今回は鮮度落ちしてしまったアジでもかなり旨い干物に仕上げる方法をお送りする。最初に美味しんぼの「天日の贈り物(アジの干物)」について語る。ちょっとネタバレしてしまうので、ネタバレNGの人は最初はサクっとスルーして、実際の調理から読んでほしい。みんなオッケーだと思うけども。
美味しんぼの「天日の贈り物(アジの干物)」について
美味しんぼに「天日の贈り物」という回がある。
超絶パワハラ気性&猫好きの小泉編集局長が「パシャ」という血統のいい子猫を手に入れたものの、この猫が食べ物をなーんにも口にしなくて死んでしまうかもヤバスというのでテンションがダダ下がりという状態。
んでもって、元の飼い主から「アジの干物が大好物」という情報を得て、よーしってな具合で炙って与えたところ、猫はスルー。ぐわー、どうしよー、こまったぞみたいな流れで、山岡に依頼。当然山岡は「そんなん無理っすよ」みたいに回答したところ、「猫の気に入るアジの干物を探さないと減俸するぞ」という具合に干物さがしという謎の業務外労働をさせられることになってしまう。
おい、パワハラにも程があるぞ。労基署も仰天レべルやんけ、天下の東西新聞どうなってんだ。
それに、そもそもアジの干物って塩っ辛いから猫にあげるとよくないんじゃないか、今だったらネットの猫クラスター界隈で炎上まったなしだぞ。
っていうのはおいておいて、ストーリーは、アジの干物は天然のアジを刺身にできる品質で天日干しにするのが一番で大量生産の人工乾燥の干物は食えたもんじゃないし、猫も食わないよというように進む。
ラストに山岡が三種類のアジの干物を炙って出す。
- 養殖アジの人工乾燥干物
- 冷凍輸入アジの人工乾燥干物
- 天然アジの天日乾燥
すると、例の猫が一つだけ猫まっしぐらで食べる。ほんとかよ。贅沢かよ。っていう話。
釣り人であれば釣りたての鮮度がいい味を天日干しで干物にできる。
一方、釣りをしない限り、本当に新鮮なアジなんて手に入らない。スーパーで売られているものは数日たっているし、刺身で食べられるといっても釣り物には劣る。
でもスーパーの魚でも干物をもっとおいしくつくりたいという人はいると思う。
安心してほしい。
前置きがものすごく長くなったが、今回は、ちょっと鮮度が落ちてしまったアジを干物にしてみた話をお送りする。
下処理なしで5日目のアジを干物にしてみた
こちらは土曜日に釣った黄アジ。5人で分けた。
いつもはだいたい下処理してから持ち帰る。
それが、このときは下処理なしで持ち帰って家で処理しようと冷蔵庫に入れておいたら、子育てや子育てにかまけて、1日たち、2日たち…と、とうとう5日目になってしまった。無念。子育てとはそういったものなのだ。
しまった、どうしようと思って状態をみてみると、刺身で食べる状態はとっくに通り過ぎている様子。まー内臓もエラも出してないし当然だなと。
内臓は崩れ、身にヘタリがでている状態。
さて、どうしよう。
一番無難なのは三枚におろして揚げるという選択肢だなーと思いながらも、一つ思い浮かぶ方法があって、手早く下処理をして干物にしてみることに。
干物を作る際は、内臓が身につくのをさけるために、腹開きにすることが多い。
腹を開いて一斉に内臓とエラをぬいてから開きにすると工程をまとめられるので数をこなせる気もする。今回はとくにイッテしまっている内臓なので身肉にニオイを着けたくない。
以下の工程で進めた。
- 鱗とり
- 内臓(血合い含む)とエラと眼をぬく
- 腹開きにする
ひものには、塩を振る方法と塩水につける方法がある。
乾くまでの時間はかかるが、しっかり水分をぬいて全体に味をつけるという点では塩水が優れていると思う。それと、塩水では大量に処理しやすいので工数を削減できる。
