釣りは一見自由にできるようですが、法律では「遊漁」として扱われ、ルールが定められています。
今回は、海や河口域の堤防・岸壁・海岸などで気軽に楽しめる「蟹網」のルールを紹介します。
蟹網は、モクズガニ・ガザミ・タイワンガザミ・イシガニ・ヒラツメガニなどが簡単に採捕できるのですが、エリアによっては遊漁での使用が禁止されています。
蟹類が共同漁業権の対象でなくても、海面漁業調整規則の範囲内で規制されています。
- 「蟹網」ロープや釣り竿の先へ餌をつけた網を装着し、餌に寄った蟹などを絡めて捕る方法
- 「蟹籠」カゴ状の漁具に、餌を入れ、誘い込まれた蟹などを捕る方法
▼蟹網の例
▼蟹籠の例
※本記事は、神奈川県・東京都・千葉県の海面で遊漁者が釣りをすることを想定した内容です。河川など内水面に関しては当てはまりません。
釣り人の疑問
「相模湾・東京湾・外房などでのカニ捕りが趣味。YouTubeやブログでみた蟹網をやってみたい。釣具店やネットで手に入れやすいが、蟹網を使用してもよいのか気になっている」
神奈川県・千葉県・茨城県の海面では「蟹網」使用不可。東京都では可能
神奈川県・千葉県の海面では、遊漁者による「蟹網」の使用が禁止されています。
東京都については条件付きで使用可能です。
ORETSURIで各自治体に問い合わせた結果は以下の通りです。
神奈川県:遊漁者による蟹網は「使用不可」
神奈川沿岸では、遊漁者による蟹網は使用できません。
※カニ網は、「竿釣り、手釣り」に含まれないため、使用できません
出典:神奈川県
これは神奈川県海面漁業調整規則第42条に、遊漁者が使用できる漁具に「蟹網」が含まれていないためです。
第42条 漁業者が漁業を営むためにする場合、漁業従事者が漁業者のためにする場合及び試験研
究機関が試験研究のためにする場合を除くほか、次の各号に掲げる漁具又は漁法以外の漁具又
は漁法により水産動植物を採捕してはならない。
(1) たも網、さで網及びざる
(2) と網
(3) やす及びいそがね(夜間において使用する場合及び水中眼鏡を併用する場合を除く。)
(4) くまで(幅 15 センチメートル以下のものに限る。)
(5) さおづり及び手づり
(6) 徒手採捕
(試験研究等の場合の適用除外)
出典:神奈川県海面漁業調整規則
実際に釣り場では、蟹網を使用している人がいますが、神奈川県海面漁業調整規則への違反行為にあたります。
釣具店などで「蟹網」が販売されていることもありますが、販売規制がないだけで、神奈川県の海面で使用はできません。
神奈川県 環境農政局 農政部水産課 漁業調整・資源管理グループの担当者に確認したところ、以下の通り。
神奈川県担当者:「蟹網については問い合わせが多いので、ウェブサイトにも使用禁止と明記しました。明記する前から使用は禁止です」
東京都:遊漁者による蟹網は「使用可能」
東京都では遊漁者による蟹網は使用可能です。
竿釣り及び手釣り(まき餌釣りを除く)
たも網及びさで網
投網(船を使用しないものに限る)
やす及びは具(貝まきを除く)
徒手採捕
ひき縄釣
(漁具等の名称をクリックすると、外部(水産庁)の説明ページへ移動します)
※「貝まき」とは、「じょれん」等を使用して貝類を採捕する漁法のこと。
※潮干狩りなどで、遊漁者が「じょれん」等を使用することは禁止されています。
※遊漁者のまき餌釣りは禁止されています。
※遊漁者のひき縄釣(トローリングを含む。)は、東京海区漁業調整委員会の指示により、禁止区域や禁止期間が設定されているほか、東京海区漁業調整委員会の承認を受けた釣り大会等のイベントに限り行うことができます。
出典:東京都
東京都担当者:「エサをつけて網として投げるものは今のところ竿釣りの範疇になっています。ただし、おきっぱなしにして、その場を離れて後程回収するというような行為は、遊漁の範囲を超えているので、禁止です。とはいえ、蟹網という釣り方自体が新しい釣りなので、今後ルールは変る可能性もあります」
千葉県:遊漁者による蟹網は「使用不可」
千葉県では、遊漁者による蟹網は使用できません。
釣り以外では、千葉県海面漁業調整規則(PDF:377KB)により使用できる漁具・漁法が次のものに限られています。
たも網・すくい式さ手網
投網(船を使用してはならない)
貝・藻類の徒手採捕(ただし、漁業権の内容である水産動植物は採捕できない)
出典:千葉県
千葉県担当者:「蟹網は手釣りと投網の範囲内に入っていないため、県内全域で禁止です。よく問い合わせをいただきますが、すべてそのようにお伝えしています」
茨城県:遊漁者による蟹網は「使用不可」
茨城県では、遊漁者による蟹網は使用できません。
漁業者以外の方が使うことのできる漁具・漁法
- 竿釣り・手釣り
- たも網・さで網
- 投網(船は使用できません。)
- やす・は具(大きさに制限があります。詳細は「鹿島灘での潮干狩りのルール」まで)
- 徒手採捕(手づかみ)
※まき餌釣り、トローリングはできません。
※潜水器(アクアラングを含む)を使用して、水産動植物を採捕することはできません。
※いか釣り、さば釣り以外に集魚灯を使うことはできません。
※カニ網など水産動植物を絡ませて採捕する漁具・釣具を使うことはできません。
出典:茨城県
各自治体に取材した印象
