垢を洗い流す
- 甲羅をとりエラをとる。砂をはらんでいるので洗い流す
- 口の裏についている胃袋を取り除く
- 白ワインや日本酒をまぶす
※モクズガニと異なり、泥抜き(糞・未消化物抜き)は真水で困難です。
蟹味噌(中腸線)もワタリガニ類と同様の味わい
まとめ
砂地と磯が混じるとガザミ類とあわせて獲れる
今回は美味しいイシガニの獲り方と食べ方を解説しました。
個体数も多いですが、比較的平場であれば獲ろうと思えば、根こそぎ獲ることもできてしまう蟹です。
節度をもって楽しみましょう!
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