イシモチと呼ばれる魚は数種類いますが、それぞれ水分が多く鮮度落ちしやすいという特徴があります。
スーパーで購入するときは生食用ではなく加熱調理用がほとんど。
一方、釣りもので下処理をしっかりすれば生食も可能な魚です。刺身は知る人ぞ知る美味しさ。そんなイシモチの釣り方と下処理について解説します。
イシモチについて
イシモチという名前は通称?
写真は「ニベ」。「シログチ」ともども「イシモチ」と呼ばれる
主に湾内の砂泥底・砂底の浅場で釣れる魚。釣りでイシモチと呼ばれる魚には複数種類いて、一番多く釣られるのが標準和名シログチ。他にも、おなじニベ科のニベ、コイチなども、「イシモチ」と呼ばれている。
イシモチ(シログチ)の頭部から摘出した耳石。頭部を割るときは刃が欠けるので注意が必要
イシモチの言葉の由来は「石持」。これはニベ科の魚の頭部に大き目の耳石があるため。頭部をつかった料理などを食べると毎度驚かされる。
※耳石(じせき):炭酸カルシウムの結晶。魚の平行衡感覚と聴覚に関与するもの。 魚類のなかで特にイシモチは耳石が大きいのでよく知られている。
イシモチは水分が多く鮮度落ちしやすい
イシモチは水分が多く鮮度落ちしやすい。
漁業では網で漁獲され、野締めのまま数日をへて流通するため生食用としてスーパーで並ぶことは基本的にない。
釣りで狙う場合、釣りあげた後の下処理と輸送方法により、新鮮な刺身を味わうことができる。
釣りの季節
イシモチは周年釣れる釣り物ではある。おかっぱりは初夏から秋、沖釣りでは冬場から春までがベスト。
岸でも船でも釣れるが、船釣りは数十匹単位で釣れることも
金沢八景・野島赤灯沖。冬場のイシモチ釣りのポイントの一つ
イシモチは雨後の濁りが入っているときなど岸からの投げ釣りでもよく釣れる魚だが、船釣りであれば数十匹以上まとまって釣果がでることも多い。コマセを使わなくても数釣りが可能なため入門者の釣りにもむいている。
東京湾では専門の釣り船もでていて、LTアジ釣りなどのゲストでも釣れることが多い魚でもある。主に砂泥底を狙い、ときには30㎝を超える良型のものも混ざる。
冬場の水温が低い時期は特に毎年決まった砂泥底の海域に群れがたまるため、比較的簡単にまとまった数を釣ることができる。釣り初心者にもやさしい魚だ。
- 岸釣り:水温が高いシーズン、雨後の濁りのときに狙う。河川の河口域に差してくることもある
- 沖釣り:冬~春までは一定海域(水深50m以内の砂泥底)にたまるため数釣り可能。東京湾の場合、猿島沖水深50m前後・野島赤灯沖水深30m前後が定番ポイント。その他の季節は、群れが散るためカレイやアジ釣りのゲストとしてまばらに釣れる。
イシモチ釣りのタックル(船釣り)
イシモチは、比較的神経質でエサをくわえてから一気に食いまない特徴がある。そのため、アタリがでてから違和感を感じられないように、食い込みの良さを考慮してタックルを選ぶとよい。
グラスロッドの汎用タックルであれば、1本4,000円程度から手に入る。
ロッド
汎用的なライトゲームタックルで問題ない。先調子のものよりは胴調子の竿のほうがイシモチの食い込みがよく釣果もあがる(勝手に釣れる)。長さは2m前後で特にこだわらなくても問題ない。
一方、先調子でも釣り方によっては十分釣れる。先調子のロッドの場合、竿を水平以上に構えておき、リールは軽く持つ。アタリがあってからはイシモチに違和感をもたれないようにゆっくり送り込むとよい。この送り込みでイシモチは餌を安心して飲み込む。
胴調子の竿の場合、この送り込みを竿が勝手におこなってくれるとイメージしておけばよい。そのため置き竿でも問題ない。
