ORETUSURIをご覧のみなさん、こんにちは。サラリーマン・アングラーの釣人割烹です。
今月はじめ、横須賀・大津で手漕ぎボートに乗り、まるで漁師のような伝統釣法を初めて体験しました。今回はその魅力をお伝えします。
手ばね竿すら使わない伝統釣法
筆者は伝統釣法で真鯛を追いかけ、内房へ何年も通っています。
1mほどの竹製手ばね竿で餌をしゃくり、アタリに鋭く合わせを入れて針掛かりさせる。あとは手でナイロン道糸をたぐって魚を寄せます。これは何度か記事にしてきました。
手ばね竿で大鯛を狙う
ところが、手ばね竿すら使わず、糸と両腕だけが頼りの釣り方があるんです。
それこそが「手ビシ」です。
竿を使わず、糸を手であやつって魚を釣る釣法。
糸の先にビシ(オモリ)をつけ、仕掛けを沈めるので「手ビシ」なのです。
筆者はこれまでやったことがありませんでした。それでも伝統釣法で修行を積んできたわたくし。トップの写真(まるまつ丸スタッフ撮影)でも、玄人の雰囲気が漂っていますね。ま、雰囲気だけだが(笑)。
これが自作した手ビシのタックルだ!
この釣りをボートでやるという企画は、大津漁港の乗合船・釣りボート「まるまつ丸」さんが提案しました。実際に釣った様子をORETUSURIに寄稿し、魅力を詳しく解説しています。
こりゃ面白そうだ! 記事がアップされた直後、まるまつ丸さんに「ぜひともやってみたい」とメールを送信。翌日「ボートでも手ビシはお貸しできます」と返信をいただき、小躍りしました。
とはいえ、釣りは週末に限られ、外房のヒラメや金田湾のカワハギなどの予定が目白押し。
大津行きの機会をうかがううちに日が流れ、焦っていたところ、11月3日文化の日に、まるまつ丸さんとORETUSURIの連携企画でボート手ビシの大会が開催されるとの情報がもたらされました。休日にあった仕事の予定を蹴っ飛ばし、一も二もなくすっ飛んでいくしかない。
当日が待ちきれず、タコ糸12号100mをアマゾンで購入。百円ショップで買った小さな桐の「すのこ」で糸巻きを自作しました。
糸の先にオモリを結び、さっそく家の2階から庭に向かって落とし、地面を小突いたり、糸の巻き上げや送り出しを練習したり。
自宅2階からオモリを垂らして……
かみさん、あきれていわく「あんた本当にビョーキね」。ええ、おっしゃる通りでございます(涙)。
大会イベントの正式名称は「第1回テビシストCHALLENGE CUP 2020」。
なお「第1回」は、次回への期待も込めて筆者が勝手に挿入しておきました。
大会の成績は二の次。初めての手ビシをじっくり賞味しましょう。
ポイントは「武山根」を選択
大会当日、ORETSURIフィールドレポーターで家が近所の大井君も参加するというので、午前4時前に車でピックアップ。
彼は就職が決まってルンルンの大学生。24時間年中無休の魔界「上州屋東陽町店」および近くの吉野家を経由して、高速を飛ばします。
大井君は平田水軍(ORETSURI平田編集長)のボートに乗り、筆者は1艘借りて単独行。
おたがいにライバルで、ピリピリとした緊張感が漂う……はずもなく、わいわいがやがや釣り談義をするうちに、大津漁港へ到着。これまたフィールドレポーターの大物釣り師まつとも君と合流しました。
この日は幸い微風で、海は凪。参加は10名ほど。
短い開会式のあと午前7時に岸払いです。平田水軍はどうやら漁港北の「ガレ場」へ向かう様子。
フフ、平田水軍、敗れたり!
筆者の読みは「武山根」。
まるまつ丸さんへの入念な情報収集を踏まえ判断しました。大津攻略は4度目。怪しい山立てと「なんちゃって魚探」を頼りにポイントを目指し、漁港を出て北東へ向かいます。
大津沖のポイントと各艇の布陣(まるまつ丸公式サイトより)
大津は初めてというまつとも君を引き連れての移動。
若い彼の漕ぐ力は相当なものですが、右手と左手のバランス悪いのか、ウネウネ激しく蛇行する。まっすぐに進むわがボートの前後左右をうろうろし、時に横から突っ込んできてぶつかりそうになる。まるでコントのようだな(笑)。
ちなみに大津沖には10月に海苔棚が入り、ポイントが絞りやすくなります。海苔棚や根のポイントを書き入れた紙は店でもらえます。
武山根には30分ほどで到着。大津名物、漬け物石のような重たいアンカーを落とし、まつとも君と20mほど離れてボートが落ち着きました。
1投目から中型の金アジが!
