ORETSURIをご覧のみなさん、こんにちは。
サラリーマン・アングラーの釣人割烹です。
以前、千葉・内房の富津岬より南の一部地域で今も盛んな伝統釣法「竹岡式シャクリマダイ」を紹介しました。
1mほどの手ばね竿でマダイを針がかりさせ、手で道糸をたぐって釣り上げるもので、1度やったら病みつきになります。
手ばね竿はその地域の漁師たちが手作りしたものです。筆者はこれまで船宿に借りて釣ってきたのですが、今年、中古の竿を1本手に入れ、5月に初めて実戦投入しました。
今回はその報告です。
千葉・上総湊港「角ヶ谷丸」さんへ集合
5月某日、午前5時ちょっと前。
内房・上総湊漁港の岸壁に、釣りに憑かれた男たちが三々五々、集まってきた。
筆者と勤務先の同僚や先輩たちだ。
真鯛との勝負を控え、みな口数が少ない。眉間にしわを寄せて道具を確認する者もいる。
総勢6人。
一人が「そろったようなので、いつもの通り……」と口火を切り、全員で円陣を組む。
さーいしょーはグー!
じゃん、けん、ぽん!!!
「あーっ」
「よしっ」
「ちきしょーっ」
交錯する歓喜と悲鳴。ガッツポーズを決める者。顔を手でおおう者……。
釣り座を決めるじゃんけんに筆者は見事に敗れ、左舷の胴の間に沈みました。
そこへ船長が登場。
「おはようございま~す」
筆者たちの定宿である角ヶ谷丸の角ヶ谷正志さんだ。今は亡き先代はこの一帯で「しゃくりの神様」と呼ばれていたといい、その息子さん。いがくり頭につぶらな瞳、少年のような風貌が印象的で、サービス精神に富んでいます。
でも、針にかけたマダイを途中でバラしたりすると、ウルっとした悲しげな目でじっと見つめられる。けっこう胸にこたえますよ。笑
角ヶ谷丸は10人乗ればいっぱいという小さな船。乗り合いですが、客は筆者たちだけで仕立て船状態です。
5時半ごろに出船し、防波堤の外でいったん停船。ブイ(浮標)をつけて沈めてある大きなビクから生きエビを取り出し、改めてポイントへ向かいます。
この日は大潮で、半年前から船を予約していました。
いつものように、朝焼けに照り返る船の引き波を眺めながら「釣れるだろうか」と自問します。釣れるかもしれない。釣れないかもしれない。すなわち、人生……。
沈黙のスタート
角ヶ谷丸を含め、この伝統釣法ではタナをヒロ(尋)で数えます。1ヒロ1.5m(船宿によっては1.6mのところも)。
仕掛けは以下の通りです。
- 道糸(ナイロンラージ7号)
- 中オモリ
- フロロ5号3ヒロ(4.5m)
- ヨリモドシ
- フロロ4号2ヒロ(3m)~鯛用テンヤ
角ヶ谷丸では、決まった間隔で色の異なる縫い糸を目印として編みつけた道糸を使います。
先端から6ヒロで緑、あとは5ヒロごとにピンク、黄、青、黒、白、オレンジ、赤と決めています。中オモリから緑までの6ヒロには、船底に据えた魚群探知機の受信器の水深から穂先までの約1ヒロ分が加わっています。
船長は「青から2ヒロ巻いて」「黒から1ヒロ伸ばして」とタナを指示。
これを聞いて竿の手もとに巻かれた道糸を出し入れするので、メートル換算の必要はありません。魚の取り込みや仕掛けの回収の際、手でたぐり上げた道糸は足もとの「たらい」に入れます。
さて、初めて実釣に投じる「マイ手ばね竿」。
手もとは太い袋竹で握りやすく、先にはグラスソリッドを継いでいます。
3,000円(消費税別)で売られていた中古品で、作り手は不明。おそらく内房の漁師が作ったものと思われます。
筆者が懇意にする和竿師は「これはいい」と太鼓判を押してくれました。なんとしても本命を針にかけ、竿に魂を入れ直さなければなりません。
最初のポイントは、富津市の竹岡から金谷にかけての沖合に広がる通称「オンガミの根」の北で、水深は25ヒロ。
「それでは始めてくださ~い」
