ORETSURIをご覧のみなさん、こんにちは。サラリーマン・アングラーの釣人割烹です。
12月の真ん中の土曜日に、東京湾の木更津沖でシロギスを攻めました。
一般にシロギスは水温が上がる初夏になると浅場へのっこんできて荒食いし、砂浜や堤防から簡単に釣れます。手漕ぎボートなら数も狙える。しかし、晩秋から初冬にかけては沖の深場へ移動し、活性も低くなっていきます。
この「落ちギス」攻略は、筆者にとって年間のサイクルで最も楽しい釣りの一つです。今回は、その魅力について実況、解説していきます。
羽田から一路、木更津沖へ
釣行の当日。暗いうちに家を出て、眠気を覚えつつ始発電車へ。
今回の釣行で利用する船宿は、多摩川河口の羽田にある「かめだや」。出船は午前7時半。電車釣行は疲れないのでありがたい。JR蒲田駅の交番前で午前7時、宿の送迎用ワゴン車に乗りました。
筆者にとって落ちギス狙いは「船からのちょい投げ釣り」です。潮先か、潮ケツかという要素を考えなければ、釣り座で最も有利なのは広範囲を探れる両ドモ。次によいのはミヨシでしょうか。
あいにく今回は左舷の胴の間。とはいっても、大きな船に客が7人。
これは、のびのびとやれそうです。
「では、行きますね~」
午前7時半に出船。60代半ばとおぼしき船長は穏やかな笑顔を絶やさず、物腰も言葉遣いも柔らかです。初めて利用しますが、とても感じのよい船宿です。
目指すは千葉の木更津沖で、所要時間は羽田から40分ほど。2本竿を準備し、あとはつかの間のクルージング。船の心地よい揺れに身を任せ、少しうつらうつら……。
一定の速さで走ってきた船が急にスピードを落として、振動の種類が変わるあの瞬間。
おっ、着いたか。
木更津の工業地帯が、朝もやにかすんで見えます。船は力強いエンジン音を響かせ、ぐるぐる回りながらポイントを探しています。こうなると、いつものことながらパチッと目が覚め、むくむく戦闘意欲が湧いてきますな。
この時期のキスは夏に比べて活性が高くないので、待っていても「ブルブルッ」というアタリはなかなか出ません。ならばこちらから積極的に誘い、アタリを出し、針にかけていこう、というのが落ちギス釣りです。
筆者はこれまで、投げて底をズル引く天秤仕掛けより、船下を中心にエサをしっかり動かせる胴突き1本針で勝負してきました。
しかし、きょうは天秤仕掛けでやります。そう。筆者が自作した「シロギス必殺アームフロート天秤1号」(略して「必殺天秤」)を実戦投入するわけです。
これが「必殺天秤」だ
フロート玉をつけた腕が水中でしっかり立ち、エサが浮き気味になってシロギスにしっかりアピールする、という計算。詳しくはこの「必殺天秤」の作り方を紹介した記事でご確認ください。
スタートは激シブ、キスの機嫌が悪く「沈黙の釣り船」状態
「はい、ど~ぞ~。(水深は)18mくらいね」
期待が膨らむ第一投。
まずは1本目の竿で自作の標準天秤を使った仕掛けを船下に落とし、船べりに固定して置き竿に。そして、もう1本、手持ちの竿に必殺天秤の仕掛けをぶら下げて、遠投。
2本とも天秤の先はハリス1号60cmと30cmの「振り分け式2本針」です。
まずは1匹とらなければ。
………。
………。
………。
あれ? 生命反応がないぞ。
いったい何回キャストしたでしょうか。底をサビく竿先に「モワッ」とした違和感。落ちギス独特の微弱なアタリが出ました。釣れたのは10㎝ほどのピンギス。う~む、きょうは魚にやる気がないのだろうか。
「あげてくださ~い」
小1時間ほど何度か流し変えましたが、釣れたのは「おまえ、マハゼか?」といいたくなるようなピンギス2匹。足もとのバケツで元気に泳いでいますが、船内はボウズの客も多く、まるでお通夜だな。
それでも、別のポイントへ大きく移動するとポツリ、ポツリ反応が出始めました。
道糸を常にゼロ~プラステンションに保ち、スイッと竿を小さくしゃくって数秒待ちます。反応がなければ竿を戻し、たるんだ糸を巻く。
スイッ、待ち。戻し、巻き。
スイッ、待ち。戻し、巻き。
この4拍子で魚を誘います。
グンッ
おっ。しゃくりで急に重みが乗りました。アタリは感じ取れませんでしたが、竿を大きく曲げて上がってきたのは良型。落ちギスらしく丸々と太っています。よし!
