みなさん、こんにちは。千葉の本宅を離れ、もっか単身赴任中のサラリーマン・アングラー釣人割烹です。
4月に大阪に来て、どうしてもやりたい釣りがありました。
チヌの落とし込み釣りです。
筆者は2019年の春、平成から令和に変わるころにこの釣りをはじめました。
ところが、その年の秋に千葉県の某所でチヌ(黒鯛)を狙っている最中、テトラポッドから滑落。
九死に一生を得るという大事故を経験。
それ以来、落とし込み釣りを封印してきたのです。
しかし、関西はチヌ釣りが盛ん。
もはやテトラポッドには怖くて乗れないが、足場のしっかりしたところで、もう一度やってみたい。
せっかく大阪へいくのに、チヌをやらないなんて考えられない……今年2月に大阪転勤を告げられて以降、チヌ熱が再発しました。
今回は事故の反省と周到な準備を経て、チヌ釣りの封印を解く話です。
古いサクラの竿を衝動買いしていた
チヌの落とし込み釣りには、長竿で岸から前方を狙う「前打ち釣り」と、短竿で岸壁や堤防の壁ぎわ(へち)に餌を落としていく「へち釣り」があります。
筆者は「前打ち竿」と「へち竿」を1本ずつ持っています。
このうち、もっぱら前打ちでチヌを釣っていたので、へち竿は1度も使わずに家の中で眠っていました。
この竿、中古ショップで買った「SAKURA」(櫻井釣漁具)の高級竿「大江戸」シリーズ。
2本継ぎの6尺半(2.1m)です。
元竿にクギで彫ったような「大江戸」の文字。ひじ当てなし
最初に見たとき不思議な竿だなと思いました。
リールシートが竿尻にあり、今のへち竿に標準装備の「ひじ当て」なし。
グラスソリッド(中身の詰まったガラス繊維)の穂先は極細で柔らかく、ペナンペナンとやわな感じ。これで果たしてチヌを掛け、主導権をとれるのかと心細くなります。
いかにも古いスタイルの竿でしたが、見たところ無傷で未使用品。
しかも憧れの「SAKURA」ブランドです。
チヌを掛けたらどんな感じなのかと好奇心を刺激されて購入しました。
同社の公式サイトで調べましたが、すでに廃版で竿の詳細は不明。衝動買いでした。
大阪転勤を機に、この竿でチヌをとってみたい。
単身赴任直前の今年3月、竿の特性を詳しく聞こうと、竿を持って製造・販売元の櫻井釣漁具を訪ねました。
同社は、1888(明治21)年に創業した世界一古いロッド・メーカーで、素晴らしい和竿を作ってきました。
今も大手メーカーにひけをとらない優れた現代竿も多数世に送り出し、「SAKURA」は知る人ぞ知る人気ブランドです。
故きを温ねて新しきを知る。サクラ・金剛大潮スミイカ
竿を製造元へ持ち込んだ
東京・神田の雑居ビルの地下にある同社の本店は、空気がひんやりとして静まり返っています。
「SAKURA」ブランドの高級竿をずらりと並べる一方、竹やグラス、カーボンなど竿の素材がそこらじゅうにあふれ、店舗というよりは工房。
この雰囲気、なかなかいい。
運よく、同社工場長の飯田さんがいました。
竿を渡すと、手にするなり「なつかしいなぁ!」と言う。
「詳しいことはすぐには分かりませんが、これは昭和30年代の竿だと思います」
なんと! 筆者が生まれる前の竿だったのか。
「穂先が柔らかすぎませんかね?」
「そうですねぇ。昔はこんな調子が主流でしたが(チヌを掛けたら)ちょっとつらいかもしれませんね」
「やっぱり……」
「少し時間をいただけますか?替え穂を作ってみます」
「もちろん!よろしくお願いします」
工房のような店の奥で作業する工場長の飯田さん
飯田さんは山ほどある竿の素材から1本のカーボンチューブラー(中が空洞の炭素繊維)の穂先を選ぶと、店の奥で工作機を動かし、加工をスタート。
・・・
・・・
・・・
30分後、筆者の前にやってきました。
「これでどうですかね」
替え穂は三つのパーツからなります。
穂先は長さ30cmほどで、先端はチヌで使う道糸のナイロン2号とほぼ同じ細さ。
これを、長さ50cmほどの穂持ちに差し込む。
さらに穂持ちの根もとの継ぎ部分には、強化のために短いカーボン製の部材(印籠)を差し込む。穂先にはガイドがついていますが、穂持ちにはないので自分でつけます。
替え穂は三つのパーツからなる
飯田さんは替え穂を元竿に差すと、穂先を天井に何度も押しつけ、曲がりや腰の強さを入念にチェックします。
「どうですか? これならやれると思いますよ」
「ありがとうございます。いい感じですね!」
替え穂の三つのパーツと、穂持ちにのせるガイド4個、それを固定するスレッド(糸)も含めて、しめて約3000円。
ガイドをつける間隔も教えてもらいました。
替え穂の穂先は繊細そのもの。太さはオレンジ色のナイロン2.5号と変わらない
半世紀以上前の竿が、職人技でアップデートされたぞ!
