【独断と偏見】手ばね竿の改造を通して釣りの魅力を考える

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漁港の日の出
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ORETSURIをご覧のみなさん、こんにちは。サラリーマン・アングラーの釣人割烹です。

わたくし、このたび、胸のうちで長くあたためてきたプロジェクトに着手しました。それを明かす前に、すこし個人的な話を……。

目次

釣られているのは魚か、自分か

釣りは子供のころに熱中していましたが、高校に進んでいったんお別れしました。40代半ばで会社の先輩に誘われ、船釣りを体験したら「むかし好きだった幼なじみに再会した」かのごとく大興奮。以来、深くハマり込み、熱がさめる気配はありません。

しかしながら、再会(再開)した当初は「浦島太郎」状態でした。なにしろ子供のころといえば40年も前で、道糸といえばナイロン。ハリスといえばやっぱりナイロンです。

わからないことだらけで、釣りに誘ってくれた先輩を質問攻めにしました。

「パイセ~ン! ぺ(PE)ってなに?」
「パイセ~ン! フロロって、どんな風呂なんすか?」

釣り糸だけではありません。技術革新で、竿も進化を遂げていました。魚の種類ごと、同じ魚でも釣り方ごとに廉価版から高級モデルまで無数のロッドがあふれています。「極◯」だの「炎△」だのと宣伝に乗せられ、対象魚種や調子の違いごとに竿を買っていたら財政破綻は必至。

「釣り」というジャンルの充実と発展のために、釣り人と釣具メーカーの共存共栄は、ある程度必要です。しかし、

「これほど高い竿は必要か?」
「こんな専用竿、他の竿で代用できるぞ」
「魚ではなく自分が釣られているのでは?」

と、モヤモヤしていました。

目からウロコだった伝統釣法

そんなときに出会ったのが、千葉・内房地方の伝統釣法でした。すでに何回か寄稿していますが、太いナイロン糸の先に極小のテンヤをつけ、エビ餌を沈め1mほどの手ばね竿でしゃくる釣りです。リールがついていないので、アタリで竿を鋭く振り上げ、魚を針にかけて道糸をたぐります。

手ばね竿は面白くて一度やれば病みつきになる

これで3kgのマダイをとりました。アオリイカやカンパチ、ワラサ、マゴチ、カワハギもとったのです。竿と腕の一体感、魚と素手で対決する感覚がおもしろい。目からウロコでした。

最先端の専用ロッドや極細のPEライン、精密なリールといった近代兵器で魚を攻略するのは、もちろん楽しい。それに比べ、伝統釣法は竹の切れっぱしに太すぎる糸。戦場へ出かけて、棍棒で敵をぶん殴るような感じなのですが、何ともいえずスリリングです。

道糸をたぐって大物をとる伝統釣法の世界(東京湾で)

本音をいえば、ふつうの乗合船で、赤い魚も青い魚も、白い魚も黒い魚もみんな手ばね竿で狙いたい。しかしそれは無茶なわけです。船長がすっ飛んできます。

「ちょっ! ちょっ! お客さん。なんだい、それは?」
「見ての通り手ばね竿というものである」
「はぁ? そんなのわかってるよ。だめだよ、だめ、だめ。隣とオマツリしちゃうよ」

むむ。やむを得ん。かくなる上は・・・。

手ばね竿をリール竿に改造する。

リールでPEラインを使うなら船長も隣の客も文句は言うまい。自分流にカスタマイズした手ばね竿で、アジもシロギスもマゴチも釣る。カワハギもヒラメも釣る。これが筆者のプロジェクトなのでした。

日本のメーカーは研究開発が大好き。その結果、多種多様な工業竿が生み出されました。カワハギや黒鯛など特定魚種に長年のめり込む上級者なら、釣技の極限に挑むために最先端の専用竿を使う意味は大いにあるでしょう。

一方、筆者のようなビギナーや中級者は、竿という要素以外に釣果の「伸びしろ」がたくさんあるわけです。にもかかわらず商品の海で方向感覚を失い、高級竿でないと釣果は上がらないと思い込んでいる人もいるのでは……。そんなあなたはメーカーのコマセに寄せられ、ガッチリ針がかりしているかもしれません。ご愁傷さま。

リールが登場するまで、竿の長さより深い場所で釣る道具は手ばね竿に限られていたはずです。さあ、目を覚ませ! あまたある工業竿の源流へ、今こそさかのぼれ! 釣り竿の王政復古だ!

