堤防釣りでも船釣りでも総じて釣れたらガッカリされがちなベラ。
エサ取りをする雑魚の一員として、日本全国で毎日無数の釣り人に「ああベラかよ」と言われてリリースされてたり、時には打ち捨てられたりしています(やめましょうね)。
多くのベラがこのように歯が鋭く威嚇してくる
なぜベラが軽視されるかというと、その風貌(色と柄が派手・鱗が大きい・歯を出ている)の印象からきているものが多いはず。
ベラを食べてまずかった=嫌いというわけではなく、ベラを食べたことがないものの、そもそも見た目から食べる気がしないということがほとんどなのではないでしょうか。
もし、『日本釣り人食べず嫌いランキング』というのがあれば堂々の1位に輝く実力者がベラかもしれません。
そんなベラについて解説します。
ベラについて
ベラの生態(冬眠する・夜は砂の中で寝る・性転換する)
ベラの仲間は、日本全国に分布しています。
20センチ前後の種類が一般的ですが、「イラ」「カンムリベラ」「ナポレオンフィッシュ」のように50cm~2メートルぐらいの大型もいます。
ベラ類の生態として、水温が下がり冬期になると餌をとらなくなり砂の中で冬眠することが知られています。そのため主に釣れるシーズンは、水温があがる春~秋までと考えておきましょう。
ベラは、日中によく釣れる魚です。
夜釣りでメバリングやカサゴ釣りをしていても釣れません。これは夜間は海底の砂の中に潜って寝ているためです。
▼参考動画:砂に潜ってじっとしているベラの一種
▼参考動画:水槽内の砂に潜っているキュウセン
ベラは性転換する魚でもあります。生まれたときのベラはメスで、成長にともないオスに性転換するのです。
出典:魚は性を自由に換える 中村將 / 一般財団法人沖縄美ら島財団
ベラは、視覚によって周辺にいる個体の状況を把握して、性転換するという研究結果もあります。
釣り物としての「ベラ」人気は西高東低
ベラ類は種類が多い魚ですが、日本で一番消費されているのはキュウセンでしょう。
関東でもよく釣れるキュウセン。ウオビルの一種がエラからでていた。
ベラを「釣り物」とする文化は関東にはないのですが、瀬戸内海を中心とした関西では、ベラが釣り物として立派なターゲットになっており、カワハギと同様に五目釣り船が出ています。
船宿の釣果欄には、釣果報告として「ベラ」がしっかり記載されているのも面白いところ。これは関東ではありえないことですね。
ちょっとこの数字をみてください。
優勝 明石市の伊東俊二氏 5.96㎏
二位 神戸市の木谷富勝氏 5.44㎏
三位 奈良県葛城市の杉岡康次氏 4.81㎏
四位 神戸市の中島敏氏 4.74㎏
五位 明石市の内田大貴氏 4.40㎏
六位 明石市の西海利之氏 4.07㎏
何の数字かというと、兵庫県にある遊漁船で2017年に行われたベラ釣り大会の結果です。
おそらくキュウセンの釣果と思われるのですが、1位がなんと5.96kg。
他の上位陣のみなさんも4kg以上。一体ベラを何匹分釣ったんでしょう。
関西の釣り人からみると魅力的にみえるかもしれないこの数字も、関東の人間からすると、すさまじい数字ですね。
ベラは外海に面した所では人気がありません。住み場や餌などの環境でおいしさが変わるのかもしれませんが、瀬戸内海では高級魚。ベラを専門に狙う延なわやさし網漁業や、釣での遊漁もあるほど人気のある魚です。そのため古くから長崎県などから天然の稚魚を購入し、毎年100万尾前後を放流しています。
出典:http://www.pref.kagawa.jp/suisan/html/suisan/kagawanosakana/bera/bera.htm
香川県のサイトからは、ベラの稚魚が放流されているという情報も見て取れます。
これも関東の釣り人からするとかなり意外な話です。
主要なベラの種類
ここで堤防釣りや船釣りからよく釣られるベラ類を紹介します。
キュウセン
キュウセン(青ベラ=成長してオスになったもの)@金沢八景
キュウセン(赤ベラ=メス)@金沢八景
キュウセンは、小型のベラでも食味がよく、瀬戸内海周辺では人気。
一説によると瀬戸内の潮流・塩分濃度・餌が食味をよくしているという話もあるが、科学的実証はされておらず不明。
