ORETSURIをご覧のみなさん、こんにちは。
週末に船で東京湾や外房へ出るサラリーマン・アングラー『釣人割烹』です。
以前、仕事で会った初対面の人が相当な釣り好きと分かり、釣り談義がはじまりました。
ふだん狙う魚種を聞かれ、筆者が「アジです」と答えたところ、相手は一瞬ですが、ビミョーな表情を浮かべました。
(はあ? 小学生が堤防からサビキで釣ってるよ)
(芸もなくコマセをまいて針にかける船釣りの入門編だろ)
(他に釣りものがないとしても、やるかどうかオレは迷うね)
そんな『心の声』が聞こえてきたのです。
まあ、想定内の反応です。
船で東京湾のアジを狙う場合、アンドンビシ(コマセを入れるかごとオモリを兼ねた道具)30~40号、万能竿に手巻き両軸リールをつけ、横浜・本牧沖あたりの30m前後を狙うライトタックル(LT)のスタイルが標準でしょう。ライトなスタイルであれば道具も軽く扱いやすいので釣りの初心者や女性や子供にも親しみやすい釣りであることは確かです。
じっさい筆者も小学生の娘を連れていくわけで。ちなみに、東京湾のLTアジについてはORETSURIに釣り方などの完全ガイドがあるので、そちらをご覧ください。
走水の金アジを「ブタアジ」と呼んでいる
もちろんLTアジは楽しいのですが、あなどるなかれ。アジにはノーマルタックルもあるし、スーパーヘビータックルもあるわけです。
東京湾の浦賀一帯には、それはそれはでっかいマアジがいます。
干満のたびにダム放流時のように潮が速く流れる浦賀水道で、あまり回遊せず流れに耐えて育つ居着きのアジ。魚体が黄金色に輝くため『金アジ』というブランド名もあるようですが、筆者は釣り仲間と『ブタアジ』と勝手に呼んでいます。
どうです?家庭用まな板のサイズを上回る大物のアジたち。
その全長よりも、体高に注目してください。スーパーの鮮魚コーナーで売られる平べったい普通サイズとは異なり、胸びれから後ろがブックリと膨れ、身が厚く縦に置いても立ちそうです。
じーっと見ていると『これがアジなのか?』とゾクゾクしてきませんか?(筆者だけ?)。
パワーがあって竿をしならせ、釣趣は満点。そのうえ身はプリプリで脂(あぶら)ノリノリな極上の味です。
このブタアジを狙う船が、横須賀・走水(はしりみず)港に集結しています。
頑丈な竿に電動リールを装着し、130~150号のビシを60m前後の海底近くに沈めるノーマルタックル。
アジなので針にかけること自体は難しくありませんが、潮が速いとラインが真横に流れ、底を取って仕掛けをタナに合わせるのもひと苦労。船が満員なら隣とのオマツリはしょっちゅうで、明るくスピーディーに立て直す手際の良さが必要です。初心者の方はLTで経験を積み、走水のブタアジに挑んでみるのも面白いですよ。
走水でいつも金アジを狙う船宿は満席・・・
3月中旬。そのブタアジを狙いに走水へ釣行しました。
午前4時ちょうどに到着。いきなり動揺しました。
あっちゃ~。
いつも利用する船宿は予約を受けず、乗船場所のボードにかかった釣り座の札を早い者勝ちで取るルールなのですが、これがすでに満員御礼。
札が1枚も残っていません。これは、ぬかった。。。
準備に手間取り、家を出るのが遅れたことを激しく後悔しました。
筆者と現地で待ち合わせた釣り友1人を含めて7人が乗れず、定宿の手配で急きょ別の宿の船に乗ることに。
その宿はネット検索にも引っかかりません。船は古くて狭く、足もとにヒモの付いた水くみバケツが一つ。大きなおけに海水を流し、魚を生かしておく設備もなし。
