主に餌釣りで使用する仕掛けである「天秤(てんびん)」は多くがステンレス製です。一方、やや高価ではあるものの形状記憶合金製天秤も根強いファンがいるアイテム。
そんな形状記憶合金製の天秤ですが、実際のメリット・デメリットにはどんなものがあるのでしょうか。
今回は、形状記憶合金製の天秤について解説します。
形状記憶合金と天秤
ステンレス素材のシェアが高い天秤
形状記憶合金といえば、ニッケルとチタンの合金が一般的。
素材特製として、折り曲げても元の形状に戻る特徴があり、様々な産業分野で使用されています。
釣りでは、天秤・竿の穂先・神経締め器具に活用されています。
原材料と加工費用からステンレス製のアイテムと比べてやや割高で、釣りで使用する「天秤」ではステンレス製の天秤と比較して2倍程度で市販されています。
たとえば、船用天秤であればステンレス天秤が500円程度だとすれば、形状記憶合金製の天秤は1,000円程度します。
そのため、費用対効果について、購入するまえに躊躇する人も多いはずです。
形状記憶合金製「天秤」のメリット
ハイブリッド天秤・直
では、形状記憶合金製天秤のメリットについて考えていきましょう。
形状が安定している
一般的なステンレス製の天秤は丈夫なのですが、魚がヒットすると変形してしまうこともあります。
たとえば、細い線材を使用している天秤は潮受けしくく、扱いやすいのですが、ふいに青物などに引っ張られると腕の部分がゆがんだり伸びてしまうことがあります。
また、取り込み時に天秤部分を持ってしまうと、線材部分が変形しがちです。
形状が変わってしまった天秤は潮受けしやすくなったり、手前マツリの原因になってしまうことも。手指で元に戻すことができるのですが、完全に元の通りに戻すことはできません。
繰り返し折り曲がったものを元に戻すことにより、かなりいびつな天秤になりますし、折り曲げ部分が疲労していつか破断します。
一方、形状記憶合金製であれば、魚に引っ張られ曲がってしまってもすっかり元の形状に戻ります。
そのため、形状の変化は気にせず釣りができるわけです。
餌が自然と動く
形状記憶合金製の天秤は素材特製からしゃくりに対して、より自然に餌が動きます。
線材の設計が細目にできていることもあり潮受けもしにくい印象です。
魚の食い込みがよくなる
形状記憶合金製の天秤は魚が餌をついばむ際に、違和感が少ないため、食い込みが良くなります。
特に活性が低い魚を狙う場合や、マダイなど警戒心が高い魚をしっかり食い込ませるのに有効です。
アタリがダイレクトにでやすい
これは天秤自体の仕様にもよりますが、道糸側とハリス側が一直線になるモデルはアタリがかなりダイレクトに伝わり、巻き上げ負荷も減ります。
魚がバレにくくなる
ハリがかりした魚は暴れるわけですが、形状記憶合金製の天秤の場合、ステンレスよりショックを繊細に吸収しやすく、針穴も広がりづらく、バレにくいという特徴があります。
形状記憶合金製「天秤」のデメリット
折り曲げは破損リスクは高まる。右側のリーディングアームⅡは角度も危うい
良いところの目立つ形状記憶合金製「天秤」ですが、デメリットはどこにあるのでしょうか。
コスト
前述の通りコストは一つのデメリットです。
天秤一つ500円程度で購入できるものの、1,000円以上。実際のところLTアジ釣りなど、コマセ系の釣りではなくても十分釣りが成立します。
ここぞという釣り物で使用するとよいでしょう。
破損しやすい
これは実際に使用してみるとわかるのですが、形状記憶合金とはいえ、完全無欠ではありません。
以下の状態では折れてしまう可能性があります。
- 折り曲げて持ち運ぶ
- 手で許容範囲以上に折り曲げる
- ドラグ未使用で大型の魚とやりとりする
- 長期間使用する/酷使する
仕様にもよりますが、「折り曲げて持ち運ぶ」ことはできるかぎり避けたほうが無難です。
絶対に逃したくない釣り物の場合は、強度を重視してステンレス製の天秤を使用するのがおすすめです。