「なんのこっちゃ?」
「大ボラ吹きだろ」
「このおっさん、アタマ大丈夫か?」
(外野の声)

手ばね竿独特の「万能調子」

冗談はさておき、マダイの伝統釣法を教えてくれた先輩にもらった手ばね竿が1本、わが家に眠っていました。あちこち塗りがはげ落ち、見れば見るほどボロボロで使っていなかった。ちょうどいい。これをリール竿としてよみがえらせることにしました。

伝統釣法の手ばね竿は、基本的に①穂先②胴③握り(竿尻部分)④糸巻き杭の四つからなります。

まずは穂先。筆者がこれまで見てきた手ばね竿の穂先は、大半がグラスソリッドです。(「グラスソリッドってなに?」という方のために、竿の材質や構造、特徴については最後に説明します。以下は理解しているという前提で)

むかしの穂先は鯨穂(くじらほ。イワシクジラやセミクジラのヒゲ)を使っていたようです。竹と鯨穂なら完全に天然素材の組み合わせで、ちょっと憧れますね。しかし、今や鯨のヒゲは入手が困難です。ネットで見ると1本1万5000円。サラリーマン・アングラーには縁のない世界だな。代替品として普及した安価なグラス材(1本数百円)で十分です。

グラスソリッドのメリットは、中身が詰まっているためヤスリで削ることができ、テーパー(先細りの度合い)が思いのままに調整できること。そして何より竹の胴と相性がよく、和竿で多用されています。

手ばね竿の穂先は一般の竿に比べ、テーパーの度合いがきつめです。先の方は軟らかいが先端から離れるにつれ急に太く硬くなり、大鯛などのパワーに耐える粘っこい独特の調子を生み出しています。これを「万能調子」と呼ぶ漁師もいます。

穂先のガイドを新調する

さて、わが手ばね竿をしっかり見ていきましょう。長さは1m8cm。穂先は当然、グラスソリッドです。

道糸を通すガイドはシンプルに針金を丸めただけの、いわゆる「針金ガイド」。太いナイロンならともかく、細いPEラインならひっかかって傷ついてしまいそうです。しかも、穂先の根もとの方でガイドが2、3個脱落。ガイドの一本足(シングルフット)を固定しているスレッド(糸)もほつれ、塗りもハゲてしまっています。

手を加える前の穂先はボロボロだった

「針金ガイド」は国内市場をほぼ独占する富士工業の廉価品(シングルフットのステンレス枠Oリング)に新調します。しかし、トップと手もとのガイドはいちおう既製品で、状態も悪くなかったので残すことにします。

ガイドを取り除く際にはソリッド地を傷つけないよう、ガイドのフット部分に乗ったスレッドと塗装をカッターで削り、爪で慎重にむいていきます。

針金ガイドをすべて取り去ったあと、グラスソリッドの表面に残る古い塗装にカッターの刃を垂直に当て、軽くこするようにして削り落としていきます。きれいになったむき出しのソリッドの上に、新しいガイドを載せていきます。

2液を混ぜるエポキシ接着剤で1個ずつ仮止めし、ある程度固まったら視認性の高い赤のスレッドを巻いて固定していきます。固定の仕方はORETSURIの過去記事を参考にしてください。

強度を出すためスレッドを二重に巻いた

ガイドの間隔は、当初の位置を参考にしていますが、先端が柔らかいことを踏まえ、先の方で間隔を狭めて数を増やします。本当は道糸が穂先本体に触れないよう計算が必要なのですが、そこは大ざっぱにやってしまいます。

ガイドの向きが微妙にずれているような気もするが、まあ許容範囲か(涙)

スレッドを巻き終わったら、エポキシでしっかり固めます。

合成漆を塗り直す

次に、ガイドを固定したスレッド間に黒の合成漆を塗ります。

筆者は釣り以外で天然の漆を扱ったことがありますが、天然漆は空気中の水分と反応して固まる性質があり、濡れた雑巾を入れて密封する「室(むろ)」を用意するなど、とにかく面倒くさい。しかし、合成漆は塗ってそのまま放置すれば勝手に固まるので楽ちん。「漆」といいながら漆ではない植物由来で、かぶれることもありません。

釣竿に使う合成漆の決定版は、櫻井釣漁具の「ふぐ印 新うるし」と「ふぐ印 元祖新うるし専用薄め液」。両方とも必要です。塗る筆は百円ショップで売っている安物の絵筆でよいでしょう。

別に黒のポスターカラーでもいいのですが、エポキシでコーティングする必要があり、合成漆の方が美しく、かつ安上がりです。

和竿の塗りの切り札「新うるし」。通販で安く買える

食べ終わってよく洗ったツナ缶にチューブからペーストをひねり出し、薄め液を加え、筆で溶かします。液の比率はペーストの10~20%くらいが適切のようです。濃すぎると塗った部分が盛り上がり、薄すぎるとグラスソリッドの地肌が隠れない。糸を引くか引かないかの「中濃ソース」状態が目安です。