どうやら連絡を受けた船長も慌てた様子で準備しています。
「氷はもらえますよね」と話しかけると、
「ああ、そうだった。ちょっと待って・・・」
おまけに、配られたバケツ入りのコマセは凍ってカッチカチ。。。
釣り友とは長い付き合いで、会話に言葉はいりません。なんとなく流れで筆者は左舷のみよしに座らされ、釣り友は左隣。準備をしながら、一瞬のアイコンタクトで意思を伝え合えます。
(大丈夫かなぁ)
(厳しいかもね)
しかし、船の新しさや大きさで魚が釣れるわけではありません。
魚はわが腕で釣るのだ。
とにかく船長が魚のいる場所に連れていってくれさえしたらなー。
釣り客の不安と開き直りを乗せた船が、午前7時すぎに港を出ました。
実はこの日、筆者には秘めたる狙いがありました。走水のアジ狙いでは『赤いお客様』がしばしばやってきます。はい、マダイです。
3月中旬といえば、まもなく本格的なマダイ乗っ込みが始まる時期。定宿の最新釣果には午前船(7時出港、正午前戻り)1隻で5枚もマダイ上がったとありました。細いアジ仕掛けで5kgクラスが上がることもあるのです。
マダイを狙って釣ることはあっても、残念ながら走水で「赤いお客様」をお迎えしたことはありません。
ブタアジを仕止めつつ、あわよくば……と、前日に冷凍オキアミを買い、マダイを意識した自作仕掛けも持参しています。
標準の仕掛けはムツ針9~10号ですが、12号とひと回り大きいものも準備。ハリス(標準は2号)も2号と2.5号の2種類を用意しました。
何より、得物(えもの)はいつも使っている短く硬い工業製ロッドではなく愛用の和竿です。穂先がムチのようにやわらかくしなり、胴に素晴らしく強い粘りがあって、かなりの大物でもパワーを吸収してくれるでしょう。
エサは持ちの良いイカタンではなく、3本の針に毎回オキアミをつける。手返しを犠牲にして、ていねいに誘えば……。
ああ、また妄想が止まらない。
アンカーが打たれる。金アジは釣れるのか・・・
15分ほど走った走水沖で船が止まり、船長がミヨシへやってきました。
どうやらアンカーを打つようです。恐れていたことが現実となり、思わず釣り友とアイコンタクト。
(やっぱり打つんだな)
(釣れても、釣れなくても、オレたち今日はここに釘付けか)
(あとは潮次第だね)
もちろん、釣り船がアンカーを打つのは釣り物によってはよくあることです。
しかし、筆者の定宿の船長は決して打たず、流しながら機敏にアジを追います。燃料代はかさみますが、何としても釣らせるぞ、という執念は尊敬に値します。
一方、船を早々に固定し、釣れないのにテコでも動かず終了時刻をひたすら待つ、というやる気に乏しい船長も残念ながらいます。
過去には悪質な船長にぶつかり、驚愕のアジが船中ゼロ!という経験もしました。
お金を払って何時間もただひたすら海にコマセを撒くという、苦行。不条理。徒労感。
もちろん自然が相手なのでそんな日もあるわけですが、船長が努力しての結果ならまだしも、無線や携帯電話で同業者とおしゃべりして時間を潰していたりすれば、客の方に納得感はありません。
そんなときは、怒りにまかせて「二度と乗るか!」と泣きわめきますよ(心の中ですがね)
負の経験が走馬灯のように頭をよぎるうちに、船長はアンカーを打ち終わり、トモで風を受けるスカンパー(帆)を張り、いよいよ開始の合図です。
「はじめてくださ~い」
そのあとアナウンスなし。
え~っと。深さはどれくらいでしょうか。
釣り友と、すかさずアイコンタクト。
(おいおい、船長、大丈夫か?)