目標は、手ビシでアジを家族分だけ確保したあと、小アジの泳がせやマダイ狙いのフカセ仕掛けで大物をとること。
念のため、置き竿(ダイワ汎用ロッド&小型スピニング)も構えます。ちなみに手ビシ以外のノーマルタックルでとった魚は釣果にカウントしないルールです。
PE1.5号で天秤にサニービシを下げ、ハリスはナイロン4号6m。真鯛針1本にオキアミをつけ、アミコマセをこぼしながら餌を漂わせます。ドラグをゆるめ、竿先に鈴をつけアタリを待つ。あわよくば青物や真鯛をとろうという魂胆です。
さて、主役は手ビシ。
最初にアジを狙います。ボート店でひと巻き借りていますが、ここは自作の糸巻きを使います。 タコ釣り糸に自作天秤を直結し、自作のアンドンビシ25号にイワシミンチを装填。フロロ1.5号2本針の標準仕掛けを沈めます。餌はオキアミです。
水深は28m。
仕掛けはスルスルと下りていき、フッとたるんで着底。
糸が少し伸びるため、コツコツと底を打つ手応えはやや取りにくい。
手ビシを扱うサラリーマンアングラー。玄人の雰囲気漂うな(笑)=まるまつ丸スタッフ撮影
アジを誘う基本動作で、ビシを底から1m上げ、小さくしゃくる。さらに1mたぐります。仕掛けの2本針がコマセの煙幕を漂うのを想像しながら、右手人差し指の第一関節の腹に糸をかけ、動きをピタリと止めて待つほどもなく……。
ググッ、ググッ。
おおっ、1投目でさっそく来た!慎み深いマアジのアタリです。
竿で増幅されないため手応えは小さいが、竿の穂先と違って、なにしろ指先には神経が通っているわけです。当たり前ですが、ダイワの誇る「極鋭」スーパーメタルトップよりもはるかに感度がよい。てゆーか、これは明らかに反則レベルだな(笑)。
魚信が糸から指先手を経由して電流のように体を流れます。これだ、これこれ!この感覚が伝統釣法の醍醐味です。右腕をゆっくり大きく上げて合わせを入れたあと、糸をたぐり上げていくと、魚の重みと引きがしっかりと伝わってきます。
タコ糸は足もとに這わせ、なおもたぐるとビシが上がってくる。それをコマセのバケツに入れ、ハリスをたぐって魚を抜き上げます。美しい20cmほどの金アジがボートの中に躍り込んできました。
中型金アジが入れ食いだ=まるまつ丸スタッフ撮影
どうも、ボート下に中アジの群れがいるようです。毎投のようにアタリがある。ダブルで掛かると強く引きます。
大物狙いで仕掛けをチェンジ
ところが、ほどなくトラブルに見舞われました。
何投目か、針に新しい餌をつけ、アンドンにコマセを入れて仕掛けを沈める途中、タコ糸が絡んでしまっていました。海の中で底まで届かず、宙づり状態でほどきます。
これは手ばね竿でも時どきやらかします。たぐったナイロン糸を大きな桶に入れていくのですが、桶の外にはみ出して絡んでしまう。
複雑に絡んでいるように見えて、もとは1本の糸。他人とのオマツリと違って簡単にほどけるのがふつうです。まれにどうしてもほどけない場合もあるけど。
ところが、おろしたてのタコ糸は水を吸って互いにネチネチ粘りつき、からまった部分が固いコブになってナイロン糸よりもやっかい。絡み防止のため、たぐった糸を入れる小さな桶を持ち込むべきでした。
2度ほどきましたが、3度目に絡んだときに心が折れる。
これでは手返しが遅れる。ええい、面倒だ!途中まで下ろした仕掛けをたぐり上げ、まるまつ丸で借りた糸巻きに選手交代。
糸巻きを自作し、1階から仕掛けの上げ下ろしを練習した努力は何だったのか……。
絡んで使い物にならなくなった自作の糸巻き
ボート店から借りたものはタコ糸より太く、こわごわした特殊な渋糸で、これが全然絡まない。借りておいて大正解でした。
かくして1時間あまりでかなりの数を釣りましたが、豆アジは泳がせ用の数匹を残してリリース。中型の金アジを15匹ほど確保しました。
大津の金アジ。本当に旨い
続ければ果てしなく釣れるでしょう。
実際、まつとも君はその後もアジを釣り続けたようで、後で聞けば50匹以上も釣ったという。金アジ狙いでも手ビシは通常のタックルにまったくひけをとりません。
途中、まるまつ丸スタッフが船外機付きのボートで巡回してきました。
「ほかのポイントはどうですか?」そう筆者が聞く。
スタッフは「どこもシブいです。きょうは武山根が釣れてますね〜」と。
やはり、判断は正しかった!