これは唯一無二、自分用にカスタマイズされた高級ブランド「SAKURA」のへち竿だぞ!
これはウキウキしますね。
はい、これが、釣りでいまだに「中二病」をわずらう50代半ばのおっさんの実態です。
替え穂を仕上げる
3月後半~4月前半は目が回るような忙しさ。
単身赴任に伴う後任への引き継ぎ、週末ごとの送別釣行、荷物出し、新居へ引っ越し、大阪での前任者からの引き継ぎ……。
その合間に時間を見つけて替え穂の工作を進めます。
まず、瞬間強力接着剤で穂先と穂持ちをがっちり接続し、継ぎ目強化のため穂持ちにスレッドを巻いて接着剤で固める。
同様に、穂持ちの根もとを補強する印籠にもたっぷり接着剤を塗って差し固める。
接着剤が乾いたら、穂持ち部分全体に黒の「新うるし」を塗る。
これは合成うるしです。
本うるしを乾かすには湿り気が必要で「室(むろ)」と呼ばれる湿度を保った密閉空間に入れなければなりませんが、合成うるしは室内で放っとけば24時間で乾く。
大きな釣具店なら売っています。
新うるしは「薄め液」に溶き、百円ショップで売る安物の絵筆で塗ります。
新うるしを2昼夜かけて2度塗り。乾いたら水に濡らした目の細かい紙やすりで軽くこすって塗りむらをならす。
そして液体研磨剤(フグ印「コータク」)を含ませた布で入念に磨き、光沢を出します。
そして、いよいよ穂持ちにガイドをのせます。
ゆっくり乾くエポキシ接着剤で仮止めし、息を詰めてスレッドを慎重に巻く。
強度を出すため二重に巻き、瞬間接着剤で固めます。最大のポイントはガイドの向きをそろえること。ずれたら直すのが手間です。
ガイドを仮止めしてスレッドを巻く。楽しいオトナの工作
最後に、穂先に合わせてガイドに黄色の新うるしを塗る。
この塗りが筆者は苦手です。
ガイドを固定するスレッドは美しく巻けるのに、最後の塗りでぶち壊し。
嗚呼……。まぁよしとする。下手な塗りもカスタマイズの一種。以上、オトナの楽しい工作でした。
塗りが美しくないぞ(泣)
もとのグラスソリッドの穂先とアップデートされた新しい穂先に15号オモリをぶら下げ、曲がり方を比べてみました。
もともとの穂先は真ん中からグニャリと曲がります。替え穂は先端こそ繊細ですが、穂持ちの部分は粘りと強さを保っています。
曲がり方はこんなに違う。左側の替え穂は中空(チューブラー)だ
まずはこの竿でチヌを1枚とりたい。どこへ行くか。
転勤の直前、チヌ釣りに詳しい櫻井釣漁具神田本店の「イッシー」こと石川店長から「武庫川一文字」を勧められていました。
通称「ムコイチ」。
兵庫県の尼崎市と西宮市を分かつ武庫川の河口の先約1.5kmに、横一文字に延びる長さ約4kmの沖堤防です。
この「ムコイチ」は関東の黒鯛師も「一度は行ってみたい」と思うチヌ釣りの聖地の一つなのだと思います。
武庫川一文字(ムコイチ)に初めて乗る
5月末の午前9時すぎ。改造チヌ竿を手にクーラーボックスを積んだキャリーを引き、自宅から徒歩で梅田駅へ向かいます。
梅田から武庫川までは阪神電車で20分ほど。駅からタクシーで「武庫川渡船」を目指しました。
武庫川一文字は関西で有名なチヌ釣りの聖地の一つだ
ムコイチの人気はなかなかすごい。
チヌだけでなくメジロ(ブリ。関東ではワラサ)などの青物やシーバス、タコ、アジ、サバ……といろいろ釣れます。
家を出る前に船宿へ電話すると、午前5時の最初の渡しを目指して前日の夕方から人が並び、午前2時には締め切ったという。新型コロナの影響で渡す人数を制限しているとも。
「昼に堤防から戻る人がいれば渡すが、来ても渡れる保証はない」と言われました。
なんと、そうなのか!
