東京湾で新たにやってきた釣り方「テンヤタチウオ」が盛んになり、これまでめったに釣れなかったドラゴン級タチウオ(120cmや指5本クラス以上)が釣れていますね。
タチウオの場合、より大型になるのがメスです。
タチウオの産卵は初夏から秋ぐらいまで長く続くんですが、ドラゴン級タチウオを釣ると抱卵していることがほとんど。
夏から秋に釣ったタチウオの卵って、みんなどうしているんでしょうか?
甘辛煮あたりは一般的ですね。胃袋を入れるとコリコリして珍味だし、山椒をいれても旨いです。
今回は、タチウオの卵をさらに美味しく食べる方法として「辛子太刀明太(カラシタチメンタイ)」を紹介します。
辛子太刀明太(カラシタチメンタイ)という名称について
「辛子太刀明太」は、もちろん辛子明太子に由来しています。
「明太=メンタイ」はスケトウダラを指し、朝鮮半島由来。が、今やスケトウダラ云々ではなく、甘辛く味付けして熟成させた魚卵というようなイメージだと思います。
「うまい棒めんたい味」に至っては、最早どこが「めんたい」なんだかわからないけど、アレはアレで旨いですし、まーそれでいいんじゃないですかね。
なにがメンタイなのかとか難しく考えすぎるなよ。
ということで、「明太=メンタイ」という言葉を拝借してみました。
「タチウオの卵の辛子漬け」だとパッとしないんでね。
辛子太刀明太の下処理。真子の水分をしっかり抜こう!
ということで、指5本クラス115㎝のタチウオです。
長さで言えば、ドラゴンと呼ぶにはちょっと早いクラス。岸釣り基準は100㎝オーバーという説が主流です。
ちょっと胆汁がついてしまった
お腹を割くとこの通り。
実は、調理したのが釣行翌日だったんですが、はらわたを出すのはできるだけ早いほうがよいと思います。
なんなら釣りあげたらすぐに卵だけ取り出して、ジップロックなどで別に保冷しておくのがベスト。
なぜか。
何を隠そう、胆嚢の苦みが卵に移ってしまうんですよ。
黄色とか緑色の汁が胆汁なんです。消化液の一つなわけですが、これがつくと苦いんです。食べられなくはないが、どうしても苦みが入る。センブリみたいな。
なので、上の写真はやや胆汁軍に攻め込まれているので「ハハハハハ、少し遅かったですな黄門様」みたいなものだと思ってください。
何それ。
こちらが切り分けたタチウオの身。
いつものタチウオ料理のメインはこちらなんですが、今回の主役は魚卵です。真子です。
取り出したタチウオの卵はこの通り。
釣りあげてすぐにバケツで血抜きをすると、表面に走る毛細血管が目立たなくなります。
血抜き工程では、クーラーで行うと抜けきらないので、海水をためたバケツで行いましょう。
痛々しいが、もうちょっと脳天側を強くつかむと動きが止まる
血抜きなんですが、太刀魚専用グリップで頭部付近をつかむと、タチウオの動きがとまります。
あんまりバタバタ暴れさせると内臓あたりが傷んでよくないんですよね。
動きをとめた後は、エラの付け根の膜をカット、そこから延髄に近いアタリの血管を切れば、よく放血します。
といっても、夏場はバケツに入れたままだと、内臓界隈がゆるくなって卵も傷みやすくなります。目安として5分バケツで放血すれば十分。
帰宅してから卵をすぐに出しましょう。ベストは持ち帰り前に卵だけジップロックなどに取り出してしまう方法です。日本酒につけこんで持ちかえれば尚可。
血管に残った血は、寝かせたあとに「雑味」に影響します。
気になる人は爪楊枝で血管を取り除きましょう。