前アタリで合わせた完ぺきな針がかり。手が合うと飲まれず、手返しが早くなる
手持ちの竿で落ちギスをかけるパターンは、以下の通り。
- 微弱な違和感(前アタリ)で聞き合わせを入れる
- アタリはまるで感じられないが、魚が居食いで口にエサを吸い込んだのと、しゃくりのタイミングが合って針にかかる
- 「プルッ」という明確なアタリで合わせを入れる
この日、滑りだしから前半は①~③が5:4:1くらいでした。
おっと。今度は置き竿に変化。
穂先が一瞬、ヒュンと引き込まれ。ここは手持ちの竿をわきに置き、さっと持ち替えて大きく合わせます。上がってきたのは中型ですが、これもブリブリ太っています。いいね!
置き竿のタナは、天秤のオモリが船の揺れに合わせてトーン、トーンと底を打つように調整しています。海底をサビく手持ちの竿は「手感度」でアタリを取る一方、置き竿は「目感度」が頼り。ひんぱんに穂先を見ます。
置き竿に異変が出たとき、手持ちの竿を扱っていて持ち替えられないときは、竿をロッドキーパーに固定したまま片手でひょいと持ち上げ、合わせを入れておきましょう。このひと手間で針がかりさせておけば、あとでゆっくり取り込めます。なにしろ、置き竿で落ちギスがいきなりエサを飲み、向こうがかりする確率はそんなに高くありません。
シロギスは海の底で群れています。夏のボート釣りと同じく、道糸の色や海面との角度でアタリがあった場所を推定し、そこへどんどん投げ、探っていきます。
サイズがアップし、ペースが少し上がりました。しかしこの日に限らず、落ちギスは概して渋いもの。まぁこんなものでしょう。
自作の必殺天秤。シロギス釣りでの意外な効果とは?
さて、自作の必殺天秤の話です。
その威力はいったいどれほどなのか。
実釣開始から、遠投する必殺天秤がポツポツ魚をキャッチしています。しかし、同じ条件のもとで自作の標準天秤と比べてみないことには、効果は何とも言えません。標準型の方が釣れたりするかもしれない。
今回の釣行で、きちんと条件をそろえて両者の釣果を比べ、必殺効果を検証しようと思っていた………のですが、魚の活性が上がって手返しが忙しくなるにつれ、検証意欲がうせてきました。ま、おれは釣り具メーカーのテスターじゃないしな……。
それでも、おおざっぱに効果を確かめるために、途中から、「標準天秤→手持ちで遠投」「必殺天秤→置き竿で船下」と、攻守を入れ替えてみました。
2本竿とも自作天秤。右の和竿は「必殺」、左は「標準」
魚を正確に数えたわけではなく、あくまで印象ですが、投げても、置いても必殺天秤の方に魚がよくかかります。「こりゃ有意の差がある。合格!」と筆者は早々に断定(笑)。1時間足らずで攻守をもとに戻し、必殺の方を投げて索敵します。
この天秤には実はもう一つ、大きなメリットがありました。
仕掛けが絡まないのです。
船からのキャストは、下手投げが基本ですし、多くの船でオーバーキャストは禁止です。シロギス釣りの場合、筆者の投げ方は次の通り。
- 右手の人差し指にラインをかけ、スピニングリールのベールを外す。
- 上半身を船べりから乗り出し、真下へ竿をダラリとぶら下げる。オモリの垂らしはトップガイドから30cmほど
- やおら勢いよく竿を前方へ降り出す。しなる竿の腰にオモリをのせて、前方斜め上にはね飛ばす感覚
- 風による糸ふけを減らし、隣とのオマツリを防ぐために、竿先を海面に近づけるか、海中に入れてしまう。
これで3、40mは楽勝で投げることができます。
慣れないうちは投げた直後や着水時に仕掛けが絡み、その状態のまま無意味にアタリを待つ、という失敗を重ねました。でも今は、投げた直後の天秤やオモリ、仕掛けの様子を見て「これは絡むな」と分かり、巻き戻して投げ直します。
それでも何十回と投げれば何度か絡んでしまい、ほどくか仕掛けを交換する。これで確実に時間をロスします。
ところが必殺天秤は、多少雑に投げてもぜんぜん絡みません。水中に落ちた瞬間からオモリが下、腕が上を向き、きれいな形で沈んでいくことは風呂場で実験済みです。それだけでなく、どうやら空中を飛んでいる姿勢も安定しているようです。まさに、オマツリフリーでストレスフリー!
