タコの道具汁の由来などなど
漁師というと、いつも美味しい魚介類をぶははははと食べているイメージがありませんかね。
これがそうではなく、やっぱり市場価値がある獲物はみんな売ってしまうという話もあるようです。ほかに産業もなくさしたる収入も得られない沿岸漁業主体の寒村などだと、それはそうなんだろうなと。これは揶揄してるとかではなく事実そうだったんだろうなと。
実際のところこの資本主義社会では貨幣によって成り立っているので、老いも若きも男も女も、マネーを手に入れなければ生きていくことができないわけです。それが事実。
これは青森の沿岸地域も同じだったようで、巨大な「水だこ」をとってもその身を食べることはなく出荷するんですね。
このときに大量の内臓が出る。水だこ自体がうん十キロの巨体になるのでその内臓も大量なのです。聞くところによると内臓だけで数キロあったりと。このタコの内臓を「道具」と呼んでそれを汁物にしたのが「道具汁」と呼ばれる青森の郷土料理です。
大阪あたりで牛や豚を精肉売り出すときに、毎度大量の内臓があまってしまい、むしろこれを食べたらええやんけ。精力つくしってな具合に「ホルモン(放るもん)」が広まったのと似ていますね。
もともと捨てられるものをもったいない精神で活かす。捨てる資本家あれば拾う庶民あり。内臓の活用は市井で力強く生きてきた先人の賢い知恵なわけです。
ということで、今回は先日釣りあげたマダコをつかった道具汁をつくってみます。
特殊な調理法は一切ないし、水だこじゃなくてマダコをつかえば簡単にできるはず。とはいえ、新鮮なタコの内臓を手に入れるのは困難ではあるので漁師以外には釣り人の特権料理ともいえます。
それを考えると、価値の転換が行われて、タコの道具汁は高級料理なのかもしれませんね。
マダコの下処理。「道具」こと内臓はしっかりボイルするのがよさげ
こちらが沖上がり時のマダコ達。最大が2キロ強。全員の眉間あたりに刃をいれて締めようとするも、タコってだいたい頑強に抵抗しますよね。なかなか死なない。生命力が強い。
持ち帰る際はイカ同様真水にあたらないように、ビニール袋につめて氷で冷やして。
こちら釣行翌日のマダコ達。色素が抜けていますが、押すと色が点滅します。細胞は生きているのでしょう。
こやつがデカかった。その他4杯を合わせてちょうどこの巨大マダコと同じくらいの重さだったような。タコはだいたい1年が寿命といわれているものの、6月の海でも生き残り個体と思われる3~5キロ級のサイズもいるようでそんなデカイのも釣ってみたい。
眼はくりぬいておきましょう。
これ注意なんですが、イカ同様、眼を雑につぶすと真蛸炸裂衝を放ってきまして周囲2メートル強に目玉汁が飛び散ります。今回も下処理後にかなり離れたところの壁紙に炸裂していました。早めに気づけば濡れ布巾などでてぬぐえますが、染みついたものは落ちにくいですからね。お互い気をつけましょう。
あとは、タコの頭というか胴体をひっくりかえす。
くるりんぱ。
するとこのように内臓一式がゲットできます。
くるりんぱ。とか表現すると、すぐにとれるように思えますが、デカタコほど身があつくしっかりしています。なので、身との接合部分は調理バサミなどで切り離していくと上手くいきますよ。
下処理は完了。
デロリアン。
タコも頭をぬいてこうしてバットに入れてしまえばおさまりがよいのが魚と違うとこです。軟体だなー。
道具こと内臓類は安日本酒筑後盛に漬け込んでおきました。鬼ころしとかでもよいと思います。そんな高い酒をつかわなくてもおけまるでしょう。
身は塩もみしてゆでる手法がありますが、個人的には冷凍してからぬめりをとってゆでるのが柔らかく仕上がるのでお手軽だなーと思っています。
マダコの「道具汁」をつくる
続いて、道具汁の仕上げをば。
シンプルに仕上げる場合は長ネギとタコの内臓あたりでよいんだと思うんですが、お好みで根菜やキノコをいれると温まってよいと思います。基本豚汁にいれるような材料はだいたい合います。
こんにゃくは手でちぎっておくと味がしみこみやすいのでよいですよ。食感もよくなる。
日本酒につけこんだ内臓がこちら。実際の調理は釣行日翌々日におこなってますが、筑後盛の霊力というか結界というか成分で肝臓あたりもぐずぐずにならないでいますね。
塩をひとつまみと、生姜スライスを一枚いれた熱湯で湯がく。
茹で時間なんですが、実際にやってみてわかったのはしっかりボイルしたほうがいいんじゃないかなという点です。
いわゆるハードボイルドってやつですよ。
わたしはレア目にしてしまった。
するとこうなる。
肝臓類がしっかり固まるまではゆでたほうがいいでしょう。これはこれで汁に旨みがひろがってええやんけという話ではあるんですが、醤油系ですまし気味につくるのであればしっかりゆでて固めるとよいんだと思います。
内臓は調理バサミで小さく切り分けておく。なんだかおぞましいビジュアルですね。
鍋に真昆布+みりん+筑後盛+東肥赤酒でとった出汁をはり、野菜をさっと炊く。
ここでタコの内臓をいれておしまい。でもよいんですが魚系の出汁があったほうが明確に味に深みが出るので、躊躇なくほんだしでもかましておきましょう。しょっつるやナンプラーをじょばじょばしてもよいと思います。
あとは切り刻んでおいたタコの内臓を投入。
全体的に火を入れる。タコの内臓の墨袋がついているので、汁が暗黒属性を帯びていますね・・・
味付けはしょうゆが一般的なようですが、個人的には味噌だろうなという判断を下しました。
仙台赤みそ+西京味噌+赤だしの三位一体説。
味噌濾しは便利なのでみんなも買って使うとよいと思います。オススメ。
味噌は風味が飛ばないように火をとめてから溶かし入れて、全体的になじんだらフィニッシュ。材料がそろっていれば10分程度で仕上がると思います。
盛り付けは小葱と水菜で。小葱がかなり厚切りジェイソン。
七味唐辛子がよく似合う装い。
UPでみせたろか?
これはたぶんエラ部分だな。
臭みなく滋味あふれる味わい。
これは不明。墨袋などがくっついている。
汁をすすると、身体に染み渡るような旨さ。ハイブリッド味噌仕立てにしたので、豚汁のような味わいのような気も。
食べていると体全体が温まり、なんとも有難いなと。
否が応でも、命をいただいている感がする料理。
これは精莢かな。
あっという間に完食して3杯おかわりしました。
ありがたやありがたや。ああ、ありがたや。
マダコよ、お前たちは今日からわたしと一緒に生きるのだ。
ということで、食べるとなんだかハートが強くなった気がする料理、それがタコの道具汁です。
東京湾のタコ釣りでいうと、12月前にお正月タコ用の船がでるはずなので、そこで獲ったタコをつかって寒い時期にすするのがたぶん最強です。
みんなも試してみてね。
ではでは。
平田(@tsuyoshi_hirata)
関連記事
▼道具汁のしょうゆ仕立てはこちら