小型のうちはメスで、成長するとオスになり「青ベラ」と呼ばれます。瀬戸内では食味の点でこの青ベラが特に珍重されます。
ニシキベラ
三浦半島城ケ島産ニシキベラ
ニシキベラは、特に色鮮やかな種類。
熱帯魚のような青みがきれいですが、それほど大きくなりません。
ホンベラ
西伊豆産ホンベラ
オハグロベラ
オハグロベラのメス
オハグロベラのオス。伊豆大島産
オハグロベラは、体高がある種類。
潮どまりになって、チョイ投げ釣りなどでいきなりあたりがきて、結構引くなーと思ったときはオハグロベラであることが多い印象。
ホシササノハベラ
魚の切り身に食いついたホシササノハベラ
ホシササノハベラも比較的よく釣れる種類。
アカササノハベラ
アカササノハベラは赤いので、伊豆諸島などで釣りをしていると一瞬「高級魚アカハタか!?」と思ってしまうのですが、そのあと正体が判明すると、落胆しがちなターゲット。
カンムリベラ
八丈島産カンムリベラ
カンムリベラは、伊豆諸島などに生息している大型のベラ。かなり引きが強いのが特徴です。
堤防から真下をみて、やけに巨大な青黒い魚体が、単体で岸壁を行ったり来たりしているのは本種か、イスズミであることが多い印象。
メジナの魚影より全長があり、メジナは同サイズのメジナと群れているので見分けはつきやすいと言えます。
イラ
城ケ島沖で釣られたイラ
イラは、比較的深場にいる魚。船釣りで釣れやすいベラの仲間です。
写真はアマダイのゲストとして釣れたイラですが、ウィリー五目釣りなどでかなりの重量感を持つ魚体が上がってきたときに、イラであることがあったり。
気性が荒く、釣りあげると、釣り人に噛みつこうとします。
このあたりが「苛々(いらいら)する」「イラつく」というように捉えられて名付けられています。あるいは、釣れると釣り人や漁師がイラつくからなのかもしれません。
キツネダイ
城ケ島沖の遠征五目で釣れたキツネダイ(写真一番上)
キツネダイは、顔が尖っているのが特徴。
食味がよいのですが、ほかのベラ同様、水分量が多いので塩振りをして水抜きしてから調理するとよいでしょう。
ベラがよく釣れるポイント
神奈川八景のボート釣り。水深5m程度の岩礁帯×海藻地帯はベラ地獄。
ベラの仲間は、砂地・岩礁帯・海藻地帯など幅広く生息しています。
種類を問わなければ、岩礁帯×海藻地帯でのヒット率が高いのが特徴。
砂地の場合は、ゲストのシロギスやメゴチが先に釣れてしまう傾向にあります。
ベラの釣り方と仕掛け・タックル
岩礁や海藻地帯や砂地との境目を根がかりをさけて、アオイソメを短めにつけて誘ってくる。
根がかりをしやすい地形であるため、天秤+シロギス用の吹き流し仕掛けでもよいのですが、胴付きのほうが回収率は高い。
口が大きくないので、針は小さめであるとフッキングしやすいのですが、飲み込まれると手返しが悪くなるので注意。
特にベラ類は歯が鋭いためハリスがかなり傷つきます。袖針等の軸が長いもので飲み込まれないぎりぎりのサイズを選ぶとよい。
虫ヘッドなどのジグヘッドをつかった釣りがオススメ
ベラを狙う場合、一番簡単なのは、虫ヘッドのようなジグヘッドをつかった釣り方です。
錘が軽ければ根がかりしにくいですし、オモリの存在で針が完全に飲み込まれてハリスが傷つくことも少ないと言えます。
もちろんベラ専門のタックルは販売されていない。感度がよいキス竿やメバリングロッド等があればアタリも敏感にわかり楽しく釣りができるだろう。
※もし専門に狙って釣果を上げたいという奇特な方がいるようであれば道糸はPEラインにしてかけにいく釣りがおもしろいはず。
ベラ釣りのゲスト
釣り人に忌み嫌われるベラは、どちらかというとあらゆる釣りの外道として扱われやすいのですが、あえて本命と考えるとゲストは、以下の種類になりそうです。
- シロギス
- トラギス
- メゴチ
- カワハギ
特に秋口に砂地に点在する根周りでベラを本命として狙った場合、一番競合する魚はカワハギです。
あたりもベラによく似ていて、イソメをつつき食いちぎるようにしていくので、油断できない。
ほ、本命はベラなんですからね!