「写真を撮らせてください」
おっと、これはうれしいサービス。
「ありがとう。待って。いますぐに魚を掛けるから!」
渋糸をチョンチョンと動かしてアジをかけ、糸をたぐって釣り上げてポーズを決めます。
さて、これ以降は手ビシの仕掛けを交換。ここまでアタリの出なかった置き竿を巻き上げ、天秤以下のオキアミフカセ仕掛けを手ビシに付け替えます。竿の方には胴突泳がせ仕掛けを装備して豆アジを沈めます。
フカセ仕掛けのサニービシ40号は、しゃくるたびにアミコマセが少しずつぽろり、ぽろりと出るように調節してあります。6mハリスの先の1本針は、最近愛用するオーナー「閂(カンヌキ)マダイX」7号。さあ、大物よ、来たれ!
手ビシに強烈な引き込みが!
慌ただしいアジ釣りを終え、海の上でしばし解放感にひたります。
朝の雨も上がって風はなく、波に揺られるボートはまことに気持ちがいいですな。
同じ海の上でも、乗合船ではこれほど解き放たれた感じがしません。横並びの釣り人たちが無言で竿を上下させ、そんなつもりはなくても、やはりどこか競う気分が入り込んできたり。
渋糸をオールに巻き付け、しばし休憩。雨合羽の上下を脱ぎ、上は半袖Tシャツに電熱ベスト、下は着古したジャージ。まだ、そんなに寒くはありません。サンドイッチを食べ、無糖の缶コーヒーを飲む。
勝負再開。
水面にアミコマセをひとつまみ撒き、潮の流れを確かめます。
仕掛けを上げてオキアミを針につけ直し、アミコマセをサニービシにたっぷり詰めて投入。しっかりしゃくる。竿がないので、腕を振って大きく強めにしゃくる。そのあと潮の流れを計算して4mほどたぐり上げて、アタリを待つ。その繰り返し……。
オキアミは1本針に2匹掛けで
午前10時30分ごろ。いきなりギュギュギューンと渋糸が引き込まれました。きたこれ。
手応えはサバ。喉から手が出るほどほしかったやつです。
まずは糸をつかみ、1、2度強く短くしゃくって確実に針にかける。
あらかじめ手ビシ用の指サックをもらっていましたが、感覚が鈍るのでつけずにやっていました。太い渋糸が容赦なく指に食い込みます。
糸が指に食い込んで少し切れた。痛いわ……
そのあと渋糸をゆっくりたぐる。
魚は右に左に走り、渋糸にずっしり重みが。
底へ強く突っ込んでいくときは指をゆるめ糸を送り出す。
このやり取り、たまらん!
魚が浮いてきて、ついにサニービシをつかむ。残すは6mのハリスです。
うわっち!
銀色の魚体が水面近くで大きく円を描くように走り、ハリスがアンカーロープを巻き込みました。やばい。
ボートのへさきから身を乗り出し、ロープをたぐり寄せてかかったハリスを手に取り、ぐいと強めにたぐって玉網へ。こんな芸当、竿で掛けていたらできません。
大津のトロサバとったぞ!
お待ちしていました。
陸上がり後に測ると41cm720g。立派なマサバです。
まつとも君に向かって玉網を前に突き出し、ジェスチャーでサバの来襲を知らせたけど、通じたかな?
さらに「謎の大物」かかる?
マサバがうれしかったのは、脂がのって旨いからだけではありません。手ビシでパワフルな魚をとる感触を味わいたかったわけです。
ORETSURIへの寄稿で、手ばね竿を用いる伝統釣法の魅力を「竿が身体の一部になる」と何度か書きました。
手ビシはどうか。
もはや竿すら捨てて、腕が竿そのものです。
穂先と違って神経の通う指先でアタリをとらえ、合わせが決まれば糸をたぐり上げる両手がリールとなる。大きな魚の場合には、相手の抵抗に合わせて手を緩め、糸を送り出す。手のひらこそ「瞬時に無段階に変化する最強のドラグ」だと、今回も改めて実感しました。
もちろん、手ビシより竿が勝っている点は多々あります。しかし、糸のみを介した魚とのやり取りの面白さはちょっと言いようがない。
これはやってみないと分かりません。
みなさんも機会があれば、ぜひ「手ビシ」にトライしてはいかがでしょうか?