タチウオ。大型はみんなメスなわけですが、指3、4、5本サイズでは卵の量がこれぐらい違うようで。タイミングもあるとは思います。最近テンヤタチウオの釣果が0〜10本とかですが、そのぐらいで推移するのが、釣りの面白さ的によいのかも知れないなと。 pic.twitter.com/5eqMqx6NrV
— 平田剛士|ORETSURI(俺釣) (@tsuyoshi_hirata) September 29, 2020
上から指3本、4本、5本クラスの卵です。
タチウオは、サイズによってこれだけ抱卵量が違うんですね。
孵化率、成魚まで成長する率などを考えると、やはり大型のタチウオはある程度残っていたほうが資源量的には良いんでしょう。
これを日本酒で洗っておく。
さらに「強塩」で脱水。
この工程は旨味を与える意味合いではないので、どんな塩でもよいと思います。
ただ、しっかり水分をぬくため塩はケチらず多めに振りかけましょう。
バットを使う場合は、魚卵を置くまえにバットに塩をふっておきます。
あとは冷蔵庫にいれて1日おいておけば勝手に水分が抜けます。
ほらね。この通り。
この水分自体も旨味がある(臭みもある)ので、料理に使ってもよいとは思うんですが、今回は廃棄。
寝かせてナンプラーチックに仕上げてもよいと思います。
あとは、水分をさらに抜くために、ドリップをぬいた真子を冷蔵庫で寝かせて1日。
このとき真子の下にリード類をひいておくとよいと思います。
はい、水分が抜けましたね。
全体的にぷっくらして、卵のつぶの一つ一つが、タラコっぽくなってきました。
締めながら、型枠などでゆるやかに整形する技もあります。
あらかじめ水分を適度にきっておくことで、漬け込み工程で卵の中まで漬け汁がしみこむわけです。
それと、下処理工程で日本酒をつかい真子の脱塩処理をしてから漬け込んでもよいと思います。
今回は、漬け込み工程と脱塩処理を一緒に行ってみることにします。
辛子太刀明太の味付け。自然の旨味を重ねていくのが一番
これまでいろんな魚卵を辛子明太子風にしてきたんですが、手早く味付けをするのには、粉末の昆布だしやカツオだしを使うのが速いんです。
四の五の言わず「ほんだし」入れておけよ。
話はそれからだ。
みたいな。
市販の安辛子明太子をみれば、程度の差はあれ、だいたいそんな風にできているわけで。
輸入した魚卵(冷凍?)を解凍して、時短で出荷するために手早く味をつけて、色素で真っ赤に染める。
ファスト明太ってやつです。
が、やっぱり食べていて思うのは、あれってちょっとケミカルっぽい味だよな、旨いけど。
という点です。
うま味調味料系は尖ったうまみで、安いものは塩分で誤魔化されているのが一般的なので、塩分濃度も高くなってしまうんです。
わたしもそろそろ40。そろそろお前は健康にも気を付けないといけないねということもあり、今回は減塩でいくことに。
腎臓病&高血圧にはなりたくないんでね。
まず「つけ込み汁」を作りましょう。
タッパーやバットでタチウオの真子がつかる程度の出し汁をつくります。
<出し汁の材料>
- 真昆布(上質なものほどよいです)
- 日本酒
- みりん
水に日本酒+みりんを加えて、真昆布をイン。
沸騰したら昆布を取り除く。すこし温度を下げた状態で大量の花かつおを投入。
1、2分加熱しながらかつおだしを抽出。
濃いめの出汁をとるイメージですが、昆布も鰹節も強火などで煮だしすぎるとクセが強くなるので注意。
人のことは言えませんが、アクが強いひとも、今回は、はんなりいきましょう。
このアワセ出汁を冷ましておきます。
冷ますときに、以下の調味料をブレンドしました。
- きび砂糖少々
- 水あめ(艶出し)
- 柚子皮(フリーズドライ。生があればさらにグー)
- 酢橘汁少々(柚子汁があればさらによいかと)
- 鮎魚醤(奥義!)