(まあいいよ、仕掛けを入れりゃ分かるさ)
こりゃ『赤いお客様』どころじゃなく、本命のブタアジが心配だ。。。妄想はしぼみ、不安を抱えながら凍ったコマセと格闘します。オキアミは尻尾を口で噛み切って「ぷっ」と吐き出し、尻に針を入れ胴から抜く。3本の針にていねいに刺して、第1投です。
底は60mちょうど。ゆるやかな東寄りの風で、潮は自分の右斜め前から左斜め後ろへ流れていきます。コマセの広がり方から言えば、筆者の陣取る左舷ミヨシは最も不利。右舷の胴の間から後ろが有利な状況でした。
幸先よく、ブタアジとサバが連続ヒット
アジ釣りは基本が大切です。ビシが底についたら仕掛けが潮になじみ落ち着くのを待ち、1mほど巻いて竿を1、2度小さくしゃくる。さらに1m巻いて、小さくしゃくる。みたび1m巻き、そこでアタリを待ちます。
天秤から先の仕掛けはメーカー等によって差はありますが長さは2mが標準です。底から1~3mでコマセの煙幕の中を3本針が漂う状況をイメージします。アタリがなければ、また底に落として繰り返します。
この日は中潮の初日。
幸い、潮はしっかり流れていますが速すぎない状態。時間帯は下げ潮。昼前に下げどまり食いが落ちるはずで、開始から勝負です。
1投目。しゃくったか、しゃくらないかで竿先に反応が出ました。
ググッ
ググッ
穂先を控えめに押さえ込むような動き。
慎ましやかなアジ特有のアタリです。口の弱いアジに強い合わせは厳禁です。リールをゆっくり手巻きすると、竿にグーッと重みがのってきます。
「バレるなよ」
思わず声に出し、電動の低速巻き上げに切り替えます。
巻き上げ残り10mで、竿をキーパーに固定。巻き上げが止まったところで左手で竿を立て、右手でビシをつかんでコマセバケツに入れる。左手でハリスをつかみ、ゆっくり水面から抜き上げます。
おおお! 見事に肥えたブタアジが、金色に光り輝きながら足もとで跳ね回ります。針は硬い上あごの真ん中に刺さっていました。パーフェクト!
隣で釣り友が、さらに大きなアジを上げました。今度はちゃんと言葉が弾みます。
「おお、すげえ!」
「ブタだ、ブタっ!」
活性は高く、ハリス2.5号の12号針でもガンガン食ってきます。オキアミもイカタンも差はないようです。生かしておくバケツ等がないため、釣ったアジは即絞め(その場で首を折って血抜き)して、クーラーへ。まことに忙しい。
ガガガッと乱暴なアタリも時おりまじります。
「マンダラだな?」
「たぶんね」
背中の模様から釣り友がつけたサバのあだ名。浦賀のマサバのうまさはブタアジと肩を並べます。大歓迎のお客様で、数本はほしいところ。このころには、出港する時の不安は消えていました。
置き竿に強烈なアタリが!ま、真鯛か!?
荒食いは1時間半あまり続きました。
ひと息ついたあとは置き竿にし、お弁当タイム。波のリズムで穂先が規則正しく動きます。
ゆらり、ゆらり。
ゆらり、ゆらり。
ゴンッ!!
突然、竿先が大きく引き込まれました。
慌てて竿を持ち、反射的にリールのクラッチを切ってスプールを左手の親指でギュッと押さえる。右手でドラグを緩め、ハンドルを持ってクラッチを戻します。
ゴゴンッ!!
