高級魚マゴチは釣り人ならではの味覚
マゴチという魚を自宅で料理して食べる一般人の属性は、ほぼ釣り人なんじゃないかと思う。それだけ市場に流通していないし、スーパーなどでみたことはない。
マゴチは釣趣もあって面白い魚。フォルムがかっこいいので筆者が好きな魚の一つ
居酒屋で刺盛を食べるときに、毎度魚の種類を確認するようにしている。あらかじめ自分のなかで検討をつけてから聞くものの、白身は判断しにくい魚でもある。
この白身の刺身で「これはマゴチですねー」と、言われたことは一度もない。
ヒラメやスズキがいつもでてくるけれども、マゴチは居酒屋には流通しないで料理屋に買われているそうで。ヒラメは養殖魚がいるし、スズキは比較的漁獲量が安定しているというのもある。
このマゴチ。
特に神経締めを施されたり、活魚の状態で流通しているものは高級魚として値が張る。
そんな高級魚を簡単に、いや、がんばれば複数尾手に入れることができるのが釣りのいいところだと思う。
まー、裏を言えば、釣り船であれば、マゴチを1本釣るまでにはかなりのコストがかかっているんだけども、「おいちゃん、それを言っちゃあおしまいよ」というやつである。
魚を現金に直結して考えすぎるのも、なんとなく無粋な気もする。
多くの人は魚を売って生活のために釣りをしているのではなく、ただ遊ぶために釣りをしているのだから。
ふざけて、「今日は1キロ5,000円として、三キロ釣ったから15,000円で乗船料のもとがとれたなー(笑)」みたいなことをいうのはご愛嬌だけども。
マゴチを寝かせて25,000年
釣り上げたマゴチは、釣り船であれば神経締め処理してくれるところもあって、とてもありがたい。
おかっぱでショアジギングで釣れる魚は自分で処理する人も多いとは思うが、釣り船はさすがサービス業だなーと感じる部分でもある。
金沢八景の一之瀬丸も、マゴチ船は沖上がりに渡辺船長がサクサクっと神経締めしてくれる。
この神経締めしたマゴチは数日寝かせると旨みがでていいので、多くの人が初日に食べることなる濡れ新聞紙に包んで冷蔵庫にしまってから料理していると思う。
1日船で沖上がりが15時程度。そこからなんだかんだで帰宅して17時ぐらい。どっとわき起こる疲れと眠気。そういえば、今日も睡眠時間2時間で釣りをしていたんだ。みたいなのがざらにあるのが船釣りの通例でもある。
持ち帰ったマゴチは「ミイラ状態」にして眠らせる
ということで、今回も4日は冷蔵庫のチルドルームで寝かしておこうと思った。
が、気づいたら、あっという間日経っていた。いや、実際は気づいていたんだけども、なにかと忙しくて見てみぬふりをしていたんだ。
というのも、5月だけ息子の保育園の送り迎えをすべてやっていて、自分の時間が子育てに注ぎ込まれている。これはネガティブな実感ではなく、日々濃密な子育てにより自分が成長している実感がある。
朝6時30分に起きる息子凪のおむつ交換をしてミルクを飲ませて着替えさせて、さあ保育園にいくぞ、と思ったら、凪が「このタイミングでウンコ!」という超必殺技を披露して、それがめでたくウン漏れしたりして、全部の服を脱がせて風呂場で流して再度おむつ&服をきせて、やっとの思いで保育園に行く。離乳食がはじまった子のウンコたるや大人同様にものすごく臭い。成長しているなー。
ゼロ歳児を載せられる自転車を買ったんだけども、この距離だったら別に電動なんていらないよ。俺様をなめたら困るよと思ったら、おっさん化している腿に坂道が馬路でつらい。やっとの思いで息子を送り届けて帰宅。
それで自分の仕事を進めて、ふと気づいたら、あっという間に保育園に迎えにいく時間。で、帰ってからは、再度お風呂&ミルクを飲ませて、しばしばギャン泣きしつつ、「おう、すべて忘れて俺と遊ぼうぜ親父」といってくる凪に営業スマイルを送りながら、ややスルー気味に仕事を進めようとするが、「そうは問屋が卸さないぜ」というばかりに凪はギャン泣きの音量をうらめしく高める。0歳児でもしだいに親の様子をみて、うそ泣き的なものをするのだから人間ふしぎだ。
6月以降になれば、ちょっとこの体制は変わるんだけども、今はこんな感じで、そりゃマゴチも放置気味になるわけだ。
世の中の子育て世代のお父さんにおいては、メインで子の世話をしているのは奥さんと思う。
が、そのあたり、たまに自分で通しでやってみると、相手のことをもっと思いやることができると思う。イクメンとかいってる場合じゃないんだこれが。ほんと大変だから、たまには奥さんをねぎらってあげてくださいね。
熟成マゴチの下処理
さて、そんなこんなで8日目のマゴチがこちらです。
ミイラ状態のマゴチをむきむき。
