今回は、アウトドアの定番「オピネルナイフ」のかんたんな黒錆加工の手順を説明する。
黒錆加工は、素材が炭素鋼=カーボンスチールモデルのみ対応可能。オピネル以外にもモーラナイフなど様々な炭素鋼製品にも応用できる。もちろんナイフ以外の鉄製品についても同様の効果が期待できる。
炭素鋼ナイフは切れ味がよく磨ぎやすいものの、錆びやすいというデメリットがある。
これを乗り越えるための黒錆加工については、グリップを外して行う方法もある。一方、グリップを外すというのはやや面倒なので、今回は、だれでもできる簡単な方法を紹介する。
「黒錆加工」それは、古くからある「おはぐろ」と同じもの
はじめに黒錆加工について説明する。
黒錆加工とは、赤錆が生じやすい鉄に対して、あえて鉄タンニン化合物の被膜を形成させることによって、赤錆の進行を防ぐ処理を指す。
黒錆加工は、古くは日本国内でも「南部鉄器」に施された処理としても有名だ。
南部鉄器の伝統的な色は黒で、着色剤は「お歯黒(おはぐろ)」。おはぐろは「お茶錆び」ともよばれ、酢に鉄を溶かした鉄漿水(かねみず)に濃い目の茶汁を加えてつくられる。
つまり黒錆加工は先人の知恵なのだ。
オピネルやモーラナイフなどの炭素鋼ナイフの黒錆加工は、以下のような工程で完成する
- ナイフの研磨
- ナイフの脱脂
- ナイフへの酸とタンニンによる処理
「赤錆びを防ぐ」メリット以外には、刀身が黒くなりカッコよくなるので、多くのオピネルやモーラナイフユーザーがこの黒錆加工の道を通る。
オピネルナイフの素材について
我が普段使いナイフたち。真ん中が新品のオピネルフォールディングナイフ#8
次に、黒錆加工方法の前に、ナイフの素材解説をする
たとえばオピネルのナイフにはステンレスと炭素鋼のものがある。それぞれの素材にはメリットデメリットがあるためそのあたりをまずはチェックしておきたい。
<ステンレスと炭素鋼(カーボンスチール)の比較>
- 堅牢さ(硬度):ステンレス >炭素鋼
- 錆びにくさ: ステンレス >炭素鋼
- 切れ味: ステンレス< 炭素鋼
- 研ぎやすさ: ステンレス< 炭素鋼
つまり、以下の通り。
- 炭素鋼は研ぎやすく切れ味が高いが錆びやすい
- ステンレスは丈夫で錆びず切れ味は維持しやすい
- ステンレスの切れ味は炭素鋼に劣る
わたしは研いでメンテナンスをしながら、こまめに手入れをしながら使うという思惑で炭素鋼のタイプを選んだ。
モーラナイフのカーボンスチールタイプ
ちなみに買ったばかりのオピネルやモーラナイフは切れ味がよくないことがある。使えなくはないが、初期の刃付けがやや雑というのもあって、場合によっては刃こぼれしているものも見受けられる。
後述するが、黒錆加工の前に多少研いでおくことをオススメする。
オピネルの炭素鋼ナイフはあっという間に錆びる
オピネルの炭素鋼ナイフをすこしつかってみたところ、あっけなく錆びた。
ほう、ほほう。しっかり錆びているな。通常攻撃にプラスして破傷風による追加ダメージか。
って何をいっているんだ。
赤錆は鉄の表面だけでなく、放っておくと段々と金属の内部へ腐食をすすめてしまうという性質がある。そうなるとやがてはナイフの刀身自体が折れてしまうのだ。
ということで、今回は、この赤錆びを防ぐために黒錆加工をする。
オピネル炭素鋼ナイフのかんたん黒錆加工手順
オピネルの場合、こだわる人は持ち手のグリップを外して作業をするのだが、こだわらない人は、以下の簡易手順でやるといい。
わたしは簡易手順派に所属している。
- 炭素鋼ナイフの赤錆があれば砥石で落としておく。同時に刃先も研ぐ
- エタノールや食器洗い洗剤でナイフの刀身を脱脂する
- 紅茶を濃いめに煮だして酢と合わせた溶液をつくりそこに刀身をつけこむ(300ml。酢は2割=60ml)
- 一定時間経過後、溶液からナイフをだして流水であらって乾かす
- オイル類をぬって終了
持ち手のグリップを外すことによって、ナイフの付け根もしっかり黒錆加工ができるが手間なのでそこは好みでどうぞ。
今回は4つの手順でオピネルの炭素鋼ナイフを黒錆加工する方法を解説していく。
では、進めていこう。
手順1:オピネルナイフの赤錆びを砥石で落とす
まず錆びを落とす場合、電動研磨機があると容易に磨くことができるのだが、砥石でもがんばれば問題ない。
まずは、「貝印のコンビ砥石」を用意しておいた。
なんでこれをAmazonで買ったかというとレビューがよかったからだ。ヤラセ系のレビューではなさそうだったのでね。
荒く研ぐための砥石と、仕上げ用の砥石が背中合わせになっていて、ゴムの台座があり滑りにくい仕様がいい。台座のしたに濡れ雑巾をしくとさらに固定できる。「砥石台」をつかうとさらに研ぎやすくなる。
