釣りあげた後、鮮度抜群の魚を比較的中長期的に食べたい。よくあるニーズです。
そんな場合、干物にするのも一つの手段。
「アジの開き」は、干物のなかでも代表的なもの。食味がよく、いくら食べても飽きません。
ところで、みなさんはアジを「腹開き」「背開き」どちらで干物にしていますか?
なんとなく理由もなく、どちらかでやっている人も多いんじゃないでしょうか。
今回は、アジの開きについて「腹開き」「背開き」それぞれのメリットについて考えてみます。
筆者はアジの開きについては、「腹開き穏健派」に属しているのですが、そのあたりの理由も紹介します。
アジは「腹開き」が多数派の模様
35㎝強。黄アジの大アジで仕込んだ干物。実際は20㎝ぐらいが一番旨いです
Twitterでアンケートをとってみました。
アジの開き(ひもの)について質問なんですが、腹開きと背開きどっちでつくりますか?理由も教えてもらえるとありがたいです。
— 平田 剛士@ORETSURI (@tsuyoshi_hirata) June 17, 2020
まだ回答を締めきっていませんが、腹開き派の人数が背開き派に対して2倍強といったところ。
ORETSURI読者向けのFacebookグループ「TSURI TALK(釣りトーク)」でも、背開き派に対して、腹開き派が倍以上の票数です。
とはいえ、数が多いからメリットが多いのかというのはわかりませんしね。
いただいたコメントを紹介します。
<腹開き派>
「大量に釣れたとき、三枚下ろしにするか、干物にするか、よそさんにおすそわけするか未決の段階で、内臓を除去する。このときに腹をさばくので干物も自然と腹開きになる。見栄えは重視しないのでアタマは落とす」
「身に内臓由来の汁を絶対につけたくないので腹開き一筋です」
「先祖代々武士の家系なので腹を切るのは縁起が悪く、背開き一択ですというのは冗談ですしアジは腹開きでさっさと内臓出したい気持ちです。ほっけは必ず背開きのイメージですね。自分で開くことあんまりないけど。」
「なんかかっこいいから」
「腹開きですね。あと背開きだと腹骨をそぎ取るのがV字となって苦手なんですよね。背開きなら外側なので取りやすいですね。」
「腹開き派。内臓取らないまま開くのが何か違う気がしてるのと、腹開いてそのまま背骨に包丁入れり方が素人には簡単な気がするので。
関東人ですが、縁起的なのはまあ良いかな、と」
<背開き派>
「焼いた時 脂が落ちないように背開き」
「背開きに票を入れさせて頂きました!熱の通り方が均一になりやすいかな〜と思います。腹開きの方が側面が薄くなるので焦げやすい印象です」
「江戸っ子は腹開きだと切腹になるので、背開き」
「身がグズグズの魚は腹開き。基本的に切腹をイメージさせるので背開き派ですね」
「なんか仕上がりが綺麗なのが背開きなきがします」
「背開き 見た目が綺麗だと思います。特に小さいアジの場合。 あと、私には背開きの方が楽にできる気がします。」
・・・
まとめると、以下の通りかと。
- 腹開きは効率がよく、内臓由来の汁がつきにくい
- 背開きは切腹イメージがなく、仕上がりがきれいで焼いたときに、火が均一になりやすく脂が落ちづらい
アジについて、筆者は「腹開き派」
ちなみに、お話した通り、わたしは腹開き派です。
理由は、いただいたコメントにもあるのですが、おおまかにわけて「生産性」「衛生面」という点があります。
- 前提条件としてアジは比較的多めに釣れることが多い
- 下処理の生産性を上げるために工程を統一したい
- 鮮度状態がよいときに内臓・鰓・血合いの処理まで一緒にやってしまえば、あとはそれぞれの調理に進められる
- 腹開きの場合、断面の表面積が大きくなり、内臓と血合いを洗い流す際に身に真水の水分が入りずらく身が崩れにくい
- 背開きでは、開いた身から内臓をまな板上or流水で洗い流す際に、内臓や排せつ物が身につきやすい。また、真水が身に入りやすい
・・・
背開きにして大量に干物をつくる場合、一尾ずつ内臓や血合いをきれいにするか、一旦すべて背開きにしてから洗い流すかのパターンがあると思います。
1尾ずつ処理すると、作業が分かれるので時間がかかってしまうかなと。
あとは、一旦すべて背開きにすると、どこかで内臓・血合い・排せつ物が身(筋肉)につきやすくなってしまい臭みの原因になるような気がしています。
臭みの原因にならない場合も、洗い流す際に、汚れが身の断面につくのはなんとなく嫌だなと。
アジの「腹開き」「背開き」それぞれのメリット・デメリット
いただいたコメントも含めて、アジの開き方について考えられるメリット・デメリットをまとめておきます。
腹開き
腹開きのアジ。作業が速く身肉への汚れも少ない
<腹開きのメリット>
- 複数のアジ料理を作る際に、下処理作業を統一できて時短になる
- 内臓処理の際に身肉に、内臓・排せつ物・血合い由来の汚れやニオイがつきにくい
- 身に真水が入りづらい
<腹開きのデメリット>
- 切腹を連想する人もいる
- 炙る際に、側面に脂がのっている腹部がいくため、やや焦げやすく、火加減が難しくなる
- 同、脂が身から抜けやすい
背開き
背開きのアジ。脂が背肉の土手で腹にたまりやすくしっとり仕上がる。側面に厚みがでるため焦げにくい
<背開きのメリット>
- 見た目がよい(より楕円形に仕上がる)
- 切腹を気にする人でも安心
- 加熱する際に脂ノリがよい腹部が真ん中にきて背部分が土手になるため脂が逃げず、よりふっくら焼ける
<背開きのデメリット>
