今回はキダイをつかってつくった「清蒸」の話。
「キダイ」と聞いたときに、「あーキダイねー」と思ったあなたは、水深100mぐらいの船釣りをやったことがある人なんじゃないでしょうか。お天道様は見逃しても、わたしの眼鏡は見逃しませんよ。
「おー、キダイ旨いよね!」じゃなくて、基本的に海に帰す対象としての存在。
深場から上がってくるため、小型のキダイは浮袋が膨らんで眼も飛び出ている状態。リリースされても、それはカモメの餌に。
みていると、良型カモメがとびかかってキャッチ。が、「おま、それ飲み込めないだろ」と思っていたら、どこかにもっていったり。陸地まで運ぶのかな。てか棘大丈夫なのかな。とか思ったり。
そんなキダイは砂泥底にすんごい量で群れているからよく釣れるんですよね。それも手のひら大やその半分くらいの個体が中心で。
が、このキダイもまれに型がいいのが釣れるという。
沖の瀬で釣ったキダイ。美しすぎる
この通り。30㎝級のキダイです。
このぐらいのサイズになってくると、魚に貴賤をつけがちな船釣りでも、ちゃんと料理してみようかなーと思うんじゃないでしょうか。
キダイ自体は、やや水分が多めため塩焼き、酢締めなどに向いています。
が、かるく塩をふって冷蔵庫で低温熟成させてから「清蒸(チンジョン)」にするのがオススメなのです。
今回はそんな話です。
清蒸鮮魚とは
清蒸の素材としては白身で皮目がゼラチン質になるハタ類が珍重される
清蒸鮮魚をGoogle翻訳にいれてみると「Qīngzhēng xiānyú(チンジョンシェンユー)」と女性の合成音声が答えてくれるはずです。
そう、清蒸は中華料理なので中国語なわけですね。蒸の部分は「ジャン」と「ジョン」の中間のような発音なので、カタカナ表記は人それぞれ。チンジャンという人もいます。
中国や台湾や、華僑が展開した東南アジア圏にいくと、この清蒸鮮魚がよく見られます。といっても意外と高価なので、食べる機会が少ないかもしれません。
なぜ高価なのかというと、技法のコストはもちろんありながらも、素材の費用が高いからなんだと思います。
なにより鮮度が重視される料理です。水槽で活かしておいた魚や、とりたての鮮魚(市場から仕入れて数時間など)をつかって料理するからなんです。
水槽で活かしておいた魚を料理するなんて山岡史郎が物申しそうな話なんですが、それは刺身の話なんで、加熱するときはまた別なんでしょう。
清蒸鮮魚の素材としては、日本ではなじみがない淡水魚(ハクレンや草魚など)が用いられることもあるんですが、希少価値のあるハタ類がもっとも珍重されています。
これが時価だったり、g計算で提供されるんですが、ハタ類あたりはよく考えると一皿万円単位だったり。お金持ちがいるわけです。
美味しんぼの「香港味勝負」で香港の最高食材としてネズミハタが登場してくるんですが、あれなんていくらするんでしょうかね。
いずれにせよ「清蒸鮮魚」というだけあって、いかに新鮮な魚を蒸し上げて旨く仕立てるかがポイントになっています。
あと淡水魚の場合は、清水で活かすという一定の臭み抜き期間がありながらも、それでも残る独特の泥臭さを蒸し工程によってどう消すかも重要になってきたり。だから薬味としてショウガや青ネギや紹興酒などをつかうわけです。
最近ネットフリックスの「美味の起源」にハマっていて、甘粛料理・雲南料理・潮州料理とみてきて思ったんですが、中国の料理文化には、魚の熟成文化(干物・魚醤)はもちろんあるんですが、魚自体をある程度寝かせて生食や加熱調理して食べるという習慣はなさそうなんです。
では、低温熟成させて旨味を増やした魚を使って清蒸を作るとどうなるんでしょうか。
キダイで「清蒸熟成魚」を作る
熟成した魚の清蒸なので、「清蒸熟成魚」という名前にしてみたんですが、このあたりは和製中国語だと思ってください。
むしろわたしが今作ったので。
「清蒸成熟魚」や「清蒸老魚」というような表現もあると思うんですが、ネイティブではないのでわかりません。
昨今は猫も杓子も「熟成の一つ覚え」みたいな世の中になってきているので、熟成という文言をつけたほうがキャッチーだなと。
はい、素材は30㎝級のキダイです。
コマセ釣りでとったものなので、内臓の除去は早めにやりました。
劣化しやすい順に、アマダイ→カイワリ≒キダイ
あとはうろこ・エラ・血合いをしっかり除去して、ヒマラヤピンクソルトを全体に軽く振ってバットにならべて6日間。
毎日水分がキッチンペーパーに出てくるので、適宜変えつつ。準備OK。
キダイは実際の調理工程に進む前に、再度腹腔部分をふくめて全体にヒマラヤピンクソルトをすりこんでおきましょう。この下味漬けが全体のなじみ具合にもかかわると思います。
いつも清蒸といえば、イシモチで行うことが多いんですが、30㎝未満の小型魚は電子レンジ強を5分ほどやればできあがります。