<ピックアップアイテム>
釣果を上げるには6:4調子がオススメだが、7:3調子でも問題なく釣れる。
リール
リールも特別なものは必要ない。小型の両軸リールやスピニングタックルを用意しよう。
浅場かつ底上を狙うのとナイロンラインを使う釣りでもあるので、チョイ投げ釣りなどでつかっているナイロンを巻いたスピニングリールをつかうのもよいだろう。
猿島沖など、やや深場の場合、潮受けを考えてPEラインを巻いた小型両軸リールが使いやすい。
<ピックアップアイテム>
道糸とハリス
食い込みの良さからナイロン5号を100メートル巻く等の推奨をしている船宿もある。
一方、船釣りといえばPEラインが基本のため、巻替え等が手間な人も多いと思う。この場合はライトタックルに巻いたままの1.5号or2号のPEラインでも問題ない。
PEラインにナイロンやフロロカーボン5号の先糸を2メートルほどつけると、感度を鈍らせることができ食い込みがよくなる。
さほど重量がなく、引きが強かったり歯が鋭いわけ(多少はある)でもないのでハリスは2号あれば問題ない。
※道糸やオモリについてはオマツリをさけるため船宿の指定もある。必ず確認してから釣行しよう。
<ピックアップアイテム>
仕掛け
船直下の底上を釣ることが多いので、胴付き仕掛けで狙うことが一般的。ハリは2本針が基本。メバルとのリレーなどで3本針をつかっても問題ないが、ハリスが細すぎるものはハリス切れやパーマの原因になるので、2号はほしい。3号以上は不要。
市販品では、イシモチ専用仕掛けというよりも、カサゴとあわせて狙う根魚五目仕掛けといったものが多い。ビーズ等の飾りによって価格が変わるが、シンプルな船宿仕掛けでも問題なく釣れる。好みで使おう。
オモリは水深にもよるが25号程度を使うことが多い。とくに飾りがついたものではなく、シンプルなもので問題ない。
<ピックアップアイテム>
餌
アオイソメの頭部へチョンがけして1本つけるのが一般的。長すぎるものは垂らしをみじかくし、カットしたものを2本がけする釣り方もある。その日の喰い方などによって考慮していこう。
アオイソメは比較的頑丈な餌なので、1つのエサで数尾釣るまで使いきることも可能。
船宿で支給されるイソメは細いものが多い。持参する場合、イシモチの吸い込みを考えると、あまり太いものは避けたほうがよいかもしれない。
虫餌が苦手な人の場合は、ガルプやパワーイソメを用いる方法もあるが釣果は活餌に劣る。サバの切り身でも釣れる。
イシモチ釣りのタックル(岸釣り)
岸釣りからイシモチを釣るためのタックルは一般的な投げ釣りや、ルアーロッドを利用したちょい投げタックルで問題ない。飛距離が必要なければエギングやシーバスタックルが最適。
<ピックアップアイテム>
イシモチの釣り方(船釣り)
あえてなにもしない釣法
着底後、おもりを底上でとめてなにもせず待つ。1、2分たってアタリが出ない場合、1メートルほど巻き上げ再度底上に仕掛けを落として待つ。
波が強いときは、底で仕掛けが上下しないように竿のうごきでカバーするとよい。胴調子竿での置き竿も効果的。
底上1m程度まで上げて待つ
活性によっては群れの泳ぐ層が底から1m程度の場合もある。船長の指示もあるが、底べったりで釣れない場合は自主的にオモリを底からゆっくり1m程度あげて待つことによってアタリが出ることもある。誘いあげのタイミングで餌が認知されてアタリがでることも多い。
投げてゆっくりずる引き
アタリが一度も出ず、他の釣り客にも反応がすくない場合、船の下に群れがいなかったり活性が低い可能性も多い。