貼りついていたリードやヌメリなどを水道水で一掃。
これから何の料理にしようか、この俺、超絶料理を妄想。
無意味に韻を踏んでみた。
あらかじめ腹部を押して、肛門の中から糞を押し出してから寝かせたからか特にイヤなニオイはしない。エラは毎度おなじみの粘りがでているが、まーそれはそれ。魚を毎日料理していると、ヤバイ状態とそうでない状態の差がわかってくる。
マゴチ界隈では、「腹の中身を出さないで数日寝かせる」という言い伝えがある。これが、どれほどまでに効果があるかわからないが、よく考えると、エラとヒレあたりはカットしておいてもしれないなと思った。
以前、ある釣りと魚に詳しいという胡散臭いという人に聞いたら、「それはね肝臓から脂が回るんですよ」といっていたが、それは嘘だろと思う。だって死んだ魚の循環器は動いてないんだからね。あるとしたら、身が空気に触れにくいので酸化しにくいというあたりかなと。
1尾のマゴチは、釣りあげてからフックが外れにくかったので、手返しを考えてハリスをきってキープしていた。
これがね、スズキ針が上あごの骨に刺さってはいるものの、そこは貫通するのが難しい場所であって、骨に返しがハマってはいるが貫通ならずという状態。
▼以前記事で書いたが、サイマキやメゴチ・ハゼ餌のマゴチ釣りではタックルの剛性上、マゴチの口蓋部分は貫通できないことが多い。
マゴチの口蓋の貫通できない骨格部分に針がかりし、そこに「南無魔鯒大菩薩!」とか胸中で叫びながら渾身のフッキングをするとこうなる。
スズキ針が曲がっているのがわかる。この状態でPEラインが細めだと高切れする事案。マゴチはPE2号推奨と渡辺船長も言っていたが、確かになと思う。
胃袋からは、砂地に棲息している蟹が。
サイマキの代わりにイソガニ類を泳がせてもマゴチは釣れるのかもしれない。
8日経つと内臓はかなりのニオイをさせるので、まな板の上で頭を落とさず、シンクで落としてしまうのがいい。
シンクの上で内臓を捨て、血合いを流してからリードで水気を落として、まな板で3枚におろす。
これがオススメ。
特にマゴチはこん棒のような魚体なので、棘部分をすべてカットしてから頭部を左手でつかんで、出刃でV字に刃をいれて簡単に頭を落とせる(右利きの場合)。
マゴチは大名おろしにすると楽だけども、今回はきちんと三枚おろしにすることに。
腹骨部分は堅いので、腹側を上にして出刃をいれてからさばくと楽。
腹骨をてこの原理で断ち切ったあとに、背側に刃をすべらせ、次に腹側をさばく。
マゴチの腹骨部分は太目のものがしっかり食い込んでいるので、ハラス部分をやや大げさにすきとる。ハラスはハラスでつかえるので気にしないほうがうまくいく。
それと皮をすく場合、サクが半円形なのでブレードが薄くしなるフィレナイフや刺身包丁じゃないと皮が残ってしまう。こういったときはサクを血合い部分で半分にしてから皮をすくとよいと思う。
サクの血合い骨は、このようにプライヤー型の骨抜きでとるのが一番いいと思う。
▼魚料理をよく作る人は必携。
マゴチはかなり骨が強い魚。
引きも強いし、釣りあげたときに頭部を強くブンブンふる暴れん坊将軍ぶりは、この骨格から生み出されているんだなーと思う。釣りあげたばかりで背びれを立てて興奮しているマゴチを不用意に触るとほんとに怪我をするので注意。夏場、サンダル履きだと泣きをみる。
はじめはなれないマゴチの下処理も、なれると、すぐに終わる。
人間おっさんになっても成長するんだなーと思う。人は見えないうちに成長しているのかもしれない。
皮と胃袋は日本酒につけておく。
タンドリーマゴチキンをつくる
さて、タンドリーマゴチキンの話である。
マゴチのカマとハラスを炙って塩焼きにして食べたことがある人は、あることに気づくと思う。
「こいつ、なんとなく鶏肉っぽいなと」
マゴチのカマとハラスは、たとえるなら焼き鳥の手羽の塩焼みたいな味わいだ。
今回はこの部位を特別なカレーソースに漬け込みタンドリーチキン風に仕上げる。ちなみに、インド料理好きならわかるが、本当のタンドリーチキンは、タンドールという粘土製の窯をつかって仕上げる。
が、まー、うちにはタンドールがあるんだぜみたいな家はないと思う。あったらびっくりだよそりゃ。
家庭で仕上げる場合はオーブンやらグリルで仕上げればいいと思う。ちなみに我が家は、パンを焼く簡易的なトースター(上下に火があるので)で仕上げる。
こちらがマゴチのカマ(胸鰭の付け根)とハラス(腹骨付き)。
これを特別なカレーソースに漬け込む。
ふはははは。このソース、誰も知らない秘伝である。インドの有名レストラン「オールド・デリー」にて会得したものだ。やすやす教えるわけにはいかぬわ!