今回はせっかくなのでフライパンで蒸すことに。
電子レンジよりは身がふんわり仕上がるような気がします。
フライパン、水、小皿、全体に塩をふってキダイ。
蒸し工程で臭みが強い魚や風味をつけたい場合は、ショウガ・青ネギなどを腹腔や下に敷いたりしますが、今回は不要と判断。
6日寝かしたとはいえ、なんら臭みがない透き通った香りがしていたからです。皿の形状によっては、魚体の下に薬味を敷くことで蒸気が回りやすくなります。
ここから蓋をして強火。沸騰したら中火で7、8分でOK。
ハタ類のように身が厚い魚はもう少し加熱したほうがよいと思うんですが、蒸せば蒸すほど魚から脂が落ち、身は硬くなります。
「趙欣瑠は蒸しあがったキダイの見た目と人差し指で軽く触ったときの感覚で絶妙な火の通り具合を判断する。魚のサイズや種類、その日の天候など、蒸し上げ時間は毎日変わる。この道35年の趙欣瑠は判断を誤らない。それが最高の清蒸を作り上げる」
はい、ネットフリックス「美味の起源」のアナウンスを真似してみました。
指で軽く身を触ってみると、たしかに身の弾力で加熱具合はわかります。あまりにも肉厚な魚は竹串で刺して汁が透明かどうかで判断するなどがあるんでしょう。
いずれにせよ、蒸しすぎないのが重要。このあたりは慣れです。
ラップして電子レンジ調理でもよいですが、レンジ強で5分から7分ぐらいが限度だと思います。
後は広い皿に蒸したキダイを乗せ、白髪ねぎをたっぷり飾る。
このとき、蒸しあげ時に皿にたまった魚の蒸し汁をソースにしてかけてあげるのも一つです。
<ソース>
- 魚の蒸し汁
- 紹興酒
- オイスターソース
- 中国醤油甘口or醤油+砂糖or九州甘醤油
- 葱油orガーリックオイル
- XO醤油
シンプルに仕上げるなら、蒸し汁+酒+醤油+オイスターソースでもよいと思います。
今回、ソースは作らずで、さらにヒマラヤピンクソルトをすりかけ、スタンバイOK。
あとは小鍋で油を熱する。
ゴマ油・サラダ油・ピーナッツ油・米油といろいろあります。ピーナッツ油が家庭にない家も多いと思うので、濃い口のごま油がおすすめです。
これを煙がでるぐらいまで熱しましょう。ガスコンロの場合安全装置をオフにするのをお忘れなく。換気扇もフルスロットルで。
で、火を止めた直後に、スライスにんにくとショウガを油にイン。
よし俺のターンエンド!と見せかけて、加熱しつづけるとにんにくが速攻で焦げ苦くなるので、すかさず2回攻撃で皿に盛りつけた魚の上から注ぐ。
油単体でもよいのですが、香味油にしておくと味に圧倒的なパンチが出てきます。
清蒸。 pic.twitter.com/RJ5jplxnZ1
— 平田剛士|ORETSURI(俺釣) (@tsuyoshi_hirata) January 19, 2021
煮えたぎる油により、じゅわっと、皮目と葱が変化。
にんにくがこれ以上焦げるとマー油状態になります。そう、苦くなる
できあがり。
この美しさ。
部屋に立ち上る香味油の香り。
さて、どんな味なんでしょうか。
骨離れがやけによい身を香味油につけつつ口に運ぶ。
・・・
フハッ!
き、キダイが化けおったわ。
あれだけ久しぶりに船酔いしたこともあり「もうキダイはいいやー」と船上でうんざりしていた男が「さて、次いつデカキダイ釣りにいくかね」とか思ったぐらいの衝撃。頭をキダイハンマーでぶん殴られたぐらいです。なにそれ。
そうですね、タコ社長よろしく現金な話ですが「一皿5,000円ぐらいの満足感」といえばわかりますでしょうか。
「男子、三日会わざれば刮目して見よ」云々という言葉あるわけですが、「黄鯛、6日寝かしたならば刮目して見よ」という言葉を作りたいぐらいの超絶美味。
ということで、あのキダイが高級料理に化けた瞬間に立ち会ってしまいました。
ふぅ。旨すぎた。思わず白飯をかきこんでしまったぜ。
で、この興奮をだれかに伝えたい。そう思って書いてみました。
ということで、みなさんも良型キダイが釣れたらしっかり処理して低温熟成させたうえで、「清蒸熟成魚」にしてみましょう。
よし、今週末の本命はキダイだ!
アマダイなんて飾りですよ(以下略)。
平田(@tsuyoshi_hirata)
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▼今回はシンプルにヒマラヤピンクソルトオンリーで仕上げているわけですが、油をかける工程の前に合わせたソースをかけるとさらに奥深い旨味を味わうことができます。XO醤は台湾澎湖産の海産物がゴロゴロ入っているのが超絶美味なのですが、あんまり売ってないんですよね。油ですか?四の五の言わずに「かどや銀印のデカボトル」を買ってしまいましょう。話はそれからです。