ORETSURIをご覧のみなさん、こんにちは。
東京湾や外房をうろつくサラリーマン・アングラーの釣人割烹です。
先日、仲間と6人で船を仕立て、新型コロナウィルス感染防止に配慮しながら東京湾へ出ました。狙いは真鯛。これを内房の伝統釣法「竹岡式手ばねしゃくり」で狙います。
この伝統釣法については何度も書いてきましたが、ざっくり言って「一つテンヤ」や疑似餌系(タイラバ、ジグなど)の現代釣法に比べて難しく、たびたびボウズを食らってきました。
しかしながら、5月は真鯛の乗っこみ最盛期。
しかも、釣行当日は大潮。ボウズを食らうことなどあるはずがない。いや、この条件で釣れないなら、他の時期に手ばねしゃくりで真鯛が釣れることなどあり得ない!釣れると1ミリも疑わずに釣行当日を迎えました。
ちなみに昨年5月の大潮では、まったく同じメンツで真鯛を16枚釣り、筆者は3㎏級をしっかりとりました。乗っこみの5月の手ばねしゃくり真鯛は、筆者の1年間の釣行でメインイベントと言っていいものです。
ところが、今年は惨敗に終わりました。なんと、なんと真鯛が船中ゼロ。自分だけボウズなら運がなかったと納得もしますが、船長も含めて7人が8時間も手ばね竿をしゃくり続け、まったくかすりもしなかったという。
いったい何が起きたのか。原因を徹底的に究明しなければ気持ちが収まりません。
釣りは恐ろしい、こんなこともあるのだ、という苦い教訓をお伝えします。
東京湾はサバフグの気配すらなし
その日、いつものように千葉県富津市の上総湊漁港の角ヶ谷丸に午前5時に集合しました。
筆者はジャンケンに勝って右舷ミヨシへ。
分厚い雨雲が垂れ込め、あいにく小雨がぱらついていますが、まったく気にならない。
きょうは本気出すぞ。気持ちは大鯛に向けてまっしぐらです。
餌は活きエビですが、数が少ないので途中から冷凍エビに変わる予定。できれば朝マズメに活き餌で勝負を決めたいところです。
仕掛けはいつものように、道糸ナイロンラージ7号~中オモリ8号~フロロカーボン5号3ヒロ(4.5m)~極小サルカン~フロロ4号2ヒロ(3m)~テンヤ3号。最初のポイントは竹岡沖15ヒロ(22m)。10秒前後に1度、気持ちを込めて大きくしゃくります。
しかし、30分たっても、1時間たってもアタリが出ないという。
なにしろ、手ばねしゃくりで最初にテンヤに攻撃を仕掛けてくるはずのサバフグすらいない。
1時間半ほどして微妙なアタリに鋭く合わせ、やっと小さなサバフグをスレ掛かりでとりました。筆者がこの日釣ったフグはこれ1匹でした。
開始2時間で、サバフグ1匹。
餌もほとんどかじられない。いやな予感がします。伝統釣法を何度もやった経験からすると、真鯛は釣れなくともサバフグは釣れます。しかしサバフグが釣れない日に真鯛が釣れたことは、筆者の記憶にも記録にもありません。
じっさい今年の春先、乗っこみが始まる前に狙ったときも、果てしないサバフグ退治のさなかに真鯛を2枚とりました。フグの群れと戦っているうちに真鯛が寄ってきてフグが散る、というイメージを筆者は抱いています。
生命反応に乏しく、フグすら寄らない海。
「はい、(仕掛けを)上げといてくださ~い」と、船長も根回りや駆け上がりなど知る限りのポイントを転々とします。
ときおりカワハギやメバル、ホウボウが上がりますが、肝心の真鯛のアタリは出ません。
さすがに仲間たちから嘆く声が上がります。
「真鯛もしっかりステイ・ホームかよ」
「出歩いているやつもマスクしてるんじゃないのか」
水温低下と水潮のダブルパンチかも
あとから船長とも敗因を話し合いましたが、この日は、明らかに水温が下がっていました。
千葉の最高気温と最低気温の推移
5月19日から釣行日の23日にかけての5日間を調べると、20日~22日の3日間は千葉で日中の最高気温が平年値を5~7℃も下回り、夜の最低気温も11℃と肌寒く感じるほどでした。
5月に入ってから暑い日が続いてきたのに、釣行前に大きく下がっているのが、気温の折れ線グラフから明らかです。この気温が水温に影響した可能性があります。
ポイントによっては赤クラゲにも悩まされました。仕掛けをあげるとテンヤやハリスにべっとりついてくる。
ちょうどナイロンラージの道糸も赤いので、手前マツリしたかと勘違いしてしまいます。
この赤クラゲも水温が低い証拠なのかもしれません。船長は「夏場水温が高くなるとクラゲは散ってしまう」といいます。赤クラゲ自体は水温が上がるシーズンに増えはじめるものの、高水温自体は苦手なようです。
それだけではありません。
雨もたくさん降ったのです。千葉で観測した5日間の降水量と平年の降水量は以下の通りでした。
降水量(平年値) 単位:mm
19日37.5 (4.2)
20日 2.5 (4.2)
21日 0.0 (4.1)