まず砥石を10分ほど水につけておいて、そこから荒研ぎをする。
砥石も使いかたによって次第に平らでなくなってくるので、均一に錆びを落とすのは意外と難しいのだ。砥石の表面に偏りが目立つ場合は、「砥石研ぎ」をつかって整えておくといい。
ひたすら荒砥し、おまけに刃部分も研いでおく。
刃先の角度をみてまず片側を研ぎ、「かえし」「かえり」と呼ばれるソリをだして、もう片側からそのでっぱり部分を研いでいくと鋭い刃ができる。購入したてのときはそれほど研がなくてもいい。素人は刃をとぎすぎると大体きれなくなるので注意だ。
毎回刃物を研いでいると、無心になる。
小学生のころ、東京野方から栃木の佐野に引っ越したわたしは、夏場の縁側で延々と祖父正臣からもらったヴィクトリノックスのスイスアーミーナイフ(キャンピングというモデル)を適当に研ぎ続け、何をおもったか勘違いしてガスコンロで焼きを入れてみたところ、無念、まったく切れないなまくらにしてしまった覚えがある。
焼きをいれるというあたりがなんとなく理系っぽいのだが、その実、文系であって、理屈はわかっていなかった。
そんなこんなでヴィクトリノックスの持ち手は溶けたものの、堅牢なアイテムなので20年以上たった今もまだ研ぎつつ使っている。
・・・
・・・
・・・
このように無心に研いでいると大体錆びも落ち輝きもでてくるし、記憶も晴れて忘れていた想い出が一つ二つよみがえってくる。
こだわる人は、ここで耐油紙に研磨剤のピカールなどをつけてみがくとさらにいいだろう。
とりあえず、赤さびは落ちた。
が、油断すると、炭素鋼ナイフはすぐに錆びる。
どれくらいかというと、コーヒーを飲んでいるちょっとした間にも酸化していき赤さびた鎧をまとうことになる。梅雨時や秋の長雨シーズンは本当にすぐに錆びる。なめちゃいけない。
ということで、一息いれたらすぐに次の作業に移ろう。
手順2:無水エタノールでナイフの脱脂をする
「無水エタノール」をティッシュペーパー類に含ませ、オピネルのナイフの刀身をぬぐっていく。これで脂肪や汚れが取れるはずだ。
実は、手で触っただけでナイフの刀身には脂がつく。オッサンという生き物は、自分で気づかないあいだに脂まみれになっているんだから注意だ。
脂が刀身についてしまうと、黒錆化にもムラが出る。
うわっち、この短時間でもう錆びているぞ。。。
なんたる錆び力。
※エタノールが用意できない場合は、脱脂能力の高い食器用洗剤をつかうといいと思う。
手順3:タンニンたっぷりな紅茶を煮だそう
炭素鋼のナイフを黒錆化するためには、タンニンが必要。
この工程では紅茶がよく用いられている。
みなさんの自宅にもリプトンあたりのティーバッグがあると思うが、我が家では「CTCアッサムティー」を煮だすことにした。
CTCアッサムというのは、茶葉を砕いて丸めてあるインドでチャイに使うアイテム。知る人ぞ知るオススメアイテムだ。
東京であれば、新大久保か上野界隈で比較的安価に手に入る。大久保だと最近はイスラム勢力のみなさんが頑張ってきているので、そこをのぞいてみるといい。だいたい500円ぐらいで買えるはず。これをインドで買うと数十円~100円ぐらいだ。たぶん。
このCTCアッサムを煮だすと、簡単にめちゃんこ濃い紅茶ができる。リプトンのティーバッグなんて目じゃない。
ちなみに、ここに練乳とチャイスパイスと牛乳をいれて伸ばすと、かんたんにうまいチャイができるということも付け加えておこう。
ほらね。タンニンたっぷり。リプトンのティーバッグの3倍ぐらいの濃さだと思う。
脂料理のあとに煮だしたチャイを飲むとすっきりする。空腹時に飲みすぎると煮出しウーロン茶と同様に胃潰瘍になるから注意だ。
ちなみに、これが煮だしたあとのCTCアッサム。なんだか、芋虫の糞みたいだな。
これはこれで三角コーナーなどの防臭効果がある。
ここに全体の2割程度の酢を入れる。だいたいでよいと思う。
ここはいちばん安い穀物酢をつかっておく。最近では酢がきれていてもコンビニでも100円台で購入できるから便利。
そういえば、ミツカンのロゴをみるとアドミラルというスポーツメーカーのロゴを思い出す。中学生のころサッカー部の同級生だった高田君がアドミラルのグッズをもってきたときに、え、ミツカン?と言ってしまったことが20年ぶりに思い出された。
刃物を研いでいたり、こういったアイテムのメンテナンスをしていると不思議と昔のことがいろいろと思い出される。
酢を入れると澄んでいた紅茶が濁る。何かが液体内で起きているのだろう。
手順4:いよいよオピネルナイフを黒錆加工(魔剣化)する!