船長は合図を出し、クリクリとした目を輝かせて言います。
「適度に濁った鯛好みの潮だと思いますよ」
生きエビをテンヤに縫いつけて投入。
とろりと濁った潮に沈んでいくエビを、ドキドキしながら見送ります。
船長の指示ダナはエビが海の底近くを漂う想定。
テンヤが沈み切ったのを見計らって、ゆったりと大きく竿をしゃくる。沈んでいくとき、落ち着いたときのアタリを待ち、また大きくしゃくります。
不思議なことに、いつものようなサバフグの猛攻がありません。
フグ以外の「お客さま」の気配もない。エサがついているのか不安にかられて道糸をたぐり上げると、しっかりついています。再び投入。海の中はシーンと静まり返っているようです。
船の上もお通夜のような雰囲気。こうなれば誰でもいい、本命をかけてほしい、アタリだけでも出してくれよ、と念願するわけです。一度でもアタリが出れば重苦しい空気は一変するはずです。
良型マダイあがるなか、バラシを繰り返す
沈黙が破れたのは開始30分すぎ。2回目の流しでした。
「おおっ」という声が上がり、船長がタモを手にしました。背中の右舷胴の間でかかった様子。
右手で手ばね竿を操りながら左手でキャビンの手すりをつかみ、伸び上がって反対側を見守ります。
来た!2kgを超える赤い魚体がゆらりと浮かびました。「おめでとうございま~す」と船長。
「すげえ!」「やったね!」船内は一気に盛り上がり、こちらのテンションも高まります。
そうこうするうちに筆者の右手、左舷ミヨシでも竿が曲がりました。道糸をたぐり上げると美しい1kgクラスです。
そして、まもなく筆者の竿先にも……。
グッグッグッ
力強いアタリに、ひと呼吸置いて思いっきり合わせました。
やや、乗らない!
なんと、すっぽ抜け。慌ててテンヤをもとの水深に戻しましたが、あとの祭り。膨らんだ期待が、パチンと破れたフーセンガム状態。テンヤを上げるとエサがしっかり食われています。
「だんなさん、もう少し待ったほうがよかったですかね~」
船長がフォローしてくれます。
「いやあ、早すぎたかな。竿で慎重に聞くべきだったか……」
エサをつけ直して再投入。な~に、気にすることはない、時合いが来ているのだ、次はかけるぞ……と自分を励まします。
左舷ミヨシで2枚目。右舷のミヨシとトモでも。あちこちでポツポツと上がります。型を見ていないのは筆者と左舷トモの2人。
「いったん上げてくださ~い」
流し替えで船長が声を上げたときです。
いきなりビューンと道糸が突っ張りました。
「よし、来たぞ!」
パワーでのされる手ばね竿を右手で力いっぱい振り上げ、道糸を左手でつかみます。
相手が大物なら、糸を送り出さないとラインブレイクのリスクが高まります。リールならドラグをゆるめればよいが、手ばね竿はそれができません。竿尻に20mのタコ糸を結んでおり、いざとなれば竿自体を海に入れ、タコ糸でやりとりします。
道糸をつかむ左手に伝わってくるパワーはかなりのもの。こりゃスゴいやつがかかったのかもしれません。海に竿を入れることになるのか……。
あっ!
次の瞬間、事態が暗転しました。道糸がフワッと軽くなったのです。
バレた……。
全身から力が抜け、へなへなと座り込み、わが手ばね竿を眺めます。針がかりか不十分だったのでしょう。
「いま、かかってましたよね?」
船長が静かな声で言いました。こちらをじっと見つめる目がウルウルしています。
あ、怒ってる。そりゃあ怒るよなぁ。失敗が許されるのは1度まで。2度やってはいけません。
すでに2枚釣り上げた右舷胴の間の大先輩に事情が伝わり、からかわれました。
「なぬぅ?2度もバラした?君には釣られたくないんだろう。アッハッハ!」
きょうはこんな日なのだろうか……。気を取り直してエサをつけますが、さすがに気分が滅入ってきます。
船中最大の真鯛を釣る!
