手軽な岸釣り。
海釣りをしていると便利なのが漁港などの岸壁です。
足場もしっかりしていてアクセスもよく、トイレや自販機などがあることもしばしばです。
場所によっては潮通しもよく、大型の回遊魚が狙えるような場所さえあります。
かつ無料。
そんな釣り人にとって有難い施設である漁港やその他の港湾施設で「釣り禁止・立ち入り禁止」が増えています。
今回は「釣り禁止・立ち入り禁止」が増えている理由や一人一人の釣り人ができることについて解説します。
ソーラス条約改正により港湾施設が立ち入り禁止に
以前は漁港以外の港湾施設も釣り場として知られていました。
一方、2001年に発生した米国の同時多発テロ事件を契機として、船舶の安全確保を目的とする国際条約「SOLAS(ソーラス)条約」が改正され2004年7月1日に発効しました。
東京、川崎、横浜、横須賀などの重要港湾地域のなかには以前は釣り場として成り立っていた場所がありましたが、そのような場所も防護柵が設置され、立ち入り禁止措置が取られています。
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身近な漁港とその種類についてしっておきたい
現在、「堤防釣り」と呼ばれる釣りのほとんどが漁港や公園(緑地帯)に付随する岸壁で行われているはずです。
漁港について、水産庁は以下の情報を発信しています。
我が国の沿岸には2,912の漁港があり(*1)、平均すると我が国の海岸線の約12.1㎞ごとに漁港が立地しています。漁港の種類には、その利用範囲が地元の漁業を主とするもの(第一種漁港)、その利用範囲が第一種漁港よりも広く第三種漁港に属しないもの(第二種漁港)、その利用範囲が全国的なもの(第三種漁港)、離島等の辺地にあり漁場の開発又は漁船の避難上特に必要なもの(第四種漁港)があり、そのうち、およそ4分の3を第一種漁港が占めています。
漁港は規模や利用範囲によって第一種~第四種までわかれています。
4分の3が第一種漁港で地元の漁業において用いられているものです。
出典:漁港漁場整備法について
ちなみに漁港は種類によって管理者が異なります。
漁港の種類について、神奈川県でいえば、以下の通りです。
- 第一種漁港:茅ヶ崎漁港、金沢漁港、腰越漁港など19港
- 第二種漁港:平塚漁港、長井漁港など4港
- 第三種漁港:小田原漁港
- 特定第三種漁港:三崎漁港
参照:神奈川県
一度みなさんが釣行しているなじみの漁港についての種類や管理者について調べてみるのもよいでしょう。
それぞれ指揮命令系統が異なりますが、第一種漁港の場合は地域で管理している属性が強いため、なんらかのトラブルがあった場合に即座に釣り禁止や立ち入り禁止などの措置が取られやすい側面があると言えるかもしれません。
漁港は、出漁に必要な物資の供給や漁獲物の陸揚げ等に限らず、水産物の流通、販売、加工、貯蔵等の水産業を支える多くの役割を担っています。また、各漁港では、地域の水産業の形態や利用の範囲に合わせて、その機能を分担(*2)、連携することにより地域全体で水産物の安定供給を支えています。
釣りをしていると、漁港の釣り禁止や立ち入り禁止について考える機会も多くなるはずです。
漁港についてはまず「水産物の安定供給」という役割で設置され税金が投入されています。
そこに釣りやレジャーの要素はありません。
一方、地域的な漁港もそうでない漁港も関係者は釣りをすることを黙認していることもしばしばです。
明確な釣り禁止・立ち入り禁止の意思表示がされていない釣り場は、釣りが許可されているのではなく、釣りが黙認されているのだと覚えておきましょう。
このあたりについて勘違いしてしまうと、漁港の建設と維持管理に税金が投入されているので、自分たち釣り人の願いもかなえてほしいという釣り人のエゴが大きくなってしまいます。
こうしたエゴが肥大化すると、漁業者や港湾管理者(委託事業者含む)に対する失礼な態度につながってしまいます。
後述しますが、例えば漁業者の立場で日頃釣りを黙認しているとしても、トラブルがあった際に釣り人に注意をしたら逆に嫌がらせを受けるなど、実害が頻繁であれば、やはり心情的にも釣り禁止・立ち入り禁止にしたくなるものです。
漁港が釣り・立ち入り禁止になるのは釣り人などによるトラブル防止のため
利用料も無料で釣りもできる漁港。
とても便利ですね。
では、なぜ釣り禁止・立ち入り禁止になっているのでしょうか。
ここでは主に4つの原因について解説します。
①漁業関係者と釣り人のトラブル
直接的な原因としてあるのが漁業者と釣り人間のトラブルです。
たとえば、前述のような漁港施設設置の目的を理解できていない釣り人は、自分の釣りを中心に物事を考えることもしばしばです。
悪意の有無にかかわらず目前を行き来する漁船にルアーや仕掛けを投げて実際に当てるようなことも発生しています。
また、停泊している漁船に乗り込んで釣りをしたり、漁船の上で用を足したり、係留するロープに仕掛けやルアーを絡めたり、勝手にロープをゆるめたりなどの問題があります。
②釣り人による事故の問題
漁港は外海に対して堤防やテトラ帯によって波浪を防いでいます。
こういった堤防やテトラ帯は高さもあり、落下すると生死にかかわる事故に発展することもしばしばです。
事故が発生すれば、問題の原因として釣りは禁止になります。
事故が発生したときの責任問題を避けるために抑制措置として釣り禁止・立ち入り禁止が明言されている場所もあります。
ゴミ問題
ゴミの問題も漁港で釣り禁止になる問題の一つです。
釣り関連の小さなゴミだけでなく、粗大ごみの不法投棄なども行われており(釣り人以外の場合もあり)、こうしたトラブルが続けば、結果的に立ち入り禁止がとられます。