おうよ、わかってるとも。魔剣とか中二だろとか、わかってるとも。
黒錆加工=魔剣ということだよ。
なんだかこのナイフをカスタマイズすること自体が中二プロセスそのもので楽しいんだ。
ということで、ナイフをドボンとつけてしまおう。
この黒錆加工をするときに、ナイフの刃を外して行うこともできるようなのだけど、わたしはめんどくさがり屋のみなさんを代表し、どぼんとそのままいれてしまう。どぼん。
5分経過。
むむ、やや黒くなってきたぞ。
10分経過。
おや、もう十分黒いんじゃない?もうやめとこうか?
まだだ、まだ終わらんよ。
そのまま放置して1時間。
よーし。吉北産業。
助さん格さん、もういいでしょう。
ということで、黒錆加工済みのナイフを流水で洗い乾燥させる。
完成。
オピネル炭素鋼ナイフ黒錆加工暗黒剣バージョンである。
ファイナルファンタジー3だと、魔剣士+魔剣だったり黒魔導士がいないと分裂しまくる敵がいるけれども、この世の中にはそうしたことはない。
が、これで刃の深みまでおかしてしまう赤錆とは、一旦、もうさようならだ。
黒錆加工をしたオピネルナイフの切れ味は?
このオピネルの黒錆加工後の切れ味はどうなの?と思った人向けに、以下の画像を共有したい。
黒錆の被膜をつけるまえに、しっかり研いでおけば切れ味は変わらない。
ジンジャーティの準備
スパ。
このあとに、えごま油などの乾性油に漬け込むというカスタマイズもいい。オピネルのナイフは持ち手が水分を吸い込むと、金属の可動部分が硬くなってしまうのだ。
これをふせぐためには刃を取り外して持ち手を削りつつ乾性油に一晩つけるという技がある。
黒錆加工の効果とデメリットなど
黒錆加工がとれると赤さびが発生。レモンなど酸度が高いものをきったあとは要注意
黒錆加工についてはデメリットを気にする人もいるかもしれない。
この記事を書いた後に2年半、黒錆加工済みのオピネルを使ってみたが、切れ味や強度も加工前となんら変わらない。
ということで黒錆加工にデメリットは特にない。
ただし黒錆加工の効果は永久に続くわけではない。やがてコーティングがとれると再び赤錆が発生する。
特に酸を含む食品、たとえばレモンやグレープフルーツなどの柑橘類を切ると、黒錆加工部分の色が落ちてしまうことがある。
しばらく使って黒錆の被膜が落ちたら、再度研磨してから黒錆加工を行う必要と覚えておこう。
そういった点を「手間」ととらえるか、それとも、楽しみとしてとらえられるか。オピネルやモーラナイフを購入する際はこのあたりを考えてからにしたい。
カーボンスチールのナイフは手間でもあるが、それがまた愛おしい。できる息子だが、物事の持続性がない息子に世話を焼く喜びみたいな。
とはいっても、人間いろいろ。
一連の手間暇をかけるのが嫌な人は、炭素鋼ナイフを買うと後悔するので、迷わずステンレスナイフを買うことをオススメする。
ではでは。
平田(@tsuyoshi_hirata)
<参考文献>
約4年黒錆加工を繰り返したオピネル
おまけ的に、約4年黒錆加工を繰り返したオピネルのナイフを紹介したい。
こちら。錆びてるね。
しばらくつかわないでおいておいたら錆びていた。
こちらは、再度黒錆加工をした様子。
ブレードからグリップまで、なんとなくエイジング的な味わいがでているなと。
関連アイテム
▼オピネルのナイフについては黒錆加工などのメンテナンスをして使いたい人はカーボンスチールを。ノーメンテで使いたい方はステンレススチールを選びましょう。サイズは#8が一番使い勝手がいいと思う。1,500円ぐらい。それ以上大きいと使いづらいしかさばる。
▼砥石はドッキングタイプが便利。台座に滑り止めがあるものの、濡れ雑巾で固定したほうがさらに研ぎやすい。砥石台があるとさらに快適。砥石の表面が平らでなくなったら面直しをしてから研ぐのが基本
▼炭素鋼ナイフに関わらず金属のさび落としでピカールは有能。乾いた布巾などにぬって刀身を磨こう。バイクなどの金属部分の錆にも効果的
▼仕上げのつやだしはこちら
▼脱脂はこちら。万能ハッカスプレーづくりなどにもよい。油をよく落とす食器洗剤でもOK
▼CTCアッサムはチャイにも最適。黒錆加工にもバッチリ
▼黒錆加工後は油脂でコーティングするともちがいい。食料を切る場合は、CRC556などは使わないように
▼オピネルのシャープナーは応急処置的に刃先を研ぐもの。やりすぎると切れなくなります。