- いろんな料理を作る際に、下処理作業が統一できず、効率的ではない
- 内臓処理の際に身肉に、内臓・排せつ物・血合い由来の汚れやニオイがつきやすい
- 断面の表面積が大きくなり、内臓処理の際に身に真水が入りやすくなる
アジの開き方 – Another
その他のアジの開き方を紹介していきます。
頭落とし背開き
「頭落とし背開き」は、頭を落としてから、腹部に指をいれて内臓と血合いを取り除いてしまうところまで連続して行うパターン。
断面の表面積も狭くなるので真水がしみこむ可能性は下がりますね。
あとは、一気に背開きにするだけなので効率もよいかと。
頭が取れるの見映えは悪くなるものの、そもそもアジは頭など食べないし、省スペースがはかれて、鮮度保持ではこちらのほうが上かも。
ただし、内臓と血合いを抜く際に、腹腔奥の血合いは残りやすいと言えます。
頭落とし腹開き
「頭落とし腹開き」は、100尾単位でアジを処理し冷凍庫にしまうなどして省スペースをはかるときに有効。
釣り船の場合、船宿で頭と内臓を落としておく工程をやってしまえば家庭での生ごみも減るというメリット。
帰宅後は、うろこ落としと血合い処理をしてひらいていくだけ。
うろこ落としも時間があれば船宿でやってしまうのも一つ。その方が、身肉への浸水や手指による身の痛みは少なくなります。
デメリットは頭がないので、なんとなくインパクトにかけるところ。SNS時代では「映えない」というので、あまり選ばれないような。だれかにシェアする場合も頭があったほうがおいしそうには見えますね。
片袖開き
赤カマスの干物(片袖開き)
片袖開きは、アカカマス(本カマス)やヤマトカマス(水カマス)で有名な開き方。
アジの写真がなかったので、赤カマスの写真です。
頭部が丸のまま残るので、インパクトがあって、「映える」というメリットも。
アジを開く際でも問題なく作れますが、中アジ以上の場合、加熱した際に頭部の厚みがあるので、そこは食べないまでも生焼けにはなります。
半身干し
赤カマスの半身干し
「半身干し」は、無念、釣れたアジの数が少ないときに、なんとかいろいろな料理を味わいたいときにおすすめの方法。
中アジ・大アジのように特に身肉が多い場合には有効です。
頭は残したまま、半身をサクとして切り取ってしまう。それで半身だけ干物にするというライフハック。
サクにした半身は、刺身・たたき・なめろう・酢締めなどに使えます。
半分になってしまった開きでも、頭がまるのままあるのでインパクトはあって意外と映える技と覚えておきましょう。
頭部が丸なので、加熱に工夫が必要ですが、マダイなどの高級魚(30㎝程度)を干物にする場合にも使えます。
丸干し
写真は、平田家秘伝「塩イナダ」。マル秘エピソードはこちら
豆アジから小アジサイズは、はらわたとエラを抜いて丸干しにするのもひとつです。
炙って食べてもよいですし、ダシにすることもできます。
胡麻をふりかけて干しあげる「みりん干し」もなかなか。
今日よりも明日の料理。それが干物だ
アジの干物茶漬け。なんとなく豪快だけど食べにくい
今回は、日本人にとってなじみ深いアジの開きをテーマに、腹開きと背開きのメリット・デメリットを語ってきました。
よく江戸っ子文化は「切腹を連想させるから背開き」で、上方文化は商人のもので「腹を割って話すように腹開き」という説が言われます。
なるほどこれはうまい話しではあるんですが、江戸だって商人はたくさんいます。
むしろ、今の時代、東京のほうが商人は多いんじゃないか。
むしろ士族階級でもないのに、切腹が云々とか考えすぎじゃないか。
平田家は士族だけど、腹開きだぞこの野郎。小難しく考えるとそう思ってしまったり。
それに、「腹を割って話すように腹開き」とかいって、自分の腹じゃなくて釣ってきたアジの腹をすぱすぱ開いたところで、「お前はなにをいっているんだ状態」ではあります。
そろそろ、スッキリとまとめに入りたい。
何を言いたいか。
そうですね。
アジなんて好きなように開けばいいじゃあないか。
そういうことなんです。
アジで殴り合うなと。
たとえばネットをみれば、右翼左翼という政治的志向性があると思うんですが、目的は一緒で「この国をなんとかよくしたい」ということですよね。なかには極端すぎて、日ごろのストレスやルサンチマンゆえの単なる害悪もいますが。
なんとかよくしたい。
が、そのための手段が異なる。そういうことだろうなと。
アジだってそうです。
腹開きも背開きも、それ以外の開きも、アジを美味しく食べたいという一心から生まれたものなのでしょう。
北斗の拳で、やっとこさ手に入れた稲の種もみをめぐって愚連隊に襲われた老人がこう言っていました。
「今日よりも明日」
そうです。
干物は、今日よりも明日のために存在している釣魚料理なのです。
腹開き派も背開き派も仲良く、楽しく釣りをして、楽しく干物を作りましょう。
わたしからは以上です。
今後ともよろしくお願いいたします。
平田(@tsuyoshi_hirata)
<関連情報>
- ORETSURI読者向けのFacebookグループ「TSURI TALK(釣りトーク)」
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▼とりあえず干物網を買おう。話はそれからだ。干物網は100均のものでもよいのですが、出し入れ口が狭いとかなり使いづらいのでジッパーが広く開くものを買いましょう。あとで後悔します。
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