とか、隠すつもりはないので、いつも通り材料を紹介していく。
<タンドリーマゴチキンのつけダレの材料>
- ヨーグルト(我が家のヨーグルトは生乳100%と決めている)
- にんにくペースト(ほんとうはすりおろしたほうが風味がいいが、市販のもので)
- カレーパウダー(今回はホットタイプとマイルドタイプをブレンド。なんでもいい)
- トマトケチャップ
- オリーブオイル(マゴチは脂肪分がすくないので油分を補っているつもり)
- ナンプラー(塩気はナンプラーで調整)
- マンゴーチャツネ
- コカ・コーラ
※分量についてはヨーグルトメインでケチャップは少々。カレーパウダーは写真のような色になるまで少しずつ足していくとよいでしょう。あとはいつも通り、自分流でどうぞ。レシピで分量なんて適当でいいんです。俺だったら、これでいこうという俺たちの料理でいいんだ。
材料を混ぜ合わせて、マゴチを一晩漬けこむ。
・・・
ゲッ、ゲッ、ゲゲゲのゲー♪
朝は寝床で運動会♪たのしいなー
とかいって、朝寝したいが、子持ちの朝は早い。子が早朝におきて泣きわめくんだ。ギャーギャーね。
漬け込んだマゴチだけど、1日たつとこの通り、水気がでる。
このなかにはマゴチの旨みもでているとは思うのだけども、同時に臭みも排出されているはず。そのあたりはトレードオフの関係ってやつで、日本人はなにかとノーリスクを求めたがるけど、そんなものは世の中にほとんど存在しないのだ。
それとヨーグルトに含まれる菌類がマゴチのたんぱく質を分解(してくれていればうれしい)。この乳酸菌あたりの活性を高めるには冷蔵庫にいれないほうがいいのかもしれないが、そのあたりは腐敗の気配もするので自粛。
あとは、炙るだけだ。
だんだんと、タンドリーチキンやナンのあるインド料理屋(実際の経営はネパール人が多い)のあの香りが家に漂う。
ああ、いい香りだな。
これだよこれ。
途中でのぞいてみたら、この通り。
こちらがタンドリーマゴチキン。
仕上げにカレー粉orガラムマサラorコリアンダーパウダーをふりかけるとさらに香りがいい。らしさが出る。
マゴチキンっぽいな。
このハラスからいってみよう・・・
もうこのインドな香りからいって、旨過晋作とかよくわからんことをまたいうのは、わかっているけどね。
隠しきれない 移り香が いつしかあなたに 浸みついた。
ってね。
もぐもぐ。
ん!
旨過晋作。
「む!雷鳴のように口中で鼻にぬけるスパイスの香り!それでいてまろやかな味わい。これは確かに鶏肉ではないな。マゴチをタンドリーチキンにしあげるとは、この意外性あっぱれなり。士郎やりおったわい。だが、今一つ雄山のマゴチ料理にはかなわぬ…」
とか、美味しんぼで、矢鱈に山岡士郎びいきが目立つ唐山陶人氏。
そこで山岡士郎が、
「待ってくれ、勝負はまだ終わってない。このタンドリーマゴチキンの真骨頂はカマだ。さあ、このカマを食べてみてくれ!」
みたいなはじめから言って置けよ的な返しをする。
そこで、栗田がいつものセリフ「山岡さん…」を繰り出す。
・・・
じゃあ食べてみようか。
・・・
・・・
ん!
なんじゃこれは。
マゴチのカマ全体が、力強く主張しているぞ。
旨味もハラスより上だ。
山岡「そうだ。魚で一番うまい部位はよく動かしているヒレの付け根だ。焼き鳥で手羽が旨いのと一緒なんだ!」
京極万太郎「この勝負、山岡はんの勝ちや。海原はんのありきたりな軍鶏の山椒塩焼きより、山岡はんのタンドリーマゴチキンが鮮烈に舌に焼きついた!!」
富井副部長「わーい。ひゃまおか!!やったー。東西新聞万歳!わーい!」
部長「富井君、すこし落ち着きたまえ」
・・・
ということで、タンドリーマゴチキン、オススメです。
いつも、これは誰もやってないだろうなーと思って、ネットを検索しないで釣った魚を料理するのだけども、マゴチをタンドリーチキン化するアイデアをもった人はいたようです。やっぱり、マゴチの身が淡白で鶏肉に似ていると気づいたんでしょうね。
ではでは。
平田(@tsuyoshi_hirata)
※筆者がいつも美味しんぼネタを繰り出しているのはAmazonプライムで、子供にミルクをあげる時間、美味しんぼを見続けているからです。見放題なのでオススメ。
関連アイテム
▼インド料理みたいな赤いタンドリーマゴチキンを作りたい場合はカイエンペッパーや、パプリカパウダーをかませばOKです。