この場合は下手投げでキャストをして、ゆっくりズル引きしながら広く探る方法もある。さびいたあとに、1分ほど喰わせの時間をとるとヒットしやすい。
オモリで海底を叩いてから待つ
イシモチの群れが薄い場合、船下に餌を落としてもなかなかアタリがでないことがあります。この場合、オモリで海底を10回ほど叩いてみましょう。砂泥底の場合、煙幕がでて、音もでるので周囲のイシモチが寄ってきます。
叩いたはあとはオモリを着底させたまま待ちましょう。
あわせないでも大丈夫
アタリはイソメを丸呑みするというよりも、すこしずつ咥えこんでいくような反応がまず穂先に出る。
穂先のアタリがだんだんと胴までのってきたときにゆっくり竿先で聞き上げれば、向こう合わせてヒットする。
アタリがあってから慌てて合わせると、すっぽ抜けることが多いので、すこし放置ぎみでよいだろう。
そのためにあまり鋭敏でないタックルのほうが向いている。これはナイロンラインの道糸やリーダーを使うのも同じ意味合いがある。
追い食いを狙う
釣果をさらに上げるためにはアジ釣り同様、追い食いによる多点がけも効果的。アタリが頻繁にあり、周囲にイシモチがむれていると思われる場合、1尾のったことを確認し、そのまま放置してみる。
誘いあげるよりは放置したほうが追い食いしやすい。ここでさらに重みが加わり全体の重量感がませば2尾がけできている。
取り込み
胴付き仕掛けのハリスが2号~3号なのと、イシモチ自体の重量があまりないため、基本的には網を使わず、ハリスをつかみ船内に取り込んでしまうのが一般的。市販仕掛けはバレにくいムツ針主体なのと、針がかりしてしまえば口回りは硬いためバレにくい魚でもある。
釣った後
釣れたらすぐにエラ蓋のつけねをハサミでカットして、海水をはったバケツのなかで放血しよう。
いつまでもバケツのなかに入れっぱなしにせず、5分程度で血抜きは終わったと判断し、潮氷(海水+氷)をいれたクーラーボックスにしまうこと。特に5月以降は水温が高いため、バケツに入れるとすぐに鮮度が悪くなり身が緩んでしまう。
血抜きは、刺身など生食で美味しくいただくためには必須。
ちなみにイシモチは歯が鋭いため、釣りあげたあとのハリスはしっかり確認しておき、傷が目立つようであれば新しい仕掛けに交換しよう。ヨレが多いものも警戒して食わなくなるので注意。
イシモチの釣り方(岸釣り)
イシモチを岸から釣る場合は夏から秋までの高水温期がオススメ。
雨後の濁りを好むといわれており、砂泥底+近隣に河川があるエリアを狙うと高確率で釣れる。
ジェット天秤などでキャストしたあとは、基本的に待ちの釣り。5分~10分に一回数メートル仕掛けを移動させ、あたりが出るポイントを探したい。
船釣り同様、アタリが出たときにびっくりアワセをするのは禁物。竿先にでたアタリが胴付近にまでのり始めたら合わせる。もしくは竿先にアタリが出ているタイミングでゆっくり竿先を聞き上げると本アタリにつなげやすい。
エサはアオイソメを中心に、イカソーメンやサバの切り身でも釣れる。合わせてアナゴを釣るときはイカソーメンや身餌をつかったほうがおもしろい。
イシモチ釣りのゲスト
アジ
周年ポイントが重なるところもあり、マアジが釣れることもある。コマセを用いていないので、単発的に釣れる程度。
アナゴ
曇りの日や潮が濁っている場合、昼間の釣りでもマアナゴが釣れることもある。釣れてうれしいゲストの一つ。初心者は処理にこまるかもしれないが、美味しいので料理にもチャレンジしてほしい。
マコガレイ
季節とエリアにもよるが、砂泥地帯に粒根がまじったエリアはマコガレイの生息域でもある。
イシモチがたくさん釣れ過ぎて釣りに飽きたら、エサを房掛け気味にし、キャストしてずる引きすることでマコガレイのヒットを増やすことができるかもしれない。