家を出る前から萎えそうになりましたが、イチかバチか行くしかない。チヌを釣る前に、ムコイチに渡ることが目標です。
武庫川駅からタクシーで船宿の武庫川渡船へ。
「昼前に船が出ますよ」というひと言にホッとしました。
河口の桟橋から沖堤まで10分ほど。沖堤は約4kmで東西に延び、東側は少し南にカーブ。何しろポイントが分からない。
最初に船が着く2番から乗りました。
武庫川一文字のロケーション
久しぶりの沖堤は爽快です。
武庫川の東は尼崎市。西は西宮市、芦屋市と続き、その向こうに神戸市の六甲アイランドが霞んで見える。
堤防は沖側が高くなっていて足場の幅は狭く、ハシゴを登って海面を見下ろすと目がくらみます。いかにもチヌが釣れそうですが、長さ6mのタモが必要です。内側は低くて広々としています。
武庫川一文字の東側の風景
きょうは事故から1年8カ月ぶりにチヌへち釣りの封印を解きます。
内側でも釣れると聞いているので、ここは大人しく内側を狙います。タモの柄は4mでお釣りがくる。もちろん、腰に巻くタイプの救命具をつけています。
沖堤に乗ってしばらくは歩き回ったり、クーラーボックスに腰をかけてボーッとしたり。
いざ来てみると久しぶりの釣りで感覚が戻らず、集中力がわかないという。
快晴で海風が涼しく、釣りがどうでもよく思えました。
堤にはけっこう釣りびとがいますが、チヌ師は多くない。
アジやイワシのサビキ釣りを楽しむ家族連れ、眉間にシワを寄せてシーバスや青物を狙うルアーマンが多いようです。
ああ、痛恨のバラし
さて、と。
まずは水面下のケーソンをびっしり覆うイ貝を器具でかき取って、餌を確保。
仕掛けは関東スタイルです。釣具店で勧められた目印は使わず、道糸のふけの変化でアタリを取ります。
その道糸はオレンジのナイロン2.5号。これにフロロカーボン1.5号のハリス1.5mを直結します。針は「がまかつチヌ(黒)」2号。
チモト近くにガン玉(2B)を打ち、イ貝をつけて投入します。
堤防の端に立ち、壁ぎわにイ貝を落としていく。
2回落として3m移動し、また落とす。
水深は7mほど。タナが分からないので5mほど落とし込みます。
どんどん落とし、どんどん歩く。
しかし、開始から数時間、まったくアタリがありません。餌にも異変なし。
ヘチ釣り復活。
アタリは出ず。ヘチ!
ヘチ!
ヘチ! pic.twitter.com/xqvsvq90ju— ちょうじんかっぽう (@chojinkappou) May 30, 2021
まったく釣れる気がしない。
魚はいるのかと疑心暗鬼になります。
太陽がだいぶ低くなった午後4時すぎ、ふいに道糸に違和感。
「あっ!」と合わせを入れましたが、針は魚にかすらず。
しかし、貝が潰されている。
https://twitter.com/tsuribitokappou/status/1398934592053145600やられた……しかし魚はいる!
これでこの日初めて、集中力のスイッチが入ります。
魚は浮いている。
1ヒロ(1.5m)を集中的に探り、移動速度が上がります。雑念が消え、糸ふけに集中する。
ああ、これだ、これ……昔の感覚がよみがえってきます。
午後5時半近く。
ビシッ!
いきなりラインが突っ張り、竿が曲がる。
掛けた!
