東京や大阪など、大都市圏の河口や湾内で釣れるスズキやクロダイは、身近に狙える対象魚として貴重な存在です。
一方、食味という点では、釣り人に蔑まれて「ドブ○○」というような扱いをされたりします。
では、湾奥や都市河川で釣れた個体がすべてまずいのでしょうか?
実はそんなことはなく、個体差や下処理方法によって食味が変わることもしばしば。
今回は、湾奥(わんおう)で釣れたシーバス(スズキ)やクロダイを美味しく食べる方法を紹介します。
湾奥シーバスやクロダイの臭みパターン
はじめに、湾奥や都市河川で釣れるシーバスやクロダイのニオイのパターンについてお話しします。
洗剤臭
釣りあげたときにシャンプーの残り香や柔軟剤のようなニオイがするシーバスやクロダイがいます。
腹をさばくと、洗剤臭が筋肉や脂肪にしみこんでいて、さらに濃いニオイがプーンと漂ったり。
都市河川由来の下水処理水や、工場由来の処理水は浄化されているものの、ニオイ自体が完全に除去されているわけではありません。
こういった水域に長く居ついた個体は、下処理や調理法でもどうにもなりません。
健康のためにも、食べるのは控えたほうがよいでしょう。
油臭
船舶が停泊しているエリアに居ついているシーバスやクロダイの中には、軽油やガソリンのようなニオイがする個体がいます。
船からは一定のオイルが漏れます。
オイルが魚の体表にまとわりついたり、食べる餌に含まれ、胃袋を通して、体内の脂肪や筋肉に蓄積されます。
化学合成された油は人体にも有毒です。油臭があるシーバスやクロダイも食べないほうがよいでしょう。
油臭さは、下処理をしても落ちにくいニオイです。
ヘドロ臭
都市河川や湾奥で釣れたシーバスやクロダイには、ヘドロのようなニオイがする個体がいます。
シーバスの場合、よくベイトになっている小型のボラやウグイ由来のことが多いと言えます。
ボラはヘドロからデトリタス(微生物の遺骸等)や植物性プランクトンなどをこしとって食べているのですが、そのときにニオイが蓄積されます。
これらをメインベイトとして食べている個体も、やがてヘドロのようなニオイがしはじめます。
ボラを食べているシーバスやクロダイの場合、「ヘドロに昆布臭が混じったような」ニオイがすることもあります。
カビ臭
青かびのような刺激のあるニオイがするシーバスやクロダイもいます。これらはバクテリアにより生じるニオイとされます。
都市河川で釣れるウナギやナマズにもよくあるニオイですが、どんなに下処理や料理法に工夫しても対処できず、口にした途端、鼻に抜けて残ります。
シーバスやクロダイの臭みには個体差がある
ボラをメインに食べているスズキは昆布とヘドロが混じったようなニオイがすることも
シーバスやクロダイは、同じ水域で釣っても、季節や潮の状況により個体差があります。
全体的に黒ずんでいる個体
沖合から湾奥や河川に入り、居ついている個体は、保護色のため体表が黒ずむといわれています。
居着きの個体ほど、生活排水・工業廃水・餌に由来する臭みが強くなります。
サイズが大きく太っている個体
湾奥や都市河川で釣れたシーバスやクロダイは、大型になればなるほど、臭みが強くなる傾向にあります。
シーバスであればセイゴクラス、クロダイであればカイズクラスまでは、餌に由来するニオイが少ないので、食べてもそれほどの臭みを感じないことがあります。
また痩せている個体よりは、餌を多く食べて脂肪を蓄えている個体のほうが臭みが強い印象です。
ウグイ・ボラ・生ごみなどを捕食している個体
釣りあげたシーバスが吐き出した未消化のボラ。ニオイが強かった
雑食であるウグイ類や、汚泥をこしながら食べるボラをメインベイトにしている個体は特に臭みが強いと言えます。
下水処理場付近の水域には、生活排水の温度が残ります。
一年中水温が高く、プランクトンや甲殻類も多く、ウグイやボラも多く生息しています。
こうしたエリアで釣ったシーバスやクロダイは、ほぼすべてに強い臭みがあり、食用には適しません。
また、下水が発達していない大都市圏以外のエリアは、腐敗した生ごみなどが流れ込みやすく、こうした餌を捕食している個体も臭みが強いと言えます。
食べると意外と美味しい個体
横須賀長井産のクロダイ
湾奥や都市河川河口で釣れたシーバスやクロダイでも、食べてもおいしい個体が確かに存在します。
全体的に銀色が輝いて見える個体
沖合から湾内や河川に入ってきたばかりのシーバスやクロダイは、比較的体表が銀色に輝いていて、黒ずみが感じられません。
こうした個体は、食べてもおいしいことがほとんどです。
釣りあげたときに嫌なニオイがしない個体
釣りあげたときに、魚臭のほかに異様なニオイがしないシーバスやクロダイは、食べても問題ないことが多いと言えます。
持ち帰るときは、締める前に、ニオイを確認しましょう。
持ち帰り方と下処理によって変わる味わい
シーバスやクロダイは、持ち帰り方や下処理によっても味わいが大きく変わります。
釣り船とちがって、岸釣りの場合は、特に血抜きや保冷が不十分になりがちです。
持ち帰る場合は、以下の点に気をつけましょう。
- 現地で十分に血抜きをする
- 現地で内臓・エラ・血合いを取り除く
- 保冷を十分にして持ち帰る(氷につけるのではなく氷海水で中心まで冷やす)
- 持ち帰り後は、ヒレをハサミで切り落とす
- うろことぬめりを取る
- 塩を全体にふり、20分程度水分を抜く
- 調理によっては霜降り処理(熱湯をかけてぬめりや血合いの残りをとってから氷水で洗う)
- ムニエルや揚げる場合、牛乳につけこんでから調理する
料理法によって変わる味わい
クロダイのムニエル
都市河川や湾奥のシーバスやクロダイは、生食よりは加熱調理が適しています。
独特のニオイを軽減することができる調理法を紹介します。
カレー粉を使用する
カレー粉をつかって、下処理をしてフライにしたり、カレー煮にすることで泥臭さなどはニオイが軽減できます。
ナンプラーを使用する
もともとニオイが強いナンプラーを調味料として使用することにより、多少の泥臭さなどは軽減できます。
トムヤムペーストを使用する
スープやフライの下味にトムヤムペーストを使用すると、臭みが軽減されます。
揚げる
皮には独特の臭みがつくことがほとんどです。皮目をはいで揚げることによって、皮下脂肪も取れるため臭みを軽減することができます。
衣をつけるまえに牛乳に浸すのも効果的。
味噌煮
煮物は、しょうゆで煮るよりは味噌煮がおすすめです。味噌が身の臭みを吸収し、ニオイが軽減されます。
肉味噌
河口で釣ったクロダイの青唐味噌
ニオイの原因になる部位をすべて取り除き、筋肉だけにした身を味の濃い肉味噌に加工します。
まとめ
湾奥や都市河川で釣ったシーバスやクロダイの場合、イートの要素が入る場合は、持ち帰る場合に一定の鑑定力が必要になってきます。
なれてくると、ダメな個体というのは釣ってすぐにわかります。
調理方法に自信がなかれば、はじめからキャッチ&リリース目的として、無理に持ち帰らないようにするのも一つ。
SNSやユーチューブの話題づくりのために自分で臭いことがわかっている個体を食べ、魚自体を蔑む人がいますが、魚がまずいのは全部我々人間のせいです。
- 無駄に食べない
- 下処理や調理法を工夫する
- 環境に目を向ける
ORETSURIからはこれらを提案したいと思います。