ステンレス製天秤では、何度も変形させた場合の結果として「折れるべくして折れる」ことがほとんどなのですが、形状記憶合金製天秤の場合、一見線材に問題はなくても、いきなりぽきりと折れてしまうのが特徴です。
形状記憶合金製「天秤」の種類(船)
代表的な形状記憶合金製天秤について紹介します。
吉見製作所 夢の天秤シリーズ
愛知県の吉見製作所が販売する夢の天秤は、マダイを中心としたコマセ釣りで特に人気です。
全体が一直線になる仕様で、潮受けしづらく、魚の食いこみも抜群。
破損する場合は、負荷がかかりやすい、オモリ装着部からハリス側手前部分に注意です。
ダイワ リーディングアームⅡ
ダイワのリーディングアームⅡはコマセ釣りの他、タチウオ、アマダイなどで使用されています。
量販店でも手に入れやすいアイテム。
形状記憶合金部分(腕)の線材は、Φ1.0、Φ1.2、Φ1.6があります。リーディングアームⅡは特に合金付け根の部分から破損しやすい印象がありの、丸めて持ち運ぶのは避けたほうが無難です。
これは丸めると線材の角度が急になるということも原因かと思います。
筆者は使用前に2回折れていたことがあります。これは持ち運び時に丸めていたわけですが、何らかの負荷が生じると折れてしまう可能性が高い印象です。
また、某釣り物での使用の際に、船長から「その天秤は大きいのかかると折れるので注意してください。何回もみてます」というアドバイスをうけたことも。
どの形状記憶合金製天秤でもそうですが、細い線材で大物がかかった場合は、やり取りには注意です。ドラグを併用しましょう。
破損してからは大物がかかる可能性が高い釣りで使用するのを避けていて、LTアジ・LT五目などのコマセ釣りをメインに使用していました。
使用するとステンレス天秤と比較して、明らかに魚のアタリを弾きにくくなり、食い込みがよくなります。アジ釣りではクッションゴムをしようしなくてもバレが軽減します。
サルカン部分はかなりしっかりしたアイテムなので、腕部分の接続方法・補強方法がアップデートすればさらに人気な天秤になるはずです。
今後の進化「リーディングアームⅢ」に興味津々な天秤です。
→※同製品は2023年にリーディングアーム3としてアップデートされて販売されています。
サニー商事 ハイブリッド天秤・弓
個人的に一番おすすめの形状記憶合金製天秤がこちら。サニー商事のハイブリッド天秤シリーズです。
ストレートタイプと直線タイプ「直」と「弓」タイプがあります。「直」はアマダイやタチウオなど、餌を積極的に動かす釣りに、「弓」タイプはコマセ釣りにぴったり。
形状自体は一般的なステンレス天秤と変わらないため、違和感なく使用できる人が多いかと思います。
特徴的なのが腕部分をステンレスと形状記憶合金の複合としている点です。
出典:サニー商事
「海中にあるもう1本の竿」というコンセプトなのですが、張りのあるステンレス線が魚の引きをいなし、形状記憶合金製の先端がしなやかで食い込みもよいという特徴があります。
接合部の仕様か、ステンレス線部分の恩恵からか、強度もあるように感じられ、今のところ使用時に破損したことはありません。
やや手に入れにくいですが、現時点で一番オススメの形状記憶合金製天秤です。
海中で竿のようにしなる
まとめ
今回は、形状記憶合金製天秤についてメリット・デメリット・オススメアイテムなどを紹介しました。
天秤の破損リスクはステンレス天秤より高い印象です。
ステンレス天秤と違って、折り曲げを繰り返した形跡(ゆがみ)がわかるわけでもなく、折れるときはいきなりポキっと折れてしまうことも。
形状記憶合金製天秤についても、あくまでも消耗品としてとらえましょう。
使用期間が長いものや、高負荷がかかったものはここ一番で使用するのは避けた方がよい印象です。
以上、みなさんの天秤選びの参考になれば幸いです。
関連アイテム
▼形状記憶合金は締め具にも使用されています。丸めると船バッグにも入れられてコンパクト。