実は「ベラ」は旨い
「ベラは食べたことがない人が見た目で嫌う」そういった印象があるとお話しましたが、実際食べてみて、磯臭かったのでもう食べないという人もいると思います。
どんな魚も個体差があるもので、食べている餌、海域、季節等によって残念な味になることはあります。
また釣り場での下処理や保冷、調理方法によって味も変わってくるので、念のため注意しましょう。
下処理と保管方法に注意
- まずベラを釣ったらエラを切って水汲みバケツで血抜きする
- しっかり保冷して持ち帰る
- 調理前に塩をまぶしてぬめりをとる(まな板にぬめりをつけない)
- 鱗を落とす
- 内臓部分と頭部などを落とす(内蔵をまな板につけない)
- 腹腔の血合いをしっかり落とす
- それ以降は通常通り調理する
- 臭みが気になるようであれば炙り、霜降り(熱湯をかける)、香味野菜を使った調理などを心掛ける
以上が、ベラを美味しく食べる基本ポイントです。
水分を抜くのがポイント
ベラ類は水分が多い魚です。
特に生食する場合は、かるく塩を振って1時間ほど冷蔵庫でドリップを出したり、昆布締めにするのがオススメです。
また保存させるためには、干物や酢締めにするのもおいしい食べ方。
干物は頭部を落としておくと、苦手な人もうまいうまいとわからず食べてくれます。みりん干しも味わい深い。
皮目を残す
キツネダイの炙り
多くの魚は皮目に旨みがあります。
これはベラも例外ではありまえsん。丁寧に下処理してくさみがないと判断した個体は、積極的に皮ごと食べてみましょう。
湯引き、焼き霜づくりや、皮目ごと揚げると実に美味。
ベラのおすすめ料理
刺身
ホシササノハベラの刺身(手前)
やや身がゆるいものの、塩によって水分をぬいた刺身は美味。
1日程度寝かせるとややねっとり感がでてくるのですが、特に小型の魚は長期熟成に耐えるものではないので、釣った翌日までには食べきるようにしましょう。
白身で柑橘類とよく合います。
スダチを絞るとぐっと上品になるし、臭みがある場合も軽減できます。
塩焼き
鱗をとって、皮ごと塩焼きにするのも淡白でうまい。
これも柑橘類をあわせたい。
焼き浸し
皮目を香ばしく炙ったベラを甘酢に漬け込んだもの。関西での食べ方
煮付け
ホシササノハベラの煮付(手前)
ベラの煮つけも定番料理。
やや甘辛く濃い目に煮つけると、ごはんのおかずにもなって美味。
揚げる(フライ・天ぷら・唐揚げ)
揚げればどんな魚でも旨いのですが、ベラも揚げれば美味。
市販の唐揚げ粉等を使い、ややスパイシーに仕上げると、ビールのおつまみにも最高。
味噌汁
下処理をしたベラをぶつ切りにし、野菜などと炊いて味噌を溶かし入れます。
昆布だしとカツオだしで旨味を足しておいたほうがよいでしょう。
ベラ由来の出汁はあまり期待しないほうがよいのですが、小型でもぶつ切りにすれば意外に食べるところが多いので、重宝します。
一旦、皮目を炙ったものを味噌汁にしても香ばしくて美味。
アクアパッツァやブイヤベース
オハグロベラ(どれかわかりますか?)
ベラは、アクアパッツァやブイヤベースの具材としても、カサゴとそん色なく使えます。
頭部を外してぶつ切りにして加熱すれば、その魚がベラだとだれも気付きません。
この時点では、だれもこの中にベラが入っているとは思わないはず。
ベラは簡単に釣れるターゲット。食べても旨い
今回は、エサ取りとして釣り人に嫌われる魚ベラ類について解説しました。
筆者も毎度ベラを持ち帰るわけではないのですが、本命とするものが釣れない場合、釣れないと予測される場合は、メゴチやトラギス類と合わせて持ち帰り料理して美味しく食べています。
食わず嫌いの方も、是非一度ためしてほしい。
意外とおいしいので。
釣りに貴賤なく、魚に貴賤なし。
関連アイテム
釣った魚の名前をズバッと言い当てたい人にオススメの図鑑。冒頭部が特徴による分類で構成されていて、色や特徴によって釣った魚を判断できる。覚えなくても一つ一つの魚をみていくだけで、いろんな魚に愛着がわいてくるから不思議。