迷惑駐車の問題
漁港の規模にもよりますが、明確に駐車場がなく、空いているスペースに車をおくというようなところもあります。
こうした漁港で、作業者が業務を遂行できないような車の止め方が頻繁に起こることも釣り禁止につながる要素です。
駐車禁止に対して漁港管理者が注意することもあり、その結果、釣り人に暴力をふるわれる・暴言を吐かれたなどの行為が続くと、致命的な釣り禁止原因となります。
漁業関係者からすれば、釣りは黙認しているだけなのに、なぜそのような態度をとられるかがわからないといったところでしょう。
釣りを容認している直接的なメリットなど、漁業者からすれば一つもないのです。
遊漁船事業をしている事業者が多い漁港の場合は、釣りへの一定の理解があるといってもよいですが、やはりトラブルが続くようでは釣り自体を禁止するという判断をとるわけです。
釣り禁止・立ち入り禁止の場所に入って釣りをするとどうなるのか
では、釣り禁止・立ち入り禁止の場所に入って釣りをするとどうなるのでしょうか。
トラブルとして警察官に通報されると軽犯罪法違反や建造物侵入罪で検挙される可能性があります。
初犯やそれほど悪質でない場合は、職務質問に加えて現場での厳重注意もしくは所轄警察署にて念書を書かされるという程度で済むこともあります。
が、反省の態度がうかがえない、施錠などを壊しての侵入、繰り返しての違反などは、立件され裁判の後、前科がつく可能性もあります。
勤め人の場合、前科がつくなど、こうした公序良俗に反する行為は多くの場合、職務規定に抵触することもあり、懲戒解雇などにつながる可能性もあります。
今、釣り人にできること
おかっぱりメインで釣りをする人の誰しもが課題に感じている釣り禁止問題。
考えれば考えるほどやりきれず、暗い話題ですが、目の前にある問題について、ひとりの釣り人として何ができるのでしょうか。
釣り以前に社会のマナーやルールを守る
釣り場でのマナーやルールは、釣りに限定されることではなく、社会に生きる大人が守るべきとされているものとほぼほぼ変わりません。
漁港などの釣り場は、関係者の黙認により、釣りができているだけであるという事実をうけとめ、「ゴミを捨てない」など、あたりまえのルールやマナーを守っていきましょう。
挨拶などは積極的に行う
漁港などで釣りをしていると漁業関係者・港湾管理者・近隣住民とすれ違うことがあります。
基本的なところですが、挨拶や目礼などは行ったほうがよいでしょう。
なんらかトラブルが発生して緊張感が高まっている漁港では、挨拶がかえってこないところありますが、それでも挨拶をしないよりは物事をまえに進めるはずです。
心無い釣り人の捨てるゴミを真っ当な釣り人が持ち帰る
釣り場にゴミを捨てる人は釣り人全体の一部です。若い人でも高齢者でもゴミを捨てる人は捨てます。
こうした残念な人には多くの場合何を言っても無駄です。
代わりに、まともな大多数の釣り人が自分の捨てたゴミだけでなく、周りのゴミも拾うことで、釣り場は何もしないよりはきれいになるはずです。
持ち帰るのに苦労するほど拾う必要はないとは思いますが、自分の釣り座の周りだけでもきれいにして帰るなどをすべての釣り人が心がければきっと釣り場は今よりもきれいになるはずです。
釣り場ごとにチームを作って清掃活動を定期的にする
釣り場のゴミを拾うというのは、意外と勇気がいる行為です。
「偽善と思われないだろうか」
「恥ずかしい」
そのように思う釣り人の方もいるはずです。
世の中には何かと冷笑的にふるまい、あたかも賢そうにする人もいます。そうした人は多くの場合、批評家の域を出ません。
もしあなたがひとりで釣り場のゴミを拾うことに躊躇してしまうのであれば、いつも同じ釣り場にいく仲間同士で釣り場環境を保全するチームを作って、実際に釣り場で活動してみるのも一つです。
「毎週●曜日は釣りの前に30分だけゴミ拾いをする」など取り決めて、活動するとよいでしょう。
サーフィンをする人の中にもビーチクリーンといって、週末に波乗りする前にゴミ拾いをするような習慣があるようです。
チームで活動していれば、心無い人に揶揄されたり絡まれても安心ですね。
もしリーダーが周りにいなければ、人一倍釣り場の問題を課題に思っているあなたが仲間に声掛けしてみてはいかがでしょうか。
地元の場合、自治体に働きかける
残念ながら漁港などの港湾施設は、これからも様々な理由で釣り禁止・立ち入り禁止になります。
一方、第一種漁港など、地域性が強い漁港の場合、地元の人々の娯楽・交流の場としても重要な役目を担ってきたという事実があるはずです。
こうした内容について、改善案をもとに漁港を管理する行政に陳情するのも一つの手です。
地方議員に働きかけることや、NPOを立ち上げて活動するなど、やれることはいろいろとあるはずです。
あたらしく釣り場になっていく港湾施設もある
先日、静岡で「清水港海づり公園」が着工して、2023年に完成予定というニュースがありました。
もともと同公園は2003年に開設されていたものの、東日本大震災後に東京電力に売却され施設自体がクローズしました。
そういった状況に対して、2015年に興津地区連合自治会が海釣り公園の再建を求める要望書を市に提出し、静岡市がこれに際し、対応していき今回の着工にいたったという経緯があります。
これは漁港ではありませんが、周辺に釣り施設がない場合、漁港も人々の心の寄り場でもあるはずです。
問題があるのであればそれを是正したり、ルール決めすることによりなんらかの折り合いをつけることができるかもしれません。
<参考>