さて、よくみるとノーマル塩水にしては茶褐色じゃないかと思った人もいると思う。
今回はこちらの調味料を加えている。
- ナンプラー、じょばじょば
- 燻味塩、ふたつまみ
臭みをとりつつ、風味を加えて旨みを引き出すという算段だ。
通常の干物は塩のみ、もしくは塩+酒orみりんなどの手法がある。ほかに最近販売されているものは緑茶の成分カテキンで臭みを軽減していたり。
わたしはいつも、塩+水+筑後盛(安酒)を海水レベルの塩分濃度にして干物をつくっている。酒が介在することで生臭さが少なくなり、保存性もあがる。
干物は塩だけで作るのが基本なのだ。それ以外は邪道だみたいな干物原理主義的な話もあるが、それは、しめ鯖の議論も一緒で、要は旨ければいいんじゃないだろうか。
勝手に正義を決めるんじゃない。お前の正義を俺に押し付けてくるなこのタコ野郎。右翼でも左翼でもそういった正義漢が一番危ないんだ。ってのは、言い過ぎた。すまんすまん。
このスペシャルひもの液に黄アジをとっぷり漬け込む。
干物って目玉がついていたほうが見栄えはいいけども、日持ちを考えると目玉をぬいたほうがよいと思う。ちょっとドラゴンゾンビっぽいけど。
漬け込むこと40分程度。
いや、もっと漬け込んだかも。海水程度のノーマルつけ液よりさらに塩分濃度が高いのであまり漬け込みすぎるとアウトになるので、ちょうどよいのが40分程度だと思う。冬場やアジの型がさらに大きい場合はやや長くする。
漬けあがったら、水洗いをして水分をぬぐって夜のベランダに干す。
先日、拙宅のベランダには雨上がりにタイワンリスが登場したのと、トンビも襲来してくるので、干物網で防御には万全を期している。国防力があってこそ国家の自治が保たれるのだよ。
ナンプラー燻製風味のアジの干物味は?
さて、翌朝。
保育園に息子をおくって、一旦帰宅してからなので、だいたい9時30分ぐらい。
干しはじめたのが前日の17時ぐらいなので、17時間ぐらい干していたことになるのでしょう。
こちらが仕上がった干物。
干物って、あんまり太陽熱が加わらないほうがいいと思っているので、できれば秋冬につくったほうがいいと思う。それか陰干し。夏場はピチットシートなどで冷蔵庫で仕上げる方法もある。
ナンプラーと燻製のほのかな香りがする。いやなニオイはしない。
これに霧吹きで日本酒を吹きかけて炙る。
どうでっしゃろ。この仕上がり。
うっすらとナンプラー由来のくさや風味の香りがそそる。
いいぞいいぞ。
比較的大き目の黄アジを素材にしたので、この身の厚み。
さて、味は。
・・・
・・・
・・・
む。
なんだこれは。
舌の上にかなり強烈なアミノ酸の軍勢が圧倒的な旨みで攻め込んでくる。
まさにアミノフォース。なんだそれ。
実にうまい。
とくに塩分の影響をうけて乾燥して堅くなっている表面など、噛みしめるほどににじみ出る旨み。
これが5日たってしまったアジからできた干物だとは到底思えない。それぐらい旨い。
ノーマル干物もうまいが、こういったパンチが効いているのもよいと思う。
釣ったアジは鮮度が高いうちに処理するのが一番だけど・・・
釣った魚の干物は、やっぱり鮮度が高いうちに処理したほうがいいと思う。が、いろいろな事情で処理が遅れたりすることもあることも。
それに釣りをしないけれどもうまい干物を自分でつくりたい人もいると思う。
そんなときは、ナンプラーと好みで燻製風味にしてみるとよい。
燻製は煙でたくのが基本ながらも、燻味塩や液体で風味付けできる市販品ものあるので常備しておくとよいだろう。
ああ、旨かったなー。
ではでは。
平田(@tsuyoshi_hirata)