絡まないというメリット、実は天秤の「エサを浮き気味にして魚を誘う」効果と同じか、それ以上に重要な要素だと思います。釣果とは「食わせ」と「手返し」のかけ算。食わせられなければ問題外ですが、うまく食わせても取り込みから再投入の作業でもたついていると、数は伸びません。
この日、前半は風もなく、海は穏やかでしたが、昼前から風が出てきました。この展開で必殺天秤がさらに真価を発揮することになります。
強風でシロギスの活性が高まり入れ食いに
風が出てきたな、と思ったのは午前11時を過ぎたあたり。まもなく猛烈な南西風が吹き荒れ始めました。船長に話しかけても言葉がちぎれて飛んでいき、まともに伝わらない。
こうなると、竿が常に風をはらんで震え、落ちギスの微弱な前アタリを感じるどころの話ではなくなります。明確なアタリすらわからないありさま。まともな釣りにならず、早上がりになっても不思議ではありません。
「ついてないなぁ」と落ち込みました。この段階で数え直すと34匹。家族で天ぷらを楽しむには十分です。本当に激渋で20匹に届くかどうか、という日もある。それを思えば「足るを知れ」ということか。でも、この日は比較的魚と手が合っているので、海が穏やかだったら50匹に届くかもしれません。あぁ、最後までやり抜きたい……。
ところが、どっこい。
まったく予想もしない、驚くべき展開が待っていました。うねりも出てきて海が白く泡立ち、いつ早上がりの合図が出てもおかしくないなか、突如として落ちギスの「猛烈バクバクタイム」が始まったのです!
風で道糸がふけ、隣とオマツリしかねないため近くに必殺天秤をポチャンと落とすのが精いっぱい。アタリどころか着底の手応えもわからず、道糸が止まったところで竿を立て、糸を張る。そこから少しズル引くと、竿が弓なりに曲がります。
強風吹き荒れ、うねりまくる海で魚のスイッチが入った!
上がってくるのは20㎝前後の良型ばかり。途中で置き竿を片付け、1本竿に集中します。サバがかかったかと思うほどの引き込みがあり、上げると良型のダブルでした。
「船長、入れ食いだ!これで早上がりはないですよね?」。大声で言うと、船長から「やるよ!」と返ってきました。よっしゃ、あんたが船長でよかった!
容赦ない風を突いて次々に上がってくるデカい落ちギスは、ほっそり痩せた小型の夏ギスとは別種の魚かと思えます。
午後2時半すぎ。
「それじゃあね、もっとうねりが出そうなので、少し早く上がりますね~」
船長からアナウンスがあったとき、ゴツンという手応えがあり、竿が曲がりました。上がってきたのは、この日最大の24cm。
海というのは本当に分かりません。強風と食いに何か関係があるのか。風は海の底と無関係で、単に潮の加減や時合いだったということなのか。1匹が2本針を両方とも飲んで釣れてくるパターンも何度かありました。何らかの原因で魚たちの自爆スイッチが入ったというか、気でも狂ったかという食い方で、いつもの渋い駆け引きとは異次元の反応でした。
最後に数えると67匹。風が吹き荒れるなか、1本竿で43匹を積み上げました。もう何も思い残すことはない、という心境です。
この強風のなか、手返しを支えてくれたのが必殺天秤です。実釣開始から沖上がりまでキャストに伴う手前マツリはゼロ。筆者にとって欠かせない武器となりました。
ちなみに、この日の竿がしらは77匹。筆者の左隣、左舷トモで釣っていた初老の釣り客でした。この客も2本竿でしたが、いわゆる「両手持ち」の構え。「おぬし、できるな」というオーラを静かに漂わせ、微妙な前アタリに的確に対応している様子でした。なるほどね。両手持ちもマスターしたいもの。
東京湾の落ちギスの魅力は型が大きく、脂がたっぷりのっていること。家に戻って改めて調べると、20cm超えが16匹、18cm超えが過半数を占めました。真夏の手漕ぎボートでは、100匹釣っても20cmを超えるのは1匹あるかどうか。
この日は24cmをアタマに20cm超えが16匹!
夢のような「落ちギスの入れ食い」にシビれた一日。こんな日はもう来ないかもしれませんが、次はいつやろうか、とそわそわしています。
では!
寄稿者
釣人割烹