非常に大切なことですが、塗りの作業は必ずベランダなど室外でやってください。薄め液は強烈な有機溶剤(シンナー)で、鼻を近づけて1分間も吸えば脳が吹き飛ぶ「ダメ。ゼッタイ。」レベル。部屋の中でやればシンナー臭がしばらく抜けません。

塗り終わったあとは室内で24時間乾かします。

タコ糸で竹を肉盛りする

次に胴から握りの部分です。真ん中に淡竹(はちく)、手もとの握りの部分に布袋竹(ほていたけ。ともに筆者の推定)が使われ、手もとに糸巻き杭が打たれています。

まずは糸巻き杭のスレッドと塗装を慎重に削って外します。

胴は細身で強度が不安です。しかも、竹には節があり、節と節のあいだが一部分、偏平だったり、へこんだりしています。すなわち、断面は円ではなく、極端にいえば「D」の字になっているわけです。

この偏平部分を、和竿職人たちは「花道」と呼んでおり、釣り人が竿を持ったときに左右を向くようにガイドをつけます。この部分が上下を向くと、魚のパワーで過度に曲げられたときに折れかねません。

しかし、偏平部分を左右にしても竿が橫に曲がるような状況もありうるでしょう。これを修正し、断面を正円に近づけて強度を高めます。円なら、どんな方向からの力にも均等に強いわけです。

和竿職人は、偏平部分を漆入りのパテや車の鈑金修理用のポリパテで肉盛りし、その上に漆を塗り重ねます(この修正作業は「サビ付け」または「サビ落とし」と呼ばれる)。

この手ばね竿、ガイドは「花道」が左右を向くよう正しくつけられていますが、サビ付けはありません。作り手はおそらく和竿師ではなく漁師で、作業が面倒だったのか。

節にはさまれた偏平部分を肉盛りする「さび付け」のプロセス

パテを扱うのは筆者も面倒です。ここは我流で、短く切ったタコ糸を「花道」に貼りつけて肉盛りしましょう。さらにその上にエポキシをたっぷり塗り、タコ糸でぐるぐる巻きにする。これで偏平から円に近づきます。

白いタコ糸のままだと、竿が負傷して包帯を巻いているような、ビミョーな印象です。赤の水性塗料をしっかり塗ります。塗料が乾いたあと、改めてエポキシをたっぷり塗り、サビ付け部分に分厚いコーティングを施します。

右はタコ糸に水性塗料を塗った状態。左はエポキシでコーティングした状態

これで竹とタコ糸が完全に一体化して強度が高まり、防水も完ぺき。太さも増してリールシートが載せやすくなります。

リールシートは、細身に合わせて富士工業の「プレートシートFS6B」を使います。まずはしっかり位置を決め、しっかりタコ糸で固めた握りの上にエポキシで仮止め。前後を太めのミシン糸で三重に巻いてエポキシで固めます。さらに、真ん中の部分はミシン糸とタコ糸で分厚く巻き固め、手の指のはらに引っかかるよう工夫しました。

なお、リールシートは前後逆に載せました。超短竿で、バランス(重心の位置)を考えるとリールを据える場所は少しでも竿尻に近づけた方がよいと考えたのです。

最後に、エポキシをあちこちちょこちょこ足したり、合成漆を塗り足したり。理容師さんが最後に襟足をチョキチョキするあれですな。

完成!  世界でただ一つの「手ばねリール竿」です。

和竿職人なら絶対にやらない乱暴な改造で、見た目は美しくありません。しかし、手ばね竿はそもそも実質重視。これでよし。

改造竿が目指すものは?

さあて、と。これで何を釣るか。和竿作りで有名な櫻井釣漁具(東京・神田)のスタッフに見てもらったところ、オモリ負荷は30号まで。40号はちょっときつそうです。

LTアジ:いいねぇ。自分の腕と竿、アンドンビシ、天秤仕掛けが一体化しそうだな。
シロギス:いいねぇ。自分の心臓に「ブルルッ」というアタリがじかに響きそうだな。
照りゴチ:いいねぇ。自分の手がデカい口に直接飲み込まれる感触だな。
マダイ:いいねぇ。でも、ちょっと無理そう(涙)。

わたくし、べつに工業竿を否定するつもりはありません。また、これで工業竿に勝とうとしているわけでもありません。実際、勝てないだろうし。

ならば「手ばねリール竿」で何を目指すのか。少なくとも、釣果の追求ではありません(釣果が伴えばうれしいけど)。アタリを感じて針がかりさせ、取り込むまでの魚との駆け引きを、もっとじかに、自分のからだで楽しみたいわけです。