しかしもちろん、これしきでへこたれるわけにはいきません。
船長の指示ダナから半ピロずつ深くしたり、浅くしたりしながらアタリを探します。しゃくりにも気持ちを込めます。
仕掛けの性質上、テンヤオモリで底は取れませんが、しゃくったあとテンヤがゆっくり沈んでいき、底を打ったり漂ったりするイメージを思い浮かべます。
開始から3時間近く経過した午前9時少し前。時合いがすぎたのか、船の上は少し落ち着いていました。
ガツンッ!
衝撃とともに、いきなり竿先が引き絞られました。前触れは一切なし。反射的に竿をあおって左手で道糸をつかみ、数手たぐりあげます。
マダイであることは伝わってくるパワーから明らかです。たぐり寄せようというこちらの意思とは無関係に、グッ、グッ、グッと道糸を強烈に引き込んでいく。通常のタックルなら特有の「3段引き」と感じるでしょう。
途中でスッと軽くなり・・・
底めがけて突っ込んでいた敵が反転したのか。たるませればバレかねず、素早く糸をたぐります。再び強い引き込みがあり、右手の指をゆるめ、握っていたナイロンラージを滑らせます。
これは、なかなか大きい。もう取り損ねは許されない。
長くスリリングなやり取りをへて、中オモリまでたぐり上げました。残りは仕掛け分の5ヒロ。さらにたぐります。
「マダイだ。でかいぞ」。
見守る仲間たちから声がかかります。
「おめでとうございます!」
船長が満面の笑みとともに、すくったタモごとドサリと渡してくれました。うれしいというより、正直ホッとした気分です。
重量でこの日船中最大の2.7kg、57cm。自己記録の更新はなりませんでしたが手応えは十分でした。孫針が口の横の部分に刺さっています。
どうにかリカバーを果たし、大先輩に負け惜しみを返しました。
「最初の2回は型が小さかった。バラしではなく、オートリリースです」
ここは勢いを駆って本命を追加したいところ。
テンヤにエビをていねいに縫いつけ、20ヒロ以上の深さへ送り込みます。しばらくしゃくってアタリがなく、エサ取りにやられていないか確認するため仕掛けをたぐり上げている最中でした。
緑の目印が現れていたので深さ10ヒロ(15m)ほど。急に道糸がグーッと重くなりました。
「あれれっ、途中で食ったぞ!」
驚いて思わず声に出しました。グッ、グッという手応えは、まぎれもなく本命です。
「エサを追っかけて、浅いところで食うこともあるんですよ」と船長は言います。上がってきたのは1kgクラス。これは、かなりうれしい展開でした。
ラスト30分。アオリイカの群れにあたる
干潮の午前10時半すぎ、潮が動かなくなり、食いも止まりました。11時を過ぎて上げ潮が動き始めましたが、なぜか食いは戻ってきません。
このところ内房のマダイは下げ潮で食い、上げ潮では食わないというパターンが続いているようです。
「上げ潮の水温が低いためではないか」と、船長は言います。
午後1時すぎ、大先輩が「最後に30分くらい、アオリイカをやろう」と船長に提案。
上総湊漁港近くの浅場へ向かいました。タナは10ヒロちょうど。手バネ竿のテンヤ仕掛けを真っ赤な餌木に付け替え、イカを乗せようと強くしゃくります。
角ヶ谷丸はしばしばマダイとアオリイカを組み合わせます。でも筆者の知る限り、船で大釣りとなったことはありません。少なくとも筆者は空振り続きです。まあ、乗らなくて当たり前、乗ればもうけもん、と遊び感覚でやっていると……。
グンッ!!!
しゃくろうとした手ばね竿がはね返され、竿先が曲がります。
「おおっ、乗ったぁ!」
ほぼ同時に仲間2人にも乗ったようです。アオリイカは魚群探知機に写りません。
運よく群れに遭遇したのでしょう。重みを感じながら糸をたぐり寄せると、かなりの大物です。目分量ですが1.5kgはあるでしょう。
30分足らずで6人のうち3人が計4杯釣り、最大は2kg。群れはあっという間にどこかへ消えました。
思わぬおみやげまでかかり、はじめて実戦に投じた無銘の手ばね竿を拝みたくなりました。
釣具店の中古品コーナーに打ち捨てられていましたが、もはや完全に筆者の得物(えもの)です。手放せない。
寄稿者
釣人割烹
お世話になった船宿
千葉・上総湊漁「角ヶ谷丸」
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