YouTubeやウェブメディアや個人ブログで、蟹網をつかった蟹捕りが発信されることもあり、視聴者や読者からも人気です。
一方、使用にあたっては、自治体ごとにルールが分かれるので注意が必要と覚えておきましょう。
神奈川県の場合、蟹網使用については問い合わせも多く、ある時点でウェブサイトが更新され「蟹網使用の禁止」についての明記が加わりました。
茨城県についても具体的に「※カニ網など水産動植物を絡ませて採捕する漁具・釣具を使うことはできません。」という明記がされています。
千葉県や東京都については、ウェブサイト上で「竿釣り」「投網」への言及はありますが、「蟹網」自体に言及されていません。そのため使用判断について迷う方がいるかもしれません。
千葉だと九十九里浜のヒラツメガニを蟹網で捕獲する方法が良く知られているんですが、これもアウトということです。このあたりも千葉県の担当者に確認したところ「それもダメです」とのことでした。
蟹網自体は昔からある遊びですが、YouTubeやSNSなどで個人の発信が多くなっているため、流行ってきていることが想定されます。
自治体ごとの使用ルールについては、現場の実態と乖離がある印象です。
今後の問い合わせや、漁業資源への影響度への判断によって、ルールが変化してくることもあるかもしれません。
まきえ釣の規制見直し
広島県漁業調整規則が改正され,広島県海面において平成19年10月1日から「陸からのまきえ釣」が解禁となりました。
ただし,まきえ釣をする場合は,次のことに注意してください。(1) 漁業にとって重要な漁場では,禁止されている場所があります(下図の区域)。
(2) 遊漁では「船からのまきえ釣」は,今までどおり禁止です。
(3) 広島県海域では「赤土の使用」が禁止されています。
出典:広島県
かつて、広島県では禁止されていた「陸からの撒き餌」が解禁となりました。これは撒き餌に赤土が使用されていることがあったことから海洋汚染を懸念して定められたルールでした。
一方、現時点で、海用の撒き餌には赤土が使用されておらず、現場の実態(使用禁止とされていたが釣り人は撒き餌をつかっていた)と乖離がでていたわけです。
現在は、撒き餌使用禁止のエリアを定めて、規則が運用されています。
「蟹網」使用時の注意点・マナー
蟹網を使用する際は、前述の通り自治体ごとのルールに配慮する必要があります。
海面と内水面でルールは異なります。
蟹網が使用可能な場所の場合においても、以下の点に注意しましょう。
- 根が荒いところには蟹網を投げない
- 蟹網を放置しない
蟹網を根が荒いところに投げると、高確率で根がかりして、回収できなくなってしまいます。
このような地形には蟹がよくいるが、回収できなくなるので蟹網使用は控える
回収できなくなった蟹網では、絡んだ蟹類や魚類が死に、それが呼び餌となってさらに別の蟹や魚が網に絡んで死んでしまうという連鎖を産み出してしまいます。この点は注意しましょう。
蟹網は砂や砂泥底など、障害物がないところでの使用が適しています。
また蟹網を投げ、その場を離れてしまうと、他の釣り人の仕掛けや行き来す船舶に絡んでしまうようなトラブルの原因にもなります。
十分に注意しましょう。
「蟹かご」使用時の注意点
蟹籠は購入前に使用できるかを確認したい
「蟹かご」の使用はほぼ、蟹網と同じような扱いです。
蟹網が使用できないところは蟹籠も使用できないと理解したほうがよいでしょう。
小規模な蟹網と違って、蟹かごは特に漁業者とのトラブルの原因になりがちです。
淡水から河口域であれば重要な漁獲物の「モクズガニ」、海面であれば「マダコ漁(タコかご)」と混同しやすいという特徴があります。
▼「タコかご」は「カニかご」と似ている
タコはエリアによっては「タコつぼ」ではなく「タコかご」をつかって捕獲します。
あらかじめ知識としてもっておくと、無用なトラブルをさけることができるはずです。
まとめ
本記事は、神奈川県・東京都・千葉県の遊漁関連機関に確認して作成しました。
都道府県ごと遊漁のルールは異なります。
他のエリアで蟹網を使用する際は、各自治体の漁業調整規則を確認しましょう。
最新の情報が確認したい場合もそれぞれご確認ください。
<他自治体の「蟹網」禁止ルール抜粋>
- 福島県:かに網等の絡めて採捕する漁具の使用は禁止されております
- 愛知県:遊漁者の火光を利用したたも網の使用は禁止です。遊漁者のカニ網の使用は禁止です
- 三重県:カニ網と呼ばれる、竿を使って網を投げてカニを絡めとって採捕する方法は、竿つり及び手づりに該当しないので、遊漁者はできません
手づかみとたも網をつかった捕獲動画
▼蟹網が禁止のエリアでも、手づかみとたも網で蟹が捕獲できる場所もあります。
遊漁に関する関連機関へのリンク
<神奈川県>
神奈川県 環境農政局 農政部水産課 漁業調整・資源管理グループ
電話:045-210-4549
<東京都>
東京都産業労働局農林水産部水産課 漁業調整係
電話:03-5321-1111
<千葉県>
千葉県農林水産部水産課漁業調整班
電話:043-223-3042
<茨城県>
茨城県農林水産部漁政課調整・漁船
電話:029-301-4080
※本記事は、2020年10月30日に各自治体関係機関に電話で行いました。行政側の立場で内容について異議がある場合は、こちらからお問い合わせください。