次の引き込みで大きく合わせると、見事にしなる竿。
今までにない強い力。
手巻きで慎重に対応していると、釣り友が「赤いやつ?」と聞いてきます。
「分からない。何だろう」
強い力がかかってグーッと竿がのされるときは、竿を立ててドラグ任せ。力が緩むと手で巻き上げる。容赦なくラインを引っ張り出すほどのパワーはないようです。
マダイか青物か。いずれにせよ大物ではないようです。
「おーい!」という釣り友の声で船長がきて、横でタモを構えます。
水面に浮いてきたのは……。
恥ずかしさで顔から火が出ました。でっかいサバのダブルです。釣り友が笑っています。
(チーン。ご愁傷さま)
「すみません。タモはいりません」
「ああ」と天を仰げば青い空。
赤い客こと真鯛はきょうも来ないのか。。。
こうなると、緊張の糸が切れて、期待も薄くなるという沖釣りあるあるですね。
予想通り、午前10時ごろからアタリは途絶えましたが、船長がアンカーを上げる気配はなく、釘づけのままゆるんだ時間がタラタラと流れていきます。
・・・
正午少し前に納竿。
釣果は、アジ20匹(このうち「ブタ」認定8匹)、サバ5匹、イシモチ1匹。
アンカーをしない定宿なら、よりよいアジの反応がいいポイントを探りつづけるのでこの倍は釣れていたような気がします。
といっても、ブタアジは1匹で普通サイズ2、3匹分。
足るを知る。4人家族には十分なお土産でしょう。
残念ながら「赤いお客様」こと真鯛と出会うのは次回に持ち越しです。ちょっと頼りない船長さんでしたが楽しめました。「ありがとう」と気持ちよくあいさつして船を下りました。
走水のアジは脂ノリが最高
ブタアジを家でさばくと、内臓まわりにたっぷり白い脂が絡みついていました。
アジはフライと刺身に。サバは塩焼きと竜田揚げに。
マアジの旬は産卵時期にあたる初夏と言われますが、この走水界隈で釣れる金アジは今の時期でもありえないほど旨いですよ。
以前、船で乗り合わせたアジ専門の老釣師は、外房や相模湾などで釣れるアジよりも東京湾のアジが断然旨いといっていました。まったく同感です。潮の速さや豊富な栄養が関係しているのでしょう。
余談。マアジはどれぐらい大きくなるのか
マアジはどのくらい大きくなるのか。筆者はまだ乗ったことがありませんが、ある船宿のサイトに掲載された写真で
50.5cm、1.2kgというバケモノを見たことがあります。
今回、筆者の釣ったブタアジ(約400g)のなんと3倍、カツオ級ですね。いったいどんな引きをするのでしょう。
冒頭でもちょっと書きましたが、「スーパーヘビー級」と言えるタックルで巨大アジを狙う船宿も走水にはあります。ビシはライトタックルで30号(112g)~40号(149g)、今回のノーマルタックルでも130号(487g)が標準です。
ところが、その船宿では浦賀水道の潮が最も速い場所で80m前後の深場を狙うため、ビシは標準を180号とし、それでも仕掛けが流れる時は80~100号のオモリを足すとのこと。
すなわち、ビシは最大280号(1050g)にもなります。
1kgを超すオモリを背負える竿はなかなかないため、特製を用意しているようで、近くこの船で巨アジに挑み、ORETSURIをご覧のみなさんにレポートしたいと思います。
寄稿者
釣人割烹
今回のアジ釣りタックル
- 釣り竿:和竿(2本継ぎ)2.2m
- リール:シマノ プレイズ1000
- ライン:PE3号
- 仕掛け:自作(ビシ130号、金ムツ12号3本針、ハリス2.5号2m)
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ビシアジ釣り関連アイテム
▼走水・観音崎付近の海域でアジを狙う船宿は湾奥や横浜界隈のLTアジとは異なり、電動リールに「ビシアジ竿」「ビシ竿」と呼ばれる重めのオモリ負荷に対応できるタックルを利用します。LTアジ釣りのタックルでは対応できませんが、どの船宿でも電動リール付きのタックルがレンタル可能(1,500~2,000円程度)です。また仕掛けについてはLTアジは1.5号~2号程度が標準ですが、釣況によって2号~3号程度までのハリスをメインに利用します。PEラインは3から5号程度、オモリは150号で指定されていることが多いものの船宿や狙うポイントによって異なるので必ず確認して釣行しましょう。