ホウボウ
船・岸ともに、ホウボウの生息域と重なるため混じってくることも多い。東京湾では個体数が少ないので、釣れると嬉しい魚でもある。
カサゴ
イシモチは基本的に砂泥底のポイントを探るが、ところどころ根があるエリアもあり、カサゴが混じることもある。こちらもうれしいゲスト。
イシモチ料理
刺身
釣り上げた当日から3日ほどは刺身で食べるのもよい。下処理が的確であれば熟成をさせながら刺身として楽しむこともできる。
これは釣り人ならではの食べ方。冬季~春までのイシモチは脂ものっていて大変おいしい。適切に下処理をして水分をぬきつつ寝かせると旨みも増幅する。
カルパッチョ
刺身で食べられる鮮度のイシモチはカルパッチョにしてもクセがなくよく合う。
浮袋ポン酢
イシモチの浮袋はゆがいてポン酢で食べると絶品。血合や汚れを水ですすいだあとに日本酒につけて熱湯でさっとゆで、氷水でしめる。
イシモチ丼
イシモチの刺身をもりつけたどんぶりも絶品。醤油よりは、ポン酢がよく似合う。
イシモチのすまし汁
沸騰させないでイシモチのアラからだしをとったすまし汁はあっさりとして味わい深い。同じく味が濃くない茸などの具材を合わせよう。
イシモチなめろう
三枚におろしたものをたたいて、味噌やネギ・生姜・柚子皮を混ぜ合わせたなめろうは酒飲みにはたまらない。
イシモチユッケ
コチュジャンと焼肉のたれにごま油をまぜてたたいたイシモチと和えるとユッケ風にもなる。
昆布締め
昆布締めのイメージ。写真はシロギス
イシモチは水分が多いため、塩をふってすこし水分をだしたあとに、昆布締めにするのもよい。塩分で水分がぬけつつ、旨みを補完できる。
昆布締め茶漬け
昆布締め茶漬けのイメージ。写真はヒラメ。
昆布締めにしたイシモチを少なめにもった白飯にもりつけ、昆布だしをかけ、大葉、すりごま、万能ねぎ、などの薬味をかけて食べると絶品。
塩焼き
これは釣り人でなくてもできる料理だが、新鮮なイシモチの塩焼きもやはりシンプルでおいしい。
下処理したイシモチに、強めに塩をふり、20分ほど冷蔵庫にいれておくと水分が抜ける。そのあと、キッチンペーパーで水分をぬぐいつつ、再度塩をふって焼く。
干物
イシモチの干物はアジより淡白な味
たくさん釣れた場合は干物にするのもよい。ラップをして冷凍庫で1か月は持つ。市販されていないので、魚好きの人にあげても喜ばれるかもしれない。
アクアパッツァ
アサリで魚が見えないが、この下にイシモチとメバルがいる
アクアパッツァもおいしい。釣れたゲストともども、皮目をオリーブオイルでしっかり皮目を加熱してから白ワインで蒸し上げよう。
かんたん清蒸
清蒸(チンジョン)は、熱烈なファンもいるイシモチ料理。これを蒸器を使わずレンジで作る方法も楽でいい。
下処理したイシモチに日本酒か紹興酒をかけてラップをして電子レンジ強で数分加熱する。サイズによって加熱時間を調性しよう。
別鍋で、ごま油に、みじん切りのにんにく・しょうが・青ネギをいれ、熱しておき、蒸しあがったイシモチにかける。香味油にXO醤を使うとさらに絶品。
新鮮なイシモチはうまい!
イシモチは水分が多いということもあり、鮮度劣化が早い。
アジやキス釣りのゲストで釣れたものをバケツにいれておくといつの間にか死に、白っぽくなって身がゆるんだり臭みが出てしまう。こうしたものを食べればもちろんまずい。
一方、船宿のスタッフの中にも、「一番うまい刺身は、いいときのイシモチ」というようなことをいう人がいる。
きちんと活き締めをして、ぜひ刺身を味わってみよう。とくに冬から春のイシモチの刺し身は絶品だ!