- 塩
- 粉唐辛子(これは油分と旨味が多い韓国産がオススメ)
- 鷹の爪(これは保存性を高め、辛さを重ねるためなので国産)
※塩分濃度は鮎魚醤や塩で、辛さ鷹の爪で各自調整を。魚卵を俺味に仕上げましょう。
ポイントは柚子や柑橘類の香りで風味を重ねるという点と、鮎魚醤で繊細な旨味を重ねるという点、さらに唐辛子を複数種類使うというあたりです。
鮎魚醤はナンプラーやニョクマムよりは臭みが少なく、より繊細。
唐辛子は国産至上主義で所謂「鷹の爪」だけだと辛いだけですし、独特のうまみを重ねるためには韓国種の粉唐辛子をブレンドするとよいです。
これらの調味料を当社独自の配合でブレンド。
このブレンド比率は、ケンタッキー・フライド・チキンの衣、コカ・コーラのシロップ並みの秘伝です。
なので教えられません。ごめんなさい。
と、いいたいところなんですが、お前は厳密に計量していないだけではないでしょうか。
はい、その通りです。
もともとタチウオの真子から強塩で水分を抜く時点で、卵はある程度塩辛くなっているので、そのあたりを脳内で計算して、今回のつけ汁は、市販の明太子ではありえないほどの減塩タイプにしました。
塩分は追加でそれほど加えず、真子から塩分を抜きつつ味をつけるという具合。
つけ汁は、一般的な和食のお吸い物がやや濃くなったぐらいの塩分濃度だと思ってください。
塩分ひかえめとか何を日和っているんだ、辛口がいい、飲めばわかる。という人は、塩気強めのほうが冷蔵庫でカビにくいので、よいと思います。よしなに。
つけ汁が十分冷えたら、タチウオの真子をイン。
キッチンペーパーなどで落し蓋をし、冷蔵庫にしまってターンエンド。
できあがった辛子太刀明太を食べてみよう
さて、仕込んだ辛子太刀明太が冷蔵庫にあるだけで、なんとなくワクワクできるほど単純な俺の人生。
どうも味が気になってしまうと思うんですが、そう早まるな。
待てばわかるさ。
最低2日ぐらいは寝かしたほうがよいと思います。
助さん、格さん、もういいでしょう。今回は、4日目に取り出してみました。
おほほほ。どれどれ。
お。
完全に辛子明太子チックに仕上がっているじゃないですか。
これをみたときに、「これはタチウオの卵だ」とわかる人など早々いないはず。
まな板の上においてみても完全に辛子明太子。
みるからにうまいやつ。
つぶさないように包丁を動かしましょう
刺身包丁で一口大にきりわけるとさらに辛子明太子。
キタコレ。
盛りつけるとこの通り。
下側に指3本サイズの真子がありますが、あまりにも小さかったり、抱卵具合がよろしくないと映えませんね。
やっぱりムチムチの卵を使いましょう。
最低でも指4本サイズぐらいのタチウオの卵が必要な気がします。
断面はこの通り。
つぶつぶ感が実にいい。
塩で水分をしっかり抜いた後に、ドリップを取り去っているからこその出来栄え。
このつぶつぶ一つ一つに、天然ダシが重ねているわけです。
思い切ってそのままひとかけら食べてみる。
でも塩辛いんでしょう?
いいえ、これがちょうどいいんです。
なぜなら当社は市販品では出荷できない薄塩でつくっていますので。
身体にも安心、お前らや俺のような中年で安心。おほほほ。
ということで、実に美味。
塩分も狙い通り、かなり控えめで、そのまま酒のつまみにパクパクいけちゃうレベルです。
バーナーで軽く炙って焼き辛子太刀明太にしてもよさそう。
白飯と一緒にかきこんでみましょう。
がほがほ。
実に美味。思わず空気ごとかきこんでしまったよ。
これがあのタチウオの真子からつくりだされたものだとはね。
丁寧にとった昆布とカツオのダシ、鮎魚醤の繊細な旨味。柚子皮と酢橘の香味。粉唐辛子のコク。
大勝利。
翌朝は、洒落乙にバケットをトースト。無塩グラスフェッドバターの上に辛子太刀明太をトッピング。
さらにチャイブとみせかけて万能ねぎ。
ああ、グラスフェッドバターのコクと辛子太刀明太の圧倒的なうまみの融合ですよ。
罪深い味がする。
だけど、脂肪分はともかく、「このメンタイ、実は塩分は少ないんで」という免罪符的な言い訳も成り立つ仕上がり。
辛子太刀明太じゃがバター。
じゃがいも(キタアカリがオススメ)をレンチンして、バター&太刀明太というシンプルさ。美味。
タチ明太パスタも実に美味。
まとめ
抱卵個体を釣ると思わずハミング
先日テンヤタチウオ釣行にいったら、同船の釣り人が「釣れたタチウオの卵って、なんにしてる?」「俺、甘辛煮だけど、あれ飽きるよね」みたいなことをいってたわけです。
その会話をもとに、できあがったのがこの「辛子太刀明太」。
塩分濃度にもよりますが、冷蔵庫でしばらく持つはずなので、ぜひ作ってみてください。
ご家族がいる方は、タチウオの卵と明かさないで食べさせてみるのも面白いです。
十中八九、タチウオとはわかりませんし、プチプチしてまろやか、いつもよりおいしい辛子明太子だねーということになると思います。
これで、みなさんもまたタチウオ釣りにいけるきっかけができましたね。
どうせ大型のタチウオを釣るなら、卵も三角コーナーに廃棄しないで有効活用しましょう!
ではでは。
平田(@tsuyoshi_hirata)