22日 10.5 (4.1)
23日 1.0 (4.0)
計 51.5(20.6)
特に19日は一日じゅう強い雨が降り、わが家の庭の池もあふれました。5日間で合計すると、平年値の2.5倍も降っています。
雨は海に降り注ぐだけでなく、陸に降った雨も川から海へ流れ込みます。大量の雨が降ると海水の塩分濃度が下がり(いわゆる「水潮」)、魚の活性に悪影響を及ぼすとされています。
平均水深が15mしかない東京湾の北半分(内湾)について、専門家は海流や潮流による水の循環が小さい「閉鎖系水域」、すなわち「池」や「湖」と見ていて、水潮の解消にも時間がかかるとみられます。
かくして、23日は水温の低下に水潮も加わり、魚の食いが悪かった可能性があります。
気温の低下と大量の雨をもたらしたのは、本州の南の海上に居座った低気圧でした。これは天気図から明らかです。
20日の天気図
21日の天気図
22日の天気図
極端な二枚潮と池のような海面
さらには、潮の流れもふつうではありませんでした。
この日は大潮で、最初の満潮は午前4時半。
続く干潮は正午前で、午前中は下げ潮です。風弱く波は穏やかで、右舷の筆者は千葉側を見ながら釣っており、船は基本的に北を向いていました。
午前中は典型的な「二枚潮」でした。表層ではかっ飛ぶように速く流れていて、テンヤを投入するとラインがトモ側に流され、ほぼ真横に倒れます。ところが、沈んでいく途中から道糸がスッと垂直に立つ。水深20~30mのポイントで底中心に攻めるわけですが、底近くでは潮の流れがまったく感じられません。
釣っていた感覚としては海面から数mのごく表層のみ潮が激しく流れ、中層から底にかけては淀んでしまっているようです。これほど極端な二枚潮は初めて経験するものでした。
正午近くに潮が下げ止まりました。
いつの間にか午前中の雨はやみ、日差しで気温が上がって雨合羽を脱いでいます。風はピタリとやみ、エンジンが止っても船は海上の一点に漂って動かない。二枚潮も消え、海は静かです。
「すごいなあ」と仲間の一人が言いました。
「こんなベタ凪(なぎ)、ちょっと見たことないな」
波が消えた東京湾。やはり「池」だった
その通り。
「晴れて凪」なら釣り日和ですが、このときのベタ凪ぶりは程度を超え、気味が悪くなるようなものでした。
海面は鏡のように静かで、船はまるで池に浮かんだ手漕ぎボートの状態。東京湾内湾がついに「池」の本性を現したかと思えました。
池の岸からヘラ竿を出しているのではない
午後に入り、上げ潮に変わっているはずですが、ベタ凪が続き、潮が流れません。
波はなく、漁港につながれた船から糸を垂らしている?と錯覚しそうです。
午後1時すぎ、ついに真鯛を諦め、テンヤを餌木に付け替えてアオリイカを狙うことにしました。ポイントへ向かう途中も船は揺れず、湖を進むようです。
1時間ほどアオリイカを狙いましたが、ついに船中1杯も上がりませんでした。
しゃくりに集中する恍惚感
しゃくり続けた8時間。集中力はほとんど途切れませんでした。
ごくたまにアタリがあると1mほどの手ばね竿を振り上げる。「よしっ」と糸をたぐりますが、弱い手応えで「お客さま」と分かる。
こうしてしゃくり続けているうちに、次の瞬間、真鯛が食うのではないかと期待が膨らみ、道糸が「ギューン!」と引っ張られて伸びる過去の手応えが、脳裏によみがえってきます。
冷静に考えれば、開始から何時間も釣れていないわけで、きょうは最後までダメかもしれないと不安にかられます。
しかし「いま」と「次の瞬間」にのみ集中し、しゃくりという単純な作業を続けていると、過去の手応えを思い出し、現実と記憶の境目があいまいになって、ある種の恍惚感が体の中に満ちてきます。
「それでは、時間なので上がりましょう」
船長のひと声で集中力がほどけ、緊張感も恍惚感も消え、「本命ボウズ」という現実に打ちのめされます。「ウ~ン」とうなり、腑抜けのように釣り座に寝そべりました。
初めて手ばね竿に挑戦してこんな状況なら、かなりつらいと思います。アタリ、合わせ、掛け、それに続く道糸を通したやりとりも知らず、恍惚感すら湧いてこない。
この日の釣果は、サバフグ1、イトヨリダイ2、カワハギ1、メバル1、オキエソ1、ホウボウ1でした。
港につき、船長が船を岸壁に係留する際、別の船も帰還した直後で、老船長が筆者たちに向かって吐き捨てるように言いました。
「きょうの潮はめちゃくちゃだ。釣れるわけがない。地震が多い年は、真鯛はだめだ」
角ヶ谷丸の若い船長も言葉を返します。
「いやあ、手も足も出ませんでした」
「それ、はやく言ってよ~」とは言いません。
打席に立ってみないと分からない。
釣りには、釣れる保証はない。この単純かつ強烈な事実をかみしめた一日でした。
寄稿者
釣人割烹(@tsuribitokappou)