当たり前のようにつかっている竿やリールの役割や便利さが実感できるとともに、糸だけで魚と駆け引きするスリルが味わえるんです。
手ビシこそ、手ばね竿以上に「釣りの原点」だ、と筆者は感じました。「釣り」の根源的な面白さを深く理解できます。
さて念願のマサバ。血抜きをし、2本目をとろうと仕掛けを再投入します。しかし、アタリは続きません。
何度か投入&巻き上げを繰り返していると、再びグイッと重みが……。
すかさず合わせます。ところが、今度はまったく異なる重量感で、糸がぜんぜんたぐれない。渋糸が引き絞られヒュンヒュンと鳴ります。
ついに大鯛かけたか!?
体内の血が沸騰し、内房でとったマダイの記憶がよみがえります。
ところが、それにしては強い引き込みがない。力いっぱいたぐればユラーッと上がってくるが、ハリスが切れそうで緩めると沈んでいく。
お前は誰だ?軟骨系か?
しばらく力比べをしていると、ブシッという嫌な手応えで針が外れました。上げてみるとオーナー針が伸ばされていました。
う〜む。考えるに、これは海苔棚をつなぎ止める綱を釣ってしまったのではないか。根掛かりとも違う感触で、大物と勘違いしました。お恥ずかしい限り。とはいえ、これだって、超大物をかけたのきの手ビシ感覚の参考になる(はず?)。
平田水軍との戦いの行方は
正午ごろ。「ガレ場」に布陣していたはずの平田水軍が忽然と現れました。
こちらへ転進してきたようです。
まつとも艇に近づき、何事か話をしたあと、近くに投錨した様子。
たぶん最初のポイントであるガレ場で苦戦したのでしょう。
これは圧勝だな!
まつとも艇ではアジがまだ当たっているようです。しかし、筆者のオキアミフカセ仕掛けは餌取りの激しい攻撃を受けている。ショウサイフグを3匹とりました。旨いのに調理できないのが悔しい。リリースです。
貴殿とは別の場所でまた会おう!(ショウサイフグ)
こうなれば場所を変えるほかないのですが、残り時間はそんなにないし、相棒は腰を据えて釣っている。海底から「漬け物石」を引っ張り上げるのもおっくう。
置き竿の泳がせはまったく釣れる気配がないので、こちらもオキアミフカセ仕掛けにかえました。可能性を広げる狙いがありますが、その努力もむなしく音なしの構え。のんびり、ダラダラと時間が流れ、消化試合の気配も漂ってきます。
午後2時ごろ。
いつの間にか平田水軍は消えています。
大会参加者の漁港帰着の刻限は、通常より30分早い午後3時。
そう言えば朝の大会主催者あいさつで平田編集長が、1分でも帰着が遅れると釣った魚全部没収のペナルティを課します(笑)、と宣言していたような。
ということで、ちょっと早めに納竿。へばりながら漬け物石を上げ、まつとも艇に呼び掛けます。
「はい、お疲れさまでした~。それでは時間ですのでね、上がっていきますね〜」
相棒は破顔一笑「アジ、めちゃくちゃ釣れました!」。
ふふ、これでまたひとり、底なしの手漕ぎ沼に沈んでいくな(笑)。
心地よい疲れを覚えながら二人で港へ。
相変わらず風なく、海は凪、ボートはスイスイ進み……が、まつとも艇は行きにもまして激しいジグザグ漕法。おそらくこっちの倍の距離を漕いでいるな。
おおっと!?
はるか沖に平田水軍が浮かんでいるではないか!
まつとも艇はすかさず偵察へ。二人は流しでアジ手ビシ泳がせをやっているという……。
沖上がり後の検量では「ビシアジの部」で40cmを釣った参加者が優勝しました。本当に見惚れるような金アジです。
筆者は「コマセの部」で、ひそかに大サバでの入賞を狙っていました。
私が釣ったのは41cm720g。
大井君自慢のサバよりはサイズが大きいようで。
平田水軍おそるべし
ところがなんと、平田水軍が武山根侵略でデカサバをゲットしていた!
僅差で及ばず……。これは「試合に勝って勝負に負けた」というやつか?
帰りは、助手席で気持ちよく爆睡する大井君に「これってどうよ?」と内心モヤモヤしながら、眠気をこらえてハンドルを握ります。
ようやく千葉へ帰還し、彼を家に送り届けて自宅に戻ったあと、助手席に彼の財布を発見。疲れた体にムチ打って彼の家に届けたことは内緒にしておこう(笑)。
とにもかくにも手ビシを提案し、素晴らしい機会を与えてくれたまるまつ丸。
本当に感謝。ありがとうございました!
釣人割烹@tsuribitokappou