しばらくやり取りするうちに銀色の魚体が水面に浮く。
しかし次の瞬間、針が抜けました。
合わせが不十分。これは無念……。
帰りの最後の渡船が午後6時なので、残念ながらこの日はここまで。
きびしいリハビリの一日でしたが、手に魚の感触が残っている。次につながりました。
2度目のムコイチでついにリベンジ
6月最初の週末に再びムコイチへ。
前回と同じく昼ごろ、沖堤西よりの5番から乗ると、ツイッターでやり取りするフォロワーさんと出会いました。
彼は「えび撒き釣り」でシーバスを2本とって帰るところ。
武庫川一文字へ渡す船宿の一つ「武庫川渡船」
きょうも狙いは堤の内側。
5番の渡し場を中心にヘチを釣り歩きましたが、夕まずめの時間帯に遠く、アタリがなかなか出ません。
午後3時半ごろ、釣った魚をフィッシュグリップで下げたチヌ師とすれ違い、あいさつすると「西側で魚の活性が上がっている」と教えてくれたのです。
餌はイガイの団子がよいと。
なるほど。そこで場所を大きく移動します。
見ると、沖堤の高くなった場所でチヌ師が多数陣取り、竿が曲がっているようです。
残念ながら柄の短いタモしか持ち合わせておらず、外側は狙えません。
内側を狙います。ひたすら歩き、ひたすら落とす。チヌの気配が漂います。
午後4時すぎ。
ズドン!
いきなり竿が曲がりました。
来た!
体の真ん中を走る衝撃。
竿尻を握り、タイコリール(プロマリン「バトルフィールド」)を親指でぎゅっと押さえながらしっかり合わせる。
引き込みに耐え、強く引くときはグッと腰を落として……
やばい、やばい。楽しすぎる!
堤のヘチぎわに深く潜られるとラインがこすれる。
しっかり浮かせ、沖へ走らせることに。
穂先は繊細ですが、穂持ちから下は粘りがある。
改造でアップデートされた「大江戸」が、しっかり魚をコントロールしている!
力尽きて浮いたところをタモでキャッチ。針は上くちびるにしっかり刺さっていました。
久しぶりのチヌは43cmあった
1年8カ月ぶりのチヌ。
2日がかりで改造竿に入魂し、ヘチ釣りの封印を解きました。
チヌ釣りで自分の慢心から死にかけた場面がよみがえり、胸にこみ上げるものがありました。
この1枚をストリンガーで生かし、最終渡船まで粘って内側のヘチを攻めましたが、追加ならず。
この日はトータルで5アタリ3バラし1キャッチ。
下手すぎて情けないのですが、ギンギンの引き込みを久しぶりに味わい、自分的には大満足な一日でした。
この改造竿を武器に、本格的にへち釣りの腕を磨くつもりです。
チヌをさばいて味わう
「釣人割烹」を名乗る筆者は、よほどのことがない限り、釣った魚を持ち帰って、ありがたくいただきます。
チヌは雑食です。
冬~春は小さな岩蟹で釣りますが、春の終わりから初夏にかけて堤防にイ貝がつきはじめると、チヌはこれを食いまくる。
こうなるとイガイが特餌になります。
魚の胃袋チェックは釣り人の基本。
ムコイチで釣ったチヌをさばくと、胃袋が大変なことになっていました。イガイの殻で胃袋が破けそうです。
胃袋(左)と中を開けたところ(右)。この殻をどうやって外へ出すのか
ところで、チヌはまことに美味なのですが、東京や大阪の湾奥、都市河川の河口を泳ぐチヌにはくさみがあります。
ムコイチのチヌも、釣り上げて手にとった瞬間、かすかなニオイを感じました。
あまりにも臭いのきつい魚はリリースしてお帰りいただきますが、この程度なら筆者はしっかりといただきます。
臭いのするチヌをどう扱うか。
筆者のやり方をツイッターで公開しました。食べるかどうかは各自の判断ですが、参考にしてください。
【永久保存版!?第2弾】湾奥チヌをおいしくいただく方法
黒鯛は悪食(あくじき)で生命力強く、汚れ切った環境でもたくましく生き抜く。東京湾や大阪湾の湾奥や都市河川(ざっくり言えばドブ川)で釣れる黒鯛は臭いのきつい個体が多い。「とてもじゃないが食えない」という人も多いだろう。(↓)
— ちょうじんかっぽう (@chojinkappou) June 7, 2021
実際、きちんと「くさみ対策」をしてさばいたムコイチのチヌを刺身でいただきましたが、まったく臭いはなし。
黒鯛刺身紅葉おろしポン酢
脂がのって濃厚、極上でした。
臭いや化学物質に過敏な方は控えたほうがよいですが、チヌは刺身ならポン酢でいただくか、酢でひと晩締めたり、煮たり焼いたりすることで、おいしくいただけると思います。
それでは、また!
釣人割烹@tsuribitokappou