例えば、ヘソクリをはたいて某社の最高級シロギス竿を買い、実際に使ってみたら、それまで30匹釣るのがやっとだったのに50匹も釣れたとする。「やはりこの竿はすごい。買って正解だった!」と感動するでしょう。

でも、それでいいのだろうか。

「いいに決まってんだろ。どこが悪いんだよ?」

いや、全然悪くない! 優れた竿は、それまで取れなかったアタリや手応えを伝え、新しい魚との駆け引きの世界を見せてくれます。ただ、結局は高級竿を所有し、釣果が増えたことへの単純な満足に終わるなら面白くないな、と。

思うに、釣りの魅力の本質は、人が自分の両腕、自分のからだで魚とスリリングな命のやり取りをすることにあり、竿はそれを手伝うにすぎません。

ヒリヒリするような魚との駆け引きの面白さは、道糸を自らたぐる手ばね竿の方がリールと高級工業竿の組み合わせより勝ることもある。アマノジャクな筆者は、そう思うわけです。

技術の進歩は釣りを面白くするか?

この問題、車にたとえると分かりやすいかもしれません。

クラッチを踏み、ギアを好きなように切り替えられるマニュアル(MT)車は身体能力の拡張感がすごい。運転していて気持ちがいいわけです。それに比べ、オートマチック(AT)車は味気ない。運転者は、基本的にアクセルを踏めば勝手にころがる車をブレーキで抑えるだけ。楽チンですが、受け身で拡張感に乏しく、AT車で峠道を攻める気にはなりません。完全自動運転になれば、拡張感はほぼゼロです。

釣りでも、手巻きリールが登場して自ら道糸をたぐるより何倍も早く糸を巻き上げられるようになりました。さらには電動リールによって、人はついに糸を巻く作業から解放されました。

こうした技術の進歩が、釣りを面白くしたのかどうか。

もちろん電動リールを使っても釣りは面白いし、筆者も使っています。体力に自身のないアングラーが、キハダマグロを電動リールで釣り上げれば、そりゃ鼻血が出るほど面白いに違いない。

とはいえ、電動リールで中深場のアカムツやクロムツを釣るのと、手ばね竿でマダイを上げるのでは、どちらが面白く、どちらが釣りの魅力の本質に近いか。考え方は人それぞれでしょうが、筆者は後者に軍配を上げます。

AT車でも、完全自動運転車でも、ドライブは楽しい。しかし、時にはMT車で峠を攻めたくなるわけです。

わが改良手ばね竿は、リール&工業竿が当たり前の世界で、中途半端な懐古趣味なのかもしれません。しかし、この竿で釣れたら釣れたなりに、釣れなければ釣れないなりに、魚釣りというものについて大いなる気付きや学びを得られるに違いない。なんとなく、そんな気がします。

何より、自分のカスタマイズした竿で釣れたら、うれしくないはずがない。今後、この竿でいろんな釣りをして、釣行記が書けたら楽しいな、と考えています。

釣り竿(穂先)の材質と構造について

以下は追記です。前段で登場した手ばね竿の穂先として使われる「グラスソリッド」について説明します。

釣り竿に使われる工業素材には、ご承知のように「グラスファイバー(ガラス繊維)」と「カーボンファイバー(炭素繊維)」の2種類があります。さらに、竿(特に穂先)の構造には内部が筒状(中空)の「チューブラー」と、中身の詰まった「ソリッド」の2種類があります。

すなわち、素材と構造の組み合わせで以下の4種類に分かれ、それぞれに長短所と適切な用途があるわけです。

(a)カーボンチューブラー
(b)カーボンソリッド
(c)グラスチューブラー
(d)グラスソリッド

めちゃくちゃ大ざっぱにいえば、素材としてのカーボンおよび構造としてのチューブラーには「軽くて高反発」という性質があります。

逆に、素材としてのグラスおよび構造としてのソリッドは「重くて低反発」です。これにより、軽くて高反発の素材と構造を組み合わせた(a)カーボンチューブラーと、重くて低反発の組み合わせである(d)グラスソリッドは、対極の性質を持っています。(b)カーボンソリッドと(c)グラスチューブラーはその中間に位置します。

a~dの性質をまとめると、以下のようになります。

  • 軽さ= a > (b、c) > d
  • 反発力(折れやすさ)= a > (b、c) > d
  • 仕掛けの動かしやすさ= a > (b、c) > d
  • 手感度のよさ= a > (b、c) > d
  • 目感度のよさ= d > (b、c) > a
  • 魚の食い込みやすさ= d > (b、c) > a
  • 粘り(折れにくさ)= d > (b、c) > a

なお、メーカー関係者や竿に詳しい方には異論があるかもしれませんが、あくまで個人的な意見なので、お許しください。

寄稿者

釣人割烹

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